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第三七四話 今後のこと

「……何か、急に静かになってしまったね」

「そうね、サトルくんも行ってしまったし」

「騎士さんたちも、戻ってしまいましたからね……」


 マイが呟き、メグミとアイカも少し寂しそうに口にする。

 

 すると、ピーチが、あれ? と首をキョロキョロさせ。


「ナガレ、どこいったのかしら?」

「あ、本当だ先生が! ま、まさか! 先生も旅に!」

「私はここですよ」


 ピーチが首を傾げ、フレムが慌てだすが、するとパッカパッカと馬の蹄を鳴り響かせながら、いつの間にか姿を消していたナガレが戻ってきた。


 そんな彼は、美しい毛並みの白馬に跨っており、しかもその馬の額には角が一本生えていた。


「え! 嘘、これってユニコーン?」

「……そういえば途中で見た」

「て! ビッチェさんも馬!?」


 どうやらビッチェはビッチェで愛馬を連れて戻ってきたようである。

 そんな彼女の乗る馬は額から角が二本生えたバイコーンだ。


『そういえばユニーがいたであったな』

「忘れては駄目ですよ」


 ちなみにナガレは迷宮にいる時に、もし自分に何かあったらユニコーンのユニーの事をお願いしますとサトルに頼まれていた。


 サトルはその時から一旦別れが来ることを予想していたのかもしれない。


「……このユニコーンは途中で見た」

「ええ、サトルが、誰かに見つからないように隠していましたが、流石ビッチェは気が付きましたか」

「え? サトルがこれ乗っていたの? でもユニコーンって……」

「ま、まさか! サトルってば女の子だったの!?」


 ピーチが驚いた。

 ええ! とローザも驚いた。

 だが、あっさりナガレが否定した。


「いえ、このユニコーンはかなり珍しいようですが、メスのユニコーンのようなのですよ」

「あ、そうか! それでナガレも乗れてるのね!」

「……どうりでバイコーンが興奮している」


 どうやら牡のバイコーンは牝のユニコーンに首ったけのようだ。


 だが、どんなにアプローチしてもユニーは全く相手にしてる様子がない。完全に袖にしている。罪なユニコーンである。


『まあ、ユニーはサトルになついてしまっているからな。それにしても、そのユニーをよく手懐けられたものだな』


 ふふっ、とナガレが微笑して返す。

 そして、ユニーは女性に対してもそこまで厳しくないため、マイやメグミ、アイカ、ピーチやローザは気持ちよさそうにその毛を撫でていた。


 寂しそうにしていたバイコーンもだ。


 ただし何故かカイルとフレムはユニーには蹴り飛ばされたが。


「でもナガレ、この後どうするの?」


 一頻りユニコーンやバイコーンを愛で終えたところでピーチが尋ねる。


「そうですね。いずれ帝国の件で色々と進展があると思いますが、折角ですから私達は暫くこの場に留まりますか」

「え? ここに残るの?」


 マイが不思議そうに尋ねる。正直現状はマイやメグミ、アイカもナガレ達と行動を共にするしかない状態だが、まさかここに残ることになるとは思わなかったのだろう。


「はい、折角フレムもやる気になっていた事ですし、それにマイさん、メグミさん、アイカさんも含めて、この世界で過ごすには更に力を使いこなせた方がいいでしょう」


 そこまで口にし。


「特にマイさんの役作りは今後のためにも育てる必要があるスキルです。そういう意味でここは修行にぴったりですからね」

「へ? ここが修行にぴったり?」


 ピーチが目を丸くさせた。

 森のなかで修行するのか? とそんな事を考えているのかもしれないが。


「はい、お忘れですか? ここには今まさに出てきたばかりではありますが、ぴったりの修行場があるではありませんか」

「そ、それってもしかして……」

「この古代迷宮を、また攻略するのですか?」

 

 カイルが不安そうにし、ローザもナガレに尋ねる。

  

 確かに今出てきたばかりで、まさかまた潜ることになるとは思わなかったのだろうが。


「最初は色々と急ぎの用件もありましたから、結局完全に攻略したとはいえないですからね。アケチもエクスカリバーを手に入れただけで戻ってきてしまったようですし」

「それはつまり、アケチでもまだ未攻略の部分が残っているって事ですか先生?」

「そうなりますね」

「おお! 俺は俄然やる気が出てきたぜーーーー!」


 どうやらフレムは興味津々のようだ。


「……ナガレは流石、抜かりがない」

「それ、私も行くのよね? だ、大丈夫かな?」

『何を言っておるのだ! これは好機であるぞ主よ!』


 メグミはどこか不安そうであったが、そこへ久しぶりにエクスカリバーの声が届く。


「あ、そういえば喋れたんだったよね」

『ひど! 酷すぎであろう!』

『ふん、聖剣の癖に陰が薄いのが悪い』

『黙れ黙れ黙れ! ふん、何の風の吹き回しか知らんが、少しぐらい人間を庇おうとしたぐらいで偉そうにしおって。我はその場の雰囲気を読んで敢えて発言しなかったのだ! それぐらいの察しの良さは持ち合わせておるわ』

『単に輪に入り込めなかっただけであろう』

『ぐぬぬぬぬっ!』


 聖剣さんは悔しそうである。


『ところでナガレよ、我からも一つ頼みがある』

「頼みですか?」


 ナガレが問い返すと悪魔の書が、うむ、とうなり、その途端、ナガレが手にした悪魔の書が光り輝き――そして中からなんと、二体の悪魔が姿を見せた。


『我も驚いたのだが、ヘラドンナとキャスパリーグがどうしても出たいときかなくてな』


 そして悪魔の書が説明する。その念の通り、現れたの緑の肌を有し蠱惑的な美女悪魔ヘラドンナ、そして何故かその肩には人形のような容姿をした黒猫型の悪魔キャスパリーグが乗っていた。


「……やっと出てくる事が出来ました」

『キヒヒヒヒヒヒッ』


 そんな二体の悪魔に目を瞬かせるマイであり。


「確か、サトルくんと一緒にいた悪魔よね? でも、どうして?」

「それは……ナガレ様を見極めるためです」

「へ? ナガレを?」

「先生を見極めるとは生意気な悪魔だぜ!」

「まあまあ、ほら何か綺麗だし、それにエッチな感じだし、こういう悪魔ならおいらだって大歓迎だよ!」

「……カイル――」


 何かとても残念な物をみるような目を向けるローザであるが。


「私は、正直ナガレ様には疑念を抱いております。ですが、最終的にはサトル様が信じたお相手でもあります。本当は、サトル様が連れて行かれるのを止めなかった時点で――憎くて仕方ありませんが!」


 突如ナガレの足下が、その地面がボコッと盛り上がり、そこから植物の蔦が伸びナガレを雁字搦めにした上、鋭利な杭状の枝がナガレの全身に突きつけられた。


 ヘラドンナがほんの少しでも操作すれば、一瞬にしてナガレを串刺しにしようと動き出そうな気配。


 フレムが、先生! と慌てて双剣を抜こうとするが、しかしそれはナガレが目で制し、まるで何事もなかったかのように穏やかな顔をヘラドンナに向けた。


「……本当に、張り合いのない御方ですね貴方は」


 そして、雁字搦めにしていた蔦も、突きつけられた枝も、瞬時にもとに戻る。


「危害を加えようという気配は感じられませんでしたからね」

「……それも今だけですよ。サトル様の事は少しだけ待ちますが、納得の出来ない結果であれば、貴方を殺しますし、何があっても私が救い出します」


 そう宣言するヘラドンナ。中々物騒な事だが、サトルを想う気持ちは本物なようだ。


「でも、サトルくんの味方なら私達の味方ではあるわね。よろしくねヘラドンナさん」


 すると、マイが彼女に近づき、手を差し伸べた。しかしヘラドンナはそれをじっと見た後、ぷいっと顔を背ける。


「え! な、なんでぇ……」


 うなだれるマイだが。


「貴方には、私よりこの子が会いたがってましたから、あげます」

「へ?」


 顔を上げたマイの肩に、ピョンっと乗っかったのはキャスパリーグであった。


「え、え~と会いたがっていた? この子が?」

『――ネェ、可愛い? 可愛い?』


 すると、キャスパリーグがマイにそんな事を聞いてくる。

 すると、その姿に――マイはむずむずとした様子であり、そして。


「キャー! 可愛い!」


 そして思いっきり抱きしめてモフモフした。キャスパリーグは、キヒヒヒヒッ、と笑い嬉しそうである。


 どうも本来触れることの出来ないこの悪魔も、思いの強さからなのか具現化してしまったようである。


「どうやら、その悪魔は以前マイさんから可愛いと称された事が忘れられなかったようですね」


 確かにサトル戦の時、そのような事を言ってはいたが、かなり何気ない一言だった筈だ。

 しかしそれでもキャスパリーグには嬉しかったのだろう。


 そしてキャスパリーグはくるりとナガレの方を見やり。


『キャスパリーグはマイが好き、そして、お前も好き』

「ありがとうございます」


 意外にも、わりと普通に喋りだした悪魔へ、ナガレが素直にお礼を述べる。


 ナガレに関してはキャスパリーグでさえも呪うのは無理と言わしめた程の男だけに、懐柔されたような雰囲気さえ感じさせるが。


 とは言え、こうして新たに悪魔二体も加わり、今後の方針が定まった。とりあえず帝国の件が落ち着くまでにこの英雄の城塁(キャッスルヒロイック)の攻略だ。


 勝手にそんな事をしていいのかと言ったところだが、ここでナガレのFランクが役に立つ。そうFランクのナガレであれば当然迷宮攻略も自由、そのナガレが認めた仲間たちもそれに準ずる形で攻略が可能だ。


 とは言え、流石に今すぐは疲労もあるだろうという事で――一日は野宿ではあるが、身体を休め、明朝から攻略に望むという形で話は決まったのであったが……。





 その日の夜、英雄の城塁(キャッスルヒロイック)の城が正面に見える位置で、カイルは一人星空を眺めていた。


 次の日のためにと夕食を摂った後は皆が身体を休めるために眠っている。

 尤もフレムとピーチはその前にナガレに修行をつけてもらっていたようであり、フレムに関して言えば事前の宣言通り以前より遥かにキツい修行のため、半死半生といった様子であったが。


 しかしそれだけによく眠れてはいるようだ。


「みんな、頑張っているんだよね……」

 

 ふとそんな事を呟く。空一面に広がる満天の星を眺めながら。


「眠れませんか?」


 ふと、背中に届く温和な声。

 振り返るとそこにはナガレがいた。


「ナガレっちも起きていたんだね~」

「はい、私も少し、身体を動かしていたところなので」


 少しね、とカイルは苦笑する。汗などかいている様子は感じられないが、それでも常人では考えられないほどの修行を日々重ねているのはよく判る。

  

 何せ見た目には一五歳のこの少年が、これまで散々伝説級の偉業を成し遂げてきたのだ。


 それほどまでの強さを手に入れるために、一体どれほどの修練を詰んできたというのか、カイルには全く想像もつかない。


「本当にナガレっちは凄いな~それにフレムっちやピーチちゃんも皆強くなっているし、それに比べて、おいらは……」


 どこか寂しそうにカイルが呟く。フレムやピーチがサトルの使役した悪魔を打ち倒したことは聞いて知っていった。


 一方自分はと言えば――危なくアイカやローザを危険な目に合わせるところだった。ビッチェの助けがあったからこそ事なきを得たが――飄々としているようで、実は意外と精神的に来ているのである。


「――明日からの迷宮攻略、おいらもついていって大丈夫なのかな……正直自信ないよ。皆の足手まといになるんじゃないかなって」


 諦めにも似た表情でそう述べる。普段は軽い感じの彼だが、彼なりに抱えているものがあったのだろう。


 フレムやローザと長らく冒険者として、仲間として過ごしてきたのだ。二人のためにも役立ちたい、足手まといにはなりたくない、そんな思いはきっと人一倍強いのかもしれない。


 だからこそ、悩む――


「……カイルは、限界というのはどういった時に訪れるとお考えですか?」


 そんなカイルに、ふとナガレが問いかける。

 え? とカイルがナガレをみやり、そしてその目を伏せ答えた。


「……ステータスとかレベルとか、それが全く伸びなくなった時かな。今のおいらがまさにその状態かも」


 自虐的に笑う。だが、ナガレは真剣な瞳でそれを受け止め。


「――私は、己自身が、これ以上は無理だと限界を決めてしまった時、それが訪れると考えております」

「……え?」

「カイルの今言っていた事は、ステータスが当たり前に見られるこの世界ではよく起こることのようです。ですが、そこで足を止めていては、それ以上の成長は決して望めません」

「……今のおいらがそうってこと?」

「――今のカイルは一つの壁に突き当たっている状態とも言えるでしょう。それを乗り越えられるかどうかは貴方次第、ですが――それは貴方だけではない誰もが通る道、そして多くの偉業を成し遂げた至尊はその壁を乗り越えることでより高みへと達しております」


 ナガレの話を聞き――おいら次第、とカイルが呟き。


「……ナガレっちにもそういうことがあるのかな?」


 ふとそんな事を尋ねた、するとナガレは頷き。


「勿論私にもありますよ。私だって人間ですから」

「え? あ、うん、そう、なのかな?」


 カイルは腕を組み小首をかしげた。

 確かにナガレは全体的に見れば人とは違う何かにも思えるかもしれないが、しかしそれでも人の子なのである。


「でも――正直おいらこれ以上どうしていいか判らなくて。勿論、弓の腕は磨こうと練習は積んでいるけどね」

「そうですね、カイルも陰ながら弓の練習をつづけておりましたから」

「はは、流石ナガレっちにはバレてたんだね」


 顎を掻きつつカイルが苦笑する。


「……そうですね、ここは一つ考え方を変えてみるのもいいかもしれません」

「え? 考え方?」

「はい、弓はカイルの得意武器ですから当然捨てるわけにはいきませんが、弓の腕を上げる以外にも一つの道を考えてみるのです。例えばカイルは、ステータスの中でもまだ活かしきれていないものがあるはずです。そこからもう一度見直してみるのもいいかもしれません」

「ステータスの中で……活かしきれていないもの――」

「それと、カイルは星が好きなようですね」

「あ、うん。何か星空を眺めていると、心が洗われるような気がしてねぇ。それにいつもは満天の星空を眺めていると、小さな事でくよくよしていても全部ふっとんじゃうんだけどね」


 いつもは、と敢えて言ったのは今回はそれも上手くいかなかったという事なのだろう。


「そうですか、それならば今度は心をまっさらにして星を眺め続けるのもいいかもしれません。意外とそういうところにも自分を変える切っ掛けというのは眠っているものです」

「星を眺める……う~ん、判ったような、判らないような、でも、ちょっと楽になれたよ。そうだね、おいらもやれるところから頑張らないと」


 そういって見せた笑顔には、いつもの明るいカイルの笑顔が戻っていた。


 そしてナガレは再び鍛錬の為に森の奥へと入っていき、カイルはまだやるんだ、と苦笑しつつも星を眺めた。


 ナガレの言うように、まっさらな気持ちで――星を眺める。


 その内に――あれ? と目をパチクリさせ。


「――なんだろう今、何か、それに、おいらが活かしきれてないステータスって、もしかして……」


 そして、カイルは弓を構え、天に向かって矢を放つ。それを何度か繰り返し続けるカイルは、何かが掴めそうで、掴みきれないような、そんな表情を見せていた――

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