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第三六七話 ナガレVSジャンヌ

 ナガレに興味を持ったというジャンヌが手合わせを願い出た。

 それを耳にし、ナガレは顎に指を添え一考した後、そうですね、と答え。


「私も、NoⅡである貴方の力に興味が出てまいりました。判りました、こちらこそお願い致します」


 かくして二人の同意を持って、ちょっとした勝負が執り行わえる事となる。


 そして、ナガレとジャンヌは数メートル程の間隔を取り、互いに向かい合う。


「やはり、ビッチェの報告にあったようにナガレ様は無手なのですね」


 自然体で相対するナガレを見やりジャンヌが興味深そうに述べる。

 そんな彼女は腰からレイピアを抜き、右手で構えてみせた。


 半身の姿勢で、片足を引き、左手は腰のあたりに添えられている。


「手入れの行き届いたレイピアですね。材質にもかなり拘っているようですが、大切に扱っているのがひしひしと伝わってきます。扱う武器を大事にされる御方はその時点で好感が持てますね」

「ふふっ、ありがとうございます」


 笑顔を返しつつ、すぐに表情を引き締めた。彼女の持つレイピアはたしかに鋭そうだが、ただ硬いだけの金属というわけではなく、靭やかさにも長けたものだ。


 それ故か刃にもある程度のたわみが感じられる。両刃の剣ではあるが、刃そのものは細長く、先端部分が特に鋭そうな事から、明らかに刺突に特化した剣であると言えるだろう。


 鍔の部分は握りの部分がすっぽり覆えるような丸みを帯びた護拳仕様となっており、相手の攻撃をガードしたり受け流しやすくなっているようだ。


 刃渡りは七〇センチメートルといったところであろうが、身長はナガレよりジャンヌの方が高く、当然無手のナガレと比べればリーチは圧倒的に勝る。


 こうして全員が固唾を呑んで見守る中――


「ナガレ様は、確か自分から仕掛けるタイプではないのですよね?」

「状況にもよりますが、基本的には後手から入ることが多いですね」

「そうですか、では――」


 ナガレが応じ、ジャンヌは得心を示し――その瞬間、ナガレの目の前に彼女の姿があった。


「遠慮なく、先手で行かせてもらいます」


 鋭い刺突、しかも数え切れないほどの量の攻撃が纏まり、しかもたわみを活かした剣筋は一つ一つが微妙に軌道を変えナガレに噛み付いた。


 しかし――


「――ッ!?」

「初手からこれでは、私も気が抜けませんね」


 攻撃は一つたりとも当たることなく、ジャンヌの身は知らず知らずの内に、ナガレの腋をすり抜けていた。勿論これは、ナガレが完全に剣の軌道を読み、その全てを逸しつつ、至極自然な形でジャンヌを後ろに流したに過ぎないが。


 ただ、ナガレの言葉にも嘘はない。少なくとも、この時点でアケチ相手よりは遥かにナガレも力を使っている。


「流石にやりますね――」


 しかも、ジャンヌは一瞬は面を食らったものの、直ぐ様頭を切り替え、かと思えば無数のジャンヌが突如、ナガレを囲みだした。


「え! 嘘何あれ!?」

「な、何人にも分身しやがった!」

「すごいや! 一人ぐらいおつきあいしてくれないかな!」

「カイル……貴方って本当に――」

 

 その光景に驚くピーチとフレム。だが、カイルだけ思考が斜め上を行っていた。ローザも呆れ顔だが。


「……あれは、お姉様のフェイント」

「え? フェイント? あれが、嘘みたい――」


 ビッチェの言葉に反応し驚嘆したのはメグミだった。やはり同じ剣の使い手として琴線に触れる部分もあったのだろう。


「……お姉様のフェイントは天下一品、しかもフェイントと攻撃のモーションにまるで違いがなく、乗せる闘気も一緒。普通なら絶対に惑わされる」


 そう評するビッチェ。確かに残像のように現れた無数のジャンヌが放つ攻撃は、どれも実際にナガレを狙った本気の一撃にしか思えないものだ。


 だが、ビッチェが言う普通には、当然ナガレは入っていなかったのだろう。


 なぜならナガレは、フェイントの攻撃には一切手を付けず、その為、無数の攻撃の多くはナガレをすり抜けていってしまっているのだ。


 まさに、その不動の精神たるや明鏡止水の如く。


 そしてそれらの多くのフェイントがナガレをすり抜ける中――くるんっとナガレが体の向きを変えると、そこには目を丸くさせたジャンヌの姿。


 そう、彼女こそが無数の残像の中で唯一の正解であった。


 かと思えば、パンッ! と空気の弾けた音が奏でられ、ジャンヌの細身が宙を舞った。


 だが、そこからジャンヌは軽やかに反転し、ふわりと綿雪の如く優雅さで地面に降り立つ。


「……素晴らしいですわナガレ様。まさかここまでとは思いませんでした」

「私もですよ。貴方のような方に出会えるとは、やはり世界は広いですね」


 ナガレは軽く瞑目し、そう告げた後、再びまぶたを開き。


「――この世界に来てからは、とあるエルフの女性が、私を最も熱くさせてくれた相手でしたが、彼女には悪いですが、今ので完全に覆りました」


 そう言ってみせたナガレの反応に、ふたりの勝負を見守っていたピーチが驚く。


「それってエルマールよね? あのアケチでもエルマール以下と言っていたぐらいなのに、それ以上って……」

「驚いたな、あのジャンヌは、本当にこんなに強かったのか……」

 

 フレムも、あまりの事にどこか呆然としている様子ですらある。フレムは直接ナガレとエルマールの戦いは見ていないが、話には聞いていた。


 その上、今目の前で繰り広げられている戦いは別な意味でアケチ戦とは比べ物にならない程であり、流石に彼もその強さを認めざるを得ないといったところなのだろう。


「……今更気づくなんて愚か。私が敬愛するお姉様、強いに決まっている」

「じゃ、じゃあビッチェはナガレとジャンヌだとどっちが勝つと思うの?」


 え!? と目を丸くさせ、突如口ごもり、あわあわしだすビッチェである。


「……何か今日のビッチェ可愛いわね」

「じ、実は私もいつもと違う一面にキュンキュンくるものがあります」

「うん、初な処女みたいで可愛いよね、痛いィィィい!」


 ビッチェの刃が飛んだ。カイルが悲鳴を上げて蹲る。しかし意外と彼も丈夫である。


 むしろピーチ、ローザ、ビッチェの蔑んだような視線を受けて嬉しそうにしているあたり、ただものではない何かを感じさせる。


「……正直、お姉様もナガレも、負けるところなんて見たくない。ただ、お姉様はまだ、アレをみせていない」

「へ? アレ?」


 気を取り直して語られた、ビッチェの意味深なセリフに目を丸くさせるピーチである。

 すると――


「そのエルフというのは、もしかしたらバール王国のエルマール様の事ではありませんか?」

「――やはり知っておりましたか」

「ええ、戦闘民族のエルフはあの方ぐらいのものですから。彼女と比べて頂けるとは光栄です。ですが、そこまで言って頂けるなら、私も出し惜しみしている場合ではありませんね」


 その言葉に、まさか、とビッチェが反応した。


 その様子に、彼女の言っていたアレというのが、まさに今繰り出されようとしているのか、と、そんな面持ちで状況を見やるピーチだが――


「では、行きます!」

 

 そして、再びジャンヌがナガレに迫る。が、その瞬間だった、一瞬ジャンヌの姿が消え――かと思えばナガレの背後に彼女の姿が。


 そして逆の正面には……端正な顔立ちの、まるでどこぞの高貴な王子様のような美丈夫が立っていたのであった――

おまけ

その頃のエルマール

「何か、今何か妾の存在を脅かすとんでもない者が現れたような気がしたのじゃ!」

「え~そんなん気のせいやないでっか? それよりもエルマール様~抱きまくらにさせてくらはい~もう辛抱たまらんのやー!」

「え~い、放すのじゃ~こんなことしている場合ではないのじゃ~!」

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