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第四〇七話 北側攻略

 先ず、戦いが始まったら基本相手の動きを良く観察すること。

 そして、戦闘以外ではとにかく常にサトルの事を考え続けること。


 それが、マイへのナガレの課題であった。

 

「え、えっと、相手の動きの観察はともかく、サトルの事を考え続けるのはどうして?」


 これに対してひくついた笑みで問い返すマイ。勿論サトルのことは気になっているし、心配でもあるが、だからといって終始そのことばかりを考えろというのも、と疑問に思うと同時にどこか気恥ずかしそうな様子も感じられるマイであり。


「将来の為にも、マイさんにはサトルの事をよく知ってもらう必要がありますからね」

「しょ、将来って! なんでそんなぶっとんだ話になるのよ! 大体私、別にサトルの事を、モニョモニョ――」

 

 顔を真っ赤にさせて、最後の方が声も小さくなってしまったが、そんな姿を認めナガレは。


「将来といっても、別におふたりが結ばれるためなどといったものではありませんよ」

「へ?」

「当然です。そんないきなり何をわけのわからないことを。思わずナガレ、貴方の事を殺したくなるところでした」

「ははっ、そういいつつ、既に殺しにかかっているところは流石ですね」


 ナガレの背後に咲いた花が、爆発する種子をばら撒き、鋼鉄も切り裂く花びらが嵐にのってナガレに迫る。


 だが、それを全て受け流し明後日の方向へ投げ飛ばすナガレであり、しかもそれらは丁度現れた魔物に残らず命中した。


「チッ……」

「……何かこっちに混じったことが失敗だったような気がしてきたのだけど……」


 ゲンナリした顔でマイが言う。とは言え、ナガレ曰く、サトルのことを考えるのは今後必要な能力を行使するために必須なことらしい。


 どうやら隠しスキルの役作りと何か関係があるようなのだが、マイは未だにその力の使い方がイマイチ判っていない。


 なのでここはやはりナガレのやり方に従うのがベストなのだろう。

 ちなみにナガレ曰く、サトルの事を考えると言っても、サトルの戦闘時の様子をメインで想起する形でとのこと。特に悪魔の書を使用しているサトルの戦いが重要らしい。


 迷宮ではナガレは基本あまり手を出すことはなく、ヘラドンナやキャスパリーグがメインで敵と戦ってくれていた。


 植物を操れるヘラドンナはかなり能力が高く、自然魔法という特殊な術を行使してバッタバッタと敵を倒していった。


 マイの肩に乗っているキャスパリーグにしろ、どうやらサトルに使役されていたときとは能力が異なるようであり。


『キシシシシシシシシシシシッ!』


 その笑い声を聞いた途端、目の前にいた獣が動きを止め、ブルブルと震えだす。

 その隙を見逃すこと無く、ヘラドンナが蔦を鞭に変えその首を跳ね飛ばしていった。


「今のは恐怖の呪笑ですね。精神力が低い相手はこの笑い声を聞くと呪いで脚が竦み、恐怖に支配されるようです」

「そ、そうなんだ」

『キヒッ、マイ、キャスパリーグ凄い? 呪い可愛い?』

「の、呪いが可愛いかはともかく、貴方は可愛いわよ」

『キヒヒヒッ、嬉しい、キャスパリーグ、マイの為に頑張る』


 撫でられモフられ、嬉しがるキャスパリーグである。だが、そんな黒猫悪魔をジトーっとした目でヘラドンナが見やり。


「でも貴方、そんな力があったのにどうしてサトル様に従事して時には使用しなかったのかしら? もしかして、貴方サトル様を舐めていたのかしら? だとしたら――」

『!? 怖い! マイ、ヘラドンナ怖い! キャスパリーグ、身の危険!』


 ゴゴゴゴゴゴゴッ、という効果音でも聞こえてきそうなヘラドンナの様相に、完全にビビってしまったキャスパリーグはマイの背中に回りガタガタと震えてしまっている。


「ちょ、ちょっとヘラドンナ、そんな怒らなくても、それにキャスパリーグだって悪気があったわけじゃなくて、体調とかそういうのもあったのかもしれないし……」

「マイ様、これは悪魔の問題。そこは口出し無用でお願い致します。それに悪魔が体調不良だなどと冗談にもなっていません」


 ヘラドンナの背後から大量の触手が伸びてくる。植物の蔦が変異したもののようだが、見た目はあまりにグロテスクであり、こんなものに捕まったら一体どうなるというのか、想像もしたくないマイである。

 

「それは、自我が芽生えたからでしょうね」


 だがここで、ナガレが言を発す。その様子に、ナガレく~ん、と半べそで助け舟を期待するマイであり。


「サトルに使役されていた当初は、キャスパリーグもここまで強い自我は持っていなかったはずです。ですがマイさんに興味を持ち、悪魔の書から飛び出してでもついていきたいと思えるほどの自我が芽生えたことで、これまで見えてなかった内なる能力にも気がつくことが出来たのでしょう」


 そして更にナガレが説明したところで、ヘラドンナの背後でウネウネしていた触手が引っ込み、彼女の怒りの感情も収束していく。


「そういうことですか……確かにそれであれば、理解できます」

「判ってもらえて何よりです」


 両目を閉じ、鉾を下ろすヘラドンナ。それを見て笑顔を見せたナガレに、キャスパリーグもホッと一安心といったところか。


『キャスパリーグ、助かった……』

「良かったわね。ところで、ずっと思っていたんだけどキャスパリーグって少し長いし、これからはキャスパって呼んでもいいかな?」

『キャスパ……好き! その呼び方好き! 俺今からキャスパ! キャスパキャスパ♪』


 どうやら気に入ってくれたようであり、かなりのはしゃぎようである。

 その姿にたまらなくなったのか、再びギュッと抱きしめるマイであった。


「キャスパですか、呼びやすくて良いかもしれませんね」

「まぁ、私たちにとって名前など、どうでもいいことですわ」

「そんな事いいながら、相変わらず隙あればナガレの命を狙っているのね……」


 切れ味の鋭い花びらが風に乗ってナガレへ襲いかかっていた。だが、それを踊るような動きでひょいひょい避けているナガレである。


 まるで子供を相手に遊んでいるようですらあった。


「……疾風剃花(しっぷうていか)すら避けますか――」

「良い技だとは思いますけどね。ただ、当たったとしても威力には少し不安が残りそうです」


 ついでにダメ出しもするナガレである。


「さて、それでは宝箱を回収いたしますか」


 そして、ナガレがある一点を見やりながらそんな事を言い出すが。


「え? 宝箱なんてどこにあるの?」

 

 そう、ナガレの向いている方向には宝箱なんてものは見当たらず、念のため周囲も見回すがやはりそれらしきものは見えない。


「確かに一見何もなさそうですが――」


 するとナガレはその場で一つ手を叩く。パーンっと警戒な音が鳴り響いたかと思えば――数メートルほど先の壁際に突如宝箱が出現した。


「え! 嘘、なにこれどうなってるの?」

「宝箱に不可視の処理が施されていたのですよ。それで見えなかったのです」

「ふ、不可視、でも、それがなんで突然見えるようになったの?」

「合気で受け流しましたからね」

 

 ニッコリと微笑んでナガレが言うが、当然マイには理解が出来ない。


 しかし、ナガレにかかれば不可視だった宝箱の不可視の不を受け流し、可視にして視えるようにすることなどどうということはないのである。


 そしてナガレはスタスタと歩き、宝箱をあっさりと開けてみせるが――その瞬間壁一面から槍が飛び出し、どこからか万を超える落雷が降り注ぎ、ギロチンが飛び出し、冷凍光線が射出され、地面が爆発しそのまま火柱が上がり、両側の地面がせり上がりスパイクが伸びサンドイッチの如く挟み込む。


 そう、まさにとんでもない量の罠が一気に作動したわけだが。


「これが中身ですね」

「ちょっと待ちなさいよーーーー!」


 いつの間にか目の前にいたナガレに、マイが叫んだ。渾身のツッコミである。


「どうかしましたか?」

「いや、どうかしましたかじゃなくて! 今すっごい罠に掛かっていたじゃない! まさに今、目の前でとんでもないことになっていたのに、どうしてそんなに平然としていられるのよ!」


 捲し立てるマイ。ちなみにそんな彼女の目の前で平然としているナガレは当然無傷である。道衣に汚れ一つ付いていない。


「全て受け流してますから平気ですよ。ですが、この迷宮にはあのようなトラップも多いですのでマイさんは十分にお気をつけください」


 まるで何事も無かったかのように返すナガレである。だが、本来ナガレであればわざわざトラップなど発動させることもなく中身を回収できる。


 しかし、彼女に罠の危険性を知ってもらう為に、敢えてトラップに引っかかったのであった。


「……ふぅ、ナガレくんに常識を求めたのが間違いだったみたいね……」


 そして結局それで納得するマイでもある。


「ところでこれは、何これ玉?」

「はい、これはマイさんにピッタリな装備のようですので、どうぞお受け取りください」

「……はい?」


 そう言って渡された物は、まさにただの球体であり、なぜこれが? と疑問の声を上げたマイであった――

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