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第四二六話 サトルを想い続けてきた意味

「ずっと思ってたんだけど、本当それって、何の意味があるの?」

「それは、今わかりますよ」


 屈託のない笑みを浮かべナガレが答えた。

 マイはアケチ戦の時からサトルをつぶさに観察するよう言われていたし、サトルと別れることになってからも、彼の事を常に思い出しイメージし続けるよう言われていた。


 マイは一応は言われたとおり律儀にそのことを実行していたが、そのことに何の意味があるかはわかっていなかった。


「それでは――」


 そしてナガレは袖の下からあの悪魔の書を取り出してみせる。


『やれやれ、やることもなし、ゆっくりと寝ていたというのに、一体何のようなのだ?』


 すると、面倒くさそうに悪魔の書が語りだす。それはナガレの手で周囲にも聞こえているが、そう言われてみると確かに最近はめっきり大人しかったものである。


『ふん、呑気に惰眠をむさぼるとはいいご身分であるな』

『好きに言ってろ。お前みたいなくず鉄と話すのも疲れる』

『偉大なる聖剣に向かって、よりによってくず鉄とは貴様!』

「はいはい、もうわかったから」


 メグミが間に入り、エクスを宥めた。とにかく今はこの悪魔の書をどうするつもりなのかの方が気になるところだろう。


「それではマイさん、この悪魔の書をどうぞ」

「ふぇ?」


 可愛らしく目をパチクリさせるマイ。その手に悪魔の書が渡されたが、これをどうしていいか判っていない様子。


「突然こんなもの渡されても」

「マイさん、その悪魔の書は今後の貴方にとって非常に重要な意味を持ちます。ですが、いきなり本番というわけにはいきませんので、この機会にうまく使いこなして見てください」

「……はい? え? 使う? 使いこなす?」

「はい、そうです」

「え~~~~~~!」


 マイは驚いた。踵の先だけ地面につけて、他の面は斜めに上げ、斜線を引いたように姿勢も斜めにして凄く仰天してくれた。


『……ナガレよ、お前が何を考えているのか正直我には判りかねる。一応教えておくが、我とサトルとの契約はまだ解除されていない。つまり、我の契約者はサトルのままであり、もしこのマイという娘に契約させようというのであれば無駄な話ぞ』

「――それに、その本にはサトル様のご両親と愛妹様の魂が捕らわれているのをお忘れですか? 貴方は確かに魂を救うと約束したのに嘘だったのですね。やはり殺します」


 問答無用でヘラドンナがナガレに攻撃を仕掛けてくるが、全く意に介さず攻撃はナガレの身体を素通りしていく。


「でもナガレくん、ヘラドンナの言ったとおりだと思うわよ。サトルくんの事もあるのに契約なんて……」

『でもキャスパ、マイと契約出来たら嬉しい』

「ありがとう。でも契約なんてなくても、キャスパの事は大事に思ってるわよ」


 キャスパを撫でると、ウキウキした様子になった。単純な悪魔である。

 とは言え、怪訝そうな目はナガレに向けられているが。


「マイさん契約は必要ないのですよ」

「え? 必要ない?」

「う~ん、ナガレ、それってどういう意味? 悪魔の書って契約が必要なのよね?」

「頭が沸騰しちゃうよ~」

「あ! 師匠が!」

「うんアイカちゃん、心配しなくても大丈夫だよ~最近よく沸騰するけど」

「それ大丈夫なんですか!?」


 契約が必要なはずの悪魔の書に契約が必要ない。この命題にマイは戸惑い、ピーチは疑問符を浮かべ、ローザの頭からは湯気が出て弟子が心配した。


 カイルがフォローするがあまりフォローにはなってない。


「つまり、契約しなくても悪魔の書が使えるって事だろ? 何が問題あるんだよ。先生に間違いはねぇ!」

「……馬鹿は単純でいい」


 ビッチェを睨みつけるフレムである。


『全く何を世迷い言を。契約無しで一体どうやって我を使うというのか――』

「マイさん、ここに来るまでに既に貴方は準備ができています」

「準備? 私、何かしたかな?」

『おい! 話を聞かんか!』

「はい、サトルのことを思い出しイメージを持ち続けてもらった意味がそこにあります。マイさん、お忘れですか? 貴方には役作りがある」


 喚いている悪魔の書については一旦無視をし、話を進めるナガレ。


 すると、マイは、ハッとした顔になり。


「そういえば、確かに役作りがあるわね。でもイメージだけでどうにかなるの?」

「そこはマイさんの女優としての実力次第ですね。その為のテストです」

「そ、そうだったのね。でもどうすればいいの?」

「そうですね、先ずはその悪魔の書を消してみてください」

「え? 消す?」

「はい、悪魔の書は、契約者であれば、本をしまったり出したりは自由自在に出来るものなので」

『そんな事、出来るわけがなかろう!』


 悪魔の書は気に食わない様子で念の声を張り上げるが、マイは一人頷き、判ったやってみる、と本を持ち上げるようにしながら意識を集中させた。


「――役作り、サトル!」

 

 そして、マイはサトルになりきる。

 マイの目つきが変わった。悲しみの中に強い意志の秘められた、そんな目つきであり。


「――悪魔の書よ……」


 マイが念じるように呟く。すると、悪魔の書がマイの手から一旦消え、かと思えばまたすぐに現出した。


『なッ!?』

「あ、出来たわ!」

「お見事ですよマイさん」

『ちょ、ちょっと待て! ありえん! こんなのはありえないぞ! 卑怯だ! こんな真似邪道だ!』

「いや、邪道って……」


 二人のやり取りを見ていたピーチが、呆れたような目を見せ呟いた。

 確かに悪魔の台詞ではない。


「これで、私もこの悪魔の書が使えるって事なのね。それがナガレくんが私にやらせたかった事?」

「そのあたりは今後判ることになると思いますが、とりあえずはその通りです。ですが、気をつける点があります。先ず、役作りでは正式な契約とはならないので、悪魔の書から恩恵は得られません」

「え? 恩恵?」

『ククッ、そうだ! そのとおりであるぞ! 正式な契約であれば特に魔力に関してはかなりの恩恵を与えることが出来る。それにだ、悪魔の召喚に掛かる魔力も少なくて済む。しかしそれがない状況であれば、悪魔を一体召喚するだけでも相当な魔力を消費することとなるのだ!』


 勝ち誇ったように悪魔の署が言った。


「それって、役作りで使えるようになっても、召喚は難しいって事?」

「そうですね。今のままでは厳しいでしょう。ですので、どうぞこれをお使いください」

「え? なにこれ?」


 ナガレはマイに指輪を一つ手渡した。不思議そうに見やるマイだが。


「それは、大魔導の指輪です。迷宮で見つけておきました。それを身につければ、通常でも魔力、魔導力、魔抗力は二倍になります。その上で、私が少し手を加えておきましたので、効果は二〇倍にまで向上してます」

「え? 二倍が二〇倍? え?」

「頭が沸騰しちゃうよ~」

「また師匠が!?」

「う~んローザってば最近多いね~」

「し、しかし本来の一〇倍とは、一体どうやっているのだ?」

『あやつについては深くは考えぬほうがいいと思うぞ』

「先生ならこれぐらい出来て当然! つまりあれだろ? 魔力が二だったら四になるってことだ!」

「……ナガレはやっぱり凄い、こんな馬鹿でもそれなりに戦えるようにしてるんだから」


 相変わらずビッチェはフレムに辛辣であった。


 とは言え、確かに二〇倍になれば話はかなり変わってくる。


「でも、ナガレくんも意地悪ね。こんないいのがあったならもっとはやくにくれても良かったのに」

「残念ですが、それではあまり意味がありませんでした。マイさんは役作りを覚えた事で、魔力関係が上がるようになりましたから。それに最初からこのようなものに頼っていては成長が見込めません」

「年下なのに、そういうところは何か厳しいのよね……」

『クッ! ならばなぜ今それを渡すのだ! それでは結局この娘の成長は見込めないであろう!』

「それに関しては、時間的な問題もあります。人にはどうしても向き不向きが出てしまう事もありますからね。マイさんにとっての長所は魔法以外の部分にありますので、魔法関係に関しては指輪の力を活用して頂くこととしました」


 悪魔の書は納得できていないようだが、恩恵なしに使いこなすにはこういったものに頼る必要も出てくる。


「でもこれで、サトルくんと同じようにどんな悪魔でも召喚できるの?」

「いえ、先ず既に自由意志で行動しているヘラドンナとキャスパに関しては改めて召喚は出来ません。それ以外にも、高位の悪魔の召喚は難しいでしょう。その魔力でもとなると――」


 ナガレはマイにどの程度悪魔の書の力が使用できるか教えてあげた。

 真剣に耳を傾けたマイは元々の記憶力の良さでしっかりと覚え。


「判ったわ。とにかく、この悪魔の力も活用して、この試練を乗り越えればいいのね」

「はい、頑張ってください」

『ふん! もう好きにするが良いわ!』


 若干拗ね気味の悪魔の書ではあるが、とにかくサトルの役作りが可能となったマイは、悪魔の書を手に、第七の神殿に挑む為、キャスパと共に乗り込むのだった――

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