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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

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第三二八話 アレクトの想い

 時は少しだけ遡り――ビッチェがナガレの下へ向かい始めていた頃……。


「もう! フレムの馬鹿! この馬鹿! 馬鹿!」

「う、うるさいな! 仕方ないだろう!」

「仕方無くないわよ! 何が俺なら先生の気配が判るよ! この馬鹿! 馬鹿!」


 フレムの横に並んだピーチがひたすら彼に文句を言い続ける。

 そんなふたりのやりとりを、呆れた目で見ているのはついてきている帝国騎士たちである。


 そしてピーチが怒っているのは――フレムが得意げに、道案内は任せておけ! などと言い出しだことに起因する。


 ピーチの言っていたように、フレムは自分であれば、先生の残した気配を頼りに、あっさりと追いついてみせると豪語したのである。


 だが――その結果、この英雄の城塁(キャッスルヒロイック)内を無駄に駆けずり回る形になってしまい――端的に言えば迷ったのである。


「全く! 本当に信じられない!」

「そ、そんな事を言うなら先輩だって! 俺には任せておけないからって、先生と一番つき合いが長いのは私だから、どういうルートでいったかぐらいすぐに予想がつくとか自信満々で言っておいて! 魔獣の巣に飛び込んでいたじゃないかよ!」


 う! と目を細め喉をつまらせるピーチ。冷や汗もたらり、つまり図星である。

 確かにピーチの案内に従ってみれば、余計な魔獣の巣に飛び込み戦闘になってしまった。


「ま、まぁまぁふたりとも。でもそのおかげで帝国の騎士と合流できて、こうして正しいルートを教えてもらっているんだし」

「あはは、怪我の功名ってやつですね」


 カイルがふたりを宥めるように述べ、フレムの背中に乗るローザも頬を指で掻きつつ苦笑する。


 この迷宮にはアケチと一緒に攻略に向かった騎士もいたわけだが、その多くは植物に絡まれたり、眠らされたりして足止めをくらっていた。


 中にはなんとか束縛から逃れて、脱出を試みようとしたものもいたようだが、そういったものは件の魔獣の巣で襲われ危ういところでもあった。


 そんな騎士達を全て、彼ら六人や一緒にやってきた帝国騎士たちが介抱したり救出する形となり、その結果、細かい情報をつなぎ合わせ、中央にあるという大広間の位置までのルートが判ったのである。


 そして、現在はその場所に向けて突き進んでいる一行だ。尤もそのおかげで人数は一気に倍ぐらいにまで増えてしまったが。


 しかし、結果的に道案内をしてもらうことに繋がった為、無下には出来ない。


 なので結構な人数で迷宮を進むことになる一行だが、ただ、通路はかなり広めなのと、正しいルートさえ選べば途中の魔物や魔獣はほぼ先に進んだ者の手によって倒されていた為、大した苦労もなく進み――


 そして遂に一行は中間地点にあたる大広間についたわけだが。


「な、なんじゃこりゃーーーー!」


 フレムが叫び声を上げる。ピーチも目を丸くさせていた。ローザやカイル、アイカやメグミも驚きを隠せない様子で、着いてきていた帝国騎士はその光景に恟然としていた。


 何せ――その広間の真中には底が見えないほどの大穴が広がっていたのである。一体何をどうしたらこのような事になるのか、理解が出来ないことであろう。


 ただ、幸いなことに穴は出入り口付近にまでは達していなかったので、迂回すれば進むことはできそうだ。とは言え、足を踏み外してしまってはどうなるか想像もつかないだろうが。


 こうして、とりあえず右回りで迂回する一行であったが――


「あ! フレムちょっと待って!」

「あん? なんだよローザ?」

「ほら! あれみてよ! 女の人が!」


 ローザの指差す方にフレムが目を向ける。

 すると、確かに壁に寄り掛かるようにして腰をつけている女性。シャンパンゴールドの美しい髪が印象的な女性で、漆黒の鎧を身に纏っている。


「ふ、ふぇ~なんかすごく綺麗な雰囲気のある女性だね~」

「流石カイル、女性には目がないわね。でも、無事なのかしら」

「見たところ、肩は上下してますし、息はあるかと――」

「あ、あれは! アレクト様ーーーー!」


 ローザが答えていると、突如後方から騎士の一人が声を張り上げる。

 随分と大きな声に、フレムが眉を顰めたが。


「そうよ、確かにアレクトさんだわ」

「え、ええ、そうですね」


 それに倣うように、メグミとアイカも口にする。その様子を見るに、アレクトと呼ばれた彼女もまた、攻略組として同行していた騎士なのだろう。


 どちらにしろ、放ってもおけないため、一旦全員でアレクトの傍まで向かった。


「アレクトさん、大丈夫? アレクトさん?」

 

 気を失っている彼女に声掛けしたのはメグミである。どうやら道中メグミはアレクトと親しくしており、姉妹のようにも接していたようだ。


 同じ騎士というのも大きかったのかもしれない。


「それにしても、様ってことはお前らより偉いのか?」


 そんな中、彼女が目覚めるまでにフレムが帝国騎士に尋ねる。

 すると、当然だ、とついてきた騎士の中でも一番の纏め役っぽい髭の男が顎を引き。


「アレクト様は帝国屈指の黒騎士の一人。帝国の黒騎士と言えば実力も帝国騎士の中でも圧倒的であり、しかも女性の立場でありながら黒騎士にまで昇格したのはアレクト様ただ一人。我ら騎士にとって憧れの存在である」

「ふ~ん、なるほどねぇ――」


 そんな話をしていると、う、う~ん、とアレクトが喘ぐように発し、そして、その目が徐々に開かれていった。


「……ここは?」

「あ、気づいた! 良かったアレクトさん!」


 目の前で安堵するその顔に、あれ? メグミちゃん? と声を発し、そして頭を振り起き上がろうとする。


「あ! 大丈夫ですか? あまり無理をなさらないでくださいね。今、聖魔法で治療いたしますので」


 しかし、そんなアレクトにフレムの背中から下りていたローザが駆け寄った。 

 彼女は無事ではあるが、決して無傷というわけでもない。


「誰なのかこの方は? それに、私は、そうだ! あの男!」

 

 近づいていたローザを訝しげに眺めつつ、アレクトが思い出しように声を上げた。

 そして、再度立ち上がろうとするが、その途端苦悶の表情を浮かべ動きが止まった。


「だからいったではないですか。命に別状はないとは言え、お怪我はされているのです。治療が終わるまで無理はなさらないでください」


 今度は厳しい口調で述べるローザ。怪我人が無理をすることは聖魔導師として見過ごせないのだろう。


「そうですぞアレクト様。それに、この者たちは敵ではありません」

 

 すると、帝国騎士の中から髭面の騎士が前に出て、彼女へ進言した。

 そしてその後ろから他の騎士も、

「そうですぞアレクト様」

「どうか無理はなさらずアレクト様」

「アレクト様はいつみても素敵だ」

「結婚さえしてなければ今頃俺と、いや、しかし未亡人となった今なら俺にもチャンスが……」

と心配そうに(一部違うのも混じっているが)声を上げている。


「敵ではない、だと? いや、それよりもなぜお前たちがここにいる! どうして勝手に持ち場を離れているのだ!」


 しかし、そんな騎士たちに掛けられたのは、アレクトの叱咤の言葉であった。


 どうやらこの女性、かなり生真面目な性格らしい。


「落ち着いてアレクトさん。これには、事情があって……そうね、お互い情報交換したほうがいいかもしれないわね」

「……むぅ、確かに私も気絶している間のことは気になるな。判ったメグミがそういうなら――」

 

 アレクトのこの様子を見るに、メグミとの関係が良いのは確かなようであり、結果的に彼女に同行してもらって良かったのかもしれない。


 そして、ローザの治療が終わるまでの間、互いに情報を交換しあったわけだが――


「……驚いたな。まさかアケチ様がこの帝国を見捨てるおつもりだとは、にわかには信じられない話だ」


 顔を伏せ一考しながらもアレクトが述べる。確かにいきなり姿を見せた見知らぬ連中が情報源とあっては、それをすぐに信じろというのも無理な話かもしれないが。


「ですがアレクト様。我ら帝国騎士は、この者たちのおかげで命を救われました。アケチ様の策略を見抜いたというナガレという少年はこの者たちより更に強く随分と聡いという事、ですので、我々もこの目で確かめたく赴いた形なのであります」


 髭面の男が答える。そしてその途中で迷宮で危機に陥ってた騎士たちも、彼らの手で助けられたことも伝えていた。


 故に、敵ではないと称したのだということも、そして実際アレクト自身も褐色の女剣士、つまりビッチェと一人の少年の乱入により助かったということをある程度認識している。


「アレクトさん、実は、私もアケチとは前の世界で色々あって、信用してない部分が大きいの。それに貴方だって、今の話を聞いていると狂人化させられていたのですよね?」


 一旦はメグミに目を合わせたアレクトだったが、その話が出ると、目を背け、どこか返事に困っているような朧んだ印象。


「……確かに私はアケチ様の手で狂人にされた。でも、それは私自身も気がついていたこと。例え狂人になってでも、復讐を果たせればそれでいいと、そう思っていた――」


 そして、どこか物憂げに気持ちを吐露する。復讐のためならば、手段なんてどうだっていい。それが彼女の本音とも思えるが、だが――


「チッ、馬鹿らしい。付き合ってられないぜ」


 フレムが、そんな彼女を否定するように口を挟む。


 すると、なんだと? とアレクトが眉を尖らせ険しい瞳を彼に向けた。


「貴様は! 所詮他人事だからそんな事が言えるのだ!」

「あぁそうだな、他人事だ。だけどな、てめぇのやってることが無茶苦茶なのは判るぜ。頭悪すぎて、ちゃんちゃらおかしいってなもんだ」


 フレムに頭が悪いと称されるのは中々に屈辱的な話である。


「貴様――そこになおれ!」

「ちょ! アレクトさん! まだ治療中ですから!」


 剣を抜こうとするアレクトを必死に止めようとするローザ。アレクトは、むぐぐぐっ、と奥歯を噛み締めフレムを睨んでいる。


「はん、怒るってことは自覚してるってことなんじゃねぇのかよ。大体、てめぇはそもそもどうして復讐なんてすんだよ?」

「そんなことは決まっている! 殺された夫の仇を取るためだ!」

「そうかよ。だったら、なんで狂人化なんて望むんだよ? そもそも狂っちまったら、仇を討てたかどうかもわからなくなるだろうが」


 腕を組み、目を眇め、ずばりとフレムが言いのける。

 すると、アレクトの動きが止まった。


「わからなく、なる?」

「そうだよ。狂人なんかになったら、記憶だってなくなんだろ? 自分が自分でなくなるのが狂人だ。そんな状態で復讐してどうなるってんだ。仇を討ったことすらわからねぇんなら、そんなのただ相手を殺してるだけだろが」


 わなわなとアレクトがその身を震わせ、そしてぺたんとその場に座り込んだ。


 完全に茫然自失といった様相で、ローザの治療は施しやすくなったが――それから少しの間を置いて。


「ははっ、参ったな。確かにその通りだ。全く、こんな単純な事にも気が付かないなんて、私も――どうかしてるな」


 そして、自嘲気味に彼女は笑う。

 そんな姿に、たくっ、とフレムが頭を掻きむしり。


「騎士ってやつは頭が硬すぎんだよ。だからいざってときに考えが一方通行になっちまうんだ。こまったもんだぜ」


 そんな事を言った。

 すると、治療しながらローザがフレムの方を見やり、そして大きく目を見開いた。


 一方で一通りフレムとアレクトの話を聞いていたピーチも愕然としており、カイルも笑顔が凍りついている。


「……なんだお前ら、その顔? どうかしたのか?」


「……あ、アレクトさん、治療は終わりました」

「え? あ、そうか、ありがとう。て、どうかしたのか?」

「いえ、ただ、フレムを治療しないと」


 ゆっくりと魔法による回復が終わったことを告げ、立ち上がるローザに、心配そうにアレクトが尋ねる。


 すると、ローザがそんな事をいいながらフレムに近づこうとした。


「は? 何いってんだ? 俺は別にどこも怪我してないぞ?」

「嘘! 絶対に熱があるでしょ! そうでないとフレムがあんなまともなことを言うなんてありえない!」

「はぁ!?」

「そうよあんた! どっかで拾い食いでもしたんでしょ! おかしいわよ絶対!」

「ふ、ふざけんなよ! 先輩じゃあるまいし拾い食いなんてするかよ!」

 

 フレムはピーチなら拾い食いぐらいすると思っているようだ。


「あ! もしかして魔物がフレムっちに化けているとか!」

「カイル! それだわ! えい! 悪霊退散!」

「そうよ! そうでなきゃお馬鹿なフレムがあんな、あんな真っ当なこと言うなんておかしいわ! おのれ正体をあらわせ化物!」

「フレムっち、今助けてあげるからね! えいえい!」

「は? いや、ちょ、やめ。いい加減にしろお前らーーーー!」


 ローザ、カイル、ピーチに追い掛け回されるフレム。ローザが聖魔法で浄化をしようとし、カイルが矢を射り、杖を棘付き鉄球に変えたピーチに殴りかかられるその様子に、自然と笑いがこみ上げる帝国騎士たちと、そしてメグミにアイカ、アレクトの三人であり――


「……全くおかしな連中だ。悩んでいたのが馬鹿らしくなるほどにな」

「ははっ、ですが、だからこそ信頼できるとそう思いますよ」

「はい、私も命を救ってもらいましたから」


 アイカとメグミの言葉に、ああ、そうだな、と微笑みつつ返すアレクト。

 

 そして、結局アレクトもまた、彼らとの同道を願い出た。

 

 幸いだったのは、アレクトはアケチの最終的な目的地を知っていたこと。

 そのおかげで――そこから先は彼らも迷うことなく、ナガレの下へたどり着き。


 そしてある真実を、目にし、聞くこととなるのだった――

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