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第四二〇話 一二宮殿の試練

「円卓の騎士? そ、その御方は本当にそう言われたのですか?」

「う、うん、おいらには何かよくわからなかったんだけどねぇ~」


 カイルが神殿が戻ると、笑顔で皆が出迎えてくれた。フレムなどは早速結果を聞いてきたが、勝利を知らせると自分のことのように喜んだ。


 カイルもこれだけ喜ばれると達成感も一入であった。


 尤もエクスも言っていた事だが、試練を無事終えれば挑戦者が出てきた時点で神殿がすっと消える。これで達成できたかどうかは判断できるので、わざわざ聞くまでもなかったりするのだが。


 何はともあれ、その後はカイルが対戦した相手についてかいつまんで説明したわけだが、そこで円卓の騎士とライオネルというワードを聞いた途端、メグミが興奮して詰め寄ってきた形だ。


「円卓の騎士って私も知らないけど有名なのかな?」

「そうですね。どちらかと言えば、私のいた世界で有名な物語に登場する名称ですからね」

「そうね、アーサー王物語なら有名だし、私が一番敬愛しているココロエ様も主演に選ばれていたわ」


 目をキラキラさせているマイ。ココロエは女優であるため、主演もおかしな話と思われそうだが、その時の映画はアーサー王は女性であったという設定で制作されていた。


 それにしても随分と前の映画の筈だがよく知っているなとナガレも感心する。

 

「……でもよ、何か話聞いてると、そのライオネルって大した事なさそうだな」

「ライオネルのどこが噛ませ犬なのよ!」

「いや、そこまで言ってねぇよ!」


 メグミがガルルと噛みつきそうな表情で怒鳴った。それに戸惑うフレムである。


『冗談はそれぐらいにしてとっとと次の神殿に向かうが良い。この神殿とて、しばらくすればまた姿を見せるのだからな』


 エクスが言うには、一時間以内にはこの場を退去しまた階段を上っていく必要があるようだ。

 一時間というのは、試練が終わった後の回復などに当てる時間として考慮されているようでもある。


「相手が弱かったおかげでカイルもあんま疲れてないみたいだしな。すぐにでも行こうぜ」

「だから、ライオネル様は、た、確かにあまり目立たない存在かもしれないけど、最弱みたいに言わないでよ」

『あまり調子に乗るのはいかがかと思うぞ? ライオネルなど所詮円卓の騎士では最弱よ、これから先もっと手強い守護者が――』

「最弱って言われちゃったわよ! だいなしよ!」

「き、気をしっかり! メグミちゃん!」


 アイカが励ました。それを見ていたローザも苦笑いである。


 何はともあれ、一行はそれからすぐに次の試練へと向かう。

 相変わらず長い階段であり、魔物も多く出てきたが、試練に挑む前の訓練としては丁度良かった。


「せ、先生、か、体が妙に重いです……」

「とりあえずフレムの重力だけ一〇〇倍にしておきましたので。ですが、少しペースが落ちすぎですね。貴方ならもっと速く駆け上がれるはずですよ」

「が、頑張ります!」


 ゼーハーゼーハーと苦しげに息を吐きながらも

なんとかペースを上げるフレム。

 ちなみにローザを背負っているため、当然その分の重量も一〇〇倍となって伸し掛かっている。


 すると、それを見ていたピーチが口を開くが。


「あ、あはっ、ふ、フレムったら、だ、だらしないわね」

「え、え~と、ピーチも苦しそうですが……」

「……ピーチも重力一〇〇倍?」


 ローザが心配そうにピーチをみた。

 ビッチェも小首を傾げる。


「いえ、流石にピーチにフレムと同じ真似は出来ませんし、意味もありませんからね。その代わり、魔力の方に少々細工をさせて頂きました」


 正確には魔力の出力側を合気で弄った。これによりこれまで全開だった水門がほぼ閉じたが如く状態になっており、これまでどおりの魔力の使い方では肉体の強化を施してもすぐに息切れを起こしてしまう。


 なのでより細かい制御が必要となる。しかしこの状態で肉体を強化したまま余裕を持って次の目的地まで移動できるようになれば、より精密な魔力の調整や変化が可能となり、魔法や魔力による攻撃そのものが効かないような相手が出てきた時も対処しやすくなる。


 フレムにしても課せられた重圧の中で、より細やかな運動能力、それこそ細胞レベルの動きを認識し、掌握出来るようになればより高みへと到達することが出来るようになる。


 そして――その状態を維持させたまま現れる魔物にも対処していき、一行は次の試練場所、第一二神殿にたどり着いた。


「よっしゃぁああぁあ! こ、今度こそ、俺が、俺が出るぜ!」

「……あんた元気ね、で、でも、私だって次こそは!」


 そしてフレムとピーチが競いあうように前に出ようとするが――ふと漂う花の香りに、その脚がピタリと止まり。


「へ? あ、ヘラドンナ!」

「お前、いつの間に入り口に!」

「……申し訳ありませんが、ここは私がいかせて頂きます。色々と溜まっているもので、宜しいですよね?」

「な!? 宜しいわけないだろ何を勝手に!」

「はい、そうですね。貴方が望むのであれば構わないと思いますよ」


 えぇ~! とフレムが驚き、そんなぁ、と肩を落とした。とは言え、先生と崇めるナガレにこう言われては仕方ない。


「……フンッ」


 しかし、ヘラドンナはそんなナガレに愛想のない態度を示すと、スタスタと神殿へと入っていった。


「ヘラドンナってば、何か怒ってる?」

「……多分ナガレに対して、でもとんだ逆恨み」

「いえいえ、あれはどちらかというと悔しいという感情の方が勝っているかと思いますね。ですから、悪いことではありませんよ」


 神殿に消えていくヘラドンナを認めつつナガレが述べる。

 

 それを聞いていたマイは、何故か同情的な瞳を神殿に消えたヘラドンナへ向けていた――






◇◆◇


「私の名前はエクター・ド・マリス、この神殿の守護者であり円卓の騎士がひと、ぐぼぉぉおお!」


 空間の中でセミロングで灰色髪の女騎士が名乗りを上げる、のだが、その途中で足下から伸びた鋭利な蔦がその胴体を貫いた。 

 ヘラドンナが神殿に入り、別空間に強制移動させられた直後のことである。


「な、何を、ぐぅ、何を考えてるんですか貴方は~~~~!」

「あらごめんなさい、隙だらけだったものでつい」


 一旦距離を置き、プンプンっと怒り出すエクターに一応は謝罪の言葉を述べるヘラドンナであったが悪びれている様子は全く無かった。


 勿論、蔦による攻撃はヘラドンナの魔法だ。


「ですが、試練の内容は既に聞いてましたし、足を踏み入れた時点で戦いは始まってると見るべきでは? にもかかわらずのんびりと駄文を垂れ流す貴方にも責任はあると思いますよ?」

「え~……」


 女騎士は顔に縦線でも入ったようなゲンナリとした表情を見せた。

 まさかこんな情け容赦ない相手がやってくるとは思いもしなかったのかもしれないが。


「でしたら! 今度はこちらからいきますよ! いま必殺の! ぐぼぉぉぉおおお!」


 今度はヘラドンナの斜め後ろに生えた植物が飛ばす、棘状の種子を喰らい吹っ飛ぶエクターであり。


「ですから、わざわざ自分から隙を作ってどうするのですか? 全く、アレと比べるとあまりにお粗末すぎて逆に腹だたしくなりますね」

「ひ、酷い言われようだわ!」


 ヘクターが立ち上がり、声を張り上げた。するとヘラドンナが眉をひそめ。



「それにしても貴方、丈夫さだけならゴキブリ並ですね」

「乙女に言っていいセリフじゃないわよねそれ!? くっ、ですがそれも当たり前ですわ。何せ私の能力は超回復! どれほどのダメージを受けようが即座に回復できるのが私の強みですか、グボオォォォオオオォオオオ!」


 今度は足下が爆発し、エクターの身体は三分の一程が爆散し、残りが何度か地面をバウンドしていく。


 だが――


「だ、だから! 貴方は少しは話を聞いたらいかがですか!」

「何故? それにしても本当に丈夫ですね。回復も早いですし」

「と、当然です! 生命力が1でも残っていれば、例え部位が欠損しても再生しますからね!」


 うふふん、とドヤ顔のエクターだが、ヘラドンナは呆れ顔である。

 何せいまの話だけで、つまり生命力を0にさえしてしまえば回復は不能だと自ら明かしてしまっているのである。


 尤も、それでも確かに回復力は大したものであり、爆散した肉体も瞬時に再生されたが。


「その回復力が貴方の強みという事ですか」

「その通りです! 他の騎士から回復力以外にこれといった特徴がないなんて言われたりしましたが、ですがこの能力さえあれば! 地道でもダメージを与え続ける事で必ず勝てるのです! そう三歩進んで二歩下がるの精神です!」


 この子はきっとアホなんだろうな、と考えるヘラドンナであるが。


「ですが、それは丁度良かったです」

「あははっ、強がりは止めてください。言っておきますがこれでも私は円卓の騎士の一人、そう簡単にやられたりは、へ?」


 自信アリげに語るエクターであったが、突如地面から伸びた茨が絡みつき、その肢体をギュウギュウと締め上げた。


 その上で、新たに生まれた植物の先端から飛び出した棘が次々とヘクターの身体に突き刺さっていく。


「ふぇ? へ、な、にゃに、これ?」

「生命力が尽きるまで回復し続けるですか、それは私にとって都合の良い相手でした」

「へ、へ?」

「それにしても、守護者ともあろうものがその程度で強がるというのは流石にどうかと思いますよ? 今後も貴方は色々な相手を試す機会があるのでしょうが今のままではいいカモです。ですから私が少しあなたに世間の厳しさを教えてさしあげますよ」

「え? え?」

「先ず、いくら超回復でも、こういった状態で神経毒を打ち続けられれば、意味がありません。回復しても毒の効果は与えられ続けますからね。そして、この状態になれば、貴方のような力の持ち主は私のようなものにとってはいい実験材料でしかありません」

「ひっ、ちょ、ちょっと待って、え~と何を?」

「ウフフッ、実は最近少し苛々が募ってまして。何せアレは私が何をやっても涼しい顔で全く殺れそうにありません。この試練が始まってからも隙を見ては殺してやろうと思っているのに、まるで子供扱いなんですよ? 腹立たしいですよね?」

「え~と、それって私には……」

「えぇ、何も関係ありませんね。これはただの逆恨みですから。ですが、私は悪魔ですからね。それに、折角そのような素敵な力を持っているわけですから――少しだけ鬱憤を晴らすと同時に、対ナガレ用に色々と試させていただきますよ」

「ヒッ、ヒィイイィィイィイィイイ!」

エクターさん哀れ……相手とタイミングが悪すぎました。

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