第三〇三話 人の武人、骨の武人
ちょっと長くなってしまいました。
メグミや他の帝国騎士が見守る中、アシュラムとフレムの熾烈な戦いは続いていた。
そして遂にアシュラムが一六本の腕を解放。鬼骨流剣術一六刀流夢幻一六殺によってフレムは倒れ、体中血塗れになるほどに追い込まれてしまう。
しかしそんな最中、フレムはアシュラムの夢幻一六殺を見切ったと豪語したわけだが――
「……何? 見切っただと?」
「ほ、本当ですかフレムさん!」
「ああ、しっかり見切ったぜ、テメェの技は見切れないって事実をな」
『…………』
その場に微妙な空気が流れたのだった。勿論フレムの発言のせいだ。
「――ハッ、驚いて声も出ねぇようだな」
「呆れてるんですよ!」
フレムが微妙な空気をぶち壊すように、何故かドヤ顔で言い放つが、メグミが言下にツッコんだ。確かにこれまで賞賛していた帝国騎士もポカーンとしたり、あ、こいつやっぱアホだ、みたいな表情をしている。
「カカカッ、どうやらお前は本物の阿呆な山猿だったようだな」
「あん? うるせぇな骨野郎。大体俺はおかしな事を言ってないぞ、キャラクター的な事実を言ったまでだ!」
「も、もしかして客観的な事実といいたかったのかしら?」
目を細めつつメグミが言う。指を突きつけつつ得意げに口にするフレムだが、肝心なところで言い間違いをするあたり流石でもある。
「フン、つまり我に敗北を認めたというわけだな」
「は? 認めているわけないだろ。俺はただ見切れないといっただけだ、何せその技は見ていてもその妙な手の動きで惑わされるだけだしな」
フレムの発言に、アシュラムの骨がピクリと反応する。
「それにだ、その予備動作で相手の動きを遅らせ、そして一気に加速して一六の斬撃を叩き込んでくるが、それも一回目と二回目じゃ一つとして同じパターンがねぇ。そんなものはそう簡単に見切れやしないさ、残念だけどな」
そうフレムが断言する。だが、これは逆に言えば彼にはこれといった対策がない、と、そう明かしているようなものだ。
「カカカッ、確かに大体はお前が言ったとおりだな。だが、それはつまり手も足も出ないと自分からバラしてるようなものじゃねぇか? 敗北宣言以外の何物でもないだろ?」
「はん、お前こそ何を馬鹿言ってやがる。いいか? 見切れないと破れないは別なんだよ」
「……つまり吾輩の夢幻一六殺を破れるとお前は言いたいのか?」
「ああ、そのとおりだ。信じられないか? だったら試してみるんだな」
全身傷だらけと言った様相でありながらも、フレムはハッキリと言い放つ。
その姿をじっと見据えるアシュラムだが。
「……いいだろう、悪魔とは言え我も気持ちは武人よ、敢えてその挑発に乗ってやる! 敗れるものなら破ってみろ!」
そして再びゆらゆらとした相手を惑わす動き――だが、その瞬間、なんとフレムがその両目を閉じた。
「……眼を閉じただと?」
「ああ、こうすれば、少なくともテメェの最初の動きには惑わされねぇ」
そう言って構えを取る。確かにフレムの言うとおり、瞳さえ閉じていれば相手の動きを見てしまうことはないが。
「だ、だが、あれでは相手の攻撃も見れないではないか!」
「……いえ、もしかしたら彼は、【心眼】が使えるのかもしれません」
騎士たちが唖然とした様子で述べる。だが、メグミが何かを察したように口にした。
それに周囲の騎士たちも驚く。心眼という能力自体はどうやらあるようなのだが、そうそう会得出来るものではないらしく、それで驚いているのだろう。
「ほう、心眼か、ならば、それでどこまで出来るか見せてみるがいいわ!」
声を張り上げ、そこからの急加速、一六の斬撃がフレムを襲い、そして――再びフレムの身体が大きく吹っ飛んだ。
「ぐはっ!」
地面に叩きつけられ吐血するフレム。流石に三度目ともなるとシャレにならない。
それに、見ているメグミも思わず絶句した。
「そ、そんな、心眼でも無理だなんて」
「な、なんてこった、これじゃあ何も変わってないではないか」
「あ、あれだけ豪語していたのに、やはり破るのは不可能だったのか? 心眼では無理なのか?」
「と、当然だ、俺達帝国騎士でさえ、奴の剣筋はさっぱり見えないんだ。いくらなんでも――」
「だか、ら、ごちゃごちゃうるせぇってんだろ……そもそも俺は、心眼なんて覚えちゃいねぇ」
しかし慌てふためく騎士やメグミを他所に、フレムはまたもや立ち上がる。
だが、彼のその発言に、一様に目を丸くさせた。まさか、覚えていないとは、なのに何故目を瞑ったのか? と騎士たちも怪訝な顔を見せている。
とは言え、おかげでフレムは相当にボロボロの状態だ。満身創痍という言葉がぴったり来るような状況。
そして、アシュラムがフレムを振り返るが――そこにフレムを馬鹿にしたような表情はなく、腕の一本を掲げ語りだす。
「なるほど、見切れないなら、守りを捨てて、この腕を取ろうと、そういうわけか。だからこそ惑わされないように瞼を閉じ、切られた瞬間の反撃にのみかけたわけか、まさに肉を切らせて骨を断つだな」
わきわきと腕を一本動かしながら、アシュラムが言った。
それを認め、チッ、とフレムが舌打ちをしてみせる。
「カカカッ、だが、計算が甘かったようだな。見ての通り我の腕は無事だ。確かに見事にその双剣はこの腕を捉えたがな、一本でも切れていれば当然一六刀流は使えんが、残念だが元々我輩は剣相手への耐性は強い。相性が悪いんだよ、そもそもがな」
骨の顔で器用に相手を嘲るような笑みを浮かべたまま、アシュラムが語る。
それを真剣な眼差しで見やるフレムだが。
「しかし、まだ目が死んでないとはな。生意気な山猿だ。だけどな、そろそろ認めたほうがいい。そもそも我と貴様ではレベルそのものが違うのだ。文字通りの意味でな。それでも我の攻撃を受けて平気でいられたのは、貴様のその見切りがあったからだろう。だが、ソレを捨てて捨て身の戦法などに出ては、今度は間違いなく死ぬぞ」
アシュラムが諭すように語る。だが、これが正しいことはフレム自身が感じている事だろう。
それはこれまでの攻撃がアシュラム相手には殆ど効いていないことからも理解できる。
「へへっ、確かにな。だが、俺だってただ黙ってやられていたわけじゃねぇ。俺の剣ではダメージは与えちゃいない。そんな事は判っていた。だけどな、だったら戦法を変えるだけだ。丁度いい具合に俺の身体も温まってきたしな」
「カカカッ、また強がりか?」
「そう思うならその窪んだ眼でよ~く見ておくんだな。ナガレ先生直伝【体温調整】!」
声を張り上げたその時、フレムの身体からシュ~シュ~と煙が立ち上る。大量に流れていた血液が、グツグツと煮えだし、そして蒸発していった。
肌が真っ赤に染まり、地面もジュージューと音を立て始める。
「え? あれは一体、体温調整、まさか、体温を上げているの?」
メグミが眼をパチクリさせ呟く。何かのスキルなのだろうと彼女は判断したようだが、それにしても温度の上がり方が異常だ。
だが、その高まった熱のおかげで、どうやら体中に受けた傷が消毒され、更に自らの熱によって傷口が塞がっているようでもある。
数秒程であろうが、それぐらいの時が進んだ後には、フレムの肉体から出血は消え失せ、純粋な赤熱した肌だけが残されていた。
「……ふむ、妙な技を使うようだが、それがどうした? 身体の温度が上がったからといって、何が変わるわけでもないだろう」
「焦るなよ、この技はこっからか肝心なのさ。いくぜ! 【部分発汗】!」
フレムが何かの技を続けて行使する。だが、一見すると特にこれといった変化がないように思え、周囲の騎士たちもざわめき出す。
だが、メグミだけはその現象に気がついていた。そう、フレムの両腕からのみ、異常なほどの大量の汗が吹き出ている事に。
「そして、これだ!」
かと思いきや、フレムは双剣の刃と刃を高速でこすり合わせる。その瞬間双剣に明らかな変化。
「あれは、ほ、炎――」
そう、フレムの双剣から、メラメラと灼熱の炎が現出し、そして刃に纏わりついていた。
それは、まるでメグミの行使する魔法剣そのものであり。
「例え、剣での攻撃そのものが通じなくても、テメェは所詮骨だ。炎には弱いだろ?」
そう言ってフレムが炎に塗れた刃を突き出し、アシュラムに言い放つ。
だが、カカッ、と上下の顎を噛みならし。
「全く、何かと思えばガッカリだな。まさか貴様もそんな小細工に頼るとは、本当に心底ガッカリだ」
フレムを睨めつけるようにし、はっきりと言い放つ。まるで、自分には炎など効かないんだと言わんばかりに。
「だ、駄目ですフレムさん! その悪魔に炎は通じません、私も試したが駄目だったのです!」
そして、アシュラムの言葉を証明するように、メグミが叫び上げた。
フレムは、彼女を一瞥するが、しかしすぐに視線をもとに戻し、炎はそのままの状態を保ち続ける。
「おいおい、折角教えてくれたってのに無視かよ。まさか、信じてないのか?」
「信じてないわけじゃないが、あいつと俺の炎は違う。テメェには間違いなく、この炎が通じる。俺の眼が、それをしっかりと伝えてるんだよ」
真剣な目つきでフレムがはっきりと宣言した。それに怪訝そうな顔を見せるアシュラムだが。
「どうやらテメェは、身体で教えてやらないと判らねぇ阿呆みたいだな」
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ。テメェに俺の炎の凄さを刻み込んでやる」
「……言ってろ! 夢幻一六殺!」
そして、再びアシュラムが一六の腕で構えを取り、フレムが瞼を閉じる。それを認め、予備動作を行うことに既に意味は無いと悟ったのか、アシュラムは直ぐ様加速し、一六の剣戟が再びフレムを襲った。
フレムは最初から攻撃をもらうことを覚悟している、そんな相手には下手な小細工など意味はない、真っ向勝負からの切り合い。それを制したものが勝利する。
しかし、アシュラムには自分が負ける姿など想像も出来なかったことだろう。圧倒的なレベル差、さらに相手は防御も捨てている上、単純な斬撃はその骨の一本に傷を付けることすら叶わない。
それに、アシュラムには魔法の炎など通用しない。それはメグミ戦でも証明されていること――故に彼の勝利が揺るぐことなどない、そう考えていたことだろう。
「ほう、四本が燃えたが、しかも今度は立っていられるとはな」
だが、そこに明らかな変化があった。すれ違いざまの斬撃と斬撃、複雑に絡み合った攻撃は、フレムが四回、アシュラムは一六回、手数の上ではアシュラムが圧倒。
しかし、フレムに与えた傷は、直ぐ様その激しい熱によって塞がり、出血も蒸発する。
それ故か、フレムは今度は倒れることなくアシュラムを振り返り、その燃えるような双眸を同じく立ち続けている骸骨騎士へ向け続けていた。
「なるほどな、一見すると無事に見えるが――我輩を舐めるなよ。手応えはあったんだ、全くダメージを受けてないってことはねぇよな? 本当は今にも倒れそうなのを無理してるんだろ?」
「そっちこそやせ我慢はやめるんだな、腕が燃えてるぜ」
攻め入るように放たれるアシュラムの言葉。だが、強気な口調でフレムが言葉を返す。
彼の言うとおり、アシュラムの腕の内、四本は今もメラメラと燃えていた。灼熱の炎がその腕の四本を包み込んでいるのだ。
だが、アシュラムに慌てる様子は感じられない。
「カカカッ、阿呆が。さっきも言ったが、我に魔法の炎など通じはしないのだ。貴様のような山猿が魔法を使えたとは驚きだが、それはあの女にもやられたこと。だが無駄だ、こんなものは時期に消える」
「お前こそ何を言ってやがる。それは魔法の炎なんかじゃないぜ」
「……何? 魔法の炎じゃ、ないだ、と?」
「そうだ、よく見てみろ、もうその腕は真っ黒の炭になってやがるぜ」
「――ッ!?」
ここにきて、ようやくアシュラムの表情に変化。明らかな狼狽。
「くっ、くそ! 馬鹿な! ありえん! 魔法の炎以外で、我の骨を燃やす炎など、生み出せるはずがない!」
「それが出せるんだよ。先生直伝の技に間違いなんてない。俺の汗にはな大量に、り、り、りんりんやららんらんやらが含まれてんだよ!」
「え? り、燐の事?」
フレムはどうやら成分についてはうろ覚えだったようだが、メグミはその事にすぐ気がついたようだ。
「あ! そうか、それで腕のみに大量の汗を吹き出させて、それが双剣に流れるように調整したのね!」
そして、フレムの生み出した炎への解にも辿り着く。確かにフレムは剣に炎を纏わせる前、流した汗を刃に滴らせていた。しかも大量にだ。
だからこそ、フレムは一度両方の刃を擦り合わせたのである。摩擦で炎を生み出すために。
とは言え、本来であれば汗程度がここまで激しく燃えることはない。そこまでの燐が含まれることもないからだ。
だが、フレムの行使した技は合気にも通じる技術であり、この特殊な体温調整を行うことでフレムの体温は肌が赤熱するほどに向上する。
このことにより、体内の成分にも大きな変化が表れ、汗に含まれる燐の量も大幅に増える――これは合気学の常識としてもよく知られている現象である。
また、余談ではあるがこういった合気の仕組みを利用して生み出された燐は自然界に存在するものとは少々ことなり、合気燐と称されることもあり、故によく燃える。
フレムの剣に纏われた炎が魔法の炎にも負けないほどの熱を有しているのはこういった事情もあるからであり――
「クッ、まさか、まさかこんな事が、魔法以外でここまでの、我の腕が――」
「はっ、骨のくせに頭が硬すぎたな。いや、骨だから硬いのか? どちらにせよ、この炎は魔法なんかで生まれたもんじゃなく、て、て、てねん?」
そこまで言ってフレムは小首を捻り出した。どうやら言葉が上手く出てこないらしいが。
「と、とにかくこの炎は普通のすげー炎なんだゴラァ!」
「ええええぇえええぇえええええええぇええ!?」
メグミが驚きに満ちた声を張り上げた。なんとなく彼女にはフレムが天然の炎と言いたいんだろうなと理解できたようだが、それがここまで開き直れるとは、ある意味すごいなと思えてならないことだろう。
「ふん、凄い炎か、確かにな。だが、腕を四本失ったとは言え我とて悪魔としての誇りがある。主様の命令とて、ただ漠然と聞いているわけではないわ! そこの女には殺すだけの理由がある!」
その言葉に、メグミの肩がビクリと震えた。そして、居た堪れない様子で顔を伏せる。
「……そんな顔してんじゃねぇよ。先生があんたを助けると決めたんだ。だったら助けるだけの理由が先生にだってあった筈だ。それともあんたはあのコモリって野郎が言っていたような他の連中と同じ考えだったのか?」
「そ、それは、私は――」
メグミは口ごもり、フレムの問いにはっきりとした答えは示さない。
だが、ふたりの戦いから目を背けるのはやめたようだ。再びしっかりとその双眸を向けてくる。
「……まあいいや。俺もテメェも退けない理由があるなら、最後はやっぱこれで決着をつけるしかないわな」
「……カカッ、そのとおりだ小僧。我にはまだこの一二本がある。それで、十分だ」
語り、構えを取る。いつの間にか山猿から小僧に変わっていたのは、少しはフレムを認めたという証なのかもしれない。
そして――フレムも構えを取り応じる姿勢。その様相に、メグミは感じ取った。このふたりの武人による対決は、次の一撃で決まると。
「――征くぞ! 鬼骨流剣術一二刀流修羅一二閃刃!」
「先生直伝! 炎双剣回転炎舞!」
二つの影がぶつかり合う。その瞬間、炎の竜巻が天を突いた。フレムの回転と炎が相まって火炎竜巻と化したのだろう。
だが、同時に激しい剣戟の音も周囲に広がり、目に見える形で幾つもの斬撃が浮かんでは消えていく。
そして互いが互いのいた場所に到達し、その動きを止めた。フレムは今の一撃で限界がきたのか、肌の色も元に戻り、体中にはアシュラムが付けたと思われる深い裂傷がいくつも刻まれ、再びその身が血に濡れていた。
そしてアシュラムは――燃えていた、全身が、その骨が、炎に包まれ、轟々と。
その光景からは、どちらか勝利し、どちらが敗北したかはまさに火を見るより明らかであった――
「……あんた、強かったぜ」
語り、フレムがゆっくりとアシュラムへ振り返る。
「カカカッ、よせよせ、柄じゃねぇだろうが。テメェはドンっと構えてふてぶてしい態度を取っていればいいんだよ。だが、楽しかったぜ」
上下の顎を揺らしながら彼が応じた。全身骨と言った様相でありながら、その剣士は、最後まで武人であった。
フレムを振り返り、燃え上がった髑髏顔で満足そうに微笑んでいる。
「――ご、ごめんなさい!」
すると――なにかが胸の奥で弾けたかのように、アシュラムの前に飛び出してきたメグミが膝をつきアシュラムに謝罪を始めた。
「悪いのは私なんです! 私がサトルを、見捨てたから、だから彼はあんなことに、辛かった苦しかった! でも、結局私には何も出来なかった。いくら後悔しても、許されることではないと思う。私は卑怯な女なのです、我が身可愛さに、何が正義よ、私なんて、殺されたって仕方ないのに、なのに私なんかのために、皆、こんなに傷ついて――」
ボロボロと涙ながらに訴える。すると、アシュラムは炎に塗れた身体でメグミに近づき、その腕を振り上げた。
「おい! て――」
思わず止めようとするフレムだが――何かを察したのか、そこでフレムは動きを止めた。メグミはビクリと肩を震わすが、覚悟を決めたようにその瞼をギュッと閉じる。
だが――その刃はメグミの目の前、その地面に突き立てられた。
「謝るなら、相手が違うだろ嬢ちゃん?」
「……え?」
メグミが顔をあげる。すると、ふんっとアシュラムはない鼻を鳴らし。
「我は負けた、ならば潔く散るのみよ。主様との約束を守れないのは少々無念だが――だけどな、その気持ちが本当なら、あんたの口で伝えてやれ。そうすれば、もしかしたら主様のお気持ちも――いや、余計なことかこれは」
「……変わった悪魔だな。ただ使役されて仕方なく仕えていたってわけでもねぇのか」
メグミに手を出すことを諦めたアシュラムにフレムが問うように言う。
「カカッ、それだけの関係なら、我もここまで熱くはならぬさ。文字通り、熱々だがな」
「……まさか悪魔も冗談を言えるとは思わなかったぞ」
「カカカッ、最後のスカルジョークって奴よ。さて、冗談も言い終えたところで、ほれ選別だ」
そう言ってアシュラムはメグミの前で突き立てた一本を抜き取り、フレムへと放り投げる。
「……なんだこれ?」
「カカカッ、この状態でも最後まで燃えず残った業物、我が認め具現化したものよ。そのままでは使えなくてもその剣を鍛え直す素材にぐらいは使えるだろ、とっておけ」
「――チッ、仕方ねぇから受け取ってやるよ」
「カカカッ、最後まで口の減らない奴だ。さて、ではそろそろ吾輩も去るとするか――さらばだ山猿」
「黙れよ、骨野郎――じゃあな」
そして、アシュラムは燃え尽きその場から消え失せた。骨の一変さえも残さず、終わってみれはその負け方すらも見事な武人であった。
メグミも涙を流しながら、ありがとう、と漏らす。が、その時フレムがドサリとその場に崩れ落ちた。
「チッ、まいったな。少々無理が過ぎたぜ。悪い、俺はもう――」
「ば、馬鹿! 何を言っているのよ! 折角勝利したのに貴方まで死んでどうするのよ! 生きなさい! 先生に託されたんでしょ! 死ぬんじゃないわよ!」
すると、メグミが慌ててフレムに駆け寄り、その身体を必死に揺すりながら訴える。
だが――
「アホか! 何を勘違いしてやがる! 俺はもう疲れたから休むって言おうとしたんだよ! 大体先生を置いて弟子の俺が先に死ねるか! なめんな!」
「へ?」
大声でまくし立てるように叫びあげるフレム。その様子は、思ったよりも元気そうだったという――




