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第四三五話 女子会

「本当に俺や大門がついていかなくて大丈夫なのか?」

「貴方、それだと女子会の意味がありませんよ」

「そうですよナゲル、女子会は男性がいないからこその女子会なのです」


 そうは言ってもなぁ、とナゲルは頬をポリポリと書いた。ナゲルとしては最近色々と妙な事が起きたことを考えると気が気でないという思いもある。


 何せ今日は――


「奥様、私みたいな年寄りがそのような女子会などという物に参加させて頂いて本当に宜しいでしょうか?」

「そんな年寄りだなんて、瞳祖母(おば)様はまだまだ若いですよ」

「そうですよ。それに母の時代からお世話になり続けた黒井夫妻には、こういったときこそリフレッシュして頂かないと」


 口々に語り合う三人。ナゲルの目の前に立つは彼の母親である神薙 纏(かみなぎ まとい)、そして妻である神薙 静(かみなぎ しずか)とその祖母、つまりナゲルにとっての義祖母にあたる黒井 瞳(くろい ひとみ)である。


 本日は突如、母であるマトイの提案により女子会なるものが開催される事となった。

 そして揃いも揃って着物という和装で統一されている。


 女子会というわりに着物とはどうにも巷で囁かれる女子会とは違う気もしないでもないが、ただ、改めて妻である静の着物姿を見ると鼻の下が伸びそうになるナゲルだ。


 惚気にも思えるかもしれないが、やはり妻は何を着ても似合うななどと考えてしまう。

 この間やってきた自称美人のよくわからない女とは月とスッポンである。化粧も薄めで天然の美しさが際立っていた。


 そして、ナゲルは年齢的に仕方ないとはいえやはりシズカには劣るななどと考えているが、母であるマトイは勿論、義叔母であるヒトミとて、年齢を感じさせない美しさがあった。

 

 少々古風な言い回しとなるが銀幕の女王がそのまま飛び出してきたような様相である。


 ただ、この三人は一つ問題点がある。それはマトイにしろシズカにしろ、神薙家に嫁に来た身なので、身体能力で言えば当然神薙家のそれとは大きく異る。


 シズカに関していえば祖父がシツジであるが、残念ながら(?)暗殺者の才能は受け継いておらず、どちらかといえばその才能は曾孫のタオスに受け継がれてしまった程だ。


 そしてヒトミにしてもやはりそのあたりは一般人と変わらない。

 本当なら、叔母のウケミあたりが同行できればそれでもかなり違ったのだが、残念ながら今日は私用で出てしまっている。


「やっぱり心配だなぁ……」

「本当にナゲルと来たら心配性が過ぎますよ。それに最近は妙な事も起きてませんし、いざとなったら――」

「そうですね、この子がついてますから」

『うにゃ~ん(そうにゃん、このアイキがついていれば安心にゃん)』


 マトイとシズカの話に反応するように、アイキがぴょーんっと、マトイとシズカの肩から肩へトテトテと移動し右手を任せろと言わんばかりに、シュタッ、と挙げた。


「ふふっ、アイキったら今日は何か嬉しそうね」

『んにゃ、にゃ、にゃ、にゃんにゃん(ご主人様と出かけるのが楽しみにゃん)』


 次はヒトミの肩に移り、嬉しそうに、んにゃんにゃ、と頬ずりする。

 アイキにとってナガレもかけがえのないご主人様だが、とある事情からヒトミの事もご主人様と慕い甘えている。


「う~ん、アイキは参加してもいいんだ」

「それは勿論、猫ですし、アイキちゃんは可愛いですからね」

『にゃ~ん(照れるにゃん)』

 

 アイキが右手で顔を撫でた。それを見ていたシズカの口元がムズムズし、キャ~! と声を上げてキュッと抱きしめた。


 なんとなくアイキが羨ましく思えたナゲルである。


「ふぅ、まぁ――確かにアイキがいればよほどのことがなければ大丈夫か……」


 結局、ナゲルもこれ以上しつこく言うのも野暮だと思い、アイキにボディーガード役を一任する事とした。


 きっとアイキなら、優秀なボディーガード、そう身辺警護猫として抜群の働きを見せてくれる事だろう。


「アイキ、頼んだぞ。何かあったら守ってやってくれよ」

『にゃ~ん、にゃにゃにゃん! にゃん!(大船に乗った気持ちでいるといいにゃん!)』


 門の外にまで見送りに出て、アイキに託すナゲル。それに鳴き声で返してくるアイキだが、正直ナガレと違い、猫語などさっぱりなナゲルは雰囲気で察するしかない。


 だけどなんとなく張り切っているのは判った。





「あの人も、少し心配しすぎなところがあるのよね」

「あら、いいことじゃないか。私は祖母として、シズカが幸せそうで何よりですよ」

「えぇ本当に羨ましくなっちゃう」

「そんな、でもアイキちゃんのおかげで少しは安心したようですね」

『にゃんにゃんにゃ~(任せるにゃん! 何があってもアイキが守るにゃん!)』

「あらあら、アイキちゃんったら何か訴えているわね」

『にゃんにゃにゃんにゃ~んにゃ! にゃにゃにゃ~にゃん! ごろにゃ~ん!(ご主人様とご主人様の大事な皆様はこのアイキが絶対に守りきるにゃん! 怪しいやつには指一本触れさせないにゃん! 返り討ちにゃん!)』

「うふふ、きっとお腹が空いちゃったのね」

『にゃん(違うにゃん)』

「この子ったら、食いしん坊ね」

『にゃんにゃん!(ご主人様、そうじゃないにゃん!)』

「あ、私、酢昆布持ってきましたよ」

 

 シズカが思い出したように手提げ巾着を開いて中を手で確認する。


『にゃんにゃ~ん(別にお腹が空いているわけじゃないにゃん)』

「はい、アイキちゃんこれ好きだったわよね」

『…………』


 そして、シズカが巾着からお菓子の箱を取り出し、酢昆布を一枚抜いてヒトミの肩の上に乗るアイキに差し出した。


 じ~っとそれを見ていたアイキだが。


――パクンッ! モグモグ、ニャ~♪


「アイキ、美味しい?」

『にゃんにゃん(酢昆布旨いにゃん)』

「アイキは本当に酢昆布が大好きだね」

『にゃにゃんにゃん(酢昆布は究極で至高のおやつにゃん)』

「アイキちゃん、凄く幸せそうね、フフッ」

『にゃんにゃんにゃんにゃ~ん(酢昆布を食べている時は最高に幸せにゃん)』


 至福の表情を見せるアイキである。


『にゃんにゃんにゃん(酢昆布を食べながら皆を守るにゃん)』


 キリッとした表情で酢昆布をモグモグするアイキでもある。


 そんな平和な歓談を楽しみながら移動する三人とアイキ。

 だが、そんな一向に危険が迫る。何故なら、突如彼らのとなりにワンボックスカーが止まり、なんと中からゾロゾロといかにも脛に傷を持ってそうな集団がバットやら日本刀やら拳銃やらを持って現れたのである。


「おい! 怪我したくなかったら大人しく車に乗りやがれ! そうでなきゃ俺達のリアルウェ、グフぇ!」


 だが、すべてを話しきる前に、ニャン! とアイキが飛びかかり、狙ってきた全員を神薙流合気猫術(にゃんじゅつ)でぶっ飛ばしてしまった。


 そしてついでに乗ってきたワンボックスも爪で削り節にした。


「あらあら、映画の撮影かしら?」

「え? あ、ま、まぁ、そうね。うん、きっとそうですよ奥様」

『にゃんにゃん(片付いたにゃん)』

「あらアイキちゃん、もしかして映画に映りたいの?」


 怪しい連中が現れて、アイキに倒されるまで実は三秒も経っていない。それでもヒトミは何かを察したようだが、他のふたりは映画の撮影だと信じて疑ってないようだ。


 しかし、今日の女子会を存分に楽しんで貰うには勘違いしておいてもらったほうがいい事だろう。だからこそヒトミも敢えては言及しなかったわけだ。


 だが、このことを面白く思わない人物も当然いるわけで――






◇◆◇


「ちょっと! 何よアレ! なんで車から出たと思ったらすぐに伸びてるのよ!」

「いや、それが、私にもさっぱり……」

「くっ! 使えないわね! いいわ、こうなったら私自ら片をつけてあげる!」






◇◆◇


『キシャァアアアァアァアアァア!』

「うふふ、どう? 私の可愛いティタノボア・ケレジョネンシスちゃんは。怖くて声も出せないかしら?」


 再び一行の前に障害が立ちふさがった。その人物の名前は明智 聖愛(あけち まりあ)

 そう、つい先日、クズシやナゲルに散々な言われ方をし、誘惑が全く通じなかった哀れな自称美女である。


「あらあら、今度はまあ随分と大掛かりね」

「でも、これだと先に進めませんねぇ」

「……(奥様もそうだけど、シズカも随分と動じなくなったものだね)」


 ヒトミ以外のふたりはこの呑気さが逆に凄いぐらいである。

 とは言え、肝心のマリアはやる気十分なようで。


「さぁ愛しのティタちゃん、全員丸呑みにして上げなさい!」


 鎌首をもたげていると、そのまま雲も突き破りそうなほどにでかい大蛇である。

 確かにやろうと思えば軽く二桁の大人を一度に丸呑みできそうな程だ。


 だが――


『にゃにゃーーん!(させないにゃん! 神薙流合気猫術猫技(にゃんぎ)猫戯乱肢(ねこじゃらし)!』


 なんと、アイキが動き出したティタノボア・ケレジョネンシスの頭にまで飛び上がり、かと思えば一見猫がじゃれているようにしかみえない動きで大蛇を翻弄、更に胴体をグイングインっと縛り上げ、近隣に迷惑がかからない程度に引き倒した。


「な! そんな、ティタちゃんがこんなあっさり……」

『にゃにゃにゃんにゃーーーーん!(アイキの大事な家族を狙った罪は重いにゃん! あとお前何かうんこくさいにゃん! とっとと消えるにゃん!』

「な、ぐぎゃ! ぎ、ぎゃぁあぁああぁああぁあぁあ!」

『キシャーーーーーーーー!』

 

 こうして、アイキは猫が砂かけるような仕草でマリアの顔面を蹴りまくり、更に大蛇の首を噛みグルグルと回転させてふっ飛ばした。


「あら~何か凄い勢いで蛇がとんでいきましたわ」

「派手な撮影でしたね~」

「え、えぇそうですね」

『にゃんにゃにゃん!(終わったにゃん、大したこと無かったにゃん!)』

「フフッ、お疲れ様アイキ」

 

 こうして少なくともふたりは映画の撮影だと勘違いしたまま、見事明智家の魔の手からアイキは三人を守りきり――この後めちゃめちゃ女子会した。






◇◆◇


「う、うぅ、な、なんなのよこれ、神薙家って、一体なんなのよーーーー!」


 山に落ちたマリアはめちゃめちゃ怪我した。

本当は猫に人の食べ物を与えるのはあまり良くないようですが、アイキは神薙家の猫というだけあって全く問題ありません。

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