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第三七五話 ジョニーの力

「サトルはあれかい? あの三人の中で狙っている子なんているのかい?」

「え! いや、そんな、大体、俺、こんな身ですし――」


 ナガレ達と一旦別れ、ジャンヌやジョニーに連れられ目的地に向かって森を歩くサトル。

 その道程は、思った以上に気楽であった。サトルは本当にこれでいいのかな? と疑問に思ってしまうが、ジャンヌ曰く、サトルは逃げる心配がないでしょうから問題ないのです、だそうであり。


 ジョニーはジョニーで、ジャンヌがそういうならおいらに文句はないさ、といった考えである。


 勿論サトルとて、逃げ出そうなんて思いはしないが、枷もなしでここまで自由にさせられていると逆に申し訳なくもある。


 ただ、とは言え、一つだけ守るべきことはあった。それはジャンヌとジョニーに挟まれた状態を維持すること、勝手な動きは見せないこと。


 これであるが、これに関してはサトルが逃げ出さないようにと言うよりは――


「そんなことをいいながら、あのマイちゃんとは何か良さげな雰囲気だったようにおいら思うけどねぇ」

「え! そ、そんな事……」

「ほらほら、白状しちゃいなって。何も恥ずかしいことじゃないしねぇ。君ぐらいの若さなら、むしろ恋の一つや一〇や一〇〇……」

「いい加減にしなさいジョニー。サトル様が困ってるじゃない」

「おっと、愛しのお姫様にそう言われたら、これ以上はやめたほうがいいかもねぇ」

「全く――」


 そんなやりとりを見せるふたりであり、色々と聞かれるサトルも苦笑いだがしかし――その間、彼らの進行上には次々と銃弾が飛び交い、そして何かの倒れる音が鳴り響いた。


「そ、それにしてもその銃というか、ジョニーさんの腕というか、凄まじいですね。魔物が姿を見せる前に全て片付いていくなんて――」


 そう、サトルがこの挟まれた状態から外れるのを禁止されているのは、この森の危険度にある。


 あの古代迷宮の周辺であれば、何かの力が働き、よほどのことがない限り魔物も魔獣も近づいてはこないのだが、一度迷宮の範囲外にでてしまえば、この森は魔物や魔獣の巣窟と化している。


 つまり悪魔の書をなくしたサトルでは、一応心撃の長剣は持ったままとは言え、一人でこのあたりをうろつくことは自殺行為に等しい。


 だが、そんな魔物や魔獣の跋扈する森の中を、ジョニーは自ら先頭に立って平然と突き進んでいる。


「彼は早撃ちジョニーとしても有名ですからね。下手な相手は姿を見せる前には倒します」

「そういうこと――ま、今は一丁だから、効率は半分だけどねぇ」


 そういいつつ、銃口でハットを押し上げ笑う。一丁というのは、ジョニーのガンベルトにはもう一丁、回転式拳銃(リボルバー)が収められている事が理由だろう。アケチを担いているため、今は一丁しか使っていないが、普段であれば二丁拳銃の名手という事になる。


「その拳銃は、何か特別な代物なのですか?」

「うんにゃ、普通の、とはいってもおいらの大事な恋人だけどねぇ。ま、多少はカスタマイズしてるかな、見るかい?」


 そう言ってジョニーは気前よく、腰に収まっている方の拳銃を抜き、サトルに渡してくれた。


 それを受け取りしげしげと眺めるサトル。やはりサトルも男だけに、こういったものに興味があるようだ。


「どうだい?」

「え、ええ、そこまで詳しいわけじゃないですが、良い銃だなというのは判ります。綺麗ですし」


 確かにずしりとした重みのある拳銃だが、手入れが行き届いているのか、年季は感じられるが汚れは全く感じさせない。


「ありがとうございます。いい拳銃ですね」

「おや? 判ってくれるかい? いや、彼女は中々にじゃじゃ馬でねぇ――」


 どうやら銃の話になると更に喋りが止まらなくなるようで、サトルは若干笑顔を固くさせる。


 愛銃(恋人)の説明は続くが、凄いのはその間も銃弾が途切れることがないことだ。


 つまりサトルと話しながらもしっかり障害は片付けていっている。

 しかし同時に驚いたのは、全く弾切れを起こしている様子が感じられないことだ。


 いや、リボルダーのシリンダーの弾丸は間違いなく減っているし、装弾もその都度しているようだが、ベルトの中にある弾丸がなくならないのだ。


「おいらの弾丸は、この通常弾に限り、決して尽きることはないのさ」


 すると、サトルの視線に気がついたのか、ジョニーがその疑問の回答を示す。


 通常弾に限りというフレーズに疑問が湧いたが、その理由もすぐに判った。

 ガンベルトにはよく見ると、正面には左右に六発ずつ弾丸を収めておける作りになっている。

 そしてそれとは別に後ろ側にも同じように六発ずつ弾丸を収めておく場所があった。


 今ジョニーが弾丸を込めなおしているのは正面のベルトの弾丸であるため、これが通常弾ではないかと推測できる。


 つまりベルトのこの部分の弾丸だけは尽きることがないという事なのだろう。


「おっと、ちょっとストップだね」


 そういいながら弾丸を込め直すジョニー。その手捌きも人間業ではない。何せ瞬時にベルトから六発の弾丸を取り出し、シリンダーから空になった薬莢を抜き出しつつ、六発の弾丸をシリンダーの形にあわせるように掌に並べ、一発で装弾してしまうのである。


 通常はそれ用の道具なんかを使うのではないか? と過去に見た映画や漫画を思い浮かべながら考えるサトルだが、ジョニーは道具なしにまるで息を吸う用に一度で弾込めを終わらせてしまう。


 ただ、気になったのはかなり入れ替えるのが速かったのは確かだが、後ろの弾丸も何発か混じっている気がしたことだ。


 そして、ジョニーが弾丸の交換を終えるのとほぼ同時に、何かがジョニーの正面に落ちてきた。


「おや? ディモルソドスですか」

「そ、このあたりじゃ珍しい魔獣だよねぇ」


 魔獣――と繰り返し、サトルがその遺体を見る。楕円形のような頭は嘴と一体化しているようでもあり、まん丸な目玉は比較的小さい。


 全長は一メートル程度とそこまで大きくはないが、翼開長はその倍ぐらいはありそうだ。


 特徴的なのはその翼で、表面が刃のように鋭い。この翼で獲物を狙うタイプの魔獣かも知れないが。


「この魔獣は、翼を見ればなんとなくそれで攻撃してくるのは判ると思うけどねぇ、厄介なのは翼が層になっていて飛ばしてくる事なのさぁ。切れ味も鋭いし、飛んでくるスピードも速いしで初見だと結構厄介かもねぇ。推定レベルは142ってところかなぁ」

「142……」


 呟くサトルだが、このあたりの魔物では中々のレベルと言えるだろう。

 ナガレと行動を共にしていると感覚が麻痺しそうになるが、実際魔物や魔獣のLVは100を超えた時点でかなりの脅威だ。


 何せゴブリンの変異種であるグレイトゴブリンでさえそのレベルは40。にも関わらず小さな町なら壊滅の危機に陥るほどなのである。


 しかし、冷静に考えればこの森はそのクラスの魔物も中々多い。

 サトルもアケチとの戦いを通してレベルは100を超えるぐらいまでは成長し、異能の覚にも目覚めた。


 しかし異能にしても完全に使いこなしてるとはいいがたい状況であり、そう考えるとこのレベルの魔獣が跋扈するこの森は十分に脅威だ。


 悪魔の書もない以上、ここはふたりから逸れるわけにはいかないだろう。


「この魔獣は肉が結構美味しくてねぇ、サトルもいることだし、食材としては丁度いいかもねぇ」

「ええ、そうですね。歓迎会みたいで良いかもしれません」

「え? あ、いや歓迎会というのは――」


 ぎこちない笑顔を浮かべるサトルである。罪人として連行されているというのに、このふたりは全くそんな雰囲気を感じさせない。


「よし、解体終わりっと」

「え! もう!?」


 そしてそんな事を思っている間に、ジョニーは一旦アケチをその辺において拳銃とは別に所持していたナイフを使い、見事に解体してしまった。まさに目にも留まらぬ早業でだ。


 この男、速いのは銃を撃つ腕だけではないらしい。

 

 ただ、気になるのは――


「でも、これどうやって持っていくんですか?」


 サトルがつい尋ねる。ふたりの格好を見るに、どうみても背嚢や鞄の類を持っているようには思えない。


 この世界には魔法の鞄や魔法の袋といった便利な魔導具が存在するが、そのようなものも身につけていないわけだが――


「心配ご無用、【収納弾】――」


 そう口にし、ジョニーが解体した魔獣に向けて銃を撃った。 

 何事かと一瞬驚いたサトルだが、その直後の現象に二度驚く事になる。


 なぜなら、今の今まで存在した解体した魔獣のソレが、瞬時に消え失せたからだ。


「驚いたかい? ちなみに今の魔獣の肉なんかは全て、この弾丸に入っているのさぁ」

 

 そういいながら、ジョニーはシリンダーから一発弾丸を抜いた。


 よく見ると、先ほど見せてもらった拳銃に込められていた弾丸と色が違う。サトルが見た弾丸はいかにも拳銃の弾丸といった真鍮色豊かなものであったが、銀色に近い。


「収納弾――普通の弾丸とは違うのですか?」

「そうだねぇ、この弾丸はいわゆる魔導弾で、おいらの知り合いに特別に作ってもらっているのさぁ。魔導弾は種類によって効果も違ってね。この収納弾は文字通り、弾丸の中の倉庫みたいな空間に撃ったものをしまって置けるのさぁ。ちなみに出す時は、逆に出したいものを念じながら撃てばオッケーなのさ」


 片目を閉じながらそう答える。話を聞くに、どうやら魔法の鞄や袋を弾丸化したものと考えたほうが良さそうだ。


「その弾丸も、無限に撃てるのですか?」

「No、残念だけどねぇ、それは通常弾専用。魔導弾は使えば減るから、その都度補充は必要だねぇ。尤もこの収納弾は使い回しが可能だけどねぇ」


 そういってニコリと微笑んだ。それで合点がいくサトルでもある。先程ベルトの後ろ側から取り出したと思われたのはきっとこの魔導弾なのだろう。


 同時に、それを聞いたサトルは、そんな便利な物があるならアケチを入れて持っていけば楽じゃないかと? と思ったりもしたが、どうやら生きている物は収納出来ないらしい。


 このあたりは魔法の袋や鞄と一緒なようだ。


「ジョニー、折角ですから少し楽をさせてもらってもいいですか? 彼らもあまり待たせると、特にエグゼはうるさそうですから」

「う~ん、確かにねぇ。それじゃあサトル、ちょっと君を撃つからねぇ」


 へ? とサトルが間の抜けた声を発するが、間髪入れずに宣言通りジョニーがサトルを撃ち抜いた。


 うわっ! と驚き、倒れそうになるサトルだが――すぐに全く怪我がないことに気がつく。


 あれ? と自分の身体をまさぐるが。


「ははっ、ゴメンゴメン、今撃ったのは加速弾さぁ、それでサトルもかなり脚が速くなった筈だし、しっかりついてきてくれよ」


 そういった直後、ジョニーが走る速度を上げた。まるで風のようであり、一瞬焦るサトルであったが、ジョニーの言っていた通り、走り始めてすぐサトルはその変化に気がつく。


(凄い――まるで自分の脚じゃないみたいだ……)


 速度で言えば普通に七、八〇キロは出ているだろう。悪魔の力を使っていない状態でこの速度は、中々に感動的でもあるサトルであり――同時に、加速の力を借りることなく、この速度を余裕の体で保っているジョニーとジャンヌの実力はやはり桁違いなんだなと改めて思い知るのであった。

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