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第四〇四話 乗り越えるべき試練

 メグミの背中に冷たい物が走る。今回はビッチェは手出しをしないという。


 これを乗り越えなければ次のステップに踏み出すことが出来ない。それはメグミにもよく理解できていた。


(大丈夫、これはあの悪魔じゃない――)


 メグミはそう言い聞かせ、目の前の魔物を見やる。人骨タイプの魔物であり、頭には中心から一本角が突き出たような半球形の兜を被り、両手には剣、ただし腕が四本ある。


 そしてこれがあの悪魔アシュラムを彷彿とさせた。勿論腕の数こそ違うが、見た目が骸骨とい点でどうしても重ねてしまう。

 

 メグミには若干トラウマになっていた相手だ。何せ途中助けが入らなければ間違いなくメグミはそこで死んでいた事だろう。


 そして考える、思い返してみればあの時はメグミもアシュラム相手に積極的に挑んでいたことを。だが、それでもあの時の自分は普通ではなかった。サトルの事があり、冷静さに欠けていた。


 とは言え、それでも自分の中で最も強力な技すらも通じなかったというのはやはり大きい。


 その強大さが今でも心に残っている。もしかしたらメグミはそれがあったからこそ、その後フレム達についていきながら魔物に襲われた時も自然と消極的な戦いになっていたのかもしれない。


 だからこそ、ここは確実に倒しておく必要がある。アシュラムより遥かに劣る魔物相手に及び腰になっていてはそもそも話にならない。


 上下に揺れる顎がぶつかり合い、カタカタと耳障りな音を鳴らしていた。

 だが、この魔物はやはり違う、何故ならさっぱり喋らない。


 こんな下位互換にすらなっていない相手に遅れを取るわけにはいかない。


 メグミがまず踏み込み、そして横薙ぎ一閃。 

 だが、骸骨はそれを先ず剣の一本でガード、かと思えばもう一本の剣を滑り込ませ、聖剣を挟み込んでしまった。


「え?」

『愚か者! 横からくるぞ!』


 エクスの念が届く。同時に横から三本目の剣が迫る。


「キャッ!」


 悲鳴を上げて、エクスから手を放し、ゴロゴロと転がった。


 だが、すぐにしまった! と考える。武器を自ら手放してしまった、どうしようどうしよう――


『もう一本あるであろうが!』


 エクスの念が届く。そして思い出す。エクスを手に入れるまでに使用していた剣があったことを。


 こんな単純な事を忘れるなんて――だが、悔しいなんて思っている暇はない。


 目の前の骨の魔物が何かスキルを使用したのか、腕の一本が外れ、武器を持ったままメグミに迫る。


 それから腕だけでメグミに攻撃を仕掛けてきた。

 こんな真似も出来るのか! と以前の剣で凌ぎながら奥歯を噛みしめる。


 何が下位互換にもなってないだ。己の考えの浅はかさを呪った。乗り越えようと気ばかりが焦って、相手を勝手に弱い位置に置いた。


 ここは古代迷宮、しかも四大迷宮とも称される中の一つだ。そこに現れる魔物がそもそも弱い訳がない。


 メグミより格上なのが当然なのだ。それなのにちょっと聖剣を使いこなせるようになってきたからとのぼせ上がっていた。


 カラン、という音がした。骸骨の魔物がエクスを床に放り捨てたからだ。

 聖剣になんて事をと思うが、知能のない魔物に聖剣の素晴らしさを解いたところで仕方のないことだろう。


『むぅなんて無礼なやつだ! メグミよ、こんな骨程度さっさと倒してしまえ』

「そんな事言われたって――」


 飛んできた腕を裁くのも大変な上、骸骨が迫り、戦闘に加わりだした。これではジリ貧である。


『全く情けない。折角お主は自分のスタイルを模索し始めたというのに全くなってないではないか。確かに消極的なのは良くないが、かといって考えなしの行動がよいわけではない。お前は冷静に頭で考えながら同時に行動に移せるのが強みであろう、それを自ら捨ててどうする?』


 その瞬間、弾かれたようにメグミが大きく飛び退いた。間合いをとるのが目的だ。 

 

 当然だ、あのような最悪な状況でわざわざ打ち合いに応じる必要がそもそもないのだ。

 冷静に考えれば一旦仕切り直しが、ベストな手であることは間違いない。


 メグミは息を大きく吐き出した。そして精神統一を行う。折角のスキルを活かすのすら忘れていた。


 本当にまだまだだなとメグミは思う。だが、おかげで頭はすっかり切り替わった。


 剣に炎を灯した。元々持っていた剣でも魔法剣は使える。ましてや相手は骸骨。


 アシュラムであれば炎は全く通じなかった。


 だが、この敵が同じとは限らない。実際、炎を見た瞬間僅かながらに怯む様子が窺えた。


「バーンストライク!」


 振った剣から火炎弾が飛び出し、本体から離れ迫る手に命中した。爆発し、腕が粉砕され消し炭になる。

 

 切り離した腕を放ってきたが、それが逆に仇となった。切り離している分耐久力は減る。炎によわいというのもこれで確定した。


 三本腕になった骸骨に、メグミが肉薄する。一本減っただけで、気分がだいぶ楽になった。

 メグミが剣を振ると、やはり先ほとと同じように挟み込んで刃を止めた。だが、今回はそれが囮だ。


 もう一本の剣が迫る前に剣を一旦捨て、後ろに転がっている聖剣を拾い直す。


 捨てると言っても無駄にしたわけではない。こうすることで一瞬とは言え骨の魔物の手数が減る。

 

 先ほどと同じように骸骨が剣を放り捨てようとしたその時には、既にエクスに炎を纏わせたメグミの剣戟がその骨を捉えていた。


 そのままもう一本の相棒も引き抜きつつ、更に聖剣での斬り上げ、骨の身が一気に燃え上がり、焼き尽くされた魔物は地面を転がる炭と成り果てた。


「……少し危ないところもあったけど、メグミ、よく乗り越えた」

「はい! ありがとうございます!」

『我の助言もあってこそなのだ。敬って良いぞ』

「あはははははっ……」


 エクスも黙ってさえいれば、尊さがにじみ出るだろうに、こういうことを言ってしまう辺りが残念聖剣なところである。


 とは言えこれでメグミも大分自信がついたことだろう。


 後はこのまま更に聖剣を使いこなせるように魔物との戦いを続けながら迷宮を進むだけ。

 

 そして、そこから徐々にメグミはビッチェの助けなくても迷宮内の魔物は大分倒せるようになってきた。


 レベルも上昇し、とっくに100は超えている。流石にレベルの高い敵が多いだけあって、メグミのレベルアップも早い。


 そして、ある程度進んだところで景色が突然変わった。この迷宮ではこういったこともよくある。

 

 突然通路が大きく広がったり、天井が高くなったりなど――そもそも外側から見た大きさと内部の構造からして大きく異なっている。


 時空の原理そのものが外と内で大きく異なっているのかもしれない。


 どちらにしても――気がついた時、メグミとビッチェは随分と広い通路にいた。

 天井もかなり高い。アーチ型の天井で、ステンドグラスで装飾された窓も並び、通路に配置された柱と同様等間隔に設置されている。


 そして何より天井から壁、床に至るまで質感に大きな変化。


 石造りだった筈のソレは、ひんやりとした冷たさの感じられる、メタリックな風景に早変わりしていた。

 

 その通路を歩きながら、ビッチェには特に驚いた様子はないが、メグミは妙な雰囲気でも感じているのか思案顔を見せている。


 すると暫く進んだ先に十数段分程の階段があり、その頂上に陣取っている存在が確認できる。


 この一変した風景のように、なんともメタリックな風貌をした物であった。

 魔物なのかそれ以外の何かなのかはメグミには判別がつかない。


 ただ発せられる気配は、これまでの魔物とは大きく異る。

 見た目には半騎士半馬といったところか。ただ、馬の部分も金属で仕上げられたような見た目。

 更に上半分の騎士も金属の鎧で包まれている。厳かな鎧は肩がやけに刺々しく、兜も砲弾型で前は鳥の嘴のように突き出ている。


 勿論兜の内側は見えず、ただ、魔物か魔獣であったとしても、これには中身などはなく、それ自体が本体の可能性が高いだろう。


 そして両手にはハルバード。この世界ではナガレ式として最近出回り始めた複合武器だ。

 半月状の斧刃と反対側に鈎、先端は鋭い槍と言った構成である。


「……メグミ、あれはこれまでの相手より手強い。LV300以上、油断するな」

「え! 300以上!? いや、あの、私まだLV125……」

「……頑張れ」

 

 ポンッと肩を叩かれ激励される。それに、えぇ~……と顔を歪ませるメグミだが、どうやらやるしかないらしい。


『安心せい、今のお主には我がついておる。レベル差が倍程度どうということはない』

「いや、普通に倍以上あるんだけど――」


 恨めしそうな顔を見せるメグミだが、こうなっては仕方がない。

 結局メグミは覚悟を決め、目の前の相手へ向けて歩きだした――

次の更新は6日月曜日の予定となります。

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