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第四二二話 鉄壁の騎士

 メグミも無事試練を乗り越えた。かなりの快進撃であるが、これはつまり円卓の騎士が弱いのか? といえばそうではない。


 実際円卓の騎士のレベルも実力も、この迷宮に現れる魔物や魔獣よりも遥かに上だ。


 そもそもステータスの数値だけで言えば、戦った皆より円卓の騎士の方が遥かに上だったという事も少なくない。


 だが、それでも勝利を収める事が出来たのは、やはりナガレやビッチェと行動を共にしていたのが大きいのだろう。


 更に言えば、ヘラドンナにしても、ナガレを密かに殺す(正直既に大分遠慮はなくなっているが)と幾度も殺人を仕掛けてきたが、これはこれで彼女のレベルアップにも繋がっていた。


 メグミに関しては合流後もちょいちょいビッチェから指導を受けているし、フレムとピーチに関しては言わずもがなである。


 そして一行は遂に一桁台、つまり第九神殿に辿り着いたわけだが。


「今度こそ私が行くわ!」

「いや、今度こそ俺だ!」

『…………』


 再び次こそは我と競い合う二人、だが、ここにきてそのやり取りを邪魔するものは現れることはなかった。


「あれ? これって?」

「はい、今度こそ、ピーチの(・・・)出番ですね」

「え?」

「な!?」


 ナガレの発言にピーチの表情がパッと花開く。

 一方フレムはやはり悔しそうだ。


「やったわ! やっと私の腕を見せるときなのよ!」

「そんな、そんな先生! どうしてですか、俺じゃあ、俺じゃあまだまだ力不足と――」


 ピョンピョンっとうさぎのように可愛らしく飛び跳ねて喜ぶピーチ。そしてそれとは対象的に己の不甲斐なさを嘆くフレム。


 だが、ナガレはそんなフレムの肩に、ポンッと手を添え。


「違いますよフレム、貴方は秘密兵器なのです」

「へ? 秘密兵器?」

「はい、ですからまだ貴方は温存して置かなければいけません」

「そ、そうだったのか――」


 悔しそうだった姿から一転、別の意味でワナワナと震えるフレム。

 先生にそこまで期待されていたとは、などと呟きつつ。


「フッ、秘密兵器というなら仕方ないな。ここは秘密兵器じゃない先輩に先を譲りますよ」

「……あんた単純ね、判ってたけど」


 何故か得意気にそんな事を口にするフレムに、呆れ眼で返すピーチである。


 とは言え、ピーチは、ちゃっちゃと片付けてくるわね! と神殿に乗り込んでいったわけだが。





「我は鉄壁のガレスなり。ここから先進みたければ、我を倒すことだな」


 頭を剃り上げた厳つい男がピーチに向けて言い放った。

 厳かな雰囲気が漂っている。見たところ相手が女性だからと遠慮を見せる様子はない。


「随分と自信ありそうだけど、武器を持ってないのね」

「我の武器はこの拳と、鉄壁の防御力よ」


 そう言って鉄甲を嵌めた逞しい腕を見せつけてきた。なるほど、確かにかなりの腕力がありそうだ。


「そう、だったら、その鉄壁を私の魔法でこじ開けてあげるわ!」


 開戦! 魔力により瞬間的に強化した脚力で瞬時に近づき、その杖で思いっきり殴りつける。


 だが――


「アイアンドーム――」


 男はがっしりと腕を組んだ状態から、ただ一言それだけを呟いた。


 そしてその瞬間、ピーチの両胸が先ず(ひしゃ)げ、そのまま流れるように全身がふっ飛ばされた。


「な!?」


 驚愕するピーチ。くるりと回転し、着地こそ決めるが、その目は驚愕に満ちていた。


「何よそれ……」

「――ほう? 視えるのか?」

「はっきりとじゃないけど、これでも感覚は優れてる方よ」


 ピーチはアビリティとして超知覚を取得している。これにより例え視えなくても、感覚で感じ取ることが出来ていた。


「……半球状の、障壁ってところかしら?」

「なるほど、確かに大したものだ」


 ピーチが気配からその形状を見破る。

 どうやら的中したらしく、ガレスはより厳しい瞳をピーチへ向けた。


「だけど、それならその壁ごと破るだけよ!


 すると、ピーチが魔力形成により杖を大弓の如く変化、引き絞った魔力の矢をガレス向けて撃ち込んだ。


 だが、巨大な矢は壁に阻まれ魔力ごとはじけ飛ぶ。


「中々やるわね、なら、これでどうかしら?」


 ピーチは更に杖から棘付き鉄球を形成させ叩きつけたり、槍に変えたりして攻撃を繰り返したが、全く壁は壊れる様子がない。


「無駄だ、これは魔法攻撃からも身を守る。魔力を変化させての攻撃とは珍しいが、それが魔力であっても同じこと」

「そう、それならこれよ!」


 今度は接近からの強化した杖での連打。しかし、その攻撃すらも彼の鉄壁は跳ね返す。


「それも無駄だ、物理攻撃も魔法攻撃も全てから守りきるのが我のアイアンドーム。故に鉄壁」


 腕を組んだまま、石像のように動かず表情も変えず、ガレスが言い放った。


「……そういうのって結構いたりするのかしら? そう考えたらあのパーフェクトパーフェクト煩かったあいつのアレも何だったのかと思えちゃうけど」

「……一体何の事を話しているのが我には判らんが――」


 聖剣エクスカリバーから認められていたわけではなかったアレは、結局この場所に来ることはなかった。


 故に、当然円卓の騎士とて知りようがない。


「まぁそいつの事はどうでもいいんだけどね。でも、守ってばかりじゃ勝負にならないわよ?」

 

 杖をブンブンと振り回しながらピーチが挑発する。確かに先程から攻撃しているのはピーチばかりだ。


「それなら問題はない。そろそろ攻めに転じようと思っていたところだ」

「そう、どんな攻撃が飛び出してくるのかしら?」

「なに、大した物では――ないさ!」


 するとガレスが飛び出し、かと思えば何もない空間、いやピーチにも感じ取れた、ガレスは己が展開した障壁に向けて拳を振り抜いたのだ。


 鋼鉄と鋼鉄がぶつかり合う重低音。かと思えば、拳の衝撃を障壁が受け止め、勢いを乗せたまま――伸長、ピーチに向けて衝撃と障壁の合わさった攻撃が猛スピードで駆け抜ける。


「ちょっ!」


 咄嗟に身を翻しピーチが攻撃を避ける。だが、ガレスはそのまま流れるように腰を回し、大槌でも振るうような強烈な鉄拳を右から左からと連打していく。


 その度に、衝撃を乗せた障壁がピーチに迫った。

 どうやらこの障壁、内側からの使用者の攻撃に合わせて形を変化させる性質があるようだ。


「まさか障壁そのものを武器にするなんてね、でも、攻撃している間、防御はどうなってるのかしら!」


 激しい攻撃の隙間を縫うように、ピーチの鉄球が鎖によって伸びる。


 だが、相手の攻撃に合わせる形で放ったソレも、障壁に阻まれ効果がない。


「残念だが、我の技は攻防一体よ」


 くっ、と短く呻き、斜め後方へ退くピーチ。ガレスの拳で伸びた障壁が迫っていたからだが――しかしその障壁による一撃は途中で軌道を変え、湾曲してピーチの身に迫った。


 避けきれず、その一撃を受けてしまうピーチ。更にその隙を逃さまいと間髪入れず拳を連打し伸長した障壁が、それぞれ別な軌道を描きながらピーチの身に降り注いだ。


「キャァアァ!」


 悲鳴を上げ吹き飛ぶピーチ。そのまま空間内の見えない壁に体を打ちつけ、地面に倒れた。


「戦いとは非情なものよ――」


 壁にもたれかかった状態のピーチを見て、ガレスがそう呟く。例え女子供であっても容赦は出来ない、それがこの試練なのである。


「勝手に、殺さないでよね……」


 だが、ピーチはまだ諦めていなかった。ゆっくりと立ち上がり、ガレスに向けられた視線は矢のように鋭い。


「ナガレが、なんでこの試練に私を選んだのか判ったわ。貴方のその防御、確かに凄いけど、それぐらい突破できないようじゃ究極の大魔導師になるなんて夢のまた夢だもの」

「……究極の、大、魔導? 戦士ではなくてか?」

「大魔導師よ!」


 この発言に関しては、ガレスでさえも突っ込まざるを得なかったようだが、ピーチは譲らなかった。


「だからみせてあげるわ。ナガレと話している内に、思いついた私の魔導奥義!」

「……随分と大層な口ぶりだが、鉄壁の前では無駄であろう」

「だったら、試してみなさいよ。あんたのその、攻防一体の攻撃とやらと、私の奥義、どちらが上かをね!」

「良かろう! これで終わらせて見せる!」


 再びガレスが障壁に向けて飛び出した。

 だが、それとほぼ同時に、ピーチもまた魔力瞬爆による超加速によって、瞬時に障壁へ肉薄する。


「何を考えているがわからぬが、それでは一方的にカウンターを受けるだけであるぞ!」

「それはどうかしら――」


 ガレスの言うように、間に障壁を挟んだこの状況では、ピーチの攻撃は阻まれてしまうだけであり、逆にガレスの攻撃は、障壁を通して一方的にピーチに当たってしまう。


「行くわよ! 【魔杖八剄】――」


 ガレスが構えを取り、身を屈めた後、障壁を挟んですぐ目の前にいるピーチに向けて拳を突き上げる。


 アッパーカットの軌道だ。一方ピーチは杖を引き、素早く、それでいて思い切りの良い突きを披露する。


 だが、杖による一突きは障壁に阻まれ、ダメージは通らない。

 ほら見たことか、と言わんばかりにピーチを睨めつけたガレスのアッパーが、今まさに障壁を捉えたかと思えたその時。


「まだよ! 壱ノ剄・通!」


 裂帛の気合と共に、衝撃が障壁の内側を駆け抜けた。

 それは、ガレスの拳によるものではなく、ピーチの杖から放たれたものである。


 この技は、特に今回みたいに防御の固い相手に有効であり、相手の鎧なり、障壁なりに杖を押し付けるようにした後、魔力による衝撃を相手の内側に叩きつける。


 この条件から、射程は杖の届く距離に限られるが、今回は相手のガレスが自ら障壁に接近する攻撃スタイルであったことが幸いした。

 

 これにより、攻撃モーションに入っていたガレスにとってはまさに痛恨、カウンターによる強烈な一撃により、弧を描くように飛んでいきそのまま地面に落下した。


「……あ、障壁消えた――」


 倒れたガレスと、消えた障壁でピーチは勝利を確信し、そしてやった! と喜ぶ。

 実はぶっつけ本番だった彼女だが、成果は上々といったところだろう。


「私の、魔法の勝利よ!」

「……それの、どこが、魔法、だ――」


 そしてガレスは最後にそれだけを言い残し、パタンっと意識を失い、その場から消え失せた。


 こうしてピーチは第九神殿の試練を見事乗り越えたのである。

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