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第三三五話 全てを凌ぐその男、それは……

前回までのあらすじ

サトル相手に舐めプしていたアケチは逆にナガレに舐めプ返しされ、ブチ切れて分身し魔法やら闘気やらをナガレに撃ちまくってから、やったか! と言った。

 一人、やったぞー! と歓喜に震え、声を張り上げるアケチ。その姿に、サトルは若干の不安を滲ませていた。


「ま、まさかナガレさん本当に……」

「た、確かに凄まじかったものね今の」


 マイも心配そうに戦況を見守っていた。

 だが、ナガレと常に行動を共にしている皆には彼らほどの不安は見られず。


「馬鹿ね、ナガレがあの程度でやられるわけないじゃない」

「当然、先生はいつだって俺達の予想の遥か上にいる御方だ」

「そうですね、ナガレ様ならきっと……」

「ナガレっちが負けるところなんて想像できないもんね~」

「……愚問」


 ナガレと行動を共にしてきた仲間たちの意見は一致していた。

 それにサトルは考えを改めつつ、ナガレさん……と呟き戦いの場に目を向けた。


 アケチは相変わらずで、その笑いは段々と狂気じみたものに変わりつつすらあった。


 だが、しかし、ふと、その身が本体と分身達の視線が、一斉にサトル達へ向けられた。


「ふむ、サトルの雑魚も目が覚めたのか。ふん、まあ今となってはどうでもいいことか。お前たち散々僕を馬鹿にしてくれたな? だけど、ナガレが死んだ今――」

「やれやれせっかちな方だ。せめて、死んだかどうかぐらい確認してから物を言えばいいのに」


 しかし、煙の中から聞こえるは、皆にとって聞き馴染みのあるあの声。そして、アケチにとっては忌々しくさえ思えるであろう、その声。


 途端に、煙が霧散した。球体の回る回転音のみがその場に溢れ出す。球体はナガレの手の中にあった。青い光と、白い光、それを交互に放ちながら、凄まじい勢いで乱回転している。


「ば、馬鹿な……む、無傷だと! しかも、なんだその物体は!」


 驚愕するアケチ。ガクガクと震えてすらあった。分身たちも同様の反応を見せている。


「これは、貴方が放った魔法や闘気の塊ですよ。魔法に関しては受け流して魔力に変え、そこに闘気をブレンドさせております。かなり強力な代物に変化してますので、しっかり耐えてくださいね。ではお返しします」


 な!? と口を開け絶句するアケチと分身たちに向け、宣言通りナガレがそれを返した。

 球体は瞬時に無数の光線に変化し、次々と分身たちを貫いていく。


 そして、当然アケチ本体に向かった光線が最も多く、弾幕と言っていいほどに視界を埋め尽くし、そして着弾。


「う、うぉおぉおおぉぉおおぉおおお!」


 断末魔にも似た叫び。アケチが放った時のそれよりも、遥かに強大な爆発と衝撃が彼を飲み込んだ。


「貴方のその技は、確かに分身の攻撃力は本人と一緒かもしれませんが、耐久力は遥かに落ちるのが欠点ですね」

「――ぐ、ちぐ、じょ……」


 爆発の中から、アケチが徐々に姿を見せる。ナガレが話して聞かせたその先には、片腕を失い、全身大やけどを負ったような状態のアケチが立っていた。


「ふむ、しっかり耐えてくれたようですね」


 顎を押さえ、ナガレが言った。ナガレからすればこれでも十分手加減をしているのだろう。だからこそ、かなりボロボロではあるが、立っているのは想定内といった様相だ。


「ふふっ、あは、あはははっはは!」


 しかし、アケチがナガレに向けて突如気が狂ったように笑い出す。あまりの格の違いに、いよいよ気が触れたのか? と考えた騎士もいたほどだ。


 二人の差はそれほどまでに開きがある。

 だが――アケチの身体が、その笑い声に呼応するように回復していく。失った片腕ももとに戻り、火傷の痕一つ残さず、頬の傷以外はその全てが完全に回復した。


「はは! どうだ見たか! 全く最初からこうすればよかった。最初からこのパーフェクト(完璧な)エターナルボディ(不老不死)を身に着けておけば! 僕は絶対に負けなかった!」

「つまり、不老不死のアビリティをつけたという事ですね」

「黙れ! パーフェクト(完璧な)エターナルボディ(不老不死)だっ!」

「左様ですか」


 ナガレはもうあっさりと流した。


「お、おいおい、不老不死とか本当かよ」

「最悪じゃねぇか」

「そんな奴倒せるのか?」


 そして周囲の騎士たちがざわついた。何かとあればすぐにざわつくのが騎士たちだ。


「あいつ、不老不死なんて、とんでもないものを身に着けたわね」

「あ、ああ、でも、なんだろう、何かが引っかかるような?」


 マイもぎこちない表情で狼狽した声を発すが、サトルはどこか気になる点がある様子。


 そして、他の仲間たちは――


「よ、よりによって不老不死だなんて、よくそんな浅はかな真似が出来たわね」

「全くだぜ。先生相手に無謀が過ぎるってもんだ」

「う~ん、むしろ自分から逃げ道を塞いでる的な?」

「あ、安易な不老不死は危険だと思います!」

「……アケチ、ドM?」


 その仲間たちの話を聞き、あ、とサトルがハッとした表情を見せた。

 そう、いくら不老不死と言えど、たかが不老不死なのである。むしろ、魔神化のようにレベルがかわるわけでもなんでもなく、むしろアケチはもう簡単には――


「それで、不老不死になった貴方は、これからどうするおつもりで?」

「決まっている! お前を殺すのさ!」


 安易に飛び込んできて、飛び蹴りを放つアケチ。それを受け流し、かなり強めに地面に叩きつけるナガレ。


 アケチの顔面が半分ほど砕けた。があああぁあ! とうめき声を上げるが、不老不死の効果で傷はすぐに癒えていく。


「はははっ! いくらやっても無駄だ! 僕の身体はすぐに再生される!」

「それはご愁傷様です」

 

 ナガレの言っている意味が理解できないのか、それからもアケチは無駄な攻撃を続け、その度に受け流され、天井に身体をぶつけては首が折れ再生し、壁に身体を引きずられては身体の半分ほどが細切れになり再生し、天井、壁、床に連続で叩きつけられては、中々無残な姿に変貌を遂げ、しかしそれでも当然、再生し――


「ちょ、ちょっと待てーーーーーー!」


 そこまでされてようやく気がついたのか、アケチは光速で砂煙を上げながら後ずさりし、両手を前に突き出し待ったを掛けた。


「どうしましたか?」

「どうしましたかじゃない! なんだこれは! この僕がやられ放題じゃないか!」


「だから言ったじゃない」

「アホだな」

「あはは、フレムっちにアホって言われちゃったね~」

「フレムに言われるようだと、もう少し自分を見つめ直した方がいいと思います!」

「……何のプレイかと思った」


 アケチ マサヨシ、散々な言われようである。


「不老不死になったところで、貴方の力が変わるわけではないのですから、少し考えればこうなることぐらい予想が付きそうなものですが……」

「う、うるさい! 黙れ! 黙れ! ふぅ、ふぅ、よし、精神統一したぞ。落ち着いた、危ない危ない、そうやって僕の心を乱すつもりなのだろうが」

「勝手に乱してるだけかと思うのですがねぇ」

「うるさい!」

 

 正直これまでに何度その精神統一を使用しているのかと言ったところだが、とにかく心を落ち着けたらしいアケチは、再び不敵な笑みを零す。


「確かに君と僕の実力は拮抗しすぎていて、このままじゃ勝負がつかない可能性が高いね」


「何言ってんだあの馬鹿?」


 フレムがツッコんだ。そして他の仲間も呆れ顔であり、騎士たちも今度は別の意味でざわついている。勿論、この状況で何いってんだこいつ? という意味でだ。


「だから、もう一つの禁じ手を使わせてもらうよ! パーフェクト(完璧な)リーディング(閲覧)!」


 だが、アケチは構うことなくそれを叫んだ。ちなみにこれはスキルとしてはアカシアの記録の機能であり、本来はリーディングと念じるだけで良く、叫ぶ必要もパーフェクトと付ける必要もない。


 とは言え、アケチの周りをゆっくりと回転しながら、数多の文字列が浮かび上がっていた。


 それを目にし、アケチは得意がり。


「これが何か判るかな? これはね、僕が手に入れたアカシアの記録にある、いわゆる個人情報さ。アカシアの記録にはこの世界の全ての情報が保存されている。それはこの世界にやってきた地球人も含めて全てさ、つまり、ふふっ、そう! ナガレ、君の記録だってあるってことさ! そして君の名前や顔が判っていれば、すぐにその情報は引き出せる、さてさて、君のことを今僕が丸裸に――」


記録N0225686854782154445254

名称:神薙 流

性別:男性

年齢:15才?

概要

レベルが0という点以外、他に解析不可、不可、あまりに規格外、謎、謎、謎、??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????……etc.


 その謎の情報の数々にアケチは目を剥いた。目玉が飛び出さんばかりだ。


「それで、その情報でどうなさるおつもりですか?」

「クッ! 化物め! それにしても……神薙、漢字まで一緒だと? いや、気のせいか、大体見た目と年齢が合わない! とにかく、名前さえわかれば十分だ! 本当はこんなつまらない決着の付け方は、僕の美学に反するが、終わらせてやる、最後にいいことを教えてやろう。この名前を消した時、お前の存在はこの世から、消える!」


 一旦は、遂にナガレを化物と評し、更に何かを想起したようでもあったが、とにかく、アケチは得意満面といった勝ち誇った笑みを浮かべ、ナガレの名前を消しに掛かった。


 その所為を見るに、スキル保持者であれば、本来なら(・・・・)指先一つで消しされるほどに簡単な作業なのだろう。


 だが、しかし、それは今のアケチにとって、非常に困難なものとなっているようであり。


「くっ、糞! 馬鹿な! なんでだ! なんで消えない! 僕は、アカシアの記録を操れるんだ! 完璧なんだ! それなのに!」

「無駄ですよ。貴方に名前は消せない」

「ふ、ふざけるな! く、くそ! だ、だったら!」


 すると、周囲の文字が回転し、瞬時に別の名前を表示した。


「サトルだ! 貴様が駄目なら! サトルを消してやる! どうだ! サトルを消されていいのか? 嫌なら! 貴様、その場で自害を――」

「どうぞ」

「……は?」


 遂には、アケチはナガレではなく、その様子を見続けているサトルをターゲットとし、ナガレを脅し始めた。


 だが、ナガレの答えは至極あっさりしたものであり。


「き、貴様は何を言っているのか判っているのか? いいか? 消せば――」

「ですから、消せるものなら、どうぞ」


 ナガレの発言に、ちょっ! とマイが声を上げかけたが、それはサトルが制した。


「でも、サトルくんが!」

「大丈夫、ナガレさんがああ言っているなら、絶対に――」


 サトルはナガレを信じて、その状況を見守った。

 すると、アケチが、だったら! と声を張り上げ。


「消してやる! サトルを、この世から! お前のせいだ! 折角助けた命が、お前のせいで、全てなくなるんだ!」


 そしてアケチは、サトルの名前も指で消そうとする。だが、消せない。

 いくらこすっても、手でかき乱すようにしても、殴りつけても、消えなかった。


「な! 何故だ! どうして!」

「だから無駄だといったのです。サトルに限らず、誰一人貴方には消せはしませんよ。何をしたとしても、私が全て受け流します」

「うけ、ながす? 何を! 何を馬鹿な! だったら消してやる! ここにいるやつを片っ端から! 僕の目があればすべて見える! そしてすべて消せる!」


 アケチは半ば焼けになっているようでもあったが、とにかく目についた相手を消そうと躍起になる。


 だが、結果は同じだった。アケチが何をしても、名前が消えることはない。全てが徒労に終わり――そして、あ、あ、と呻くような声を上げ、その身を反らした。


「な、まさか、まさか、本当に、本当に――」


 そして、思い出す、アケチは、地球での事を。戯事と称し、道場破りをしていたあの時の事を――





『全く、長年続いた門派だっていうから、少しはやるかと思えばこの程度なんて正直がっかりだね』

『く、くそ……』


 一人の少年が、髪のない男の頭を踏みつけながら蔑み、嘲り、そして言い放った。


 それは青天の霹靂だったことだろう。突然やってきた一人の少年、彼は自分をアケチと名乗り、道場破りに来たなどと宣った。


 最初は適当にあしらって返そうと思った彼らだったが、彼の持ってきた紙の束を見て、その顔色は代わり――最初は門下生の中から腕に覚えのある者が挑んだが、全く歯が立たず、結局最高師範自らが相手をしたのだが――結果は言わずもがなである。


『ねぇ、ところで今どんな気持ちかな? 最初若造が! とか偉そうに宣ってたけど、その若造に、いいようにあしらわれて、こうやって頭を踏まれて敗北して、ねぇ、どんな気持ちかなぁ?』

『ぐ、ぐぐぐぐ、ぐおおぉおおおおおおおお!』

『あははははっ! 凄いね! まるで茹でダコみたいだよ!』

 

 怒りで全身を真っ赤に染める敗北者を眺め、愉快そうに笑い、そしてひとしきり笑い終えた後は、紙を一枚取り出し、それを床においた。


『さて、最初に見せたと思うけど、僕は道場破りといっても優しいからね。看板を寄越せとか下ろせなんて言わないよ。まあ頼まれてもあんな小汚いのいらないけど、僕は君に一筆書いて欲しいのさ。僕に負けましたって敗北宣言をね。君たちが見た、あの紙の束に書かれた自称最強さん達みたいにね』

『う、ぐぐぐ、ぐぅ!』

『あれ? どうしたの、そういう約束だったよねぇ? あれぇ? 古来から伝わる流派というのは、平気で約束を破るのかな~?』


 目を細め、相手を煽るアケチ。だが、その時――書いて上げなさい、と誰かが口を挟んだ。


 それに、老師! と一斉に門下生が声を上げる。


『何を言われようと、お前が負けたのは確かじゃ。ならば、約束を守るのが筋じゃろう』

『……わ、わかりました』


 そして、老師の言うことを聞き届け、最高師範の男は筆を取った。


『ふ~ん、まさに鶴の一声だね。もしかして、お爺ちゃん強かったりするのかな?』

『わしはもう現役を退いた身じゃよ。強くなどないわい』

『そう、それは残念。でも、本当にがっかりだよ。僕は他にも海外の強者を気取る連中とも何人とも戦ったけど、どれもダメダメでね。その上日本の古武術もこれじゃあ、もう格闘技は極めたようなものだよ。本当、僕が完璧すぎる天才なのが良くないのかもだけど、世界を取るのがこんなに簡単でいいのかな~』


 怒りの形相でアケチを睨みつける門下生たちだが、アケチには一切気にする様子がなかった。


 だが――


『ほっほ、世界を取るのう。口だけは随分と立派なようじゃが、そこまで言うからにはお主、神薙流のことは当然知っておるのだろうな?』


 その一瞬、穏やかだった老師の瞳に鋭い光。アケチは目をパチクリさせるが。


『神薙流? なにそれ? 聞いたこともないね』


 半笑いのどこか小馬鹿にした様子で返答する。

 すると、突如老師が、あっはっは! と大声で笑いあげ。


『よもや神薙流を知らぬとは、まさに井の中の蛙大海を知らずじゃて。いいか小童、この世でもし世界最強を名乗ることが許される者がいるとしたなら、それは神薙流合気柔術の神薙 流だけじゃ。何せあやつは世界という海ですら狭すぎるほどじゃからな。それも知らず世界を取るのが簡単などと、身の程知らずもいいところじゃということを、夢々忘れぬことじゃ』


 結局アケチは、そこで負けた証明となる一筆は貰ったものの、心に何処かもやもやが残った状態で、道場破りを続けた。

 

 しかも神薙 流の名前はその後も何度か耳にすることとなり、遂に家に戻った後、ネットで検索を掛けてみたわけだが――


『なんだこれ、滅茶苦茶じゃないか。はは、結局、ただの負け惜しみだったというわけかしょうもないね』


 結局アケチは神薙 流が最強などとんだ眉唾ものと判断し、それ以上考えるのをやめた。

 なぜなら、ネットから拾えた情報は、やれ隕石を投げ飛ばしただの、やれ核ミサイルを宇宙に放り投げただの、やれ、火山の噴火を一人で止めただの、あまりに荒唐無稽が過ぎたからであり――





(だけど、だけどこの男の、この規格外の男は――まさか)


 しかし、今アケチの目の前に立つその人物は、まさにその荒唐無稽ともいえるデタラメさであり――


 曰く生きる伝説の合気使い、曰く世界でも収まらない宇宙にも通じる武闘家、曰く神さえも凌ぐ武神、曰く合気道の常識を塗り替えた合気神――そんな異名の数々がアケチの中に想起されていった。そして――


「まさか、まさか、貴様が、あの、神薙 流、なのか? 神薙流とやらの……」


 遂にアケチが、核心を突く問いを、彼に投げかけた。


 それに対する答えは――


「ふむ、そうですね。神薙流の神薙 流ということでしたら、確かに私の事です」

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