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第三九九話 新技

 カイルがその技を編み出すきっかけを作ったのは紛れもなくナガレその人であった。


 あの夜、星空を眺めていたカイルにナガレが伝えてくれたこと。弓以外の部分にも目を向ける。心をまっさらにして星を観察し続ける――これらで何か得られる物があるかもしれないということ。


 その後カイルは結局一日中星空を眺めながら己のステータスとも向き合い、試行錯誤を繰り返した。


 そしてその結果、ある一つの可能性を思いつき――そしてそれこそがこの新技へと繋がった。


「いくよ! 【星弓術・アルゴル星撃弓】!」


 カイルの周囲が唐突に煌めき始め、かと思えば星屑を思い起こさせる光が彼の構える矢に集束していく。


 そして放たれる一矢。弓から解き放たれた矢弾はそのまま星へと変化し、鋭くそれでいて痛烈な一撃が魔物の頭部に命中した。

 

 軌道は斜め上、直線的な為、フレムの指定した頭部の中心部をしっかりと捉えることはなかったが――にも関わらずそのたった一撃の矢によって鎌のような頭を有す魔物の頭蓋は粉々に砕け散った。


 思わずポカーンとした表情を見せる周囲の面々。だが、カイルは動きを止めず、更に二体目と三体目の魔物にも同じように星弓の一撃を決めていき――あっさりと三体の魔物を葬り去さった。


「ふぅ、良かった。実戦では初めてだったけど上手くいったよ~」

「て、てめぇ……」

「え?」


 ホッと一息つき、額を拭うカイル。するとフレムがプルプルと震えながらカイルに声を掛け。


「テメェ! いつの間にこんな凄い技覚えていたんだこいつぅ!」

「わわっ、ちょっとフレムっちってばぁ、もう~」


 かと思えば、カイルの首根っこを腕でホールドし、嬉しそうにその灰色がかった髪をわしゃわしゃと撫で回した。


「あ~あ、ちゃんとおいら毎日セットしてるのにぃ」

「ば~か、迷宮でそんな事いちいち気にすんなよ」


 乱れた髪を指で摘みつつ、情けない表情に変わるカイル。

 とはいっても勿論本気で嫌がっているわけではないし、フレムもこれでカイルに感心しているようでもある。


「でも本当に凄いわね。威力も高いし、あれもスキルなの?」

「うん、でも魔力は消費するんだけどね。ナガレっちとの話がきっかけだったんだけど、これを使用すると何か星の力を借りているようなそんな気持ちになれるんだよ」

「星の力、なんだか壮大ね」

「流石先生だ! カイルにもこれだけの強力な技を伝授するなんて!」

 

 カイルの話を聞き、フレムは少年のように目をキラキラさせた。

 

「でも、み、みなさんは本当に凄いですね。私は何か全く役に立てなくて……」

「それは気にしなくて大丈夫。アイカちゃんだってまだまだこれからなんだから、今は私達を頼ってくれればいいんだから。私だって最初はナガレに頼っちゃってたしね」


 申し訳無さそうな顔を見せるアイカにピーチがいった。出会った当初の事を思い出したのだろう。

 

 そしてピーチも自分がお荷物なのでは? と悩んだこともある。どんな形であれ、そういった悩みは皆もっているものだ。


「ピーチの言うとおり! 大丈夫、アイカちゃんは私がちゃんと手取り足取りお教えしますので!」

「ピーチさん、ローザさん……はい! 私、頑張ります!」


 どうやらアイカの気持ちを切り替える事に成功したようだ。

 ピーチを見ながらカイルが、フフッ、と笑い、フレムも顎を擦る。


「うん? どうしたの二人共?」

「いやぁ、ピーチちゃんもリーダーが板について来たなって」

「先生が先輩をリーダーに選んだんだしな、まぁ、いずれ俺が圧倒的な差をつけてやるけどな!」


 カイルが笑顔で語り、フレムも対抗心を燃やしながらも先輩としては認めている様子。


 ふと胸のあたりに手を添える。何かを思い起こすようにして、感慨深い表情。


『――ピーチ先輩、一体いつまで師匠に甘えている気ですか~? 師匠は優しいから、同情心で一緒にいてくれている事がわからないんですか~? ねぇ先輩、本当にいい加減自分には魔法の才能がないって気がついてくださいよ。本当に、め・ざ・わ・り、なんですからね』


 ふと去来する、想起する、あの時の事。思い出すはアメジストのように輝くウェーブの掛かった髪が特徴の少女。あの子は、笑顔でピーチを嘲り続けた。


 悔しかった。でも、先輩として何も言い返すことは出来なかった。才能が違った、少なくとも魔導の才は彼女のほうが優れており、ピーチが一年がかりでようやく覚えた魔法も、彼女は後輩として紹介されたその日のうちには披露してみせた。

 

 しかもピーチよりも遥かに練度が高い形で――


 その後は結局彼女が師匠の下に残り、ピーチが出ていくこととなった。


 あれから一体何年たっただろうか――


「ピーチ、どうかしましたか?」


 ローザが心配そうにその顔を覗き込んできた。ヒャッ、とピーチのツインテール跳ねる。


 どうやら少しボーっとしてしまっていたようである。


「あ、ごめんね。ちょっとある人の事を思い出していて」

「え? もしかして元カレとかかなぁ~?」

「ふぁ! ピーチのも、元の彼氏?」

「ち、違うわよ! 何言ってるの馬鹿ね!」

「そうだぜカイル。先輩がそんなにモテるわけ無いだろ」

「あんたに言われたくないわよ!」


 ついつい声を荒げてしまうピーチ。ただ、確かに彼女にこれといった恋愛経験はない。男に声を掛けられないわけじゃないがなぜか寄ってくる男に限って変な男ばかりで、ナガレ以外に良い出会いが無かったのが原因だろう。


「ふぅ、まぁいいわ。とにかくこれでカイルがパワーアップしたのも判ったし、先を急ぐとしましょう」


 全員が頷き先へと進む。一旦戻り、別の分岐ルートを進んだ。相変わらずトラップは多かったがカイルの察しの良さに救われた。


 カイルはこれで斥候としての能力も高い。遠距離攻撃もこなせるとあって援護にはピッタリだ。


 前衛はフレムがこなせる上、ピーチは杖の使い方次第で中距離でも戦うことが出来る。

 ローザは聖術式による回復魔法や直接の戦闘は無理でもシールドや相手を縛める鎖などを生み出せる分サポート能力は中々高い。


 アイカは今後に期待といったところだが、パーティーとしてのバランスは良かった。


 探索中現れる魔物も次々と打ち倒していく。ピーチは鑑定こそ使えないが超知覚によって感覚は相当に研ぎ澄まされている。


 故に、戦っている内に相手のレベルはなんとなく察せられるようになっていた。

 その感覚を信じるならこのあたりの魔物のレベルは150~200台後半ぐらいまでである。


 つまり今の面々にとっては丁度いい相手ともいえるわけだ。尤も、今後どうなるかは判らない。何せ迷宮攻略はまだ始まったばかりだ。


「でも、これだけ魔物と戦い続ければいい訓練になりそうよね」

「あぁ、レベルもあがりそうだな」

「うんうん、いい感じだよね~」

「私も皆援護出来るよう頑張りますね」

「私は、ま、魔法を覚えられるように――」


 思い思いに目標を掲げて更に迷宮探索は続いていく。


「キャッキャッキャ――」


 すると正面に緊張感のない笑い声を上げる存在が突如あらわれた。まさに何もなかった筈の空間に突如現れたそれは、とんがり帽子を被った一つ目の魔物であった。


 かなり小柄で体格は人の幼子より更に一回りは小さいか。青いローブを纏い、短い杖と先のやたらと反ったブーツを履いている。


 ただ、地面に足をつけること無く、つまりそれはピーチ立ち寄り僅かに頭上をふわふわと浮いていた。


「また変なのがあらわれたわね……」

「これも初めて見るタイプだな」

「で、でもちょっと、か、可愛らしいかもしれません」


 ふわふわと浮かぶソレを目にしながらアイカが言う。確かにパッと見はまるでぬいぐるみのような愛らしさが感じられた。


 だが――


「キャキャッ!」


 杖を振り上げたその瞬間、周囲に無数の術式が浮かび上がり、かと思えば炎、風、水、土、の魔法が同時に行使された。


 それらが一斉に襲いかかり、暴風が吹き荒れ、大量の水を含んだ土石流が押し寄せ、天井付近から落下した火炎弾によって地面が爆発し視界が炎に包まれた――

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