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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

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第三三一話 アルドフとユーリ

「……まさかバレていたなんてね――」


 アルドフは片耳に掛けられる程度な、イヤホン(・・・・)型の魔導具に手を当てつつ吐露する。


 向こう側の音声はナガレの言うようにしっかり録音済みだが、必要と思われる分だけ録らせた後、向こう側の魔導具は壊されてしまった。


「ごめんね、折角譲ってもらった魔導具を一つ駄目にしてしまったよ」


 すると、アルドフが振り返り、視界に捉えた彼に謝罪する。


 すると、別にいいよ、とにこやかに対応し。


「あれは、アルドフに譲ったものだし、それにそんなに大変なものでもないしね。片手間でも作れるし、必要ならまた作ってあげるよ」

「ははっ、これだけの魔導具を片手間でとは、流石に賢聖の孫は違うね」


 苦笑し、頬を掻きつつアルドフがいった。彼と話しているのは男性。


 少年と言うには大人びており、しかし青年というにはまだどこか子供っぽくもある、そんな成熟しきる一歩手前と言った様相をしている。


 髪の毛は黒色で前髪の毛先が緩やかに曲線を描いている、目は碧眼、どことなく人懐っこそうな目をしていた。身長は低すぎず高すぎず、しかし服の上からでも中々ガッチリとしているのが判る。筋肉のつき方は熊や虎のソレよりは狼や鹿のソレの方が近いと言えるだろう。


 全体的な雰囲気は利発そうであり、活発そうでもある。見たところ鎧は装備しておらず、ベストとズボンと言った普段着のような出で立ち。


 背中にはマントを羽織っている。


 しかし、腰にはしっかりと剣を帯びていた。鞘には収まっているが、施された意匠は中々に巧みであり、ただごてごてと見た目だけよくしたものではなく、職人芸と言ったこだわりを感じた。


 これだけの業物を持参している辺り、その剣がお飾りということはないであろう。


 そんな彼に向けて更にアルドフが続ける。


「それにしても、まさかユーリがわざわざ拠点までやってくるとは思わなかったよ。そっちは大丈夫なのかい?」

「う~ん、大丈夫というか、婆ちゃんから逃げてきたというか……」

「ああ、なんだ、また新しい研究が見つかったわけだ。ワドナー様も厳しいからねぇ」


 愉快そうに笑いながらアルドフが言う。


「厳しいというか、融通がきかないというか、ちょっと人を沢山のせて空をとぶことの出来る魔導器を作ってみようかなと思っただけなのにな」


 口をとがらせてユーリが愚痴るが、アルドフの笑顔は引きつっていた。彼の言っている代物がこの世界ではそれだけとんでもないということなのだろう。


「でも! ちょっと気になるな! 今の声の人、僕の魔導具に気がついたんだよね? びっくりしたよ。この魔導具つけた後は服でも肉体でもそれと同じように完璧に同化して、普通なら触っても絶対に気づかない術式を組み込んでいたのに、見破っちゃったんだよね? ね? ね? どんな人?」

「う~ん、どんな人かと言われれば、多分ユーリと同じ世界から来たと思う、すごい人、としか言い様がないかな。でも、かなり強いのは間違いないと思うよ。何かよくわからないけど、凄い技を使うしね」

「僕と、同じ世界! それに、すごい技って!」


 ユーリは興味津々といった様子で目を爛々とさせていた。このあたりがまだまだ子供っぽいところだろう。


 とは言え、アルドフはユーリにナガレが遠くから奇妙な合気という術で声を運んだこととその概要を伝えた。


「……アイキ……あいき、もしかして合気道の事かな?」

「うん? 知っているのかいユーリ?」

「少しだけどね。でも、確かにそれが使えるなら僕と同じ世界からきているのかも。う~ん、俄然興味が出てきたね。あ! そうだ、その盗賊の件とか、調査は進んでるの?」

「う~ん、ぼちぼちかな。でも、こっちはこっちで色々準備も進めないとだしね。メインはほら、帝国に反旗を翻すことだし」

「あ、そっか、それがあれば、いよいよだもんね」

「そうそう、おまけにお膳立てもバッチリだしね。ユーリから譲ってもらった通信型魔導具を通してビースティアから連絡があって、無事帝国で奴隷として非人道的扱いを受けていた同胞を保護したときたしね。これで間違いなく国境ではちょっとした小競り合いに発展すると思うかな。ま、ユーリ関係の魔導具があれば、ビースティア側の被害は皆無だろうけど」

「ふ~ん、でもそれも、ナガレという彼が助けた奴隷たちなんでしょ?」

「ははっ、まあそうだけどね。本当、彼のおかげで色々と捗るよ。勿論ユーリの協力も大きいけど」


 別に大したことはしてないよ、と笑顔を見せるユーリ。その表情はやはりどことなく幼く、直後何かを思いついたような、そう、少しだけ悪い笑顔を覗かせ彼に告げる。


「それより、さっきの調査の件、僕も手伝うよ。多分、僕が動いたほうが早いしね。嘘発見器の魔導具も試したかったし」

「う、嘘発見器? 本当に聞いたこともないような魔導具が次々飛び出してくるねユーリは。でも、大丈夫なの? まだ新婚さんなのに?」

「そこは大丈夫だよ。このダッシュ(加速機能付き)ジャンパーブーツ(短距離型瞬間転移靴)があれは移動時間は掛からないし、ゲートを開けばすぐに家に帰れるからね」


 笑いながら答えるユーリに、アルドフは後頭部を擦りやれやれと言った表情を見せた。


「そういえば、ユーリも十分に常識はずれなんでしたね。忘れてました」

「え~? そんなことないと思うんだけどな~」


 唇を尖らせて拗ねてみせるユーリ。自分で気がついていないところが恐ろしいと思うアルドフであり。


「それで、彼に恩を売ってどうするおつもりで?」

「あ! それじゃあまるで僕に下心があるみたいじゃないか!」

「違うのですか? 魔人を相手にしても、研究の成果が試せると喜んで倒してみせた貴方ですからね~ナガレにも手合わせをお願いして、自分の魔法や技術がどれほど通じるか試してみたいとか、思っているのでは?」

「ギクッ!?」

「口に出ていますよユーリ」


 全くと肩をすくめるアルドフであり。

 

「まあ、でも協力してくれるならありがたいかぎりです」

と告げ、一旦話を締めた。彼は彼でこれからやらねばいけないことがある。仲間を集め、いよいよ帝都に向けて進撃を開始しなければいけないのだ。


 なので、ユーリはユーリで一旦その場を離れ、盗賊と奴隷商人、そして王国側のアクドルクとの関係について調査を始めるのであった――






◇◆◇


「……な、なるほど、き、君はどうやら優れた鑑定能力を持っているようだね」


 ナガレが見事アケチのステータスと能力について看破し、そして説明する。


 それを耳にしたアケチは、平静を装っているが声はすっかり上擦っていた。かなりわかりやすい。


「そ、それにしてもよもや魔神の加護を受けているとは……」

「勇者どころか、災厄の申し子みたいなものじゃないか――」


 騎士たちが口々に語りだす。魔神は今となってはお伽噺のようなものともされているが、しかし実は単体では時折復活し、人々を恐怖させた。一番最後に魔神が現れたのも五〇年ほど前の事である。


 どちらにせよ、魔神は恐怖と破壊の申し子のような存在だ。そんな魔神の加護を受けている以上、アケチに対する目が変わっても仕方がなく、しかも今のアケチの台詞は彼自身がそれを認めたに他ならない。


「それにしても、魔神が本当に復活していたなんてね……」

「……でも、間違いない。私があったのも、魔神な気がする」


 ビッチェの話に、聞いていたピーチが、え! と驚いてみせた。結局それ以上詳しくは語らなかったが、以前ビッチェがこのままでは勝てないと認識した相手、あれこそが魔神だと、そう思えて仕方がないビッチェである。


 今思えばあれの言動にはそれを匂わせる物が多かった。特に悪鬼族の名を出した時、惜しいと言ってみたり、しかしそれでいて心外だと言っている辺りがその証拠でもある。


 なぜなら、魔人も十分に恐ろしい存在として認識されているが、もとを辿れば魔人は魔神の配下として忠誠を誓った存在だからだ。


 つまり魔神からしてみれば魔人などは所詮駒に過ぎず、その魔人と一緒にされるのが心外だったのだろう。


 どちらにしろ、ビッチェは考える。もしアケチに魔神の関与があることを連盟が気がついていたのなら、ここまで帝国に執着した気持ちも、判る気がすると――


 そんな事をビッチェが考えていた最中、ナガレと対峙していたアケチにも再び動きが見られた。


「ははっ、あはははは! 全く愚かな連中だ! この僕が魔神の加護を受けているとわかった途端、敵対心を露わにして、おかしいことこの上ない。全く、本当に、笑えないよ。さっきまでガタガタ震えていた分際で、調子にのるのもいいかげんにしろよ? 結局僕の優位に変化なんてないのさ。アカシア(ワールド)の記憶(データーベース)があるかぎり、あらゆる力を僕が自由に行使出来る。それに――」


 パチンッ、と指を鳴らし、相手を見下す表情。


「どうかな? これだけで、この世界に存在した神器の数々が僕のものだ。特に選りすぐりの三〇〇の神器だ。これを僕は手に触れなくても自在に操ることが出来る」


 毛先を弄くりつつ、得意がる。そんなアケチの目の前ではナガレ以外の面々が呆けた顔を見せていた。


「ふふっ、あまりに圧倒的すぎて声も出ないってところかな?」

「……いや、ていうか、どうみても三〇〇もないんだけど――」

「そう、この三〇〇の、は!? ない!」

 

 ギョッとした顔でアケチが現出させた神器を振り返った。それを見るに確かに三六本しかない。


「な、なんでだ! なんでこれしか!」

「貴方のスキルだと、そのレベルの武器で現存するものは、相手の許可なく勝手に持ってきてしまうようなので、流石にそのような窃盗行為を目の前でされて見過ごすわけにもいかないので、全て防がさせて頂きました。三六本は既にこの世界にはないものを複製品として取り出されたようなので、そのままどうぞお使いください」


 ナガレは目の前で堂々と窃盗行為に及ぶ相手を許せるほど甘くはないのだ。


「ふ、ふざけるなーーーー! これは僕のスキルで手に入る物だ! 窃盗行為なわけあるかーーーー!」

「いえ、立派な窃盗行為です」

「窃盗行為だよな?」

「窃盗行為ね」

「窃盗行為ですね」

「おいらも窃盗行為だと思うな~」

「……窃盗行為以外の何物でもない」

「例え地球でも立派な窃盗行為よ!」

「窃盗行為ね、委員長として見過ごせないわ」

「せ、窃盗行為だと思いますぅ……」


 窃盗行為だったのだ。

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