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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第三章 ナガレ冒険者としての活躍編

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閑話 其の六 初めての復讐

「な、なんで貴殿がここいるでござるか! 死刑判決は間違いないという話だったでござろう! そうでなくても今頃刑務所の中で囚人にでも掘られている頃でござろうに!」


 唾を飛ばしながら中野が叫びあげる。

 その姿が、その一語一句が、サトルの中の黒い感情を湧き上げていく燃料となる。

 

 この三人は直接サトルに対し暴力を振るうような真似はしなかった。

 もともとそういったタイプではなかったからだろう。

 

 だがその代わり、サトルにも聞こえるように彼ら特有のオタク知識を交えた独特な言い回しでサトルをあざ笑った。

 

『所詮ザグなのだからさっさと壊れて死ねばいいのにぃ~あぁそうだ~陸君~このあたりをもっと殴ると凄くザグっぽくなるよぉ、そうそうあとここもねぇ』

『戦国時代なら切腹してしかりでござる。そうだ海島殿、切腹ゲームなど面白いのではないでござるか? ここに丁度よさそうなカッターがあるでござるよ』

『……芸人がゴキブリを食べて死んだって。空飛さん、試させて見ると面白い……かも……』


 この三人は確かに直接サトルに手は出してこなかった。だがこの三人があの陸海空に提示したアイディアのせいで、サトルはぼろぼろになるまで殴られ、腹をカッターで抉るはめになり、遂にはゴキブリも丸呑みさせられた。

 

 サトルはこの時の屈辱を忘れてはいない。


「あぁ、確かに俺はもう少しで死刑の判決を受け、惨めに死んでいくところだったよ。だがな、捨てる神あれば拾う、くくっ悪魔ありだな。お前らに復讐を果たすため、わざわざこんな異世界下りまでやってきたのさ」


 口元を手で押さえ、くくっ、と忍び笑いをしてみせる。

 そして――やれ、と一言呟いたその瞬間、漆黒の騎士が大宮にまで肉薄し、そのでかい尻に刃を突き立てた。


「ぎひぃいィイイぃいぃい! いだィ! いだィよぉおお! だずげでェ、だずげでェ」


 巨漢の大宮は四つん這いの姿勢で手を伸ばし、仲間の二人に向け懇願した。 

 だが、その時にはふたりは大宮から距離を取り、サトルの動向を探るように構えをとっていた。


「なんだ? 仲間を見捨てるのか? 冷たい奴らだな。しかしこのバカ、わざわざ自分から鎧を脱ぎ捨てるんだからめでたい奴だよ」


 サトルはニヤニヤを嘲るような笑みを零しながら、大宮に刃を突き立て続ける黒騎士の姿を眺めていた。


 大宮の腰から下の顕になった部分は、黒騎士の刃でぐちゃぐちゃな挽肉に変化していく。


「ふむ、これはグラムいくらだろうな? いや、こんな出来の悪いミンチ、値段なんてつくわけがないか」

 

 顎に指を添えそんな事を呟く。その視線の先では、既に事切れた大宮の姿があった。

 

「……あの騎士が、サトルの力?」

「むぅ! 拙者と似たような力とは生意気でござる!」


 数メートルほど離れた位置からふたりが話していると、ゆらりとサトルが身体の向きを変え。


「さぁ、次はテメェらだ屑とも」


 目一杯広げた瞳、その双眸は酷く冷たい。まるで感情がないかの如く。


「……調子に乗りすぎ――風術式第六門エアハンマー」


 静かに紡がれし詠唱、放たれるは風の魔法。

 刹那――サトルの頭上に圧縮された風の拳骨が降り注ぐ。

 局所的に押しつぶす一撃だ。その拳によって地面が圧され、クレーターが出来上がった。


 だが、サトルは拳を受ける直前、大きく後ろに飛び跳ね、その一撃を躱してみせた、が――


「……ば~か――」


 ニヤリとうす気味の悪い笑みを零し、秋葉が呟いたその瞬間。

 地面に脚をつけたサトルの身に黒の大群が迫る。


「な!?」


「愚かなりーーーー! 調子に乗って背後が疎かになるとは正にこの事でござるよーーーー!」

「……僕の真の称号、蟲使い」


 更にニヤ~と口角を吊り上げ秋葉が言った。

 秋葉は当時も虫好きなオタクであった。

 その趣味が、ここ異世界に来てからの称号に影響したのかもしれない。


「秋葉殿が使役した蟻は、オーガですら一瞬にして骨すら残らないぐらい喰い尽くす凶暴な相棒でござる。まぁ愚か者にはお似合いの死に様でござるな~」


 得意満面で語り、眼鏡を直す仕草を見せる中野。

 秋葉も、ふふん、と鼻を鳴らし勝利を確信したかのような表情である。


――ヒュン!


 だが、彼らが完全にサトルを殺したものと油断していたその時、一つの影が秋葉の横を通り過ぎ――片腕が宙を待った。


「……え? あ、ああぁああぁああア"ァ"ア"アァ"アア"ーーーーー!」


 肩の付け根を押さえ、絶叫する秋葉。

 だが、そんな彼の顔面を更に何かが通り過ぎ、その両目を潰した。


「あぎィィイイ! 目が! 目がーーーー!」


 その様相に、目を見開き愕然となる中野。


「馬鹿が、俺が貴様ら相手にそんなヘマするかよ」


 そして秋葉を見下ろすは、背中に翅の生えたサトルの姿。

 だが、それとは別に、蟻に食われているはずのサトルの姿も見て取れる。


「そ、そんな! ど、どういうことでござるか!」


「あぁアレか。おいもういいぞ、ドッペルジェリー、獲物を喰っても」


 サトルがそう声を掛けると、サトルの姿をしていた、ゲル状の悪魔がその正体を見せ、全身に群がっていた蟻共を瞬時に飲み込んだ。


「驚いたか? てか無防備で俺がわざわざテメェらの餌食になるような真似するかよ。そっちの蟲使いの能力も判ってたしな」


「!? か、鑑定待ちでござったか! いや、しかしそれは――」


「隠蔽で見れないようにしていたと言いたいのか? 悪いが俺にそんな物は効かないんでね。勿論テメェが人形使いの称号持ちってのも判ってるぜ」


 そういってニヤリと口角を吊り上げた。

 ちなみにサトルが背中に付けている翅もやはり悪魔の書に封印されていたもので、悪魔の書八八位のデビルフライヤーである。


 何せあの屑冒険者からの話でこの三人に追いつくまでまともにいくと二日かかる事は知っていた。

 だがそんな時間を掛けていられるわけもない。その点、この悪魔を装着し空を飛べばかなりの時間短縮に繋がる。


 そしてついでに言えば、このデビルフライヤーの飛膜はギロチンのごとく鋭さを持ち、更にゴムのごとく伸縮自在である。

 ひ弱で根暗な蟲使いの秋葉の腕を飛ばし目を潰すなど造作も無いことだ。


「ぐ、ぐむむ! 己貴様謀ったか!」


 この三文芝居のような喋り口調に辟易としてサトルは目を細める。

 正面で日本刀を抜き、身構える武者鎧は完全にこの男の趣味であることは想像するに容易かった。


「だが! 拙者のこの武者鎧を屈する事など不可能でござる! 最高の素材を最高の職人の手で加工し作り上げた至高の戦人形! それが武者丸でござる! そんな西洋鎧の出来損ないのようなもので勝てるわけがないでござる!」


「……だったら試してみるか?」


 サトルは顎をしゃくり配下の悪魔を呼び寄せた。

 距離としては七、八歩分程度の間を取り、中野の武者丸と対峙する。


「さぁ! お前の力を見せつけるでござる!」


 鎧武者の背後から中野が叫びあげると、その兜の奥の瞳のようなものが紅く光った。

 どうでもいいところに拘ってるな、と思わずサトルが苦笑いを浮かべる。


 武者丸の刀が、この距離を気にもせず袈裟懸けに振りぬかれた。

 すると斬撃が波動となって、漆黒の鎧に向けて突き進む。


「どうでござるか! これぞ武者丸の斬撃波でござるよ!」

「あっそ」

 

 興味なく言い放つ。すると漆黒の鎧も同じように剣を振り、斬撃を飛ばし相殺した。


「な!? む、武者丸の技を、き、貴様パクッたでござるな!」


「この程度の技をパクったとか片腹いたいな」


 むぎぎ! と悔しそうな声を漏らしつつ、更に武者丸は連続で斬撃を飛ばすが、それらは全て鎧の手によって相殺されていく。


「むう、ならばとっておきでござる! 十字破斬撃でござるよ!」

 

 中野はどうやら秘策を隠し持っていたらしく、その声に合わせて武者丸が素早く刃を十字に交差させる。

 すると斬撃が重なりあい、その名の通り十字模様の斬撃が漆黒の鎧の斬撃を突き破り、鎧へと着弾した。


「どうでござるかーーーー! これこそが武者丸の真の力でござる! そのような脆弱な西洋鎧如き、武士の魂を込めた武者丸の前では恐るに足らず!」


「そうかよ――」


 サトルが呟いたその瞬間、漆黒が武者丸へと肉薄した。

 かと思えばその刃を振り上げ一太刀の元に武者丸を一刀両断にしてしまう――


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