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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

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第三四九話 偽物

 アン達が待機している部屋にエルガの護衛騎士たるローズがやってきた。


 そして彼女は不審者がいないか調べるため、瞼を閉じ意識を集中させたアンの背後で、剣の柄に手をかけたわけだが――


「それで、その剣で貴方、どうするおつもりかしら?」

「――ッ!?」


 声に驚いたのか、ローズが咄嗟に扉を振り返った。そこに立っていたのは縦ロールの金髪に、金糸が主張しすぎない程度に紡がれたドレスという出で立ちの美少女。


 その手には鳥の翼と頭をあしらったような意匠が施された杖が握られ、先端は既にローズへ向けられていた。杖全体がバチバチと迸っており、撃とうと思えばいつでも魔法を撃てるといった状況だろう。


「……クリスティーナ、これはどういう事だ?」

「それはこちらのセリフですわ。内側から鍵を掛けたつもりだったようですが甘かったですわね。この扉には何かあった時の為に私が魔法を施しておきました。雷の力をうまく使えば、後から鍵を開けられるようにしておくなど造作もない事ですわ!」


 クリスティーナが得意げに言い放つ。そこまで複雑な施錠方法ではないのも幸いしたといってよいだろう。


「では改めてお聞きいたしますわ。その抜きかけた剣で、貴方は一体何をするつもりだったのかしら? 答えて頂きたいですわね」


 え? とアンが瞼を開きローズを見て狼狽した。確かにその手元では銀色の刃が四分の一程見えてしまっている。


「何を勘違いしているか知らないが、これはいざという時の為に構えていただけだ。不審者が彷徨いていると聞いたのでな」

「その不審者というのは貴方のことですよね?」

「私が不審者? ははっ、面白いことを言われますね。一体何を根拠に――」

「え~い! いい加減その気持ち悪い格好をやめないか!」


 表情に変化を見せず、淡々とした様子で答えていたローズだが、そこへもう一人、目の前のローズとそっくりの人物が部屋になだれ込んできた。


「し、縛られていたローズさんは、きゅ、救出済みです! い、言い逃れは出来ませんよ!」


 そしてヘルーパも部屋に入り、頑張ってもう一人、つまり先に部屋に来ていた偽物のローズに向けて宣言する。


「貴様、よりによって私を謀ろうなどと、一体何者だ! 正体を現せ!」

「……やれやれ、まさかこんなにあっさりと救出されるとは――」


 そこまで偽ローズが口にしたところで、クリスティーナの杖から放たれた電撃が迫る。


 しかし、彼女(?)は鮮やかな身のこなしでそれを躱したあと、部屋に備わった窓まで駆けていき。


「あ!?」


 窓を突き破り外へと飛び出したその姿に、アンが驚愕した。


「な! くそ! こんなところから飛び降りるとは、自ら命を断つつもりか卑怯者め!」


 するとローズが声を上げ、破られた窓に近づき、そのまま身体を乗り出し下の様子を確認するが。


「……そんな、いない――」

「……逃げ道ぐらい確保してるに決まってるだろう。阿呆が」


 すると面を落とした鎧姿の彼が部屋に入り、ローズに向けてあっさりと言い放つ。


 それを耳にし、彼を振り返るなり悔しそうな顔を見せるローズであるが。


「ローズ殿、逃げられてしまったのは仕方ありませんぞ。それより、如何ですかな?」


 すると、セワスールも部屋に入り、ローズを励まし、そしてロウに訪ねた。


「……ああ、やはり見立て通りで間違いないだろうな」


 彼の答えに、そうですか、とどこか沈んだ調子で答えるセワスールである。


「それにしても貴方凄いわね。ローズが罠に嵌ったのにも気づいて、どこで縛られて放置されてたかも当ててみせたし」

「クッ!」


 ローズが綺麗な歯を噛みしめた。よほど相手の罠に嵌ったのが悔しかったのだろう。


「本当、もしかして結構有名な冒険者とか?」

「……やれやれ、本気で言っているのか? まさかここまで気が付かないとはな」


 呆れたように肩を竦めクリスティーナに身体を向ける。

 そして、その面を上げてみせたわけだが。


「――て、ええええぇえええぇえええ!? 嘘、リーダー! どうして、どうしてここに!?」

「り、リーダー、り、リーダーだったの、で、ですか!」


 ふたりが魔物にでも化かされたかのごとく驚愕した。どうやら本気でリーダーのロウだと気がついてなかったようだ。


「……全く、先が思いやられるな。そんなことで本当に大丈夫か?」


 ギロリとふたりを睨めつけロウが苦言を呈した。流石リーダーというだけあり、こういうところは厳しそうだが。


「うぅ、と! いうかですわ! それなら最初から言ってくださればよかったではありませんか! それに、あの匂いの件だって、冗談にしてはたちが悪すぎですわ!」


 しかし、クリスティーナは逆に切り替えした。憤慨した様子で、散々匂いでからかわれた事を意外に根に持っていたようだ。


「……言っておくがあの匂いについては、実際に感じた事を言ったまでだぞ」

「――へ?」

「……大体、くだらない嘘をついているのも事実だろう。お前の本当の名前はアナ――」

「きゃあああぁああぁあ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいーーーーーー!」


 アナール・クサインもといクリスティーナは突き出した両手を上下に振り回しながら涙目で謝罪した。


 つまりロウの言っていた臭うとは、アナールという名前を偽っているがゆえの臭いなのであったのである。


「あ、あのこれは一体?」


 そんな中、アンは一人疑問符が浮かんだような顔を見せていた。

 何せ今の今までローズがふたりいたのだから仕方ないか。


「アン、す、すまなかったーーーー!」

「えぇええぇええぇええ!?」


 そして、今度はローズが深々に頭を下げ、アンが驚き、びくっとその身をそらす。


「恥ずかしい話ではあるが、これは私の責任でもある。よもや、部下に変装した相手にも気づかず、その話を鵜呑みにしてしまうなど、護衛としてはあるまじき行為!」

「……そうだな、お前はもっと反省しろ」

「クッ!」

「まあまあ、確かにローズ殿は騙され、不意打ちを受け気絶し、縛られて身動き取れない状態で閉じ込められておりましたが」

「よく考えたら凄い失態じゃございませんこと?」

「り、リーダーも、く、クリスティーナも、ちょ、ちょっとかわいそうだよ~」

「むぐぐぐぐぐっ!」


 ローズは顔を真っ赤にして歯牙を噛み締めた。羞恥に塗れるといったところか。護衛騎士としてあまりに不甲斐ない自分が情けなくもあるのだろう。


「しかし、相手はアン殿さえも謀るほど声もそっくり真似ておりました。匂いに関してもよほど特別な嗅覚でも備わってなければ見抜けぬ程ですしな」

「……お気遣い感謝致します。ですが、失態は失態、認めたくはなかったが、どうやら貴様の言うとおりだったようだな!」

「……なんで怒ってるんだお前は」


 ビシリと指をさされ、面倒くさそうに口にするロウである。

 とは言え、ローズとしてはやはりロウに対して弱みを見せるつもりはないといったところなのだろう。一方でセワスールに対しては随分と殊勝な態度を見せているが。


「とにかく、大事には至らなくて良かったですな。ローズ殿もこれで相手の事がよくわかった筈ですし、勿論反省は必要ですが、後に引きずってもいい仕事は出来ませんからな」

「はい、ありがとうございます。勿論、二度とこのような失態はおかしません!」


 こうして話は一旦纏まり、改めてアンとも話し、今後は暗号を決めてやり取りする事となった。

 

 更に、部屋の前にはクリスティーナとヘルーパが残り、後からエルガ側の騎士も護衛につかせるという形で話はまとまった。


 そして、結局その日の夜はそれ以上何かが起きることはなく朝となり、朝食を取り終え、セワスールが一人歩いていると、ハラグライとすれ違い、話しかけられる事となり。


「どうやら昨夜は色々と大変だったようですな。本当に、城内にそのような狼藉者が現れるとは、お恥ずかしい限りです。騎士達にも気を引き締めるよう、先程伝えてまいりました。ルプホール辺境伯も大変心を痛めております」

「そうでしたか。確かに後一歩遅ければ一大事でしたが、こちらも対応が間に合って良かったです。とは言え、どうやら相手は自由に姿を変えることが出来るスキルを持っているようですので、油断は出来ませんな」

「なんと姿をですか? それは厄介ですな」

「ええ、ですが相手はほぼ間違いなく女性でしょうからな。なので冒険者ギルドにも協力を仰ぎ、特に女性を中心に徹底して洗っているところです」


 会話の途中、ほう、と一旦ハラグライが間を置き、その顎を擦った。


「しかし、何故女性と?」

「はい、昨晩侵入者はローズに扮して子供たちを狙ってきましたからな。いくら変装と言っても性別までごまかせるわけもありません」

「なるほど、それゆえに女性というわけですか。つまり、相手が姿を変えるのも女性限定ということですか。うむ、これは気をつけなければなりませんな。美しい女性の姿でこられてはコロッといってしまうかもしれません」


 ハラグライがそんな冗談をまじえながら答えた。それにセワスールも軽く笑って応じ。


「どちらにしろこれからはより警戒を強めねばなりませんな。ところでハラグライ殿は、姿を変えられるような人物に心当たりはありませんかな?」

「ははっ、あったならとっくにこの手で捕まえておりますぞ」

「ああ、確かにそうです――」

「あ、セワスール様! ここにおられたのですか。例のギネンの手帳について、あ、も、申し訳ありません。お話の途中であられましたか――」


 会話を続けるふたりであったが、そこへセワスールの背中に声をかける人物。ナリヤだ、彼女が彼に駆け寄りつつ、自らが口にしたことにたいして罰が悪そうな表情を見せる。


「いえいえ、丁度話も区切りがついたところでしたからな。私もそろそろルプホール様の下へ向かわなければ行けなかったので。それではセワスール殿、ナリヤ殿、一旦これで――」


 そして頭を下げ、その場を去るハラグライであるが、その直後、セワスールがナリヤに向けて軽く叱咤してみせた。


 どうやら今彼女が言っていたことは機密事項であり、外に漏らしていいものではなかったようである。





「ナリヤ、ここにいたか」

「え? あ、セワスール様、どうかなされましたか?」

 

 ナリヤが廊下を歩いていると、後ろからセワスールが声を掛けてきた。

 それに気が付き目を丸くさせつつ応じる彼女だが。


「いや、何、先程は話が中途半端に終わったからな。ここなら話しても問題ないと思ったのだが、今大丈夫かな?」

「中途半端というと、ギネンの手帳の件ですか?」

「うむ、その件であるな」


 顎に手を添え頷くセワスール。するとナリヤが一つ頭を下げる。


「先程は気づくことも出来ず本当に申し訳ありませんでした」

「いや、その事はもういいのだ。頭を上げてくれナリヤ。反省は必要だが、引きずっていては後の仕事に影響するのでな」

「はい、そうですね。今後は注意致します」

「うむ、それで、その手帳の内容について念のためお互いの情報をすりあわせておきたいのだが」

「手帳の事、ですか? 確かにセワスール様が集めた情報の通り、アクドルクの悪事について仔細に書かれているのなら、向こうはかなり不利になるでしょうが、どちらにしてもそれは手に入れてからでないと検証のしようがありませんよね」

「うむ、確かにそうであるな。ところで、手帳の場所はしっかり覚えているか? ナリヤよ」

「勿論です。アニマルパニック……何かこの名前には慣れませんが、この古代迷宮の最深部、壁に目印の掘られた場所の下に隠されていると、そうこの間教えて頂きましたから。既にギルドにも話は通してありますし、今日の夕方に潜る段取りで進めておりますよ」


 ナリヤの話を耳にし、うむ、とセワスールは顎を引いた。


「それが判っていればいいのだ。一応確認をと思ってな。では後で、よろしく頼むぞ」

「はい、必ずアクドルクの悪事を暴き、オパール卿とエルガ卿の疑いを晴らしましょう」


 ああ、そうだな、と言い残し、そしてセワスールはその場を後にした――

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