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第三〇四話 ビッチェVSアスモダイ

「ぬははははッ、最高だ! やはり最高であるぞお前は、滾る、滾るぞぉおおぉおお!」


 褐色の女剣士ビッチェに向けて、興奮した声を上げるアスモダイ。その股間は隠そうともせずいまにも暴発しそうな状態を保ったまま。


 故にビッチェ曰く、デカいだけの下品な代物を、彼女は何度となく切り飛ばそうとしたが、どうやら悪魔のそれは恐ろしく丈夫らしく、いくら切りつけようともげることはなかった。


「ぬははッ、ここまで固くなったわしのこれはオリハルコンより硬い! いくら切りつけようと無駄なことよ!」

「……そう、残念」


 抑揚のない声でそう返し、アスモダイが力任せに振り回した大剣を躱す。だが、剣そのものは避けたものの、同時に巻き起こった豪風がビッチェを襲い吹き飛ばされてしまう。


 一気に天井近くまで持っていかれる程の風圧。しかし、慌てることなくビッチェは天井に両足と片手を付けた。ダメージはまったくないといってよいだろう、精々たわわに実った褐色の果実が激しく踊り狂ったぐらいだ。


「ぬははははッ、早くその甘く蕩けそうな果実にむしゃぶりつきたいものよのう」

「……お前には一生無理」

「これは手厳しい。だが、そこがまたいい、ぬはははははッ!」

「……いい加減うざい」


 煩わしいといった表情で眉を顰め、そして地面に着地と同時に手に持ったチェインスネークソードを振り回す。小さな刃を組み合わせ内部を特殊なワイヤーで通した業物だ。この剣は扱いは難しいが、使いこなすことさえ出来ればまるで鞭のような変幻自在の攻撃を可能とさせる。


 ただ、アスモダイは硬い。着衣している黄金の鎧も、ただの趣味の悪いだけの代物というわけではなく、しっかりと防具として機能しているようであり、更に言えばその肉体も堅牢だ。


「中々に面白い武器ではあるが、ほれ! これでどうだ!」


 すると、アスモダイがその三叉の大剣を利用し、なんとビッチェの振るう刃を巻き取り始めた。見た目にはまるでパスタを食べる時のフォークのようであり、くるくると巻くことで激しく動き回る刃を完全に絡め取ってしまった。


 ピーンっと刃が張られ、これでは折角のチェインスネークソードもかたなしである。


「さてどうするのだ? これでは武器はもう使えぬぞ? こうなっては仕方がない、大人しくわしに抱かれ――」


 だが、好色な笑みを浮かばせたアスモダイの表情が、ギョッとしたものに切り替わった。

 ビッチェが自ら刃を切り離したからだ。まるでトカゲの尻尾切りである。


「むぅ、自ら武器を手放すとはどういうつもりだ?」

「……こういうつもり」


 一言つぶやき、ビッチェは刃を切り離した柄を細く靭やかな足下へと持っていく。

 すると、カシャンっと音がして別の刃が装着された。


 そう、ビッチェの持つチェインスネークソードは元々は刃が分離した仕掛けであり、あとから付け足すことで長さが調整できるようになっている。


 これは逆に言えば、一本切り離しても、予備の一本を付け足す事が可能ということであり――しかもビッチェから切り離された刃がダランっと垂れ、アスモダイの大剣から解かれた瞬間も見逃さなかった。


 直ぐ様剣を振り、伸長した剣先が、アスモダイから離れた刃の尾と接合され、手元に戻っていく。


「……なんと器用な娘よ、ますます気に入ったぞ!」

「……お前に気に入られても嬉しくはない。そして、もうその手は食わない」


 鋭い目つきで言い放ち、かと思えばビッチェが地面へとその刃を振るった。


 むっ? と眉を顰めるアスモダイだが、ボコッと床が浮き上がり、かと思えば下から刃がつき上がってくる。


「むぅ、これはまた、中々面白い技をつかうものだな」

「……その余裕が腹立つ」


 次々と床から刃が飛び出してくるが、それをまるで遊戯でも楽しむかのように躱して楽しむアスモダイであり。


「ふむ、ならばこんなものはどうかな?」


 大剣を地面に突き立てるアスモダイ。するとアスモダイを中心に激しく爆轟し、巨大なクレーターが出来上がった。


 塵芥を大量に含んだ煙がもくもくと立ち込め、ビッチェの視界を塞ぐ。


「……視えない」

「ぬはははははッ、既に後ろをとっておるぞ!」


 宣言通り、アスモダイはビッチェの背中側に回っていた。悩ましい背中のラインを堪能しつつ振るわれたであろうアスモダイの一撃がビッチェの肢体に迫るが――


「むっ!」


 しかしその瞬間、刃の一つがアスモダイの一閃からビッチェを守り、更に別の刃がカウンターでアスモダイを狙う。


「……スネークチェインサークル――」


 ビッチェが一言呟く。彼女の足元にはいつの間にか円状に刃が設置されていた。しかもそれは刃が枝分かれした状態であり、これによりサークルへと近づいた相手へ、防御と反撃を同時に行ってみせたのである。


 しかもこのスキルは防御と反撃を自動で行う。大剣を防ぎ、更に残りの刃が踊り狂った。アスモダイの防具に守られていな部分を中心に攻め立てる。


 だが――アスモダイは口端を吊り上げ、反撃に対して構うことなく、そして防御した刃ごとその大剣を押し込んできた。


「うぉりぁあ!」

 

 気合一閃、既のところでビッチェが後方に下がるも、衝撃がその肢体を貫いた。


 軽々と舞う姿はまるで鴉の羽が如く、そのまま地面に身体を打ち付けゴロゴロと転がった。


 受け身も取れないあたり、今の一撃が相当強烈だったのだろう。


「……クッ――」

「ぬははッ、少しは効いたようであるな。しかし強い、流石わしが惚れただけある。美しいだけではなく強さも兼ね添えているとは素晴らしいぞ。序列六位以下の悪魔では相手にもならなかったかもしれんな」

「……それで褒めているつもりか?」

「勿論であるぞ。だが、相手が悪かったな。序列五位より上はそもそもレベルが違う。わしぐらいになると特にな。今のお前では逆立ちしても勝てぬわ。ならば、諦めてわしの嫁になっておいた方が利口だと思わぬか?」

「……まっぴらごめん」

「いけずだのう。わしは出来れば傷つけたくはないのであるぞ?」


 まるで、手加減をしてやっているんだぞ? といった物言いに、ムッと不機嫌そうに眉を寄せるビッチェであるが。


「……でも、認めてもいい。今のでも判った。確かにこのままじゃ格が違う」

「ぬははッ、ようやく認めおったか。ならば、いまからでもわしと契ろうぞ」

「……勘違いするな。あくまで私はこのままでは勝てないと言っただけ」


 ビッチェの言葉に、不可解そうに首を傾げるアスモダイ。そしてまじまじとその肢体を眺め、デレッと表情を崩した。


「それ以上何があるというのだ? これ以上色気を出されてはわしがどうにかなってしまうぞ」

「……勿論それも増える間違いない。でも、もう少し粘る」

「うむ、ねばるならわしと色々やってみるのが手っ取り早いと思うのだがなぁ」

「……いちいち鬱陶しい」


 腕組みをしアレをそそり立たせながら何やら良からぬことを考えているアスモダイであるが、ビッチェは再び戦闘態勢に、スネークチェインライトニングで電撃を帯びた刃を悪魔へと何度も叩きつけた。


「ぬはッ! この痺れは中々たまらぬ。より興奮してきたぞ!」

「……変態」

 

 だが、電撃は逆効果だったようだ。ビッチェも思わず罵声を浴びせてしまう存在。だが、それがまたたまらんと、大剣をやたらめったらと振り回し、その度に衝撃波が四方八方に飛び回る。


 ビッチェはビッチェで、チェインファングオロチなどで反撃も試みるが、広間の床などは元の形がどうであったか判別がつかなくなるほど破壊され、切り刻まれ、大蛇が這いずり回ったかのような後をそこらに残していくが決め手には掛けていた。


(……間に合うといいのだけど)


 そんなアスモダイにとっては熱い時間を過ごしている間、ビッチェは一人そんな事を考える。


 そう、ビッチェが本来の力を取り戻すための何かを、彼女はアスモダイと切り結びながら待ち続けていた――

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