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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第三章 ナガレ冒険者としての活躍編

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第三十五話 デスクィーンキラーホーネット

(外はピーチとビッチェに任せておいてもやはり問題なかったですね)


 迫る蜂共を叩き落としながらナガレは森の奥へと突き進んだ。

 途中、何匹かのスイートビーの死骸も見つけた。

 それで確信したが、今回のこれはプレートキラーホーネットによる侵略だったのだろう。

 スイートビーを狙っていたのは何も冒険者達だけではなかったという事だ。


 ただ、こんな事はめったにある事ではない。プレートキラーホーネットによる侵略は全く知られていないことではなかったが、スイートビーに比べ圧倒的に危険度の高いプレートキラーホーネットは見つけたらそく腕利きの冒険者による討伐隊が組まれ、巣ごと迅速に破壊が基本だからだ。


 数が集まればAランクでも苦戦すると言われているプレートキラーホーネットを放置していては、その被害は計り知れない。

 何せこの魔物はスイートビーと違い肉食であり、人間に対する恐れもない。


 ただ――


 群がる魔物を叩き潰しながら思考するナガレ。

 するとそこへ何者かの調べが届く。


「き、貴様らよくも蟲の分際で、ナリアを良くも! この私が! 私がーーーー!」

「いけませんルルーシ様! ここは遺体は諦めて、とにかくご自分の身を!」

「え~いどかんかセワスール! 私だって貴族の端くれ! 多少の剣術ぐらいは――」


 そんな押問答が続く中、ナガレは遂にそのクィーンのいる空間へと飛び込んだ。


「……やはり変異種ですね」


「ギュッ、ギギッ、ギュイギュイギュギィイイイ!」


 ナガレが飛び込んだ瞬間それは怒りの様相で顎を鳴らし、ナガレを威嚇してきた。

 恐らく直前までは別の獲物をどう料理してやろうか考えていたのだろうが、ナガレが飛び込むと同時に投げつけた仲間の遺骸が気に食わなかったのだろう。


 勿論仲間を想ってというよりは、たかが人間が生意気にもといった感情の方が強いのだろうが。


(それにしても酷い状況ですね。ですが一人を除けばまだ助かる命です)


 その化け物の周囲には十数人の冒険者が転がっていた。

 幸いだったのは(勿論ナガレが駆けつけるのが早かったからこそだが)戦闘からまだそれほど時間が経っていない為に、化け物の背後に見える巨大で異様な形をした禍々しい巣に彼らが引き込まれなかった事だろう。


 この蜂の魔物は巣に持ち帰った獲物はその強靭な顎で砕き、ペースト状にして肉団子にする性質がある。

 そうなってしまってはもう目も当てられない。


「ちょ、ちょっとあんた誰!」


 と、ここでナガレに誰何する声。先程までもう一人の護衛と押し問答していた女だ。

 かなり身なりのよい女性である。高そうなドレスに戦闘力よりは宝飾性を重視したナイフをその手に構えていた。

 しかし当然あんなものでこの変異種のデスクィーンキラーホーネットに勝てる筈もない。護衛の騎士が此の場を離れさせようというのも当然だろう。


 そして彼女にセワスールと呼ばれていた騎士は中々屈強な男だ。

 恐らくかなりの手練と思われるが相手が悪かったか。

 致命傷には至ってないものの体中に刻まれた傷痕はかなり痛々しい。

 

 そして、貴族の恐らくは伯爵あたりの令嬢と思われる彼女の直ぐ側にはもう一人、中々整った顔立ちをした娘の遺体が転がっていた。

 これに関してはもう手遅れである事をナガレも察している。


「私はナガレ、冒険者ですよ。この魔物を倒しに来ました」


「!?」

「お、おい倒しって君一人でか? それはいくらなんでも無茶だ! 見ての通り私達の護衛だってかなりの手練だったが、この有様なんだぞ!」


「残念ですがここであまり話している余裕はないでしょう。あなた方はここまで来たら出来ればそこから動かないでいて貰いたい。できるだけ早くケリを付けますので」


 は? という疑問の声を受けながらも、ナガレはふたりから変異種のデスクィーンキラーホーネットへと視線を動かした。


 通常プレートキラーホーネットのクィーンはプレートクィーンキラーホーネットである。

 しかしそれが変異種になった事で、当然その能力は比べ物にならないほどに上がっていた。

 正直このレベルであれば、通常S級冒険者がパーティーを組み更に脇をA級冒険者のパーティーが固めるといった内容で、かなりの人数も要求されるレベルである。


 それを、ふたりからみれば高が十五かそこらの冒険者が単騎で挑むというのだ、驚くのも当然だろう。

 

(先ずは巣と周囲の雑魚の殲滅ですね)


 ナガレは心の中でそうつぶやくと、同時に巣から出てきた数一〇〇の蜂達がスキル顎鳴らしを発動してきた。


 だが、これはナガレにとっては好機である。彼は例の如く己の両手を高速で摺り合わせ、今度はその威力を数万倍にまで高め、なんとデスクィーンキラーホーネットを除いた蜂と背後の巨大な巣を木っ端微塵に破壊してしまったのだ。


「……へ?」

「な、なんだ? 私は夢でも見ているのか?」


「ギュルッ、ギュルッ、ギュルルルルルルルウルウギュリョォォオォオオォオオオ!」


 思わず耳を塞ぐ二人。

 巣を壊されるという事は当然中の子供たちも全員死滅してしまうという事だ。

 種族を繁栄させる事が何より生きがいな女王蜂にとってこれほど怒りを覚える出来事はない。

 

 圧倒的な殺意が、デスクィーンキラーホーネットの周辺に禍々しい魔力となって渦巻いていく。


(魔法を使うタイプの魔物は初めてでしたね)


 顎を押さえそんな事を思考しつつ、相手の行動を待つ。

 そしてそんなナガレに向けられたのは、魔法の中で闇堕ちした者のみが使えると言われている闇の魔法、当然魔物であればこれを使いこなすものもいる。


 暗黒門第五門ダークジャベリン、しかもそれを一度に十数発――射出、長大な闇色の鋭利な槍が、ナガレに向けて降り注がれる。


 それをナガレはどうするか? いや愚問である。ナガレの技は合気。その全ては合気に始まり合気に終わる。


 合気陣は既に展開されていた。そこに踏み込むダークジャベリンの穂先。

 だがその瞬間には、ナガレは魔法の力の流れを知り核を捉える。


「はっ!」


 裂帛の気合と共に周囲をビリビリさせるほどの発気。

 その瞬間、ナガレに迫っていたはずのダークジャベリンは、まるでゴムにでも押し戻されるが如く反発し、術者であるデスクィーンキラーホーネットの下へと跳ね返っていった。

 勿論ナガレの力を乗せた事でその威力も鋭さも大きく跳ね上がった状態でである。


「!?――ッ」


 驚愕、そして声にならない声。デスクィーンキラーホーネットはきっと己の身に何が起きたのかすら理解が出来なかったであろう。

 何せ自らが絶対の自信を持って放った魔法が、気がつけば自分の身体を串刺しにしていたのだから。


 だが――


(ほぅ、まだやる気ですか。魔物にしては中々根性がありますね)


 ナガレの視界には顎を鳴らし迫るデスクィーンキラーホーネットの姿があった。

 そして翅を必死に動かしながら、ナガレに向けて突っかかる。


「ギュギャギャギャーーーー!」

「クィーンの意地という奴ですか。いいでしょう受け止めて差し上げますよ」


 そう言うとナガレは敢えて後ろに飛び跳ね、顎を押さえつけながらその威力を受け流し、自らの力を加え、そして回転しながら上空目掛け突き進む。


 その距離は更に伸び、地上から一〇m、一〇〇〇m、一〇〇〇〇m、そして遂にこの世界の空の天辺である上空一〇〇〇〇km付近まで到達した。


 ナガレのすぐ真上はこの世界を主張する分厚い魔力の層に覆われていた。

 それを越えたら果たしてどうなるのか、気にならないわけでも無かったが、今はこのデスクィーンキラーホーネットを本気で叩き潰すのが先決である。


 だからナガレは、デスクィーンキラーホーネットを抱えるようにしたまま、魔力の層を蹴り飛ばし更に一気に加速する。

 きりもみ回転しながら、その速度は音を、光を超え――全てを置き去りにし、そして、落下!


 凄まじい轟音が周囲に鳴り響く。大地が揺れ土埃がもうもうと立ち込めた。

 すぐ近くには驚愕を顔に貼り付けたふたり。

 だが、これだけの威力を乗せた一撃に関わらず、ふたりはおろか周囲に一切の影響を与えないのは、ナガレの合気の練度故だろう。


 しかもこの間わずか数秒の出来事である。その一瞬でナガレは上空一〇〇〇〇kmまでデスクィーンキラーホーネットを抱えたまま上昇し、更に落下し粉々に破壊したのである。

 ちなみにしっかり魔核と討伐部位と素材は残してるところもポイントであろう。


 そして――煙が霧散し、一切の傷を負う事なく平然と立ち尽くすナガレは、改めてふたりに目を向け口を開いた。


「さて、おふたりは大丈夫でしたか?」


 その問いかけにやはり言葉をなくすふたりであった――


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