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第三八四話 アクドルクと審議官

「くそ! ハラグライの奴、一体何をしているのだ!」


 アクドルクは一人憤っていた。既にハラグライが城から消えてからかなりの日数が経っている。

 

 そうなると当然、城にいるものの中に気にし始める者も出て来るが、そこは所用を頼み出てもらってると告げてごまかしている。


 正直――ここまで戻りが遅いと、当然既に死亡している可能性も考える。

 だが、同時にハラグライが言っていたセワスールやナリヤの姿も見られなくなった。


 そこから考えられるのはハラグライが殺され、セワスールとナリヤが城に戻れていないという可能性。


 逆にセワスールもナリヤもハラグライが始末したが、ハラグライに戻れない事情がある場合。


 最後はハラグライがふたりを相手に相打ちに持ち込んだ可能性だ。ハラグライはオーパーツの力で魔獣を操ることが可能だ。


 それであれば、もしかしたら最終的に自分もろとも魔獣に襲わせないといけない状態に陥ったのかもしれない。


 ただ、アクドルクはハラグライの実力に関してだけは買っていた。あの古代迷宮をたった一人で攻略し、オーパーツを持ち帰るほどの実力が彼にはあった。


 変装を覚えろなどという無茶な要求にも決して不満を漏らさず、指定した期間よりも早く覚えてみせた。


 ハラグライはアクドルクの命令に忠実だった。怒りに任せて暴力を振るっても何も言い返すこと無く、文句も言わず、黙って受け入れた。


 それはきっとハラグライのいうところの罰のつもりなのかもしれない。もちろんいくらそんな事をしたところで、アクドルクが奴を許すことはないが、その従順な犬っぷりは評価していた。


 アクドルクが命じれば例え自分の部下だった男でも容赦なく殺す冷徹さも併せ持っていた男だ。そんな男が、こんなことで死ぬなどと思いたくはなかった。


 何よりあれの代わりはそうはいない。とは言え、いざという時の事は考えておくべきかもしれない。縁結びの力に頼って、従順な犬を見つけるべきだろう。


 だが、それよりもなによりも、アクドルクは今なんとかしなければいけない問題があった。


 それは――


「ルプホール様、審議官の皆様がお待ちです」

「……判ったすぐいく」


 そう、王都から派遣された審議官が遂に到着してしまった。しかし、ハラグライが持ち帰ると約束した手帳が手元にない。


 それさえ上手く細工出来れば、エルガとオパールへ確実に罪を着せることが出来た。


 だが、それがない以上、ここはやはりあの奴隷商人に敢えて持たせておいたムーンネフライトの件を上手く利用する他ないだろう。


 そんな事を思いながら歩いていると、向こうからルルーシが歩いてきた。

 出来るだけ表情には出さず、彼女に話しかける。


「おや、ルルーシではないか。一体どちらへ?」

「お姉様の下ですわお義兄様。特に問題ありませんよね?」

「それは勿論。今日は私も重要な賓客を待たせていてね。暫くそちらにつきっきりになると思うから、リリースの話し相手になってもらえると助かるよ」

「はい、それはおまかせください」

「うん、ところで、暫くセワスール殿とナリヤ殿の姿を見ていないけど、どうかしたのかな?」

「ええ、それが外出許可を頂きたいと言って城を出てから見ていなくて……あのふたりなら大丈夫だと思うのだけど、お義兄様は見ておりませんか?」


 ルルーシの質問に白々しく考えた振りをし。


「いや、覚えはないかな。ただ、それならふたりを見かけたら必ず連絡をよこすように衛兵たちには伝えておくとしよう」

「ありがとうございます。そうして頂けると助かります」


 そしてお互い立ち話も終え目的の場所へ急いだ。ただ、アクドルクに関して言えばこの話の前から城内の人間全てに二人を見たらすぐには通さず先ず自分に連絡をよこすよう伝えており、余計な邪魔だけはされないよう用心はしていた。


 そして、そんなアクドルクと別れ、リリースの部屋に向かうルルーシは――


「……ふぅ、お姉様には辛い真実かもしれないけど、でもこれは私が告げないと。そして――今日で終わりよアクドルク……」


 そう呟きつつ足を速めたのだった。






◇◆◇


「なるほど、しかしこの報告書通りだとしたなら、やはり最も怪しむべきはジュエリーストーン伯爵。それに、レイオン伯爵の関与も否定できませんな」

「そ、そんな! ちょっと待って下さい! 私はまだそれは断言すべきではないと思っております。それに、信頼できる冒険者が色々と調査に向かってくれているのです。彼もその仲間も信頼できる冒険者です。その報告がなされるまでは」

「それは、このナガレという冒険者の事かね? しかし、勝手な判断で(・・・・・・)帝国領に無断で立ち入ったとなると、後々問題になる可能性のほうが高いですぞ」

「それは、確かに私ももっとよく注意しておけばよかったと思います。ですが、彼らもふたりの為を思って! 謝罪なら私がいくらでも頭を下げますので」

「いや、この事自体はルプホール卿が頭を下げることではないでしょう。ですが途中で死亡していても自己責任、例え戻ってきてもその言い分が通るかは別の話です」

「むしろ、冒険者として問題視される可能性の方が高いかもしれません」

「そ、そんな――」


 アクドルクは肩を落とし、大きく項垂れてみせた。勿論、全て計算ずくの話しだが。


「それにしても、ルプホール卿は出来た方ですな。奴隷の売買に領地が利用されていたかもしれないというのに、そこまで信用し、庇い立てするとは」

「それはとんでもない。誤解です。庇い立てなどではなく、信用しているからこそです」

「ですが、これは正直厳しいでしょうね。勿論我々も今後調査を進めますが、十中八九グリンウッド領もマウントストム領もそして爵位も剥奪される事となるでしょう」

 

 そう、ですか、と無念そうに呟く。しかし内心ではほくそ笑んでいた。そしてここで改めてハラグライに感謝した。


 正直手帳がないことはかなり不安であったが、ハラグライは上手く報告書を纏めてくれていた。しかも一方的に糾弾する内容ではなく、ある程度はふたりが犯人である可能性だけ書き記し、それでいてところどころであのふたりが犯人に違いないと思えそうな内容を散りばめる。


 そうすることで、今報告書と資料を見ている三人の審議官の審議の目を見事に誘導させた。


 そしてだからこそ、証拠品として上げられたあの宝石が生きてくる。

 その上でアクドルクはあくまでエルガとオパールを信じていると印象づけることで、完全に自分を容疑者から外すことが出来た。


 しかもこの進め方だと、心理的に聞いている方は本当にそうか? と疑念を深める事となる。そういった細かいことが混ざり合い、結果的にふたりに罪が言い渡される確率が高くなった。

 

 正直これだけでも、ほぼ間違いなく領地はとれるとみていいだろう。


「……出来ればまだチャンスはあると信じたいですが、今回もし、グリンウッド領とマウントストム領がふたりの手から離れるという残念な結果になった場合、次期領主を決めるのはハメル侯爵になるでしょうか?」

「――ッ! 一体どこでそれを?」

「あ、いえただ一度お会いしたことがあって、その時に他の貴族の方から仕事の事をお聞きしたのです」


 審議官の一人はかなり慌てていたようだが、アクドルクの説明に得心が言ったようだ。


「全く、そのことは公にはしてはいけないというのに、口が軽い者がいて困る」

「ですが、その件は正直こちらからは何とも」

「ただ、まあ、そういうことも多いと、その程度ですかな。これ以上はご勘弁を」

「いえ、こちらこそ妙な事を聞いてしまい――」


 頭を下げてそう答えながらも、アクドルクは小躍りしたい気分になっていた。

 何せハメル侯爵は裏取引ではかなり優良なお客様だ。当然ある程度融通を聞いてもらうことも可能だろう。


「さて、それでは有力な情報も頂けましたし」

「そうですな。これだけの資料も頂けたなら十分でしょう」

「はい、そうですね、ではそろそろ」

「あ、いえいえ、折角遠路はるばるお越しいただいたのに何もせずお返しするわけには。どうでしょう? 宜しければ今宵は――」


 アクドルクがそう言いかけたときだった――扉をノックする音が響き渡り。


「あ、あのルプホール様、どうしても謁見したいというお客様が、あ、いえ困ります許可もなしに」

「まあまあ、ここは僕の顔に免じて――」


 なんだ? とアクドルクが眉をひそめたその時だった、ガチャリとドアノブが捻られ扉が開き、そして許可もなく、まず三人の男女が部屋へと入り込んできた。


「な! お前たちは!」

「どうも、お久しぶりですアクドルク卿。さて、今日はちょっとお話がありまして、誠に勝手ながら立ち入らせて頂きました」

「右に同じです」

「……以下同文だな」


 口を開け、目を見開いたアクドルクの下へとやってきたのは――セワスール、ナリヤ、ロウの三人であった……。

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