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幕間③ ブルーの力

 全員の模擬戦が一通り終わり、エルマールは皆を集め総評を語った。


「モーホは接近戦において決め手がないのがやはり難点なのじゃ。折角の身体の柔らかさじゃ、中~遠距離で有利に戦うのは利点を活かす以上当然じゃが、そこにほんの少し近接戦を混ぜるだけで戦いの幅がだいぶ広がる筈なのじゃ」

「う~ん、まぁ俺もそのあたりが課題とは思っていたのよねぇ。でも武器の関係でどうしてもな」

「それは、そのチャクラムという武器を投擲武器と決めつけているからなのじゃ。そうではなく、使いようによっては近接戦においても幅を持たせられる筈なのじゃ」

「――確かにそうね。ちょっと考えてみるわ。でも流石ナガレが認めた戦闘エルフ、その長だな」


 モーホに感嘆され、ふふんっと胸を張るエルマールである。しかし悲しいかな、幼女化した今となっては肝心の胸がない。


「その子供が一生懸命背伸びしてますみたいな雰囲気が最高やで! うちほんま辛抱たまらんわ~」

「え、え~いやめんか! 抱き上げるでない! 髪を撫でるな! 頬でスリスリするななのじゃ~!」


 飛び込んできた側近エルフに愛でられまくるエルマール。相変わらずといえば相変わらずだが、やはり中々の残念ぶりだ。


「え~い! とにかくエルシャスも、精霊の使い方がワンパターンなのじゃ! もっと幅を持たせるのじゃ~~~~!」

「うちのことしっかりみててくれてん? うち嬉しい!」

「だから抱きつくななのじゃ~~~~!」


 エルフの長もエルシャスの前ではすっかり形なしである。


「え~い! とにかく次はカマオ! お主は戦闘スタイルが奇抜の割に思いっきりの良さが足りないのじゃ! 行く時に行くのじゃ!」

「逝くだなんて幼女の癖に嫌らしいわね」

「そういう意味じゃないのじゃ、何なのじゃこいつら……ナガレも妙な者を押し付けすぎじゃ!」


 酷いわねぇ、と肩をすくめるカマオ。とは言え、その直後に見せた瞳には若干の曇りが見て取れた。敢えてふざけたことをいいつつも、言われた欠点には思い当たる節があるのだろう。


 そしてエルマールはエルマールで、文句を言っているわりには楽しそうでもある。


「後はゴーリキじゃ、お主はさっき直接相手した時に言ったとおりじゃ。とりあえず追いつめられた時に破れかぶれな攻撃をするのはやめるのじゃ。そしてお主は自分の肉体に自身を持ちすぎじゃ。だから相手から攻撃されるという事に対して無頓着なところがある。それじゃあ駄目なのじゃ、攻撃は受けないにこしたことはないのじゃ!」

「ぐっ! こいつは痛いところをつかれたぜ! こんな幼女に!」

「……いうておくが妾は今が幼女なだけで、本当は凄いのじゃからな!」


 そうはいうが、やはり今が幼女なので信憑性が薄いのである。


「エルマール様は、もう一生そのままでええんやで! うちが一生養ったる!」

「まっぴらゴメンなのじゃ」

 

 何か私が里親になってやる! ぐらいの勢いなエルシャスだが、実際はエルマールの方が遥かに年上である。


 にもかかわらず、しかも長という立場にあるエルマールが養ってもらうわけにはいかないだろう。


 故に目を細めてしっかり却下した。


「さて、次はバットウじゃが、妾とエルシャスを除けば、次いで実力が高いのは間違いなくお前なのじゃ」

「ふん、あんたやそっちの姉ちゃんより下ってのが納得行かないけどな」

「最初やった時は手も足も出なかったやん?」

「う、うるせぇ!」


 バットウが気恥ずかしそうに頬を赤く染めた。確かにバットウはいつもの調子で最初はエルマールに挑み、あっさりとのされ、その次にエルシャスに挑むもやはり何も出来ずに終わっていた。


 それからはエルシャスもある程度加減して訓練に参加している。


「バットウ、お主の敗因はいざという時の防御の甘さじゃ。居合という特殊な剣技、その鋭さ速さ威力、そのどれもが高い水準に達しておりかなりのものじゃ。だが、お主は自分に自信がありすぎて、こうと決めた時に周りが見えなくなることが暫しある。そこを付け入られた時に元々の脆さが浮き彫りになるのじゃ。何せお主はゴーリキと違い、頑強な肉体というのは持ち合わせておらぬからな」

「……チッ」


 面白くなさそうに舌打ちする。だが、言い返さないところを見ると自分の欠点は彼自身も重々承知なのだろう。


「まあ、お主は性格が少々、いや、かなりか? とにかく捻くれた根性しとるから、そのあたりから見つめ直した方が良いと思うのじゃ!」

「うっせぇ! 余計なお世話だ!」


 バットウが吠える。この様子を見るに捻くれている性格は健在なようだ。


「さて、後はワキヤークとブルーじゃが……ま、ブルーからじゃな」

「それなら俺は別にいいからよぉ、もういい加減帰らせてくれよ」


 エルマールが言うと、ワキヤークは眉を落とし、もううんざりだと言わんばかりに訴えた。


「……エルシャス、根性を叩き直しておくのじゃ」

「判ったで」


 しかし、途中で放棄などエルマールが許すわけもなく、むしろ彼にとっては見事な藪蛇。得意の棒をもったエルシャスがぶんぶんといい音を奏でながら近づいていく。


「へ? いや、判ったでじゃなくて、おい、俺いま特訓受けたばかり、ひぃぃぃいぃ!」


 待たんかいこらわれ! とエルシャスに追いかけられワキヤークの悲鳴が響き渡る。


 そしてとりあえずエルマールはブルーに視線を戻すが、彼の表情は暗かった。


「ふむ、浮かない顔をしているのじゃ」

「そりゃそうだよ。だって僕、結局誰にも勝てないどころか、一撃すら当たらなくて、掠りもしなかったんだもの」


 ブルーの言うとおり、あれからバットウ以外の相手とも模擬戦を行ったが、誰ひとりとしてそのナイフによる攻撃を受けることはなかった。この中で尤も鈍重なゴーリキですらだ。


「まぁ、それは仕方ないと言えば仕方ないのじゃ。何せようやく冒険者になるために動き始めたブルーと、ここにいる皆では経験もレベルも違いすぎる」

「でも、掠る事もできないなんて……ナガレ先生は僕にも才能があるといってくれたのに」

「のぼせ上がるななのじゃ。いくら才能があろうとそれを活かすも殺すも自分次第じゃ。それぐらい、あのナガレに少しでも教わったなら判るはずじゃがな」

「う、うぅう、でも僕、でも僕……」


 急にウジウジと呟き始めたブルー。自分の不甲斐なさを彼自身が理解していたのだろうが、その結果、このようなどんよりとした気持ちになったのだろう。


 そしてだからこそ、エルマールには彼の周りに集まった灰色の靄がよく見える。


「……ふぅ、もうここまでか。やはり、ナガレの言っていたとおりなのじゃ。やはり早めに教えてやる必要があるかもしれないのじゃ」


 え? とブルーが顔を上げ、エルマールを見やった。


「……ブルーよ、ナガレから聞いて知っているとは思うが、お主の筋肉の作りはかなり特殊なのじゃ。これと向き合い、完璧に身体の使い方を理解して使いこなすとなった場合、十年を軽く超す修行が必要じゃろ」

「へ? じゅ、十年! そんなの待っていられないよ! 大体冒険者登録までもう間もないんだし!」


 エルマールの宣告に直ぐ様ブルーが噛み付いた。彼にとって十年という歳月はあまりに長い。


「勿論、今言ったのはあくまで完璧に使いこなすことを考えた場合じゃ。普通に冒険者として登録し、Cランクやまぁ頑張り次第では数年でBランク程度まで上げて、マイペースに冒険者としてやっていくには今のままでも特に問題にはならないじゃろう」

「そんなの冗談じゃない! 僕はナガレ先生みたいな冒険者になるのが、いや! いずれ先生を超える凄い冒険者になるのが夢なんだ! そんなのんびりしていられないよ!」

「あのナガレを超えるとはまた大きく出たのう」


 ブルーの夢に、ゴーリキが顎を擦り目を丸くさせた。とは言え、夢は大きい方がやりがいはあるだろう。


「……そうか、ならばやはり仕方ないのじゃ。ブルーよ、実はお主にはもう一つ特殊な武器があるのじゃ。それを解放することが出来れば、今後の成長の大きな助けになることじゃろう。どうする、その力、試してみるかのう?」

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