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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第六章 神薙家VS明智家編

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第四三四話 追われる女

「ふぁあああぁああ~~~~」


 人目も気にせず、大きな欠伸を見せながら、神薙 投(かみなぎ なげる)が渡り廊下を歩いていた。


 全くと呟きつつ、頭を掻き毟り、西門へと向かう。

 神薙家の敷地はともかく広く、廊下一つとってもかなり長く、そこから庭(というよりほぼジャングルだとナゲルは思っているが)を通り抜けて西門へいくだけでも慣れたものですら徒歩なら一日作業だ。


 その為通常は各門から入って比較的すぐの場所にそれぞれの道場を置いている。

 尤も現在の神薙流はメインである合気道場の他にも、剣術や居合、杖術や弓術、槍術、茶道から華道まであらゆることを教え、それに合わせて門下生や生徒がいるためその分道場の数も多い。


 それらを管理するのも大変なことなのだが、このあたりはナゲルの叔母である山神(やまがみ) 浮美(うけみ)(山神は夫側の姓)とその娘の美樹(みき)が任されている。


 何はともあれ、道場一つとってもとんでもない有様の神薙家、基本面倒くさがり屋のナゲルには色々としんどい事も多い。


 勿論本来の身体能力でいえば、やろうと思えばすぐにでも西門まで到着するが、ナゲルは一日の殆どにおいて身体機能をあらかたオフにして過ごしている。

 門下生に指導する時にも、どれだけ疲れることなく要領よく教えることが可能か? という点を重視している程だ。


 その上、時折さぼったりもする。そしてそのたびに父のクズシにどやされ――門の前の掃除をやらされる。

 

 そう、ナゲルは今まさに掃除のために西門へ向かおうとしていた。だからこそ余計にだるい。


 だが、今日に限ってはそれとは別に、何かを考えている様子もあり――


(それにしてもどんな形であれ、ミルが神破流について興味を持つとはねぇ)


 ナゲルは昨日の事を思い出す。結局ミルは企業として名前が上がった神破カンパニーについて知りたかったようで、その過程で神破の名が妙に気になったようだが。


(それも神薙家の血ってことなのか? まぁ、俺だってそこまで詳しく知ってるわけじゃないが――)

 

 神破――神破流(しんばりゅう)破気剛術(はきごうじゅつ)に関してはナゲルも父であるクズシから多少話を聞いた程度である。


 ただ、その話の中で判ったのは、神破流というのは神薙家にとって至極因縁深い流派であったという事。

 

 そして神薙流合気柔術と双対をなす流派でもあったという事――


 そもそも、神薙流は合気の道をひたすら突き進む合気道でもあり、あらゆるものを受け流す合気によって柔を極めた合気柔術でもある。


 神薙流は柔の最高峰とまで尊称される所以もそこにあった。


 一方で神破流破気剛術は神薙流合気柔術と真逆の性質を持ち、あらゆるものを破壊する(・・・・)破気によって剛を極めたのが破気剛術なのである。


 当然この二つの流派は価値観も考え方も異なり、かつては互いにぶつかりあうことも良くあったという。


 ただ、このふたつの流派にも一つだけ共通する出来事が重なった事があり。

 それこそが、神薙流における神薙 流、つまりナゲルの祖父の誕生であり、そしてそれと全く同じ年、同じ日、同じ時間に生まれたという神破流の男児、神破 壊(しんば かい)の誕生であった――


「でも、そこから先については俺もよく知らないんだよな……」


 そう、父のクズシもそれ以上の事を仔細に語ることはなかった。ただ、どうやらある日を境に神破 壊という男が消息を絶ち、そしてそれから間もなくして神破流もこつ然と姿を消した。


 ナゲルは、実はそのことについて一度ナガレに話を聞こうとしたことがある。

 だが、神破流の名を口にした瞬間、祖父の表情がどこか言いようのない哀しみに満ちた気がして――それ以上踏み込むことがためらわれ、結局聞けずじまいである。


 そんな事を思い出しつつ庭に出たナゲル。

 どちらにしても、彼には神破カンパニーとやらが本当にその神破流と関係あるかは判らない。


 何せ神破だけなら偶然にかぶっていてもおかしくないからだ。そう世の中には神羅なんとやらだってあるぐらいだ、そう珍しいことでもないだろう。


 大体からしてナゲルは余計な事を考えるのが苦手だ。そもそも後に関しては、もう少し調べてみる、と妹が言っていたのだから任せておけばいい。

 

 その為にわざわざ分割で謝礼まで払っているのだから。





「ふぅ、しかし清々しい朝だな。天気もいいし」


 西門を出て、大きく背伸びしながらナゲルが言った。箒を手にしているが、むしろこんな日は適当にどこか公園にでもいって日向ぼっこなどしたほうが有意義なのでは? と思えてしまう。


 ただ、それをしたら間違いなく父のクズシから手痛いお仕置きを受けることだろうが。


「……面倒だけど仕方ないか」


 散々迷ったが、結局素直に掃き掃除に勤しむことにする。

 塀で囲まれた敷地を掃除しながら一周するのは本気で手間だが、ここでまたサボれば今度は敷地の中まで一人で掃除させられかねない。


 なので箒を持って一生懸命やってる風に、ほどよく手を抜きつつ、欠伸混じりに掃き掃除を始めるナゲルだが。


「きゃあぁあああ、だ、だれか~~助けて~~!」


 ふと、そんな女性の絹を裂くような悲鳴がナゲルの耳に届く。

 それに、なんだぁ? とナゲルが視線をやるが。


「お助けを! お助けを~!」

「…………」


 目を細めたナゲルの視線に映るは、ライオンとワニと熊と虎とホッキョクグマとキングなコングと大鷲と何やら巨大な蛇に追いかけられている女性の姿であった。


「…………」

「た、た~すけて~!」

「…………」

「キャー食べられる~誰か~」

「……ふぁ~」


 そしてそんな集団に追いかけられながら、欠伸するナゲルの横を通り過ぎる女性である。


 それを尻目に、道を掃きながらのんびりと作業を続け。


「うむ――今日も平和だなぁ」

「ちょっと待ちなさいよーーーー!」


 空を仰ぎながら爽やかな雰囲気を醸し出しつつ平穏な日常を噛みしめる。


 だが、そんなナゲルに女性が怒鳴った。今さっき追いかけられていた女性である。

 どうやら戻ってきたようだが、何やらひどくご立腹の様子だ。


「うん? 何か?」

「何かじゃないわよ! か弱い女性がライオンとワニと熊と虎とホッキョクグマとキングなコングと大鷲とティタノボア・ケレジョネンシスに追いかけられているというのに助けもしないって一体どういう了見なの!」

「名前なが! ティタノボア・ケレジョネンシスってもうそれの存在感が強すぎて他がなんだか霞んじゃうし!」


 確かにティタノボア・ケレジョネンシスは中々のインパクトだ。恐らく化け物級の蛇の事を言っていたのだろうが。


「ティタノボア・ケレジョネンシスの事はどうでもいいのよ! なんで助けなかったのかって聞いてるのよ!」

「いや、だってティタノボア・ケレジョネンシスやその他大勢の愉快な仲間たちからして、殺気みたいなの感じられなかったしなあ。あんたからも必死さが伝わらなかったし」

「な!? 貴方! ティタノボア・ケレジョネンシスに追いかけられていたのにそんな理由で助けなかったの? 何かあったらどうするつもりだったのよ!」

「でも、ティタノボア・ケレジョネンシスに襲われても何も無かったんだろ?」

「……た、確かにティタノボア・ケレジョネンシスに襲われても幸い何もなかったけど」

「うんうん、良かった良かった。ティタノボア・ケレジョネンシスに襲われても何もなかったならもう問題ないな。んじゃまぁ」


 そう言い残し、ナゲルは作業を再開させようとする。なんとなくティタノボア・ケレジョネンシスの事は気にはなりもしたが、今はティタノボア・ケレジョネンシスよりも掃除を急ぐ必要があるだろう。


「ちょっと待ちなさい。どんな形であれ、私は貴方のおかげでティタノボア・ケレジョネンシスに襲われずに済んだわ。感謝してる」

「いや、俺別にティタノボア・ケレジョネ――」

「もういいわよ! 一体いつまでティタノボア・ケレジョネンシスと言い続けるつもりよ! とにかくなんやかんやで貴方に恐れをなして巨大な蛇とその他諸々が逃げ出してくれたのよ!」

「その他の扱い酷いなそれ」


 確かに、何せ化物の如く(ティタノボア・)巨大なヘビ(ケレジョネンシス)とそれ以外の扱いの差が酷すぎる。

 キングなコングなどもう少しクローズアップされても良いぐらいだ。


「まぁなんでもいいや。お礼をいいたいなら勝手にしてくれ、俺は行く」

「だから何でそうなるのよ! お礼よお礼! 私みたいな美女がお礼を言いたいって言ってるのよ? もっと他に反応があるでしょう!」

「え~…………」


 正直、確かに美人な方だとは思うが、自分で自分を美人などというタイプはノーサンキューなナゲルである。


「まぁ、あんたは確かにそこそこ美人かもしれねぇけど。俺、嫁いるしな」

「そこそ、あ、あんた目がどうかしてるんじゃないの! 大体私とその嫁、どっちが綺麗だって言うのよ!」

「嫁」

 

 即答だったのだ。


「大体あんた、何か色々嘘くさいしな。ちょっとケバいし、匂いも言っちゃ悪いけどうんこみたいだし、それに逆ナンにしても手間暇掛けすぎだろ。まぁ、俺も男だから嬉しくないとは言わないけど、嫁と比べるとな。と、いうわけだから、はい、ごめんなさいっと。うんじゃな」


 お断りの言葉と軽く頭を下げて、面倒そうな女だな、とこぼしつつ、ちょっとだけ本気になってマッハで掃除し彼女の前から姿を消したナゲルであり。


 女はしばし呆然と立ち尽くした後、フラフラとした足取りで待機させていた車まで戻っていった。


「……ただいま」

「あ、おかえりなさいマリア様、って! どうしたんですか! 何か燃え尽きたみたいになってますよ!?」

「いいから出して」

「え? あ、はい……」


 感情の全くない、能面のような顔で命じるマリア。その尋常でない様子に狼狽する黒服達。


 車はしばらく走り続け、神薙家からも離れたところで、突如不気味な笑い声が漏れ始める。


「フフッ、フフフフフフフッ」

「え? あの、だ、大丈夫ですか?」

「潰すわ――」

「はい?」

「決めた、もう内からとかまどろっこしい真似はやめよ! あの親子、この私がケバい? うんこ臭い? ふざけるんじゃないわよ! こうなったらあいつらの大事な物を奪って徹底的に壊してやるわ!」

ティタノボア・ケレジョネンシス!

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