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第四一二話 やっぱり魔法だったのよ!

 番人との戦いが始まってから十数分が過ぎた。この間にもバイダロスは様々なスキルの行使で、彼らを寄せ付けまいとする。


 バイダロスは既にフォルスバイキルを行使。これは自身の能力値を全て倍にしてしまうスキルである、当然一つ一つの攻撃の威力も強化され、より重く、痛烈なものとなる。


 その上で、ピーチ、フレム、メグミの三人がなんとか接近戦に持ち込もうとするとメールアンテリュールを使用し、闘気の渦を巻き起こすことで全方位に攻撃。


 ダメージは勿論だが、その際に生じる衝撃は触れたものを大きく弾き飛ばしてしまう。

 これにより、接近戦に持ち込もうとしても結局は仕切り直しになってしまう事が多かった。


 その上――


「どっせぇええぇえええええええい!」


 杖を魔力で鉄球に変え、打ち込むピーチ。だが、鉄球がバイダロスに触れたかと思えば、カイルの星弓術がそうであったように、ダメージを通すこと無く弾き返されてしまう。


「くっ、やっぱり駄目ね!」


 呻くように言う。その表情はどこか悔しそうでもあった。


「――判ったわ!」


 だがその時、メグミは頭上に電球でも浮かび上がったが如く顔で声を上げた。

 どうやら何かに気がついたようであり、皆動きながらでいいから聞いて、と呼びかける。


「あの巨人、魔法が先ず効いてないみたい。魔法関係は尽く跳ね返されているもの。私のバーンストライク(飛炎撃剣)も跳ね返されたし、ピーチさんやカイルさんの攻撃が通じなかったのもそれが魔法の一種と捉えられたからよ」

「ほら! ほら! やっぱり私のは魔法だったのよ!」

「いや、先輩、今はそんな事喜んでいる場合じゃないだろ」


 ピーチは凄く嬉しそうにしているが、確かに今もバイダロスの攻撃は続いている。距離がある程度離れた状態で、あの波動を連続で撃ってきていた。


「あれ? でもメグミ、私の攻撃は跳ね返されていないけど……」

「マイ様のそれは、あくまで特殊能力の炎ですからね。魔法とは異なります。一方で私の植物を操る攻撃は魔法の一種ですので通用しなかったのでしょう」

「なるほどね――」


 マイが得心を示す。だが、そうなると強力なヘラドンナの攻撃が通用しないのかな? と少し不安にもなるマイであり。


「あんたの言いたいことは判ったぜ! つまりここは俺が頼りって事だな。見ててください先生! この一番弟子のフレムがこんな巨人あっさり倒してみせます!」

「え? いや、そうじゃなくて、まだ話が――」


 しかしフレムはそんなの関係ねぇ! とばかりにバイダロスの攻撃を掻い潜り、そして跳躍。

 双剣を手にし、刃に炎を纏わせた。フレムの炎もまた魔法ではなく物理的な物であり、アシュラムの炎耐性すら打ち破った強力な火炎である。


 だが――フレムの刃がバイダロスの肉体に触れることは結局叶わなかった。

 何故ならフレムが完全に接近する前にあの闘気の渦が発生しフレム自身を弾き飛ばしてしまったからだ。


「グッ! 畜生うざってぇ! 近づけやしないぜ!」

「もう、だから話はまだ終わってないんだってば!」


 叱りつけるようにメグミが言う。フレム、相変わらずの先走りぶりである。


「いい? 私が見ている限りあの巨人の攻撃は――」


 メグミは現在までに看破したバイダロスのスキルについて説明する。

 全てのステータスを倍にするスキルにまで言及されたのは流石の洞察力と見るべきか。


「魔法が利かないって点と、離れた位置からの波型の闘気による連射が面倒ってところね。それでいて近づいたらあの渦で飛ばされちゃうんだ――」

「だったら渦がでる前にぶっ潰す!」

「それが出来たら苦労しないでしょ? それよりフレムの目で弱点は見えないの?」

「俺の目だと、これといった弱点もないが、攻撃が全く通用しないって燃え方でもないぜ。俺の攻撃なら当たりさえすればダメージは通るはずだ」

「そう、それならカイルのあの星弓術が当たれば効果が大きそうだったんだけど、魔法が弾かれるなんてね。私のも、ま、魔法だったみたいだし、エヘヘ――」


 なんで嬉しそうなんだよ、と呆れ眼を向けるフレムでもある。

 

 尤もこれはバイダロスの魔反鱗が魔力そのものにも反応しているからというのが理由として上げられる。


 ピーチの魔力形成は攻撃手段として行使する場合、直接魔力を武器に変化させる。

 当然、これでは攻撃は通らなわけである。


「実は、フレムさんの言っているやり方は悪くないの。ようは渦がでる前に攻撃を当てればいい」

「え? そうなの?」

「だろ? やっぱそうだと思ったんだよ俺は」


 ピーチが意外そうな顔を見せ、フレムは得意がった。


「だけど、我武者羅に突っ込んでも駄目。だから、作戦を立てる必要があるわ。先ず、あの番人には決定的な弱点がある。そこをつくの」

「弱点?」

「そう、あの番人は動きが鈍重なの。だからこそ、最初に数歩動いただけで、後は一歩も動いてない」


 いわれてみれば、とピーチが番人を改めて見やる。


「でも、攻撃は絶え間なく続いているわね」

「それは、ある一定のリズムで、そうね。太鼓を叩くように攻撃を繰り返しているから。最初の一発こそ左右の手で同時に攻撃してきたけど、そこからは片手ずつリズムを取るようにうち続けているわ。だからこそ隙間なく攻撃が続いているのよ」


 それに加えて、その巨体も関係している。観察していてメグミが気がついたが、バイダロスはフォルスウァーグを放っている時は斧を半分ほど上げた状態から振り下ろしている。

  

 その大きさゆえ、当然バイダロスは腕も長い。故に例え全体の動きが鈍重でも、腕の長さでその重さを誤魔化すことが可能だ。

 

 一度地面に斧刃を叩きつけた後、軽く持ち上げる程度で済ますことで、地面との距離は当然近くなり次の一撃は僅かな動きだけで済む。

 

 膝を落としているのも、絶え間ない攻撃を繰り返すためだ。


「――でも、この攻撃もいずれ途切れる瞬間がある。そこを狙えば、確実に攻撃はあたるはずよ。だからマイ! そのまま炎は打ち続けて。あとカイルさんは魔法を使わず、普通の弓の攻撃、ヘラドンナさんも、魔法以外で何か攻撃があれば――」

「うん、任せて、今の私にはこれぐらいしか出来ないし」

「それなら、おいらも丁度試したい技があったんだよねぇ」

「安心してください。魔法が通じない相手でもいくらでもやりようはあります」


 メグミに言われ、マイはそのまま炎を撃ち続ける。マイは効いているのかどうか心配していたが、全くダメージが通っていないわけではないという事は時折番人が見せる歪めた表情から知ることが出来た。


「星弓術――オリオン狩人弓!」


 そしてカイルは矢を番えていない弓の弦を弾くようにしながら、新たな星弓術を発動させる。

 この星弓術がこれまでのものと違うのは、直接攻撃に使うタイプではないということ。


 行使後、カイルの全身に星が浮かび上がり、勇ましい狩人の姿が重なり合った。


 そしてカイルは表情を一変させ、矢を番えた弓を引き絞り、真剣な目つきでバイダロスに狙いを定める。

 

 ヘラドンナは地面に種をまく。するとそこから花弁が巨大な口のように変化した植物が次々と生えていき、その口から毬状の物体が吐き出され放物線を描きながらバイダロスに命中――かと思えば爆発し生えていた棘が飛び出した。


 それが連続で何発も何発も発射される。

 流石のバイダロスもこれはウザったそうだ。


「アースソード――アースストロング(大地の加護力)!」


 すると、メグミは聖剣に土の付与を纏わせ、そして地面に剣を突き立てた。


 アースストロングは大地の力を剣に取り込み、威力を上げる事が出来る。

 魔法ではなく物理的なダメージが増えるため、このバイダロス相手には有効だと考えたのだろう。


 そして今度は狙いを定めたカイルが集中して威力を高めた一矢を放つ。

 

 オリオン狩人弓は星さえも射抜くとされるオリオンの力をその身に宿し、弓を扱う力を向上させる。


 更にそこから派生するオリオンの狙撃は、集中すれば集中するほど次の一矢の威力を引き上げる。その効果は最大で一〇倍を超える程だ。


 しかもターゲットに狙いを絞ったカイルの矢は、狙撃率一〇〇%を超える必中の矢。


 弓から射られた矢弾は、迷いなくバイダロスの肉体を射抜く。それは鎧の隙間を狙った見事な一撃であった。


『グォオオォオォォオオォオオオ!』


 ここで初めて巨人の口から悲鳴が漏れた。顎髭が大きく揺れ、リズムよく繰り出されていた攻撃の手が中断される。


 これはメグミとしても嬉しい誤算であった。マイ、カイル、そしてヘラドンナの攻撃は次の手を誘発させる為の物であったが、ここまでダメージに繋がるとは。


 だが、これであればほぼ間違いなくこのバイダロスはあの攻撃を放ってくる。


 それを読んだメグミは、今よ! と全員に合図する。

次の更新は17日になるかもしれません。

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