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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第三章 ナガレ冒険者としての活躍編

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第三十九話 暴走フレム

 フレムがナガレに突きつけた要求は、ようはナガレのいた世界でいう土下座に近い事を皆に向けて行なえという事であった。


 どうやらフレムはナガレがそれだけの事をしたと信じて疑ってないようである。

 すぐ後ろではカイルがオロオロしているが、何かを言おうとするとフレムに睨まれてしまうため二の言が出ないままでいる。


「……正直おっしゃられてる意味が私にはよく判りません」


 しかしそこでナガレが遂に言を発した。

 すると、はぁ!? とフレムが髪を逆立てるが如し様相で声を荒げる。


「テメェまだそんな事を言っているのか! 俺の仲間を危険な目にあわせて、他の連中にも迷惑掛けて! そこまでやって詫び一ついれる事も出来ねぇとはどういう了見だゴラァ!」


「先ず私には詫びというのを入れる理由が思い当たりません。貴方がどう思っているかは知りませんが、あの場にはローザの手助けが必須でした。彼女がいなければここにいる冒険者の多くの命が失われていた可能性もあったでしょう」


「だからってテメェはデスクィーンキラーホーネットみたいな凶暴な魔物がいる場所に俺の仲間を連れて行くのか! それで何かあったらどうするつもりなんだ!」


「デスクィーンキラーホーネットは私がこの手で倒しました。最初から彼女を危険な目に合わせるつもりもありません」


「だからそれは結果論だろうが! 運だけで成り上がったような奴が偉そうな事いってんじゃねぇ!」


「運? 先程から貴方は私がレベル0であるという部分だけを槍玉に挙げて、私にはそれだけの腕がないとお思いのようですね。ですがこの際だからはっきり言わせて頂きますが、私はあの程度の魔物問題ともしない実力を有していると自負しております。私があの時馬車を出て先に森に出向いたのは、私であれば間違いなくあの魔物たちを一掃することが出来るという自信があったからです」


 ナガレは語気を強め、まるで聞き分けのない子供を諭すが如く様相ではっきりと言い放った。

 だがこれに異を唱える物などただ一人を除いてここにはいない。それだけ彼の言葉には自信が満ち溢れていた。


 だが納得を示さないただ一人がこの場では問題であり。


「たく、テメェはとんだ馬鹿野郎だな! まだ運だけでなんとかなったのを自分の実力だと勘違いしてるのか! どうしようもねぇ馬鹿だな! そんなんだからこれだけの冒険者を下手したら命の危険に晒してたかもしれねぇってのに気づかないんだよ!」


 フレムの勝手な思い込みで矢継ぎ早に出てくる言葉。それにナガレも思わず嘆息する。


「てか、だからナガレは一人でデスクィーンキラーホーネットを倒したってさっきから言ってるじゃないの……」


「だからそれはただの結果論だろうが! 結果的に偶然デスクィーンキラーホーネットが去ってくれたから良かったようなものを!」


「いや、デスクィーンキラーホーネットはしっかり倒されてるんだが……」


 いよいよ他の冒険者も擁護するように口を開き始めるがフレムは全く聞く耳を持たない。


「大体テメェはどうやら第六感みたいなスキルを持ってるようだけどな。もしそれでデスクィーンキラーホーネットみたいな凶悪な魔物がいるのが判ったというならテメェがやる事はただ一つだろうが!」


「……というと?」


 ナガレは一応は聞くスタンスを取ることにした。


「俺達全員にそれを伝え! 先ずは街に戻りギルドに報告! 戦力を整えて挑む! それが基本だろうが! デスクィーンキラーホーネットやプレートキラーホーネットの大群となればそれぐらいしないととても相手に出来ねぇんだからな!」


「……変異種のデスクィーンキラーホーネットはとても繁殖力の高い魔物です。それにあの場には既に多くの冒険者がスイートビー討伐の為に赴いておりました。貴方の言うような真似をしていては彼らの命はとても持たなかったでしょう」


「それでも多少の犠牲は仕方ねぇ! そこをテメェみたいに無理して下手に刺激して被害が拡大したらどうするつもりだったんだ!」


 フレムの発言に後ろで聞いていたナガレ側の冒険者は不機嫌を露わにした。

 当然であろう、何せ目の前で自分たちの命をないがしろにするような発言をされたのだ。

 ローザが必死に謝ってるおかげでなんとか堪えているようではあるが。


「被害は拡大してません。先程もいいましたが私は絶対の自信を持って事にあたりました。フレム、貴方は自分の言っている事が正しいと信じて疑っていないようですが、もし貴方の言うようにあの場で引き返してなどといった事をしていたならば、ここにいる冒険者の犠牲だけではすみません。ギルドに戻って戦力を整えてなどといった悠長な対応をしていてはそれだけで準備して再度出向くまでに一週間程度掛かる事になるでしょう。そうすれば魔物は更に数を増し、当然ですが森だけでなく近隣の村々にも襲いかかっていきます。あのような魔物の大群に襲われては小さな村は一溜りもありません。冒険者以上に多くの人びとが犠牲になっていたはずです。それが貴方にとって最善な策だと?」


「てめぇ何勘違いしてやがる? まさか冒険者は全ての人々を分け隔てなく救うことが出来るとでも思っているのか? それこそ思い上がりだ! 確かに犠牲が出るのは心苦しいが時にはそれを堪えてでも行動しなきゃいけない事がある! 一人の命を救うために無茶してその結果一〇人が犠牲になってちゃ意味がねぇんだよ!」


 フレムは右手を横に振りぬき責めるように言った。

 彼の言葉は決して間違った話ではない。しかし今回のこれはあまりに事情が違い過ぎであり、例としてはあまりにそぐわない。


「確かに私とて世の中の全ての命が救えるなどと思っているほど奢ってはおりませんよ。ですが私は自分の力で救えるものであれば救います。今回の件、もし私が動かなければ多くの犠牲を生んだ。それは間違いありません。だから私は動いたのです。それは私に絶対の自信があったからです。貴方が勝手に強敵だと思い込んでいるあのデスクィーンキラーホーネットなど私にとってみれば小虫と同じ。私にはそれだけの実力があります」


 凛と構え、今度は更に絶対の自信を語気に含んでの発言。

 その声は落ち着きに満ちた余裕すら感じられるものであったが、その場の全員の頭蓋にしっかりと響き渡った。


「……どうやら何を言ってもテメェは自分の勘違いに気づかないようだな。謝る気もねぇってか?」


「私は間違った事をしたとは思ってませんからね。ですが貴方も折れる気がないなら話は平行線のままでしょう」


「安心しな、だったら勘違い野郎のテメェの目をこの俺自らが覚まさせてやるよ」


 と、言うと? とナガレが反問するが。


「この俺と勝負しろ! まさか嫌だとは言わねぇよな? それだけ自信があるってんなら断る理由なんてねぇはずだぜ! いや寧ろここで断って逃げ出すようならテメェは本当は実力なんてねぇって認めてるようなもんだしなぁ!」


 なぜかは判らないが自信に満ち溢れた顔でそんな事を言い放つフレム。

 その姿に溜め息を吐きつつナガレはチラリとローザを見やった。

 仮にもローザはフレムとパーティーを組んでいる。

 ここで戦って良いものか判断を仰いだのだろう。

 尤もなんとなく彼女の答えは察しているナガレでもあるが。


「ナガレ様……お願いです。フレムの馬鹿の目を覚まさせてやって下さい!」

「よし! ナガレ! ローザもこういってるしぶっ飛ばしちゃいなよ!」

「……馬鹿は口だと判らない」


 ローザどころか女性陣は全員ナガレ寄りである。

 

「糞が! どうやらテメェをぶっ飛ばしてローザにもしっかりテメェの正体を教えてやる必要があるようだな」


 拳をぽきぽきと鳴らし、炎が灯ったような双眸で睨めつけてくる。

 

 その姿に、仕方がないですね、とナガレは一言発し。


「少し相手をしてさし上げましょう。しかし私が勝ったら素直に引いてもらえますね?」

「ふん! 万が一にもそんな事があったらな!」


「……一体あの自信どこから来てるのかしら――」

「ご、ごめんなさい。フレムは思い込みが激しい上にちょっと自意識過剰なところがあって……」

「……それはみてれば判る」


 ちなみにナガレとフレムが勝負することが決まったことで、外野の冒険者達はいつの間にか賭けを始めてしまっていた。

 

 その殆どはナガレの勝利に賭けてしまっていたが、ナガレの戦いを間近で見たことのないものの中にはフレムの方が信憑性があると思ってる者もいたようだ。

 それでも七:三でナガレ有利な状況だが。


「おいテメェ何やってんだ。武器か杖を出して構えろよ」


 フレムが腰から双剣を取り出し構えをとった後ナガレに向けて言いのける。


「お構い無く。私は素手が基本スタイルですので。それとこの勝負、もし貴方の武器が私に掠りでもしたら私の負けで宜しいですよ」


「なんだ、と?」


 フレムの表情がみるみるうちに怒りに満ちていく。


「テメェ俺を舐めてんのか? 言っておくが俺は自分の腕はAランクにも匹敵すると自負しているんだ! テメェ如きハッタリ野郎に俺の攻撃が掠りもしねぇとか本気で思っているのか?」


「えぇ思ってますよ。むしろハンデとしては弱いですかね。そうですね、ついでに私が一〇秒以内に貴方を倒せなければそれでも負けという事で宜しいですよ」


「ざけんじゃねぇ!」


 吼え揚げ同時にフレムが飛び出した。その双剣がナガレの顔目掛け振りぬかれるが、それを首の動きだけで難なく避ける。


「ちっ! だが一発避けたぐらいで調子に乗ってんじゃ!」


「それと貴方はAランクの実力なんてありませんよ。あまりに精神が未熟すぎますからね。私からすればBランクに上がれたのも不思議なぐらいです」

「てめっ!」


 ナガレの言葉にフレムの蟀谷に浮き上がった血管がピクピクと波打った。

 そこから二度、三度、と攻撃を仕掛けるがそれらは全て危なげなく躱される。


「……クスッ、完全に挑発してる。でも彼の言う通り。あれじゃあとてもAランクなんて、無理」


 ナガレとフレムのやり取りを眺めながら微笑を浮かべるビッチェ。だが彼女も既にどちらが勝利するか予想は付いているようだ。


「俺がテメェの化けの皮を剥いでやるぜ! この俺の速度に付いてこれるもんなら付いてきてみやがれ!」


 言ってフレムはナガレの周りを猿の如き飛び回り、更に宣言通り徐々に動きを加速させていく。

 

 そして――


「隙ありだ! テメェ背中がガラ空きだぜ!」


 ニヤリと口元を緩め、勝利を確信したが如く様相で、フレムはナガレの背中に向けて跳びかかった。

 瞬きしてる間の肉薄。ナガレに動きは見られない。

 貰った! とフレムの双剣がナガレの背中を狙うが――その瞬間彼の視点がぐるりと反転した。

 一対の刃は空を切り、かと思えば刃ごとその身が大きく一回転、フレムはわけも分からずそのまま地面に叩きつけられ――その意識はあっさりと刈り取られた。


 沈黙が場を支配する。完全に観戦者と化していた冒険者達は言葉も出てこない。

 はっきりといえば何があったのかイマイチ理解できていない。


 何せフレムは確かにナガレの背中を狙って飛び込みその双剣を振るったのだ。が、その瞬間には勝手にフレムの軌道が変化し、ナガレの脇をすり抜け大きく回転しながら地面に叩きつけられていたのである。


 勿論これはナガレの超高速の捌きによって周囲の大気の流れを変化させ、ナガレ自身フレムには一切触れることなくその攻撃を受け流し、更に己の力を乗せ地面に向けて叩きつけたに過ぎないのだが。


 とは言え、明らかにおかしな挙動はあったものの、見ている多くの冒険者にとって見ればこのあまりにあっさりとした幕切れは勢い余ったフレムが勝手に自滅したかのようにしか思えず、そしてソレがナガレの所為に寄るものだと気がついたものにしても思うことは一つであり。


――フレムだっさ……


 それがその戦いを眺めていた多くの冒険者の総意なのであった。


 そして、結局フレムが目覚めたのはそれから数分ほど経った後であったのだが――





「う、う~ん……」

「あ、フレム気がついた?」


 ローザの膝枕の上で徐々にフレムの瞼が開いていき、かと思えばガバッ! と上半身を起こし、どこか覚束ない様子で周囲に目を向ける。


 その様子を眺めながら嘆息一つ。そしてローザが声を掛ける。


「どうやらあまり記憶がはっきりしてないようね。フレム、貴方ナガレ様に勝負を挑んで、そして今まで気絶していたのよ」


 ローザの言葉に、え? と彼女の顔を振り返りフレムはその目をパチクリさせた。

 が、その後、そういえば……と呟き。


「もしかして、俺は負けたのか?」

「うん、もう完膚なきまでにね。十秒も待たず一発もかする事すら出来ず、しかもナガレっちはたった一発でフレムっちをのしちゃったんだからもうこれは認めるしかないよね~」


 意識を取り戻したフレムを誂うようにカイルが言った。

 尤もこの軽いノリは彼なりに気を遣っての事かもしれないが。


「……負けた、そうかやっぱり俺は――ははっ、ざまぁないよな。あれだけの事を言っておきながらこんなにあっさりやられるなんて」

「フレム」


 肩を落とすフレムにローザは決して同情の目など見せず、寧ろ子供を叱りつけるような双眸で彼を見つめ口にした。


「はっきり言って貴方に悔しがる資格なんてないわ。それよりも、貴方には先ずやらなければいけないことがあるでしょう? それが出来ないなら――私は一生貴方を軽蔑します」


 有無を言わせない厳しい口調。カイルから見てもきっとローザのこんな顔を見たのは初めてであろう。

 そう、彼女はフレムの行為に怒っているのである。


「フレムっちぃ。これはローザは本気で怒ってると思うよ? それに……これに関しては僕も同意見かな。フレムっち、ナガレっちに随分と失礼な事を言ってたしね。だから――」

「判ってる」


 カイルの言葉に重ねるようにフレムが言った。

 その表情は酷く殊勝なものであった。

 これであれば再度噛みつくような事はないだろうとカイルも胸を撫で下ろす。

 そして――


「あの……」


 遂にフレムがナガレに近づき声を掛けた。

 するとナガレが彼を振り返り。


「あぁ良かった、お目覚めになられたのですね」


 ナガレはさっきまでのフレムの無礼な態度は全く気にする素振りを見せず、にこやかに応対する。

 だが、ナガレを目の前にしてフレムの目つきが変わった。

 今にも斬りかかりそうな炯眼でナガレを睨めつける。

 

「な、何よあんた! そんな目をしてまさかまだナガレに何かするつもり!」


 そしてその様子に気がついたピーチが声を荒げるが、キッ! と凄まじい迫力で睨めつけられ喉を詰まらす。


 かと思えば、フレムは今度はその目をナガレに向け、更に数歩距離を縮め眼力を強め遂にその口を開いた。の、だが……


「し、師匠! 貴方に惚れましたーーーーーーーー! どうかこれまでの非礼お許し下さいーーーーーー!」


「……はい?」


 その、ナガレもよく知る見事なまでの土下座姿勢と突然の告白を目にしながら、思わずナガレは怪訝な表情でそう口にするのであった――

 

 

フレム――デレる!

どうしてこうなった……



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