第三二六話 神薙家への侵入者
「――パパ! なんなんだよあの連中! 貸してもらった駒全然使えないよ! 全員捕まったし!」
『……は? 捕まっただと? 馬鹿な、末端とは言え軍事用の散弾銃まで裏から提供してるんだぞ。なのに、そう簡単に捕まるわけがないだろう』
「それがあっさり捕まったんだよ。どうやったのか知らないけど――」
『……判った。まさか連中を使うことになるとは思わなかったが、裏ルートでその道のプロを派遣する。だからお前は一旦戻ってこい』
「連中? ああ、そうか。流石パパだ、それならもう安心だね。ふふっ、次に屋敷に乗り込んだ時の連中の青ざめた顔が思い浮かぶようだよ――」
◇◆◇
「こんな時間に神薙家へ何か御用ですかな?」
神薙家の塀を見上げる巨漢に、執事服の男が話しかけた。老齢の男性であり、顔に刻まれた皺も、色の抜け落ちた髪の毛も、それ相応の年月を重ねた印であろう。
そんな彼に話しかけられた男が天を見上げる。今宵はいい満月がぽっかりと空に浮かんでいた。男は巨漢だが、一見すると人の良さそうな細い目の持ち主である。
髪はスポーツ刈りであり、筋肉質の身体は上下濃紺色のスポーツウェアで覆われていた。
「いえ、実はこのあたりに最近引っ越してきたばかりでして、毎日のトレーニングは欠かせないものでちょっと近所を走っておりました。ですが、この家は凄いですね。初めてみましたが庭も広そうですし、屋敷も立派な日本家屋だ。もしかしたら神薙家というのはこのあたりでも有名な一族なのですか?」
人の良さそうな笑顔を浮かべて問う。格好的にランニングをしているといえば確かにそれで通じそうなものだ。塀を見上げていたのも、物珍しさからと考えれば理解できなくもない。
だが――
「やけに詳しいのですね?」
「……と、いうと?」
訝しげに眉をひそめ男が問い返す。
「いえ、初めて目にしたと言われているのに、庭のことや屋敷が立派な日本家屋だなどとよくわかるなと思いまして。ただでさえこれだけの塀に囲まれているというのに」
執事服の男がそう返すと、男の表情が無表情なそれに切り替わった。
「……近所から話として聞いていたものでね」
「なるほど、そうでしたか、それは失礼いたしました。ただ、一つだけお聞きしたいのですが?」
「……何かな?」
「貴方、堅気じゃありませんね」
「――ッ!?」
一瞬にして男が身構えた。表情が険しくなり、執事服の男を睨みつける。
「やはり予想通りでしたか。それにしても、殺気に敏感すぎますねぇ」
執事服の男が言う。彼はほんの少し殺気を突きつけただけだった、だが、それでも男は如実に反応を示した。
「……どうしてわかった?」
「香水などで上手くごまかしたおつもりかもしれませんが、こびりついた血の匂いというのはそう隠し通せるものではありません。それに貴方から感じられるソレは暗殺者特有のものです」
「――ははっ、驚いたな。まさかこんなところであんたみたいのに会えるとはね。とはいえ、こっちからしたらラッキーだ、向こうからのこのこやってきたのだからな」
「ほう、私がのこのことやってきたと?」
「そのとおりだ。この家の連中なら見せしめ候補は誰でも良かったが、あんたそれなりに腕が立ちそうじゃないか。つまり、あんたを倒せば、この家を守れるものはいなくなる」
男がそう断言すると、執事服の彼は呆れたようにため息をついた。
「全く、神薙家も見くびられたものです。私など、ただの執事でしかないというのに」
「ふん、そんな殺気を放てる執事がどこにいる。まあ、それでも相手が悪かったな」
言うが早いか、男は拳を地面に叩きつける。
すると、ボゴンッ! という低く鈍い響きを残し、二の腕までがアスファルトの地面に突き刺さった。
「こういうことだ。この俺の鉄拳に砕けぬものなし。握力だって一トンを超えるんだ。この腕に掴まれたら最後、あんたみたいな老人の骨なんて豆腐みたいに潰れてしまうさ」
腕を抜き、わきわきと指を蠢かしながら男が言う。
すると、執事は頭を振り答えた。
「全く、公共のものはもっと大事にしないといけませんよ。それにしても、そのような玩具で調子に乗るとは、なんとも情けない限りですね」
「……玩具だと?」
ピクリと男の眉が跳ねた。
「はい、どうやらフルメタル仕様に改造されているようですが、長年神薙家に仕えておりますと、そういった類が滑稽に思えてしまいます。機械に頼るということは、己の可能性を棄てているに等しいですからね」
執事服の彼がそう言い切ると、男の表情が変わり。
「だったら、試して見るんだな!」
熱り立った男が、執事の彼に殴り掛かる。すると執事は腰から伸縮自在の警棒を取り出し、迫る拳骨を避け腋をすり抜けながら警棒による乱打。
男の全ての関節に一撃ずつ叩き込む。
ぐはっ、とうめき声を上げ、男が大地に膝をついた。
「ば、馬鹿な、この俺の鋼鉄の肉体が警棒如きで……」
「鋼鉄の肉体? ご冗談を。ダイモンの方がよほど頑丈ですよ」
そういいながら小柄な自分より更に低くなるほどに跪いた男を見下ろす。
すると、キッと細い目で睨めつけてくる男だが――しかしその瞬間、執事の瞳の温度が極端に下がった。
その冷淡さに、思わず肩を震わす男だが。
「くっ! 冗談じゃない! 俺は暗殺界期待のホープだ! こんなジジィにやられてたまるかよ!」
「……若いですね。仕方ありませんな、ならば今ので大体わかりましたし、今度はこれで――」
そういいながら、執事が警棒をしまい、素手で構えだした。
「こ、今度は無手だと! 舐めてるのか!」
「いえいえ、それに元々私はあらゆる武器を使いこなすことも出来ますし、素手殺もいけるたちなので――」
執事が答える。本来なら素手喧嘩と称すところを素手殺としているところがポイントだが――男は、なめるなよ爺さん! と気勢を上げ、突撃。
再びその豪腕で、今度は掴み掛かってくる。何せ握力一トンを超える怪力だ、そんな腕に捕まりでもすれば堪ったものではない。
だが――男が執事に近づいたその瞬間、自慢の両腕が解体され周囲に散らばった。
「な、なんだと!」
「これが機械仕掛けの欠点ですよ。構造さえ理解できれば、私のような年老いた執事でも簡単に解体できる。これぐらいのことは執事として当然の嗜みです」
男が見せたように今度は執事が手をわきわきさせながら笑みをこぼす。
男は表情をこわばらせ、距離を取るように後ずさっていった。だが、その行動は作戦などという上等なものではなく、植え込まれた恐怖心からくるソレである。
「な、何物なんだあんた、堅気じゃないのは間違いない! だが、こんなこと出来るなんて、ただもんじゃねぇ!」
「失礼ですね。今は立派な堅気ですよ。私は黒井執治、神薙家に仕える事に一生を費やそうと誓った、ただの老人です」
「……黒井、執治? 黒井、黒井だと! その腕、その滲み出る殺意! 名前は変わっているが、あんたまさか、あの伝説の暗殺者、黒井 殺威、死神サツイ――」
「その名で呼ばれるのは随分と久しぶりな気がしますねぇ」
「あ、が――」
その瞬間、サツイ改め、シツジの拳が男の胸にめり込んだ。本来であれば心臓を突き破るほどの衝撃に、男が苦悶し白目をむいて倒れ込む。
それを、よっ、と抱え上げ――
「ですが、今の私は暗殺者ではなく、ただの執事なので殺しは致しません」
そういいつつ男を地面に寝かせ、更に続けた。
「とは言え、あまりにしつこいようだと――わかりませんけどね」
死を匂わせる文句を倒れた男の身体に落とすシツジだが、完全に気を失っているのをみて、といってもこれでは聞こえてませんか、と肩をすくめた。
「それにしても、私の事は知っていても神薙の名は知りませんか。あれから大分経っているとは言え、良かれと思ってやったことが裏目にでましたかねぇ……」
そう独りごち、空を見上げるシツジ。彼は思い起こす、当時の事を。
シツジは、当時は死神として名が通った暗殺者であった。業界でもナンバーワンの腕前を持つ彼だが、そんな彼に当時ある依頼が舞い込んだ。
――神薙 流を暗殺して欲しい。
それが彼に依頼された案件だった。その当時ある事件をきっかけにナガレは裏組織にもその名が知れ渡ってしまっていた。
だが、どれほどの腕前を持つ暗殺者を送ってもその全てが返り討ちに会い、しびれを切らした組織がついにサツイへ白羽の矢を立てたのだ。
そして組織から事情を聞いたサツイはナガレの暗殺に乗り出すのだが――しかし彼もまたその強さの前に屈服せざるを得なくなる。
それほどまでにナガレは強かった。彼の技術に比べれば己が培った暗殺術など児戯に等しいと思い知らされることになったのだ。
そして、同時に彼は組織から聞いていた彼と実際の人物像が明らかに異なることにも気がついてしまった。
サツイは確かに暗殺者だ。だが、彼には絶対に曲げられない矜持があった。それは決して一般人は手に掛けない。
殺す相手も、世間的にも屑と称されるようなゴミだけ、それが彼が自身に定めた掟だった。
故に、組織はナガレに関して全くデタラメな情報を伝え、極悪人と称し、いずれこの世界を恐怖に陥れる存在、故に今のうちに片付けておく必要があると伝え依頼してきたのである。
正直、腕利きの暗殺者がその程度の嘘を見抜けなかったのかという話ではあるが――しかし組織が彼に見せた映像に映っていた彼は、映像の中だけでもひしひしと伝わる化け物級のとんでもなさであり、確かにこれほどの男であれば、世界に仇をなす存在だとしてもおかしくないと感じてしまったのだろう。
そして、同時にこれ程の相手と存分に殺りあってみたいと、その感情が抑えられなかったというのもあるだろうが――
どちらにせよ、ナガレの人間性も察したサツイは、改めて謝罪に戻る、と言い残し一旦はその場を離れた。
そして、自分を謀った組織を潰し、更にその上に存在していた世界屈指の巨大犯罪シンジゲートをたったひとりで壊滅させた。
そして、その様子を動画に収めたものを他の裏組織にも送りつけ、神薙 流はこの私よりも更に強く恐ろしい存在と忠告し、二度と手を出さないよう警告した。
結果、裏社会のリストから神薙の名は末梢されたのだが――その結果、新世代に移り変わり、そもそも神薙の名を知らぬものが増えた形である。
ちなみに、その後サツイは暗殺者業を廃業させ、約束通りナガレの下へ謝罪に戻り、土下座をしながら傍に仕えさせて欲しいと願った。
その結果、紆余曲折はあったものの、今は神薙家の誇る執事としてその立場を確立させている。
そして、同時に今の彼は――
「いやはや、流石お祖父様。その腕前に陰りなしですね。私の出る幕ではなかったようです」
そう言いながら、ナゲルが姿を見せた。いつもの砕けた口調に比べると随分と畏まった感じにも聞こえるが。
「いやいや旦那様、いつも言っておりますが、執事の私に遠慮はいりませんよ」
「いや、そうはいっても妻のお祖父様ですからね」
あははっ、と苦笑するナゲルである。そう、彼の結婚相手、名は神薙 静だが、その旧姓は黒井 静、ずばりシツジとそして神薙家で家政婦を務めるヒトミの孫なのである。故に彼はこのシツジに対しては妙に姿勢を正してしまう。
「さてと……では旦那様、この男は私の地下室に連れて行って、色々と聞いてみると致しましょう。尤も、大した情報は掴めないかもしれませんが」
「あはは、お、お手柔らかに」
シツジは、基本的には頼りがいのある執事業こそが本業なのだが、時には昔取った杵柄というやつで、ちょっとした汚れ仕事を自ら成す事がある。
本邸とは別に、黒井夫妻が落ち着けるようにと別邸も用意されているが、その地下には広い倉庫があり、その一部を彼は詰問用に改造していたりもする。今彼が語った地下室とはそれの事だ。
「ところで旦那様、東門側からも何者かが忍び込んだようですぞ。尤も向こう側には今はアイキがおります故、あの程度であれば問題ないと思われますが」
「ええ、私もそう思って、先にこちらへ。でも、これから向かってみます」
そして一旦ふたりは別れ、ナゲルも東門へ向かうのだが――
◇◆◇
「うにゃん」
「……なんだ猫か――」
全身にぴったりフィットした紫色のラバースーツに身を包まれた男がそう呟いた。小柄な男で猿のような顔をしている。腰には鞭を巻きつけていた。
この鞭は調教用として以外にも先端に鉤爪などをつけて利用できたりもする。塀をよじ登ったのもこれを利用しての事であろう。
そして、何より目立っているのは横にいる動物の存在。
それはオランウータンであった。オランウータンが一匹、彼の横に付き従い、東側の塀から敷地内に侵入してきたのである。
だが、そんな一人と一匹の目の前にトコトコとやってきたのは、一匹の猫であった。三毛猫である。見た目には中々に愛らしい三毛猫である。
「ちっ、猫とは言え騒がれると面倒だな。ほれ――」
すると、猿顔の男は肉団子のようなものを猫の前に放り投げた、それを目にした三毛猫は、くんかくんかと団子の匂いを嗅ぐ。
「ふん、そうだ食え食え、それで毒でころっと死ね!」
男は吠えるが――猫はぷいっとそっぽを向いた後、前肢で団子を跳ね除けた。その団子が見事に大口を開けていた男の喉にホールインワン。
「うげえぇえぇ! 毒が! おえ、おえええぇえええ! おい、背中を叩け、団子を吐き出させ、げほっ!」
男が命じると、オランウータンが言われたとおり背中を叩くが、結構な怪力のためか前のめりに倒れた。おかげで団子は吐き出されたようだが尻を突き出したまま地面に顔をめり込ませ中々の醜態ぶりである。
「……にゃん(アホにゃん)」
それに、呆れたような目を向ける三毛猫であり。
「くっ! ふざけやがってこの駄猫が!」
男が蹶然し、猫に向かって吠え上げる。
「にゃにゃにゃにゃーん!(誰が駄猫にゃん!) にゃんにゃにゃにゃんにゃん!(大体あの程度の毒でこの我輩をどうにかしようなんて甘いにゃん!)」
「にゃんにゃんうるせーーーー!」
男が叫ぶ。しかしその声のほうがうるさい気がしないでもない。
「にゃんにゃにゃにゃにゃにゃん(それにしてもこんなものを持ってるなんてお前たち悪人にゃんね?)にゃにゃにゃにゃにゃんにゃにゃにゃん!(だけど運がなかったにゃん! 吾輩こそが神薙家の守護獣たる番猫、アイキにゃん!)」
三毛猫もとい、アイキが男とオランウータンに向けて言い放つ。
「だからにゃんにゃんうるせーってんだよ、猫の分際で人間様に向けて生意気なんだこら!」
「……(駄目にゃ、この連中猫語が理解出来ないようだにゃん。ご主人様なら理解してくれるのににゃん)」
アイキはため息をついた。ちなみにご主人様とはナガレの事だ。ナガレならば猫語もあっさりと理解できてしまう上話せる。まさになんとかリンガルよりも遥かに高性能、それがナガレだ。
「ちっ、まあいい、よく考えたら所詮猫だ。こんなの放っておいても問題ないだろ。おらいくぞウータン」
オランウータンを促すようにして、先に向かおうとする一人と一匹、だが、移動しようとするとアイキが立ちふさがり、更に逆に体を振ると、やはりアイキが、にゃん、と立ち塞がった。
「なんなんだこのうざい猫はーーーー!」
「にゃんにゃにゃん!(此処から先何人たりとも通さないにゃん!)」
アイキは猫だが神薙家に忠実なのである。
「くっ! このままだと動物園から逃げ出した事にし、事故に見せかけてこの家の何人かをぶっ殺し見せしめにしよう計画に支障出る!」
「にゃにゃにゃにゃん(とんでもないことを口走ってるにゃん)にゃにゃにゃんにゃにゃにゃん(でも自分からバラすあたりばかにゃん)」
アイキが目を細め言う。相手からしたら所詮猫と馬鹿にしているようだが、アイキは人語もしっかり理解しているのだ。
「チッ、仕方ねぇ、ウータン! やっちまえ! 品種改良によって通常のオラウータンの十倍の力を手にしたお前の力を見せつけてやるんだ!」
すると、ウータンがきらりとその眼を鋭く光らせ、瞬時に間合いを詰め、その長い腕でアイキを握りつぶしにかかる。
オランウータンの平均握力は五〇〇キログラム程度とされるが、この猿顔の男の言ったとおりであれば、品種改良によって五トンにまで握力が増強されていることとなる。
体格的にも圧倒的に不利なアイキ、このままではぺちゃんこにされる! と思いきや、その腕がアイキの体躯を掴もうとしたその瞬間、アイキがグルンっと高速回転。
すると、その回転に乗るように、ウータンの身体も激しく旋回し、その勢いのまま明後日の方向へ飛んでいき、地面に着弾。そのまま戦闘不能に陥った。
「な、なんだとーーーー! ウータンがオラウータンのウータンがこんな猫如きに! なんなんだこの猫はーーーー!」
「にゃにゃにゃにゃっにゃんにゃん(たかが十倍の力を持った程度じゃ話にならないにゃん)。にゃにゃん!(馬鹿にするなにゃん!)にゃんにゃにゃにゃっ、にゃにゃにゃにゃにゃん!(ご主人様に認められし、神薙流合気猫術の使い手アイキ様とは吾輩の事にゃん!)」
シャーーーーっと気勢を上げるアイキ。だが、狼狽する一方で男はアイキが何を言っているかに理解を示さない。
「くそ! くそ! 俺の自慢のオラウータンが! 絶対許さねぇこの糞猫が!」
すると、男はラバースーツの中からピストルを一丁取り出し銃口を向けた、が――
「にゃにゃん(それと一つだけ言っておくにゃん)」
すると、アイキがゆらりと陽炎のようにぶれ始め――アイキに向けて引き金を引いた男の視界から消え失せる。当然、弾丸も地面を穿つに留まり――
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ、にゃにゃらーーーー!(オラウータンじゃなくオランウータンにゃん、あほんにゃらーーーー!)」
男の顔の前に姿を見せたアイキは、そうツッコミを入れつつ、神薙流合気猫術奥義千手猫パンチを御見舞した。
当然だが、猿顔の男の顔はぼっこぼこであり、既に猿ですらない。
そのまま地面に倒れ意識を失う男。そんな男の顔に後ろ肢で土砂をかけるアイキである。
「お~アイキ~やってるな~」
すると、勝負がついたその場にのっそりとナゲルが姿を見せた。シツジに対してみせたものとまるで対応が違うが。
「にゃん、にゃにゃ(むっ、ナゲルにゃん)、にゃにゃにゃんにゃんにゃにゃ(今更のこのこ現れるなんて呑気すぎるにゃ)、にゃにゃんにゃにゃんにゃ(やっぱりこの家にはアイキがいないと駄目にゃんね)」
「お~そうか大変だったか~」
「にゃんにゃにゃん(そんなこと言ってないにゃん)」
話のかみ合わないナゲルにため息をつくアイキであり、もういいにゃん、と後は任せて立ち去ろうとするが。
「お~い、どこいくんだよ。ご褒美にジャーキーもってきてやったんだぞ? 食わないのか?」
「にゃんにゃにゃにゃんにゃ、にゃん!(そんなものにつられる安い猫だと思われたら困る、食べるにゃん!)」
あっさりと飛びついた。アイキはジャーキーが大好物なのだ。
「ははっ、いつも可愛いなお前は。ほ~ら、ほらほら」
そしてわしゃわしゃと撫で回すナゲルであり。
「にゃ、にゃん!(や、やめるにゃん!)、にゃにゃにゃにゃにゃん!(そこまでしていいのはご主人様だけにゃん!)、にゃ、にゃにゃん!(くっ、こんなことに屈しないにゃん!)」
そういいつつも、仰向けになりお腹を見せてゴロゴロするアイキである。
なでなでには勝てなかったよ――
そんなこんなで東側の件も片がつき、そちらもあわせてシツジにお願いするナゲルであった――
シツジが聞き出した情報やらミルが集めた情報やらで何か判るか!
と、いうわけで次回より本編再開です!




