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第四一九話 一三宮殿の試練

「よく来たな。私がこの第一三宮殿の守護者、ライオネルである」

「へぇ、驚いたな。守護者ってもっとこう魔物っぽいのかと思ったら、人なんだ」


 自己紹介を述べてきた相手に向けて、カイルが意外そうに目をパチクリさせて返す。


 メグミの持つ聖剣から試験の条件を聞き、最初に挑むと名乗りを上げたのはカイルであった。

 フレムがかなりやりたそうにしていたのだが、これから先も試練は続くことを考えるなら、一番手は様子見として自分が出ておくのが無難とカイルは考えていた。


 だからこそ、最初は先ずおいらにいかせてとお願いして、この神殿に乗り込んできたわけである。


 この神殿、実はかなり変わっており、一見外からでも丸見えに思える作りなのだが、一歩脚を踏み入れた瞬間別の空間へと飛ばされたようなそんな気分にさせてくれた。


 実際見回しても仲間の姿は確認ができず、端に見える空間が歪んだような場所は触れるとみえない壁のような状態であることが判った。


 そんな中、カイルは守護者を名乗るその男と対峙していたわけであるが。


「確かに、私の見た目は人だ。だが、安心しろ。結局のところ私はこの神殿を守るためだけに存在する思念体でしかない。なので倒されたところで一旦この場から消えるだけだ」


 カイルへライオネルと名乗った男が答える。つまり、ステータス上の生命力がなくなれば一時的に消失するが、それも時間が経てばまた出現するような、そんな存在でしかないらしい。


「そっか、それならライオネルっちと戦うのに遠慮はいらなさそうだね」

「ち、っち?」


 ライオネルの碧眼が戸惑いに揺れた。チリチリとした金髪に手をやり、調子が狂うなと言わんばかりに目を眇める。


「と、とにかくだ、私相手に遠慮はいらないし殺すぐらいの気持ちで来るといいが、逆に言えば私も遠慮はしないということだ」

「それってつまり、おいらも怪我を負う可能性があるってこと?」

「当たり前だ、試練で命を落とすことだって珍しくはない。真剣勝負なのだからな」

「え~でも死ぬのは嫌かな。おいら、危なくなったら降参しても大丈夫? それは受け入れてくれる?」

「……降参ありきで試練に挑むものなど初めて会ったぞ。一応認めはするが、一度降参したらもうお前との再戦は認めないぞ」


 忠告の言葉を投げかける。つまり、一度でも降参すればここでのカイルの試練は失敗という事になる。


「その場合、おいら以外の仲間も挑戦出来なくなる?」

「お前以外が挑んでくるならばそれは問題がない。あくまでお前が降参した場合の話だがな」


 なるほど、とカイルが得心を示す。同時に、やはり先に自分が挑んで正解だったと考える。


 何故ならカイルはこの手の勝負事での勝ち負けに頓着がない。いざとなれば宣言通り降参して引き返すぐらいは本気でするのである。


 何故なら結果的にそのほうが残されたメンバーの為にもなるからだ。

 ある程度戦って相手の情報がつかめれば対応策もとりやすくなる。


 だが、これがフレムだった場合こうはいかない。フレムの勝負への執着心は強い。特に今はナガレの事もある為、先生の顔に泥は濡れないなどと考えてしまい例え不利になっても素直に負けを認めたりしないだろう。


 その結果大怪我を負ったり、それこそ命を失うような事があれば洒落にもならない。

 だからこそ先駆けとしてカイルが出る。例え倒すのが無理でも相手の情報を出来るだけ持って帰る。


 それは逃げではなくカイルの決意でもあった。


「まぁ良い、それでは始めていいか?」

「アハッ、ライオネルっちは律儀だねぇ。勿論おいらもそのつもりだしねぇ」


 ライオネルが背中から大剣を抜き構えた。カイルも弓に矢を番え臨戦態勢を取る。

 

 ライオネルは非常に厳つい戦士だ。身体も大きく、チリチリとした髪の毛も獣じみている。

 鎧は鎖帷子のみであり、肩から先や爪先から太ももに掛けては防具などでは覆われていない。逞しい筋肉が見えているだけだ。


 靴も履いておらず裸足である。中々独特だなと観察していたカイルが黙考する。


「――お前はおかしなやつだな。やたらと漂々していてやる気が無いかと思えば、構えを見せた途端、獲物を追い詰める狩人のような空気を纏いおる」


 それは当然であった。確かにカイルはこういった勝負において勝ちにこだわることもなく、生き残ることを優先させたりもするが、だからといって最初から負けるつもりで戦っているというわけでもないのである。


 そう、普段はいい加減な言動も見せるカイルだが、戦いにおいては常に真剣だ。だからこそ例え負けるにしても真剣に負けるし、逃げる必要があれば真剣に逃げる。

 

 それがカイルという男であり――


「むぅ!」


 四方八方から矢が迫る。戦端を開いたのはカイルだった。

 ここに至るまでにカイルも随分とレベルが上った。

 

 その過程で瞬間加速というスキルも会得している。これは瞬時に最高速まで加速するスキルであり、その分通常の加速スキルよりも速い移動が可能だ。


 ライオネルを軸にして周回しながら、乱れ射ちで矢を乱射する。既に星弓術のオリオン狩人弓を行使している為、弓の威力も大幅に向上している。


 そして――乱れ射ちの中で一射だけ、ライオネルの頭上を通り越す矢を混ぜる。


 その上で、足を止めた。


「馬鹿め! 飛ばしすぎたな! 精度も落ちているぞ!」


 どうやら体力に限界が来て足を止めたと思ったらしく、更に最後に放たれた一撃も外したものだと捉えたのか、距離を詰めてくるライオネルであったが――


「な!?」


 途端に背後から流星と化した矢が命中する。カイルが最後に放った一射は、オシリス流星弓による物であった。


 この技は、流星の降り注ぐ方向をある程度調整できる。それによって、このような芸当も可能なわけだが。


「ぐっ! よもや、このような手で来るとは!」


 悔しそうにライオネルが呻いた。

 だが、そんな彼を眺めながら、カイルは頬を掻き。


「え~と、これは降参しなくても大丈夫そうかな、なんて……」

「は? な、なんだと貴様!」


 素直な感想を述べるカイル。別に相手を舐めているわけではないのだが、それでもこの一瞬のやり取りの中である程度相手の実力をつかめてしまったような、そんな気がしたのだろう。


「は、はは、私も舐められたものだな。確かに一番最下層の一三宮殿を守る身ではあるが、これでも円卓の騎士に選ばれし一人! その辺の噛ませ犬と一緒にはしないことだ!」


 かなり自信があるようだが、その円卓の騎士に選ばれた事というのがそこまで凄いことなのかカイルには理解できていない。


 ただ、何故か語れば語るほど、その噛ませ犬臭がひどくなっている気がしてならないわけだが。


「それにだ! 私のレベルは1000! そう簡単にやられはせん!」

「う~ん、確かにおいらよりも高いかな」


 正直単純なレベルでいえば今のカイルの倍以上だ。確かに強い、だが、何故かレベル差だけで強さを判断しなくなっている自分がいた。


「ゆくぞ! 大震撃!」


 その場で大剣を地面に叩きつけた。同時に足場が大きく揺れだしバランスをとるのも難しくなる。


 なるほど、どうやら相手を足止めするためのスキルのようだ。そして間合いを詰めたライオネルが一刀両断で決めに掛かる。


 が、カイルはすぐにその場から離脱。逃げながらライオネルの攻撃終わりに矢弾を重ねる。

 

「アルゴル星撃弓!」

「グハッ!」


 カウンターを取られ、ライオネルの巨体が浮いた。苦悶の表情を浮かべる彼だが。


「オシリス彗星弓!」

「ぐごぉおおおお!」


 しかしカイルの弓はまだ止まらず、今度はオシリス流星弓の星を一点に集中させ彗星として射ち込む星弓技で追い打ち。


 空中を漂うライオネルに容赦のないコンボがヒットし、そのままみえない壁に激突する。


「むぅ、まさかここまで私がやられるとは……」


 立ち上がり、信じられないと言った顔で呟いてくる。その様子から残りの生命力がかなり少ないであろうことを察したカイルであり。


「油断はしないけど、ここはおいらがとりそうかな?」

「……なるほど、確かに中々やるようではあるな。だが、私にも円卓の騎士としての意地がある。そう簡単に、やらせはせぬぞーーーー!」

 

 ライオネルが吠える。すると、鎖帷子がはじけ飛び、衣服もビリビリに破けてしまった。

 光に包まれたライオネルの身体が変化し、そして、四本の脚が地面につく。


『グオオオオオォオオォオオォオオォオオオ!』


 目の前に突如現れた巨大な獅子が雄叫びを上げた。


 空気を切り裂くような雄々しい叫びだ。そして、グルリと身体をカイルに向けて、威勢を示す。


 そう、これはライオネルだ。ライオネルが獅子へと変化したのだ。


 グルルと唸るその凶暴な目が、カイルに訴えかけてきていた。どうだ? と。

 これが本気の私だ、この姿になればステータスも大きく向上し、もう負けなどありえない! と、そんな自信が窺えた。


 獅子が駆ける。そして意趣返しと言わんばかりにカイルを軸に円を描くように駆け回る。

 

 残像が残り続けるほどに速かった。目だけで追うのはこれは至難の業だろう。


 そして――残像の中から影、巨大な獅子の一頭が衝撃波を纏いながらカイルへと飛んだ。


 獰猛な爪牙を光らせ、獲物を狩るようにカイルに迫るが――


「その選択肢はマズかったね――」


 カイルの矢が、既に獅子の頭に向けられていた。だが、獅子は攻撃をやめようとしない。

 

 それがどうした! ならば弓矢ごと食いちぎってくれよう! とでも言わんばかりに――


「――オリオンの猟撃」

「――ッ!?」


 だが、それは叶わなかった。カイルの放ったたった一発の矢、しかし、それで十分だったのだ。

 

 オリオンの力は狩人としての加護を高め、弓による射撃の威力を向上させる能力。


 故に――相手が獣であった場合の効力は対人間より大きくなる。

 そのうえで、対獣専用とも言えるオリオンの猟撃は、相手が獣でさえあれば魔獣であろうと神獣であろうと絶大なダメージが期待できるスキル。


 つまり――ライオネルがその姿を獅子に変化させた時点で、その自信とは裏腹にカイルの勝利は決まっていたのである。

 ライオネルが獲物と捉えた相手は、逆にライオネルを獲物として視ていたわけだ。


「ま、おいらってば意外と勝負運はいい方なんだよねぇ」


 カイルの一撃を受け、生命力が完全になくなり、獅子の姿のまま霧散したライオネルを認めながら、カイルはとてもいい笑顔でそう言ったのだった――

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