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第四一一話 番人の巨人

 入り口から見て反対側の扉を守るようにそびえ立つ存在。


 それは地球で言うならまるでヴァイキングのような様相。

 しかし、その体格に大きな違いがある。

 頭頂部は五階建てビルの屋上を見上げるような位置に存在し、肩幅も広い。

 

 そして皮膚にはびっしりと鱗が生え揃っており、その巨体とあいまってまるで恐竜の如しだ。肌の上からは己が肌に近い鱗状の小片を組み合わせたスケイルアーマーを着込んでいる。


 尤も素材は本物の鱗である可能性も高いか。


 鎧からにょきにょきと生えてきたような腕は柱のように太くたくましく、巨大な戦斧が片手に一本ずつ握られている。


 そこから上に視線を変えると岩石のような顔が睨みを効かせており、豊富な顎髭がフサフサと揺れていた。


「へっ、中々強そうじゃねぇか腕がなるぜ」

「た、確かに無駄に迫力あるわね」

「う~ん、おいらの弓が効くかな~?」


 フレムはポキポキと拳を鳴らし、ピーチは即座に杖を構える。


 カイルはいつもどおり軽いノリだが喋りながらも弓に矢を番え、目は笑っておらず真剣に獲物を見据えている。


「な、何か急に敵のレベルが上ったような気がするんだけど……」

『何を弱気な事を。この我がついておるのだからもっと自信を持つが良い』


 メグミには若干硬さが感じられた。だがエクスと会話し、呼吸を整えたことで瞬時に落ち着きを取り戻したようだ。

 視界に映る番人をつぶさに観察し、敵のデーターを集めようとしている。

 それでいて肉体的な動きは別思考で行っているため、思考にかまけて動作が遅れるような事もない。


「あれの役になりきるのは流石に無理よね……私に出来ることなんてあるかな?」

「大丈夫ですよ。マイ様もここにくるまでにかなりレベルを上げている筈です」

『キヒヒヒッ、キャスパに任せる。キャスパ、マイをサポートする』


 ヘラドンナの言うとおり、マイのレベルも既に150までは上がっている。

 それでいて役作りの力もある為、そう簡単にやられることはないであろう。勿論油断は大敵であるが。


「う、うぅ、私、お役に立てるでしょうか?」

「落ち着いてアイカ。大丈夫ですよ私たちは後方支援が基本ですから」


 アイカの不安を払拭するようにローザが言う。

 簡単な聖魔法なら使用できるようになったアイカだが、やはりまだまだ不安もあるのだろう。


「……ナガレとビッチェはローザとアイカを守ってもらうってことでいいかな? 前に出ての戦闘は私達がメインで行うから」

「判りました。ではアレを叩くのはピーチ達にお任せしますよ」

「……二人の事は任せる」


 ピーチの話に素直に従うナガレとビッチェである。尤もふたりとも最初からメインで戦うつもりはなかった。


 特にナガレに関しては目の前の番人の実力を既に察している。



ステータス

名前:バイダロス

年齢:??歳

性別:♂

称号:迷宮の番人

レベル:520

生命力:14800/14800

魔力 :0/0

攻撃力:6800

防御力:7800

敏捷力:1480

魔導力:0

魔抗力:0


アビリティ

闘魂・守護筋(効果・小)・魔反鱗・長命脈(効果・大)・斬鉄(効果・大)・斧強化(効果・極大)


スキル

フォルスウァーグ・フォルスウール・ラージュカスカード・メールアンテリュール・フォルスバイキル・オラシュルフ

 


 これがピーチ達が戦おうとしている番人の能力である。

 レベルが520というのは確かに高い。

 だが、ピーチ、フレム、カイルの三人は既にかなりレベルが上っているし、メグミのレベルも200を超えている。


 マイに関してはレベルだけならアイカの次に低いが、役作りの効果でかなりの強化が可能だ。

 そこにヘラドンナやキャスパの援護があるなら油断さえしなければそうそう酷いことにはならないだろう。


「ローザの付与もあるし、これで十分戦えるわよ!」


 この広間に入る前、ローザは主要なメンバーにリジェネーションの魔法を掛けている。

 これにより例え傷を受けても暫くの間は自動で回復してくれる。


 後衛の四人を除いた全員が戦闘態勢に移った。カイルとマイ、そしてマイの肩に乗っているキャスパとヘラドンナはある程度離れた位置を陣取り、遠距離からの攻撃を行う。


 接近戦を担当するのはピーチ、フレム、メグミの三人だ。

 戦闘場所となる広間はかなり広い。見上げるほど高い巨人が三体縦にならんでも余裕があるほどに天井は高く、広さも戦いを繰り広げるに十分なスペースは確保されている。


 バイダロスは侵入者が一定以上近づくまでは様子を見ることに徹していた。

 その後ろには出口の扉があるが、入り口と同じく一度足を踏み入れたなら番人を倒さない限り扉は基本的に開かない。


 ナガレも敢えてこのルールを破ろうとは思わない為、この先へ向かうにはこの番人に勝つ他ない。

 

 前衛の三人が駆け出した。纏まっては移動せず、中心にフレム、左右にはピーチとメグミが分かれ、三方からの攻撃を狙う。


 だが、巨人も戦闘が開始されたと判断するや否や、数歩進み、そして膝を落とし両手の斧を同時に床へ叩きつけた。


 すると、ピーチとメグミに向けて力の波が突き進む。

 スキルのフォルスウァーグだ。これは斧に闘気を乗せそれを波のように変化させて放つ。


 床を伝い迫る波動。しかもバイダロスはフレムに向けても続けてスキルを行使。

 ただ、波はそれほど大きくはなく、三人共避けるのはそれほど難しそうではない。


 その上で、バイダロスの真上に一本の矢――かと思えば弾け、流星となりその巨躯に降り注いだ。


 カイルのオシリス流星弓である。

 更にマイの放った火球もバルダロスへと着弾するが。


「――え?」


 カイルが驚きに目を見開く。何故ならカイルの放った流星の多くは跳ね返され逆に前衛にいたピーチ、フレム、メグミの三人に襲いかかったからである。

  

「おっとあぶねぇ!」

「こいつ!」

「跳ね返す……反射――」

『ふむ、よく考えておるようだな』

 

 幸いにも跳ね返ってきた攻撃は全て躱してくれたが、これでこの技はもう迂闊に使用が出来ない。


 一方で、マイの行使した炎はしっかりと着弾している。ただ、バイダロスの皮膚や鎧は硬い。

 攻撃が当たってはいるが、表情からはどれほど効いているかがわかりにくかった。


「なんかあまり効いてないっぽいわね……」

「防御力が高いのかもしれませんね。では私は――」


 ヘラドンナが魔法を行使すると、バイダロスの足元から無数の槍状の蔦が伸びた。


 鋭く伸び上がる攻撃は、その胴体に迫るが――当たったかと思えた直後、その蔦もまた弾かれてしまう。


「……これはもしかして――」


 ヘラドンナが顎に手を添え考え込んだ。

 しかしその間もバイダロスの動きは止まらない。再び両方の戦斧を振り上げ、一瞬溜めるような所作を見せた後、斧刃を大きく床に叩きつける。


 地面が震え、刃によって刻まれた罅が広がり亀裂が入る。


 そして最初に撃った波動よりも大きな力の波が一向に迫る。

 まさに大波といった様相を見せるソレは、一見すると避けようがなさそうなほどの高さと幅を誇る。


 尤もこれは並の冒険者であればの話だ。彼らは当然並ではなく、フレムもピーチも、そしてメグミも大きく跳躍し、余裕で避けてみせる。


 ただ、カイルには流石にそこまでの超人的な身体能力はない。

 だが、それをサポートするのもローザの役目だ。彼女の行使したセイクレッドパワーシールドが波の被害を食い止める。


 後はマイだが、そこはヘラドンナが植物を壁にすることで直撃を避けた。


「中々派手な攻撃ですね」

「……そう言いながらあっさりと退けるナガレ、流石」


 番人の放った余波は、離れた位置にいたローザやアイカにまで届いたが、ナガレにとっては小波程度の事であり、軽々と受け流してみせる。


 ビッチェもチェインスネークソードの一振りで薙ぎ払ってしまった。

 まさにレベルが違う。このふたりが出ていれば間違いなく、この番人も瞬殺であろう。

 だが、それではこれより深層に行く上で他のメンバーの成長が望めないのは確かだ。


 だからこそそれ以上の事はしないし、ナガレにしても今回は察した情報も一切伝えていない。

 そういった助けが一切なくてもこのぐらいの相手を倒せないようではナガレとビッチェ以外のメンバーをメインとした完全攻略など不可能だからだ。

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