第三六五話 ナンバーズ
ナガレ達の前に現れた謎の美女は、なんとフランスからの転生者であった。
しかもSランク特級冒険者の中でも一三人だけに与えられるという特別なナンバーズの称号持ちであり、彼女はその中のNoⅡだという。
「うふふ、何か改めて紹介されると照れますね」
だが、ジャンヌの見せた表情はどこかのほほんっとした緊張感に欠けるものであった。
彼女の正体にどこか驚いた様子(ナガレ以外)の一行であったが、その様相に毒気を抜かれたような顔を見せる。
「いや、綺麗な姉ちゃんだとは思うけど、あんた本当にそんなに強いのか?」
「……お前は本当に失礼、もぐぞ――」
フレムを睨みつけビッチェは背中の柄に手を掛けようとする。だが、まあまあ、と当の本人であるジャンヌが宥めた。
「実際NoⅡといっても、私などたまたま運が良かっただけですから」
「……そんなことはない。そもそもNoⅡとはいっても、女性の中で言えばこの世界で一番強い冒険者はお姉様、私の、あ、憧れ――」
同性相手にここまではっきりと態度で示したのは初めてかもしれないと、ピーチは思った事だろう。
しかもナガレに対するものと違う形で彼女を敬愛しているようでもある。
「でも、ビッチェだって同じナンバーズなのですから、そろそろ私も追い抜かれるかもしれませんね」
「え!?」
「び、ビッチェさんも、ナンバーズ?」
ポロッとこぼれ落ちたジャンヌの一言にピーチとローザが驚いた。
すると、あううぅう、とビッチェが褐色の肌を赤くさせて、あわあわしだす。
「……お、お姉様、そ、それは――」
「あら? 照れることないじゃありませんか。本当の事ですし」
「……で、でもでも――」
ビッチェの表情が崩れていた。かなり弱っている様子だ。あまり表情に変化がないビッチェがこれだ。そうとう貴重なシーンを見ているのは間違いがないだろう。
「う~ん、でもビッチェちゃんの強さなら納得かな~」
「ええ、そうですね。素晴らしいことだと思いますよビッチェ」
ナガレが優しく微笑みかけると、潤んだ瞳をビッチェが向け、……でもでも、と俯きながら答えた。
「……私はまだ、XIII――」
「なんだXIIIってことは一番下か」
「もうフレムの馬鹿! それでも十分凄いじゃない!」
「お、おう、ま、まあそうか――」
フレムが思わずこぼすが、ローザの剣幕にたじろぎ言い直した。
流石に今回ばかりは空気が読めていな発言だったことを察したようである。
「あ~でも、よく考えたら意外かもね」
すると、ピーチがまじまじとビッチェ眺めながらそれを告げる。
するとビッチェが目線を上げ。
「……判ってる、私じゃ、どう考えても、力不足」
「え!? いや、いやいやそうじゃなくて! 確かに最初はびっくりしたけど、よく考えたらビッチェの実力でもXIIIというのが意外に思えちゃって。もっと上でもおかしくないじゃない」
すると、ふふっ、とジャンヌが微笑み、ビッチェの横に並んだ。
「ビッチェは、いい仲間と出会えたようですね。以前はあまり他の冒険者にも心を開かなかったから、本当の妹のように思っている私は少し心配だったのですが」
優しく頭を撫でながらジャンヌが語る。その様相はまるで聖母のごとくであり、ただの冒険者以上の関係を感じさせた。
ビッチェも目を逸らし、照れくさそうにしている。
「ですが、確かにその話も判ります。私も正直驚いているのですよ。ビッチェってば、以前よりこんなに強くなっているなんて、これこそが愛のなせるパワーなのね!」
ビッチェの両手を掴み、目をキラキラさせてジャンヌが言った。
それにビクッと肩を震わせ、目を白黒させるビッチェである。
「――愛ねぇ……」
「ははは、一体相手は誰なんだろうねぇ」
「カイルってば、判ってるくせに」
「うぅうう、私だって、私だって!」
フレムがどこか面白くなさそうに呟き、カイルのボケにローザが突っ込んだ。
そして一人悔しがるピーチである。
「ふむ、しかしビッチェにここまで愛を向けられる方は幸せですね」
そしてナガレのこの発言である。その様子を見ていたサトル、マイ、メグミ、アイカの四人ですら、えぇ~……といった表情を見せた。
「どちらにしても、今のビッチェの能力であれば、評価は変わってくるでしょう。私の見立てになりますが、NoⅨにはもしかしたら食い込めるかもしれません」
「え! それでもⅨなの!?」
ピーチが驚きの声を上げる。彼女としてはもっと上にいってもおかしくないと思ったのかもしれないが。
「そうですね、確かにビッチェも強くなりましたが、同時に当然他のナンバーズも強くなっています。それに、ナンバーズのメンバーは中々曲者揃いでして、単純なレベルやステータスだけでは計り知れない事も多いのですよ。だからこそ、経験は勿論レベルやステータス以外の+αが求められるのです」
「な、なんか凄い世界なんだね~」
「あ、頭が沸騰しちゃうよ~」
「ふん、面白いじゃんか。俺はむしろそれを聞いて燃えてきたぜ!」
「何あんた、ナンバーズでも目指す気なの?」
「……お前じゃ無理」
「はあ!?」
それぞれが思い思いの事を口にする中、一旦話が落ち着いたところでサトルがジャンヌに声を掛けた。
「あの、ところで、その、地球の他の国からの転生者とか、そういった方は多いのですか?」
「あ、それは私も気になったかも。何かイメージだと日本人が多い気がしてたから」
サトルが問いかけ、マイもそれに乗っかる形で話に加わった。
他のふたりもそこは気になっている様子ではあり。
「はい、そうですね。確かに比率で言えば日本人が多いようなのですが、でも各国の方もこちらに来ていたりしますよ。例えば今私がいるナンバーズにも他国の方は多いです」
え!? とサトルを含めた四人が驚いた。
「そうですね、名前などは現時点ではあかせませんが、先ずナンバーズでNoⅠの称号を有しているのは、ナガレ様や皆さまと同じ日本人です。そしてNoⅢは中国人で、NoⅤとNoⅦがアメリカ人、NoⅥとNoⅨがロシア人ですね」
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待てよ!」
すると、突如フレムが驚嘆し、声を上げた。
「い、今のは全員、先生と同じ世界からきている連中なのか?」
「はい、そうですね。皆さん同じ地球人です」
「だ、だとしたら、そのナンバーズには、この世界の冒険者より、その地球人とやらの方が多いって事かよ!」
フレムが苦みばしった顔で声を張り上げる。
改めて、ピーチやローザ、カイルも数え直すが……。
「あ、本当だ、その地球人というのは七人いて――」
「わ、私達と同じ生まれの方は六人しかいないことになりますね――」
「あはは、しかも上位三名は全員、その地球人って事になるよね~」
驚愕の事実に愕然となるフレムである。こんなことがあっていいのか、という思いもあることだろう。
「ですが、NoⅣはこちらの世界の冒険者ですよ」
「何の慰めにもならねぇよ!」
フレムが吠えた。
「でも確かにNoⅣって、四天王の中で最弱とか言われる微妙なポジションよね」
「ちょ! マイさんそれは――」
顎に指を添え、何気につぶやいたマイにサトルが慌てた。何も今言うことではないだろうと思ったのかもしれない。
「ですが、正直このNoに関してはNoⅠを除けば、いつどう入れ替わってもおかしくないというのはあると思いますよ。私もそこまで自信があるわけではありませんので」
「……お姉様、謙遜が過ぎる」
ビッチェがはっきりという。この様子だと少なくともビッチェより強いのは間違いがないだろう。
「ですが、それだとNoⅠだけは不動なのですね。そこまでその御方は凄いのですか?」
そこへメグミが問いかけた。確かに今の説明で言えばそう思えるだろう。
「はい、そのとおりですね。あの御方は別格ですから。正直言えば化物です。それでも形容しきれないですね。残りのナンバーズが全員で挑んでも、一秒持つかも怪しいものです」
『はい?』
あっけらかんと語るジャンヌであったが、その事実にナガレとビッチェを除くほぼ全員がそう声を揃えたのだった――




