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第三四〇話 不可思議

ステータス

名前:マサヨシ アケチ

年齢:17歳

性別:♂

称号:無様な敗北者

レベル:10

生命力:120/120

魔力 :0/0

攻撃力:55

防御力:45

敏捷力:58

魔導力:0

魔抗力:0


アビリティ

剣術(玄人級)


スキル

完璧な土下座



 全てが終わった時、残されていたのは不老不死さえ失い放心状態に陥ったアケチだった。

 ナガレの逆転流罰によって地面に叩きつけられ、しかも不老不死を失った為、ダメージが身体に残り、立ち上がることすらままならない様子である。


 そして、大の字になって倒れるアケチを見下ろすナガレ。そこへいつもの仲間が駆け寄ってきて、やったわね! などと声を掛けてきた。それに応じるナガレではあったが――


「おま、え、サトル――」


 ふと、アケチの呟き。見ると、その横に立つサトルへ目だけを向けるアケチの姿。


 そんなサトルの手には、心撃の長剣が握られ、アケチを見下ろすその眼には、様々な感情が渦巻いているようであった。


「ナガレさん、俺、俺……」


 サトルの目が一瞬だけナガレに向けられ、それを察したように返された視線によって互いに交わると、サトルは一旦目を伏せ、肩を震わせながらそんな事を繰り返した。


「アケチからはもう不老不死も取っています。倒すという点では依頼も達成できたと考えております。そして、最初にもいいましたが、私は貴方の復讐を否定するつもりはありません。だから、決めるのは貴方ですよサトル」


 だが、ナガレの答えは、やめろ、や、やっておしまいなさい、でもなく、サトル自身の手に、思いに委ねられた物。


 そう、決着はあくまでサトルがつけなければいけないのである。ナガレはサトルの意志に答えはしたが、そこから先は彼自身の問題だ。


「ははっ、殺すのか、僕を? その手で殺すつもりなのかサトルぅうぅうう?」


 ナガレの答えを耳にし、何かを決意したようにアケチを見下ろしたサトルは、その眼の前で剣を掲げる。


 アケチはサトルの行為を認めつつ、ねっとりとした笑みを浮かべて更に続けた。


「所詮、君はその程度の人間って事さ。いい気分かい? 自分では何も出来ず、ナガレの背中に隠れて、まさに虎の威を借る狐とは君のような人間を言うのさ。良かったじゃないか、強い強いナイト様がお膳立ては全て整えてくれた。君が後はその剣を振り下ろせば、それで復讐が果たせるんだろ? 自分では何も出来なくても、人に助けてもらえれば、それで満足なんだろ?」


 死が目前に迫っているのかもしれないというのに、アケチは饒舌だった。こんな状況でも、先程のように謝る意志すら見せず、ただただ不遜で、不快で、下劣な存在であった。


「アケチ、アケチ、アケチ、アケチアケチアケチ、アケチィイイイィイイイイ!」

「駄目! サトルーー!」


 ギリリッと歯牙を噛み締め、瞳孔が開ききるほどに双眸を見広げ、恨みのこもった刃が、今アケチに振り下ろされた。


 その瞬間、マイが叫ぶ。どこか悲痛さの感じられる叫びでもあった。


 そしてサトルの刃は、アケチの首元ギリギリを掠め、地面に突き立てられる。


「え? サト、ル?」

「アケチぃいぃいい! 俺はお前を、殺さ、ない! 殺さないぞぉぉおおお!」


 呆けるアケチに、サトルはハッキリと言い放った。柄を握りしめる両の手は、プルプルと震えているが、それでも、サトルは殺さない道を選んだ。


「殺さない? そうか、ふふっ、だろうね。所詮君は、悪魔の書がなければ何も出来なかったような男だ。何かに頼らなければ、殺す覚悟だって持つことは出来ないのさ」

「……違う、お前に必要なのは殺す覚悟なんかじゃない。俺はお前をどうしようもなく殺したいよ。殺したくてたまらない」

「だったらどうしてだい? あはっ、もしかして君、ここで見逃したら、僕が涙を流して君に感謝するとでも、そう思ったのかい?」


 嘲るようにアケチが言う。だが、サトルは真剣な目で、それも違う、と呟き。


「少なくとも俺は、お前がこれから先贖罪の気持ちを持ったり、自分の行為を後悔したり、そんな風に反省することなんて絶対にありえないと思っている。お前は変わらない。変わるはずがない! きっといつまで経ってもお前はお前のままだ」


 サトルはアケチに向けて吐き捨てるように言う。そして――


「だが、今殺してしまえばここで終わりだ」


 そう言葉を紡いだ。そして突き立てた剣を抜き、アケチを見下すようにして更に言い捨てる。


「そして俺はナガレさんを信用している。選択を与えてくれたということは、殺さなくてもきっとお前にも(・・・・)それ相応の報いがあるという事だろう。これだけの事をやったのだしな。そしてこの世界の法が、地球よりゆるいとも思えない。お前は俺がここで殺すよりも、今生き長らえたほうが、より苦しい結果が待っているに違いないさ。文字通り生き地獄がな」


 サトルがそう言い放つ。ある意味彼にとって苦渋の決断だったのかもしれないのは、その握られた拳がありありと語っていた。


 だが、今ここで殺したところで苦しみは一瞬だ。それならば、然るべきところで裁きを受け、この世界の法でそれ相応の報いを受けて欲しいと思ったのだろう。


 何せアケチはあの魔神と結託し、この世界をあわよくば崩壊寸前にまで追い込もうとしたのだ。証人とて帝国騎士も含め数多くいる。言い逃れは出来ないだろう。


 それに――サトルにだって一つだけ遺せたものがある。


「それと、お前は俺が何もできなかったと言ったが、こんな俺でも一つ刻めたさ。お前の頬に、一生消えない傷痕をな!」

 

 そう、そしてそれはアケチの敗者の証でもある。忘れてはいけない、確かにアケチはナガレにも敗れたが、サトルにも敗北しているのだ。


 すると、アケチの眼だけが一瞬頬に向けられ、ギリリと唇を噛みしめるが、すぐに薄ら笑いに変化させ、発する。


「ふふっ、あはは! それで脅してるつもりかサトルうぅぅうう! その甘さが命取りなんだよ! それはサトルだけじゃない! ナガレ貴様にも言えることさ~ふふっ、愉快だよ。とても愉快だ。ああそうだ。今回は僕の負けだ。もう動く力さえ残ってない。剣だって振れないさ。でもね、ナガレ! 僕は知っている! 貴様があの神薙家の人間なら、間違いなくこれから後悔することになるとね!」


 ここにきてこれだけ口が回るとは、先程まではまた別の意味で豹変している。それに、聞いていたマイが眉を顰めた。


「ちょっとあんたいい加減にしなさいよね! 大体この状況で何を後悔するっていうのよ!」

「この状況だからさ! 神薙 流! 僕はね君が奪った力で地球の両親とこの世界から何度もコンタクトを取っていたのさ!」


 その話に、え? とマイが眼を丸くさせた。まさか地球と交信出来る力があるとは思いもしなかったのだろう。


「そして、その話から知っているのさ。僕の家族が完璧な明智家が! 神薙家、そうナガレ! 貴様の家と流派を潰すために動いた事をね! 僕は残念ながら一旦は負けを認めるけど、僕の家族は優秀さ。ただ優秀なだけじゃない! 父は警視総監! 母は検事長! 兄や姉だって優秀な人材揃いさ! つまり、貴様が異世界でのうのうと暮らしている間に、君たちの家族は地獄を見ているってわけだ! そう思うと、愉快でしょうがないよ、あははははっはは!」


 アケチが高笑いする。愉快そうに、ざまあみろ、とでも言いたげに。

 すると、そんなアケチの正面にいつの間にかナガレが立っていた。


「ははっ、なんだい? やっぱり自分の家族の事となると、黙ってはいられないのかなぁ?」

「――全く困った人だ。そんなことで、私が動じると本気で思っているのですか?」

「ふん、強がりだな。君の家がどれほどのものか知らないけど、この世界と違って地球は、特に日本は権力が全てさ。法治国家で警察と検事を牛耳っている僕の家族が、狙った獲物を見逃すはずがない。貴様の家も終わりだよ」

「残念ですが、私の家族も神薙流も、蠅がたかった程度で臆するほど、ヤワではありませんので」


 な!? とアケチが絶句する。まさか、絶対の自信を持って述べた権力を、蠅の一言で済まされるとは思わなかったのだろう。


「ふ、ふん、口でならなんとでも言える! それにだ! お前の負けは神薙流や神薙家だけの話じゃない。確かに今日の負けは認めるが、僕は絶対這い上がる! 何せ僕は完璧だからね。そして今日の戦いで君の力は完璧に把握した。僕は同じ過ちは繰り返さない! 絶対にな!」

「全く、次から次へとよく口が回りますね。ですが、本当に今ので私の力を把握したと思っているのですか?」


 一度は落ちるまで落ちたアケチだが、ここにきてまた妙な自信を取り戻してきたようだ。家族の事があるからか、それとも未だに自分が完璧と信じているからなのか――


「当然さ。君は無量大数分の壱だなんてふざけたことを言っていたけど、そんな見え透いた嘘に引っかかる程、僕は馬鹿じゃないからね。君の家族も、サトルも、貴様も! いずれ絶対後悔させてやる! 今度はこの僕が、復讐する番だ!」


 正直とんでもない逆恨みでしたかないわけだが、どうやらアケチはまだまだ諦めてはいないようだ。


「……全く、懲りない人ですね貴方は。ですが、そこまで言うなら仕方がないですね」


 ナガレはそこまで言った後、皆を振り返る。


「申し訳ありませんが皆様、少し後ろまで下がって頂けますか?」


 え? とピーチが目を丸くさせる。他の面々も不思議そうにしているが。


「大切なことですので、どうかお願い致します」


 ナガレがそこまで言うなら、きっと何か大事なことなのだろうと、ナガレがいいというまでその場から離れていく。


「はい、その辺りで大丈夫です。ですが、出来るだけ気はしっかり持っていてくださいね」


 ナガレがさり気なく注意を呼びかける。

 それに、見ている皆が一様に真剣な表情を見せた。何せナガレがここまでいうのだから、きっと何がとんでもないことが起きるのかもしれない。


「ふふっ、随分と大げさな事だけど、僕には判るよ。きっと君は気が変わったのさ。やっぱり家族が心配だから、僕になんとかしてほしいとか、そんなところだろう? それならそれで、言うことを聞いてあげなくもないよ。ただし、僕の力を戻すことが条件――」

「黙れ」


 ナガレが述べたのは一言だけ。決して大きくはない声で。だが、その言葉は、そして射抜くような瞳は、アケチを文字通り黙らすには十分だった。

 

 唐突に声が出なくなったようで、アケチの黒目も戸惑いに揺れている。


「さて、どうやら貴方はよほど私の本気を見たいようですが、流石にそう安々と見せられるものではありません。なので、一段回だけ、そう、ひとつ、不可思議分の壱の状態というのを一瞬だけお見せ致しましょう。そして、ついでに貴方に一つだけ言っておく事があります」


 表情を切り替えたナガレは、とてもにこやかにアケチへ聞かせて上げた。

 そして一つ前置きした上で、更にその表情が一変する。


『いい加減、身の程を弁えろよ、小僧――』


 刹那、ナガレとアケチを中心に何かが周囲の床を圧壊し、豪風が迷宮内を駆け抜けた。余波は迷宮の外にまで及び、外で待機していた騎士たちですら、その異様な雰囲気に気圧されてしまう。


 勿論、ナガレに言われ距離を離した皆も例外ではなく、暴風が駆け抜けたにも拘らず、目を見開き完全に固まりきっていた。


 それは本当に一瞬の出来事だったが、その一瞬で死を何度予感したかわからなかったであろう。帝国の騎士たちは全てがその場で膝をつき、なんとか立っていた面々も総毛立ち、全身が震えている。


 唯一ビッチェだけは、両肩を抱きしめ恍惚とした表情を浮かべていたが――


「……ふぅ、少し大人気なかったですかね。私も、まだまだ精進が足りないといったところですか」


 ソレを見下ろし、ナガレが呟く。

 すると、ナガレー! とピーチ達が先ず駆け寄ってきた。


 一応ナガレも力は調整した為、後に残るほどの余波は発していない。騎士たちも既に立ち上がっている。


「今の何か凄かったけどなに、て、うわ!」

「先生! 凄すぎて俺少しもら、いやそれはともかく、そ、それはもしかして、アケチ、ですか?」

「……見る影もない」

「い、生きてるのでしょうか?」

「う~ん、気絶はしてるようだけど、息はあるようだけどね~」


 そして駆け寄った皆が一様に驚きを隠せないでいた。


 それはそうだろう。何せ目の前に転がっているアケチの変貌はそれほどまでに凄まじかった。


 一体何を見たのか、完全に白目を剥いて泡を吐き、気を失っている。頬は痩せこけ、両の眼もすっかり落ち窪んでいるようですらある。


 いや、それ以前に、全身からあらゆる液体が漏出し、その身は骨と皮だけと言った様相。下半身からは糞尿があらかた出きってしまっており、近寄りがたい臭気を周囲に撒き散らしていた。


 髪も完全に色素が抜け真っ白であり、見た目には最早ほぼミイラである。


 つまり、それほどまでにナガレの見せた力が凄まじかったという事だ。たった一段階引き上げただけだが、目の前でそれを見せられたアケチは耐えることができなかったのだろう。


 だが、忘れてはいけないのはこれでもナガレは相当力を抑えていたという事だ。


 とは言え、この状況で生きているのが本当に不思議なぐらいである――

対アケチはとりあえずこれにて決着!

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― 新着の感想 ―
[一言] マイが屑過ぎて草 なにが駄目!だよ
[一言] 1/不可思議 普段、どんだけ抑えているんだ? 凄すぎる(笑)
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