第三九二話 怒鳴り込んできた冒険者
と、いうわけで本編です。
「Fランク冒険者のナガレとかいうふざけた野郎はどこだこらぁあっぁああぁああ!」
アケチとサトルの件もとりあえずは一旦片がつき、古代迷宮を今度はじっくりと攻略しようという話に相成った一行。
だが、迷宮攻略を決めた明朝、突如十数名の冒険者たちが乗り込んできて、その内の一人が叫びあげた。
なぜかは判らないが、その表情には怒りが満ちている。他の面々も一様に厳ついいかにも熟達した冒険者という雰囲気を醸し出しており、ナガレ一行を囲むようにして睨みを利かせていた。
「ちょ、ちょっとあんた達、一体なんなのよ!」
その集団に向かってピーチが叫ぶ。ゴブリンに助けてもらった事をきっかけにナガレと旅を共にしている美少女だ。桃色のツーサイドアップにした髪が特徴でもあり、愛用の杖をギュッと握りしめながら囲んできた連中を睨み返している。
ナガレと出会った当初は魔法もあまり得意ではなく、少々頼りない印象も強かった彼女だが、ナガレに杖術と、魔力を直接形に変えて利用する方法を伝授してもらったことで、今は立派な魔闘杖術士として成長中であり、最近では撲殺杖師としても名が通るようになってきていた。
そんな彼女も今はナガレとパーティーを組みリーダーも任されている。
その為か、突然の乱入者に対し使命感に駆られて誰何したのだろう。
「全くだぜ! 藪から棒に礼儀のなってない連中だ! 先生はテメェらみたいな連中が呼び捨てにしていい御方じゃねぇぞコラッ!」
すると、ピーチに倣うようにフレムもキレ気味に声を上げる。
炎のような形状をした朱色の髪型が特徴的な彼は、しかし元々はこの場に突如現れた連中のようにナガレに対して敵対心を露わにしていた。
しかし、ナガレに決闘を挑むも得意の双剣術が全く通じず敗北し、己の未熟さを思い知ってからはナガレを先生と慕い行動を共にするようになっている。
ナガレの課す修行にもなんとか喰らいつき、ここまでやってきた彼は肉体的には以前とは比べ物にならないほど成長した。だが、まだまだ精神面では未熟な点も多い。
それを体現するかのごとく今もかなり粗野な口調だが、今回は相手も相手なので致し方ないと言えるだろう。
「フレムっちが礼儀なんて事を言うなんておいらびっくりだよ!」
「本当、フレムってば、成長してるのね」
カイルとローザ――フレムの言動に驚いている狐耳の青年は半獣人のカイル、子供の成長を見守る母親のような表情を見せている白ローブで童顔の彼女がローザ、ふたりともフレムがナガレと出会う前から彼とパーティーを組んでいた仲間である。
ローザはフレムと幼馴染だが、冒険者になりたての頃はやたらめったらと回りに喧嘩を売って歩くフレムに苦労しっぱなしであった。
彼女は聖魔法を得意とする聖魔導師でもある為、しょっちゅう生傷の絶えないフレムを呆れながらも治療し続けていた過去がある。
ただ、最近はナガレの影響でフレムも以前のような尖った印象は薄れてきた為、そのことをナガレに感謝し、しかも数多くのナガレの偉業を目にしてきたことで、今やナガレを様付けで呼び、神様のように崇めている程だ。
一方でカイルもまたフレムが冒険者になった当初から一緒に行動している。獣人特有の獣耳が特徴だが、半獣人の為尻尾は生えていない。
得意武器は弓であり、その格好も緑を基調とした狩人然としたものだ。彼に関しては言動がどことなく軽く、普段からおちゃらけた雰囲気もある上、女の子に目がないため軽薄なナンパ男と思われがちだ。
だが、実はその陰で必死に弓などの練習を積み、少しでも皆の役に立とうと陰ながら努力する一面もある。
そんなふたりからしてみれば、例え喧嘩腰に思える口ぶりであったとしても、礼儀という言葉が出てきてるだけで十分驚きの変化なのだろう。
「うるせぇなこのウシ乳女が!」
「なっ!?」
「そっちの赤いのも、テメェら全員所詮金目当てでナガレってクソな卑怯者にひっついて回っているだけだろうが!」
「先生、こいつら殺していいですよね?」
「あん? んだとこら!」
ピーチがウシ乳と言われ絶句する。確かにその胸に宿る果実が立派なのは確かだが、ウシ扱いされては堪ったものではないのだろう。
そしてフレムはフレムで売り言葉に買い言葉を通り越し、殺害予告である。
おかげで連中の怒りは更に増したようだが。
「安易に殺したりは駄目ですよ。それに、彼らはどうやら私に御用がおありのようですから」
ここでフレムに注意しつつ、ナガレが前に出て己がナガレ本人であることを示唆する。
すると連中の視線が一斉に集中し、目の色が変わった。
「こいつが、ナガレだと?」
「まだ餓鬼じゃねぇか」
「だから、貴族のボンボンが箔をつけるために下らないことしてやがんだろ?」
そして口々に妙な事を話し始める。
「……ナガレ待つ、私はどうしても納得いかない」
すると、ナガレの前に躍り出るようにビッチェが割り込んだ。
彼女もまたナガレに惹かれ行動を共にするようになった女性だ。
褐色の美女であり、背中には愛用しているチェインスネークソードを身につけている。これはワイヤーを通した小さな刃を連結させた剣であり、まるで鞭のように靭やかで伸縮自在なのが特徴だ。
扱うのは非常に難しいが極みさえすれば本来の剣ではありえないような複雑な軌道での攻撃が可能である。
しかし、彼女が尤も目を引く点は、やはりその薄すぎる衣装であろ。何せ、これといった防具らしき防具は装着せず、上下共に見た目にはほぼ下着といった艶姿である。
その上、ピーチよりも更に胸は大きく、それでいて腰はキュっと締まりヒップのラインも完璧と非の打ち所がない極上なボディの持ち主でもある。
実際、一度彼女が姿を晒した途端、ナガレに対するものとは別な意味で、周囲を取り囲んでいた男どもの目の色が変わった。
中には辛抱たまらんと言った様子で股間を押さえているものもいる。
だが、実はこれでもビッチェは相当溢れ出るフェロモンを抑えていたりする。
そうでなければとっくに男達は精神がどうにかなっていたことだろう。
問題はビッチェが本気でフェロモン全開にしてしまうと、男女どころか魔物や動物、あらゆる生物が種の垣根など飛び越えてビッチェに情欲を抱いてしまうことか。
だからこそ、普段のビッチェはこういった相手を刺激する要素を出来るだけ抑え、更に気配も基本的には遮断している。
ビッチェはそういった事も息を吐くようにこなすことが可能だ。何せ彼女の正体はSランクの、しかもその中でも極わずかしかなれないとされている、Sランク特級の冒険者であり、その上特級の中から更に寄りすぐった一三人しか選ばれないとされるナンバーズの一人なのである。
尤も、彼女ほどの腕を持ってしてもナンバーズ最下位のNoXIIIだったりするわけだが。
ただ、そんな彼女も敵わないと断言する相手がいる。それは、そうナガレだ。何せナガレに関して言えば、得意のフェロモンすら全く通じず、さんざん好きだと言っても、どれだけの誘惑を駆使しても、すべて得意の合気の如く所作で受け流されてしまう。
しかし、だからこそビッチェはナガレが気になり、彼と行動を共にしているのかもしれない。
そしてその気持ちがあるからこそ――
「……そう納得がいかない。お金のために私がナガレと一緒にいると思われるのが。私は、ナガレの身体目的!」
「な!?」
「キャー! だいた~ん!」
「いや、マイってばテンション上がりすぎじゃ……」
「はわわ、はわわ、か、から、からだ、お、大人の世界です!」
そう、だからこそビッチェはその勘違いが許せないのだった。
だが、その発言によってピーチは絶句し、異世界にクラスごと召喚された新牧 舞が興奮し、そんな彼女を同じく召喚された立川 恵が呆れ眼で見やり、そしてマイやメグミと同級生である相沢 愛華は顔を真っ赤にさせてしどろもどろになっていた。
三人共、アケチという同じクラスの男子の策略で激しい虐めににあい家族まで殺されたことで復讐鬼に成り果てたサトルの手で危なく命を奪われかけたが、ナガレの介入によって助かることが出来た。
そしていまはとりあえず迷宮攻略の為に、ナガレ達と行動を共にしている。
何はともあれ、ビッチェの発言があらぬ誤解を生んでしまったのも事実なようであり。
「あ、あんなエロい女まで好き勝手しやがって……」
「ガキのくせに生意気だ!」
「ナガレ死すべし……」
周囲を取り囲んでいる男どもの怒りをより煽ってしまっただけなのであった。
更新頑張ります!