閑話 其の四 ミ・ツ・ケ・タ
ここから閑話が4話続きます。
閑話其の一から続くサトル側のお話です。
復讐系の話が続きますので本編より内容は重めです。
暴力的描写も過多になってますので苦手な方はご注意下さい。
「……え~と、オーガ三体とオーガブロス、更にオーガの変異種であるクレイジーオーガの討伐で、討伐金に魔核の買い取り合わせ三十六万ジェリーです。どうぞご確認下さい」
あぁ、と素っ気無く返しサトルはその金額を受け取った。
ギルド内ではその様子を見ていた冒険者達から驚きの声が上がっている。
「あ、あの、これでAランクになる資格が十分だと認められました。それで昇格試験なのですが――」
「悪い、色々忙しくてな、時間が取れそうにないんだ。また今度にしてくれ」
「え? ちょ! ちょっとトルサさーーーーん!」
受付嬢に呼び止められるがサトルはそれを無視した。
ちなみにこの世界にクラスの連中も来ていると判っているため、登録の名前は偽名を利用していた。
しかし――冒険者になってからこれだけの早さでAランクまで上り詰めるのは異例の事らしいが、サトルには興味がなかった。
ある程度の稼ぎは必要となる為、Bランクまでは試験を受け昇格しておいたが、Aランクまでとなると少々悪目立ちが過ぎると感じていたからだ。
だが、とはいえ――
「ちょっとやり過ぎたかもな。これだけあれば暫く金は問題ないしそろそろ潮時かもしれない」
『ふむ、つまりいよいよ目的に向かって動き出すというわけだな』
あぁ、とサトルは口角を吊り上げる。かなりの数の魔物を駆逐した。最初はゴブリンやコボルト程度が相手だったが、今はオーガ程度仕留めるのは造作も無いことである。
使役できる悪魔の順位も二桁程度なら問題なしに使いこなすことが可能だ。
「だが、問題はやつらがどこにいるかだが……」
「おい兄ちゃん」
「ガーゴイルでも使って偵察に向かわせるか? デビルミラーは場所を特定させるには記憶が必要だしな……」
「おい! てめぇ聞いてるのかコラ!」
ふと、無理やり男に肩を掴まれ、そのまま身体を後ろに回された。
あん? と不機嫌そうに眉を顰める。
すると彼の視界には、上背二メートル程の巨体がぽきぽきと拳を鳴らせ立っていた。
「……何か用か?」
「何かだと? チッ澄ました顔しやがって。用があるから呼んだんだよ。おいテメェ、さっきの態度はなんだ?」
態度? とサトルが反問すると男は顔を歪め。
「そうだよ! 俺が目をつけてるシェリーにあんなぞんざいな態度取りやがって、テメェ生意気なんだよ!」
(チッ、テンプレ野郎が)
心のなかで悪態をつきながらも、面倒事はゴメンだとサトルはニコリと媚びるような笑みを浮かべ。
「それはすみません。ですが僕にも少々都合がありまして、あまり長居しているわけにもいかなかったのですよ」
「ふんっ、そんな事をいいながら、昇格試験が怖いだけだろ? 随分と羽振りが良いみたいだが、どうせ卑怯な手で依頼をこなしてるんだろうが。だから本当は弱っちいのがバレるのが怖くて昇格試験を受けるのを断ったんだろ? お見通しなんだよこっちは!」
サトルは溜息混じりに、厄介なやつに絡まれたなと頭を掻いた。
「いでよ……悪魔の書三八二位イビルアイ――」
仕方ないなとサトルは相手に聞こえないぐらいの声で悪魔を呼び出す。
これは不可視の状態で使役できる目玉に翅がついたような悪魔で、打たれ弱いが相手のステータスを視る事が出来る。
ステータス
名前:ラズナ・ノモ
年齢:26歳
性別:♂
称号:屈強な戦士(無慈悲な暴漢魔:隠蔽中)
レベル:24
生命力:116/116
魔力 :0/0
攻撃力:82
防御力:80
敏捷力:43
魔導力:0
魔抗力:0
アビリティ
強筋(効果・中)
スキル
力溜め・強打・(半殺し:隠蔽中)・(ぶん取る:隠蔽中)・(姦興奮:隠蔽中)
(……なんだ屑か)
サトルは目を細め、ラズナが罪人である事をあっさりと看破した。
恐らく隠蔽効果のあるアイテムを装備してごまかしているのだろうが、イビルアイは隠蔽などあっさりと見破れる。
サトルは念の為、相手の装備やアイテムも確認したが、案の定、隠蔽効果のある指輪を装備していた。
ただ、装着しているのは真ん中の脚であり、ピアスのようにしてぶら下げている。
頭おかしいなこいつ、とサトルは眉も顰めた。
ちなみに称号は当然犯罪者特有のもの、隠しているスキルもそういったものばかりだ。
半殺しは半殺しにした相手の戦意を削ぐもの、こんなスキルなくても半殺しにされれば戦意なんて消え失せそうだが、まぁそれはいいとして、ぶん取るは殴りながら相手の持ち物を奪う、そして姦興奮は……そういった行為の最中に興奮度を高め一時的に体力を上げるというどうしようもないものだ。
当然こんなスキルを持っているのだから、その毒牙にかかった女も多いのだろう。
そういえば過去に何人か受付嬢が失踪する事件があったと耳にした事をサトルは思い出した。
恐らく犯人はこいつだろう。このままいけばサトルとさっきまで話していた受付嬢も碌な目に合わないことが予想される。
ただ、別にそれはサトルにとってはどうでも良かった。
今のサトルはそんな事に一々手を焼いている場合でもない。
実際この男の事も絡んでくるような事がなければ放置していただろう。
しかし――
「ふん、一人でブツブツ言いやがって。なんだビビったか? まぁいい。だったらテメェちょっと付き合え。テメェみたいな礼儀知らずな野郎は俺が直接躾けてやる」
「……判りました。でもこの辺ではちょっと……人の目もありますし、僕も流石にこんなところでボコボコにされるのは勘弁して欲しいですし、それに人に見られたらそちらも面倒ですよね? 自分も穏便に済ましたいですし、一度町を出て北にいった先にある森にいきません?」
サトルがそこまで言うと男はニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ。
「いい度胸だ。他の冒険者に見られたくないってか? まぁいい、確かに見られたら厄介だしな。だったらとっとと行くぞ!」
◇◆◇
「ひ、ひぃいぃいいいぃい! やめてくれ! 助け、頼むよ! 命だけは~~~~!」
サトルの目の前では右腕、左足、そして片目を失ったゴミ屑が転がっていた。
さっきまであれだけ威勢が良かったというのに、ほんのちょっとサトルが最近使役出来るようになったラシュラスカルを呼び出し、切り刻ませただけで、情けない声を上げて命乞いを始めたのだ。
『サトルよ、いくらなんでもこのような下賤な男に、これは力の無駄遣いであるぞ』
「あぁ、まぁそんな気はしてたんだけどな。でも一度ぐらい使って能力は見ておきたいし」
ラシュラスカルは、その見た目は少し上背の高い人間とそう変わらない程度の悪魔だ。
ただ人と違うのは全身が骨だけであること、頭蓋に二本、長大な角が生えていて、ついでに骨の腕を六本有している事ぐらいだ。
そしてその腕には一本ずつ剣が握られている。
この悪魔は剣術以外にこれといった特徴の無い悪魔だが、その分剣の腕は一流。
六本の腕を巧みに扱い、敵対する相手を膾切りにする。
ただ、そんな悪魔も相手がこれでは手応えがなさすぎて少々不満そうである。
「なぁ?」
「ひぃいぃいぃぃいいい!」
すっかり股間のあたりがビショビショに濡れてしまっている屑(既にサトルは相手の名前も忘れている)に無駄だと思いつつも問いかける。
悲鳴を上げてガタガタ震えるしか脳のない屑だが、もしかしたら何か知っているかもしれない。
「ここ最近、黒髪黒目をした奴らを見たか? 俺みたいに冒険者になって派手に稼いでるとか、見たこともない力を持ってるとか、とにかくそういった変わった連中の情報、知っていたら教えろ」
「か、変わった連中?」
「そうだ」
「そ、それを教えたら見逃してくれるのか?」
屑の発言にサトルの眉が跳ねた。この反応、何かを知っているのか、と男を睨めつけ。
「いいからとっとと知ってることを言え! 言わないなら今すぐ殺す!」
「ヒッ! わ、分かった言うよ! さ、最近確かに黒髪黒目をした連中が奴隷を買いあさっていたというのを聞いたことがあるんだ。もしかしたらそいつらがそうかなと――」
奴隷――とサトルは思い出したように呟いた。
この世界に奴隷制度が色濃く残っている事はサトルもここマーベル帝国を旅して回る内によく知っていた。
ここサウズ大陸では、ある一国を覗いては、サトルが物語でもよく知る奴隷制度が採用されている。
特に、この帝国では獣人の扱いは人間より劣り、よっぽどのことがない限りは獣人というだけで奴隷送りにされるほどだ。
だが、何故奴隷を? と一考するがすぐにある三人の顔が頭に浮かんだ。
三年A組の陸海空――あの屑共なら欲望を抑えきれず奴隷に手を出してもおかしくはない。
「おい! それでそいつらはどこにいるんだ? 他になにか情報はないのか!」
「ま、待ってくれよ! そんな次々言われても」
「思い出さないなら今すぐ殺す!」
「あ! そうだ思い出した! 思い出したぞ! ギルドでちらっと耳にした情報だ。確か黒髪黒目の三人が、逃亡した奴隷を追う依頼を請けたとか――なんでも獣人もえとかおかしなことを口走っていたらしいが……」
(もえ、萌えか、そんな事を言う三人組といえば……)
サトルの脳裏にある三人の屑の顔が浮かんだ。陸海空とは違う連中だが、復讐するに足る屑である。
「お、おいもう――」
「場所はどこだ! いえ!」
「た、確か、そうだ! キバだ! こっから南に二日半ほど歩いた先にあるキバ山地の麓の森とかそのあたりだよ確か! な? なぁもういいだろ? これ以上俺はぎひぃ!?」
すべてを聴き終えたその瞬間、ラシュラスカルの手で屑の首から上が吹き飛び、さらに胴体はグズグズの肉ミンチに変貌を遂げた。
そして、情報を耳にしたサトルの口角が吊り上がり――嬉々とした表情で呟いた。
「ミ・ツ・ケ・タ――」




