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第三九一話 帝国を奪うもの――

「全く、大した考え方だな。アレクトに声を盗聴して貰っていた頃からそうではあったが、この状況でそれを言えるのが凄い」

 

 牢の中の元皇帝に告げ、アルドフは愉快そうに一笑いした後、ふぅ、と呼吸を落ち着かせる。


「でも、今更何を言ったところでもう手遅れだ。あの発言はすぐに帝国全土に知れ渡る。当然、お前たちに国民が望むことは、死刑以外にありえないだろう」

「――まるで、既に帝国は自分の物のような言い草であるな」

「そうさ、はっきりと言えばそうなる。何せ私はこの日を夢見てずっと生きてきたのだからな」

「たかだが冒険者風情が、身の丈にあわない夢を見おって。そんなもの、いずれ足元から崩壊してゆくのがおちぞ。確かに一時的にはお前は皇帝にもなれよう。だが、それを認めない者も間違いなく出て来る。ククッ、我が本来向かおうとしていた北のアヘフェイス辺境領のタイガー将軍は絶対に貴様の即位など認めん。それどころかこの簒奪を理由に、すぐにでも軍を率いてこの帝都へやってくるだろう。騎士の一人一人が一騎当千の実力を持つとさえ称されるタイガー騎士団相手に、どこまでやれるものかみものであるな」


 皇帝がほくそ笑むが、アルドフの表情は変わらない。何がきても勝利も皇帝の座も揺るがないという自信が窺える。


「ふん、あの魔導具を過信しているのか? だがな、これまでの戦いを見る限り、あれは相手の防御を崩すには向いているが、攻めて来る相手にはそこまで有効ではないだろう。我ほどの理知にすぐれた男であれば、そんなものはすぐに見抜く」

「そのわりに、あっさりと敗北したではないか。口だけであればなんとでも言える、そう思うがね」


 途端にムスッとした表情を見せる皇帝ギースであり。


「まあ、どちらにせよ、例えあの兵器がなくても私は負けないがね。何せ既に、お前たちが秘匿し続けていた研究所も抑えたのだから」

「――ッ!? ば、馬鹿な! なぜ貴様がそれを! アケチにも気づかれていなかったことだぞ!」

「ははは、確かにアケチは異世界から召喚された中の一人。それであれば気づくはずもないか。帝国の歴史になど、そこまで興味はなかったであろうしな。全く、アカシアの記憶などというとんでもない力を持っているわりに迂闊な男だ。だからこそ、連盟にあっさりと囚われたりするのだろうがね」


 アルドフの語りに再び驚くギースである。何せこの男はアケチは死んだと聞いていたのだから。


「随分と驚いているようだね。アレクトにアケチは死んだと聞いたからか? 確かに彼女はそういっただろうけどあれは嘘だ。実際は死んではいない。まあ、どちらにしてもお前たちを助けたりなどは出来なかっただろうけどな。ナガレという冒険者に敗れ、意識は完全に失っていたようだし」

「何から何まで、コケにしおって! しかし解せぬ! 何故だ! 何故あそこの場所が冒険者風情に知れる!」

「……冒険者風情か、確かにお前にはそう見えるのだろうさ。ところで元皇帝殿、その研究所のあった場所には元は何があった?」

「何が、だと? そんなものは決まっている! 既に亡き――」


 そこまで口にし、ギースの表情が変わる。その目つきが、アルドフを見る双眸が、亡霊を見るようなそれに変わる。


「……そう、既に今はなき、お前たち帝国によって滅ぼされた亡国マジルフェッセ。お前たちが研究所と呼ぶ地下施設の上にあった国の名前だ。そしてだからこそ、私はその施設にも仲間を潜り込ませていた。いずれ施設ごと奪うためにな。その意味が、判るか?」

「まさか、まさか貴様――」

「そうさ――」


 牢屋に顔を近づけて、そこでついにアルドフの表情は変わった。愉悦に塗れた表情に――そして。


「私は、その一族の生き残りだ――だからこそ、私は先ず帝都を狙った。貴様らから、全てを取り戻すためにな」

「ぐぉおぉおお! 馬鹿な! あの女以外! 全員殺したはずだ! あの国の人間は! 研究のために! いずれ来る日のために! 全てを殺したはずだ! なのになぜ!」

「……そんなのは簡単だ。お前がただ、無能だっただけだ」


 憤るギースに、アルドフが言い捨てる。


「わ、我が、無能だ、と?」

「そうだ、無能だ。お前は研究のために一つの国を滅ぼしておきながら、それを活かすことができなかった。資金難に陥り、研究も途中からすっかり停滞してしまっていた。その状況を打破するために、異世界の連中を召喚するような真似に手を出し、結局自分の身を滅ぼした。それが無能以外の何だという?」

「ぐ、ぐぐぅ!」


 悔しそうに歯噛みするギースであり、何故このような男にいいように言われ続けているのか。滅ぼした筈の国の生き残りなどになぜここまで、と怒りに震えているようですらある。


「貴様は全てにおいて間違っていた。一族の血だけを大事にするばかり、そして自分こそが選ばれた人間だという自惚れによって、下のものに目を向けるのを忘れた。その結果がこれだ」

「何を偉そうな事を! 貴様とて、皇帝の座につけば同じ真似をするにきまっている! 下になど目もくれず、自らが天より力を与えられた特別な存在と勘違いし! 身分不相応な立場に溺れるあまり国を滅ぼすのだ! なぜなら貴様は我と違って偽物だからだ! 我こそが天に選ばれし存在! だが貴様は違う!」

「滑稽だな」


 喚くギースを一蹴し、そして蔑むような視線を元皇帝に向ける。


「貴様、何だその眼は! 滑稽だと! 偽物の分際で! 本物の我に向かって、滑稽だと!」

「ああ滑稽だ。滑稽すぎて本当に、笑えない。貴様のような男が治める国に、滅ぼされたなんてな。本当に、反吐が出る!」


 叩きつけるように語気を強める。そして、表情を落ち着かせ、だが、と口にした後。


「安心するがいい。此処から先、このマーベル帝国は私が変えてやる」

「変える、だと? 貴様如きが! この国を変えるだと!」

「そう、変える。この国のすべてを変える。その為に、各国の重鎮とも交渉し、土台から作り上げていたんだ。あのナガレと知り合えたことも僥倖だった。彼との人脈は今後必ず役に立つ。私はお前とは違う、人脈を先ず広げ、その上で――研究も続け、この帝国を真の強国へと生まれ変わらせる」

「な、なんだと? そんなこと、出来るわけがない! 貴様如きが! 貴様如きが!」

「出来るさ。唯一足りてなかった研究に最適な器も、貴様達のおかげで見つける事が出来た」


 ふふっと不敵に笑い。


「そう考えたら、貴様達でも役に立てたことはあったか。異世界から連中を召喚してくれたおかげで上質な魂も手に入れることが出来た。協力者もな。そして、魂はあって困るものじゃない。ところで、なぜ私はわざわざ兵士たちを離れさせて、私とお前たちだけにしたか判るかな?」

「な、んだと? ま、まさか!」

「貴様達は間違いなくこのまま処刑される。だがそれは対外的な影響もあって精々ギロチン止まりだ。だが、そんなもので納得出来るわけがない。そうさ、だから――」


 ニヤリとアルドフが口端を吊り上げさせ、そして言葉を続けた。


「貴様らの魂もしっかりと、利用させてもらうぞ――」





 アルドフが元皇帝達と面会した翌日――


「こいつらも、随分と大人しくなったものだな」

「ああ、もう諦めたんじゃないか?」

「それにしても人が変わったみたいだけどな。まあ、処刑が間違いないとしればこうもなるか」


 牢の前を見張る看守たちが口々に、まるで人が変わったように大人しくなった皇帝や臣下の連中について語る。


 確かに彼らは殆ど言葉を発することもなく、ただ息をして与えられた飯を食い、排泄するだけの存在に成り果てていた。


「なあ、こんな連中なら、もうこれぐらいやっても平気じゃないか?」


 そんな中、一人の兵士が牢をあけ、中にはいっていく。


「お、おい! 何勝手に入って!」

「大丈夫だって、それにこいつら大人しいし、どうせ放っておいても処刑されるんだから、よ!」

 

 そしてかと思えば、兵が突如皇帝の頭を殴りつける。


「ほら、見てみろよ、全く反応ないだろ?」

「え? いや、でもよ……」

「大丈夫だって。大体、こいつら散々好き勝手やっていたくせに、処刑だってこのままじゃ精々ギロチンだろ? そんなの本当に許せると思うかい?」


 それは、悪魔の囁きだった。だが、この連中に良い感情を持ち合わせていない彼らの嗜虐心を煽るには十分であった。


「ははは、本当に全く反応しないぜ!」

「おい、やるのはいいけど、殺すなよ。処刑まではいかしておかないといけないんだからな」

「そんなミスしねぇよ。チッ、それにしてもこいつ、殆ど反応しないな人形みたいだ」

「ははっ、人形でも皇子の妻なんてそうそう味わえるもんじゃないよな~」


 結局処刑の日まで、兵たちの憂さ晴らしは続くこととなった。だが、それが問題視されることはなく――





「上手くいきましたね」

「ふむ、ちょっと煽ってやれば簡単なものだな」

「ええ、その上、身体にも僅かに魂が残ってますから、研究所に送った魂にも苦しみが直接伝達されますからね」

「――ま、これぐらいは苦しみを味わってもらわないとな。とは言え、ここからが本番だ。帝国は生まれ変わらなければいけないのだからな」

 

 そう語ったアルドフの目は決意に満ちていたという――

かなり長くなってしまったのですが第五章ナガレとサトル編の本編はこれにて終了となります。

この先幕間を何話か挟む予定ですが、その後は第六章となりいよいよ地球の神薙家と明智家の衝突が!

ただ、その間に少し書き溜め期間を頂くかと思いますが……ご了承頂けますと幸いですm(_ _)m

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