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プロローグ③

プロローグはここまでです。

「さて、お前ら覚悟は出来てるよな? 俺の家族を狙ったんだから、ただで済むと思うなよ? わざわざ俺が面倒事に首を突っ込んでやってるんだからな」

「舐めるなよ! これだけの人数相手に一人でどうにかなると思っているのか!」

「こっちにはリアルウェポンが大量にあるんだ! チートの大量生産だぜ!」


 何かとんでもないことを言っているな、とナゲルはその目を細めた。

 とは言え、以前メクルから聞いた時はプリントウェポンという物だった筈だが、今回は文字通りモノホンの武器である。


 ナゲルはともかく(・・・・)としてそんなものを所持して町中で暴れられたりしたらたまったものじゃない。


 やはりここで潰しておくべきだなと考えたナゲルは――その場でダランっと肩を落とし両腕を垂れさせた。


『はっ?』


 その様子に、黒服軍団は一様に呆気にとられた態度を見せる。


 だが、ナゲルは構うこと無く黒服に向けて前に進み出す、が、その足取りは安定せず、あっちへフラフラそっちへフラフラと非常に頼りなく覚束ない足取りだ。


 まるで腰から下がだらしないゴムのような不安定さ。目も魚の死んだような目であり、全くやる気を感じさせない。


『な、舐めやがって!』

 

 その動きが、どうやら黒服達の神経を逆撫でてしまったようであり、手に持った拳銃や機関銃、散弾銃などを一斉に撃ちまくってきた。


 放たれた弾丸は逃げ場を一切感じさせない弾幕となり、未だに酔っぱらいのように足取りのふらつくナゲルに襲いかかる。


 だが――ナゲルはその独特のぐにゃぐにゃした動きで巧みに避け、避けきれないものは両の手のそれぞれの指でまるで鍵盤でも引くように弾いていき、結果的に弾丸の一部は、それを放った黒服達に返されることとなり、銃声が鳴り止んだ頃には、腕や膝を抱えて転げ回る黒服だけが残っていた。


「ま、自業自得だな」


 呻き声を上げる黒服を冷たく見下ろした後、ナゲルは裏口を抜ける。扉には鍵が掛かっていてカードキーと暗証番号の入力が必要な仕組みだったが面倒なのでたたっ壊した。


 当然警報が鳴り響くが関係ない。倉庫の固い鉄門をもあっさり粉砕し、中に入ると、またもや黒服の大群が待ち構えていた。


「テメェ! 誰か知らねぇが、ここをブラックチーターの支部と知っての狼藉か!」

「知ってるから来てんだよ。俺たち(神薙家)がこんな物騒な連中放っておくわけ無いだろ。たく、おまけに散々小狡い嫌がらせに、しまいには家族にまで手を出しやがって、いいかげんとさかに来てんだよこっちは」


 そして、再び銃を構えて撃ち込んでくる連中を、やる気なさそうな所作で避けつつ、今度は懐に飛び込み次々と相手を崩しながらそのまま投げ、地面に叩きつけ、意識を刈り取っていく。


「ふぅ、これで大体片がついたかな」


 両手を叩き合わせ、せいせいしたように言いのけるナゲル。


 だが、そんな彼に届く拍手の音。振り返ると、眼鏡を掛けた老獪そうな男がナゲルを見ていた。


「なんだ、まだいたのか。お仲間なら見ての通りのびてるぜ。じき警察もやってくるだろう。とりあえず支部はもうこれでおわりだな。こんだけ証拠品までそろってんだからな」


 そう言って、倉庫に並んだコンテナの一つをぶち破った。その中には大量の武器や、怪しい品の数々。


「ふふっ、この倉庫番を任されている私の断りもなく随分と勝手な真似をしてくれたようだな。だが、それもこれまでだ。おい、フランケン」


 すると、後ろに並んだコンテナの間から、一人の黒服が姿を現した。サングラスをしており、やたらと体格が良い。


「ククッ、ブラックチーターに何の考えもなく乗り込んできた己の浅はかさを呪うのだな。さぁ行け! フランケン!」


 倉庫番が命じるとフランケンが動き出す。それにしても倉庫番にしては偉そうだなとナゲルは思った。


 とは言え、とにかく今は目の前の巨漢に集中するほうが先決だ。

 今度は一体どんなリアルウェポンで攻撃してくるかとその行動に注目するが、なんとフランケンの最初の一手は素手による一撃であった。

 

 近づいてみるとナゲルよりもその拳は二回り以上大きく、鋭い角度でナゲルに振り下ろされる。


 それを、とりあえず様子見のために躱すナゲルであったが――その瞬間コンクリートの床が円形に大きく窪み、石塊が四方八方に飛び散った。倉庫が激しく揺れ、轟音が鳴り響く。


 その余波もかなりのもので、ナゲルの髪が突風で揺れ動いた。


「はっはっは! どうだフランケンの怪力は!」

「……確かに、常人じゃ考えられないパワーだな」


 目つきを鋭くさせナゲルが呟く。すると拳を戻すと同時にフランケンが回し蹴りで追撃を試みる。


 だが、それもナゲルは見事飛び退いて避けきってみせた。

 

 だが――そんなナゲルに向けて、フランケンが手の指を突き出し、かと思えば指の第一関節あたりがパカリと上に開き、火吹があがり銃弾が連射された。


「馬鹿め! 油断したな!」


 倉庫番の男が喜々とした顔で叫ぶ。銃弾を受けたナゲルは軽く吹き飛び――だが、くるりと回転してすぐに着地した。


 それとほぼ同時に、カカカカカンッ! と小気味よい音がフランケンから響き渡る。


「な? なんだ?」

「う~ん、全弾受け流したんだが、それも跳ね返すほど丈夫か」


 怪訝な表情で疑問の声を上げる倉庫番。そしてかすり傷一つ負わず、堂々と立ち続けるフランケンを評するナゲル。


 そう、やったと勘違いした倉庫番の考えとは裏腹に、ナゲルはその全てを撃った本人であるフランケンに返していた。


 ただ、それを受けたフランケンもまた、平然とした様子であり。


「……つまり、そういうことか。だとしたら、容赦する必要もないかな」

「な、何をしているフランケン! さっさとぶち殺せ!」


 顎に手をやり、一人納得したように頷くナゲル。そして再びフランケンに命じる倉庫番


 そして命じられるままにフランケンが飛び出し、再びその拳をナゲルに向けて振り下ろすが。


「ほいっと」


 ナゲルは相手の右の拳を避けつつ、肩でその軌道を変え、そこから腕を逆三角形にするようにしてその腕を掴み、体重移動に合わせて一気に引っこ抜いた。


 すると、その所作によってフランケンは己の放った攻撃の勢いを利用される形となり、ナゲルより遥かに大きな身体がギュルンっとはね上がった。


 しかしナゲルのターンはこれでは終わらない。フランケンの巨体が持ち上がり、つま先から腕までピーンと伸び切ったその瞬間、もう片方の腕をフランケンの右腕を添え、反対側の地面に落下し始めたその勢いをも利用して捩じ切ってみせた。


 な! と声を上げる倉庫番であり、直後フランケンの身が床に落下し重苦しい音が響き渡る。


 その上半身からは、右腕が完全になくなってしまっていた。ナゲルが捩じ切ったからだ。


 勿論、こんな事をすれば本来は腕から大量の出血が見込まれ、殺してしまいかねない一大事だ。


 だが、そうはならない。なぜならフランケンの腕からは一滴たりとも血が流れていないからであり、その代わりにバチバチと電気だけが迸っている。


「ふむ、やはり機械仕掛けか」


 更に、ナゲルは捩じ切った腕の断面も確認し、納得する。その内部は人間のそれではなく全てが複雑な機械で出来ていたからだ。


「これって人造人間って奴? 実現してたんだな」

「クッ! まさか私のチート、人造人間使役が、こんな男に……」


 これは使役と言えるのか? と小首を傾げるナゲルであったが、この倉庫番の中ではそういう事なのだろう。


「だが、油断したな! こうなったら私は逃げるぞ!」

「は?」


 すると、倉庫番が突如背中を見せ一目散に逃げ出した。


 何事かと思ったナゲルだが、ふと後ろを振り返ると、顎を開いたフランケンの口からミサイルが飛び出ていた。


「あぁ、なるほどそういうことね。それにしても――」


 そして、今まさにその口からミサイルが発射されるかと思えたその瞬間――


「そんな物騒なものはしまいなさい」


 ナゲルがフランケンに肉薄し、発射された直後のミサイルを受け流し喉の奥へと叩き込み顎を跳ね上げ無理やり口を閉じさせた。


 刹那――ピカッ! とフランケンが激しい閃光を発し、かと思えばその上半身が派手に爆散した。


「な、ななっ……」


 途中でフランケンの様子が気になったのか、ふたりを振り返っていた倉庫番は驚きに目を見開き、口をパクパクとさせていた。


 もう逃げることすら忘れているようであり。


「ほら、フランケン返すぜ」


 するとナゲルは、残ったフランケンの下半身を倉庫番に向けて投げつけた。


 ひいぃぃいい、と情けない悲鳴を上げる倉庫番に下半身が落下。


 ドスンッ! という重低音を聞き届けナゲルは倉庫番へと近づくが。


「……全く情けないやつだな」


 倉庫番は口から泡を吹いて気絶していた。ナゲルが投げつけたフランケンの下半身は結局、倉庫番の手前に落ちたわけだが、それだけでビビってしまい気を失ったのだろう。


「ま、とりあえずはこれで支部とやらは壊滅できたか――」


 そして、改めて倉庫をざっと見回しナゲルが呟く。黒服も気絶し、フランケンはぶっ壊れ、倉庫番も無様な姿を晒している。

 

 そして外からは、パトカーのサイレンの音が近づいてきていた――






◇◆◇


『え! 支部が壊滅って、本当に!?』

「はい、残念ながら。やはりこの島は、そう簡単ではないようですね」

『そ、そんな……だって! パパからアケチロイドだって一体借りてたんだよ! それ一体で一個師団ぐらいなら壊滅可能な代物だよ! それなのに――』

「つまり、神薙家はそれを遥かに凌ぐ戦力を保持しているという事でしょうね」

『な、何を呑気な事を言っているんだよ! 大体、もともとその島の話を持ってきたのはあんたらだろ! しかも美徳(びとく)君は今は明智家の秘書でもあるんだ! そんな呑気に構えてないでもう少し――』

「確かに、立場上そうなってはおりますが、あくまで外部から委託という扱いであるという事もお忘れなく。とはいえ、仕事はしっかりさせて頂きます。情報をまとめて持ち帰りますので、暫しお待ち下さい。それでは切りますね」

『な!? おい! 話はまだ終わっては!』


 しかし、ビトクと呼ばれた女は、相手の話も聞かず通話を強制終了し、電源も落としてサイドシートにスマフォを放り投げた。

 

「仕事も出来ないくせに、面倒くさい男」


 そして、呆れたように吐き捨てる。バックミラーに映るその顔は整っており、今は黒みの強いサングラスを掛けていた。


 すると、別の漆黒のスマフォが震え、ビトクはそれを手に取り応じる。


「――私よ。えぇ、そうね――」


 そして、彼女は何者かと真剣な顔で話を続けていくが。


「――思っていたとおり、やはり神薙 流は既にこっちの世界にはいないみたいね。そう、明智家の息子が巻き込まれた世界にいる可能性がやはり高いと思うわ」


 そしてとある人物について話し始める。


「――明智家は、微妙ね。ええ、大丈夫よ、神破の名前も神破カンパニーについても、名前が出ることはないわ。うちのシステムは一部を貸しているだけだから。ただ、時間が立てば明智家の行動についてはバレてもおかしくないかもね」


 彼女の話している相手はどうやら明智家とは関係のない別の人物の様子であり――


「――そうね、あのナガレがいないとはいえ、やっぱりあいつらじゃ厳しいかも。まぁ、欲しい情報はもう手に入ってるしね。ま、一応こっちは暫く観察を続けるわ。あの御方にも上手く伝えておいて。ところで、狐からの連絡は?」

『……は――とに――ない』

「――そう、まだなの……彼、割りと適当だからね。人選間違ってそうだけど、でも、ナガレがいる世界に向かわせるなら、彼が一番の適任者だったのも確かよね……」


 そして、何かを想起するように視線を上げつつ、微笑を浮かべるビトクであった――






◇◆◇


「ふぅ、やっぱこのままってわけにもいかないんだろうな」


 門下生を見送った後、ナゲルは嘆息混じりに独りごちた。


 あの支部を潰してから数日経過した。あの日は警察の事情聴取にも付き合うこととなり、それなりの時間を費やしてしまった。


 尤もナゲルに罪が問われることはない。相手は銃火器を所持していた上、問答無用で発砲してきたのだからナゲルはあくまで自衛の為に合気を使用しただけだ。


 尤も、島の警察は県警も含めて神薙家の事をよく知っているというのも大きいだろう。


 ただ、あの人造人間に関して言えばいち警察組織だけでどうにかなる話でもないので、上に掛け合ってもらいとある専門部署に引き渡す話には落ち着いている。


 どちらにせよ、話は少しずつ大きくなり始めている。ミルからの報告でもそろそろ情報が纏まりそうだと来ている。


 ただ――やはりそういったトラブルは出来れば他に任せたいと考えてしまうのがナゲルなのである。つまりひたすら面倒くさいのだ。


 故のため息であったのだが。


「全く、本当ならこういうのは爺ちゃんに任せたほうが早いんだろうけどなぁ」

『私がどうかしましたか?』


 愚痴るように呟くナゲル。すると、その背中に突如聞き覚えのある声が届く。


 へ? と目を丸くさせるナゲルは、一瞬幻聴かとも思えたが、ゆっくりと首を回し、そして、それを確認した瞬間弾かれたように振り返る。


 そこにはいつのまにか半透明の楕円形の画面が出現しており、そして画面の奥に見えるは穏やかな表情のナゲルがよく知る人物。


「お、お祖父様?」

『はい、久しぶりですねナゲル――』

ナゲルに声を掛けたのはナガレ。異世界にいるナガレが何故地球に干渉出来たか、次回更新時から本編が始まりますがそこから少し時間は戻りナガレ側の話に!出来るだけ早く更新できるよう頑張りたいです。

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