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第三〇二話 見切り

「あの赤髪、なんという男だ……」

「全くだ、あれだけなんども技を喰らいながら立ち上がるのだからな……」


 周りの帝国騎士から賞賛の声が上がる。そして同じく見ていたメグミも、その戦いぶりに胸が熱くなる思いであった。


 そう、ピーチが森の奥にてアルケニスと激闘を演じていた頃、ここでもまた赤髪の双剣士と骸骨剣士との間で熾烈な戦いが繰り広げられていた。


「鬼骨流剣術六刀流無残!」


 六本の腕がフレムに降り注ぐ。アシュラム曰く、相手に激痛を与え、その上体中から血液を逆流させる奥義。

 

 この攻撃を一度でも受けたなら、体中の血液が噴水のごとく吹き上がり――確実に死ぬ。


 その無残の二度目(・・・)を受けたフレム。つまり確実には死んでないのだが、とにかく二度目の奥義は確実に見切り、その六刀全てを躱してみせ、更に双剣での反撃を叩き込んだ。


「むぅ、我が無残まで凌ぎ、更に反撃まで決めてくるたぁな」

「だから俺に一度見せた技は通用しねぇって言ってんだろがボケェ!」

「あん? なんだとテメェ! 人間の癖に吾輩の攻撃を見切るのが生意気なんだよゴラァ!」

「うっせぇ、偉そうな事いって見切れるような技しか使わねぇテメェが悪いんだよ、この骨! 骨!」


「す、凄いけどどっちも口が悪い……」


 メグミはふたりの戦いぶりは賞賛しつつも、その人間性(骸骨性)までは評価出来なかった。思わず呆れ眼で見てしまうほどに。


「ふん、所詮二本しか腕を持たん劣等種が生意気なんだよ」

「一六本あるほうが不気味だろ。なんだその腕、握手する時どうするつもりだコラ」

「人間風情と握手などするか。特に髪の赤い山猿など、握手どころか全て切り刻んでくれるわ!」

「あん、やんのかコラ?」

「おう、いくらでも殺ってやる、今度は八本でな!」

「言ってる割にやることが地道なんだよ、どっからでもこいオラァ!」

「ぶった切るぞこのクソ猿がぁ!」


 互いに罵り合い、そしてぶつかり合う。態度といい、口調といい、気性の荒さといい、このふたり、実はかなりの似た者同士である。


 相手は骨だが、もしかしたら実は兄弟なんじゃないかと、メグミが勘違いしそうになるほどだ。ただ、冷静にみてみれば相手のアシュラムは骨である、そして一六本の腕がある。


「……よく見たらさっぱり似てないわね」

「は、はあ……?」


 呟くメグミに騎士が疑問顔を見せる。しかし外見的特徴がさっぱり重ならないなど、見ていればわかるというものだが、それが霞むほど性格的なアレが似ているということなのかもしれない。


「鬼骨流剣術八刀流八髏発破――」


 そして八対二の鍔迫り合いから、フレムは一旦距離を取り――そこへ狙いすましたかのようなアシュラムの技。


 八本の腕による息もつかせぬ高速の突きがフレムを襲った。音を軽く置き去りにするほどの鋭く速い刺突。


 しかもただ速いだけではない。そのひと突きひと突きがとんでもない威力を秘めているのは、突きの連打という一見単純な手にも関わらず、それによって巻き起こる暴風、深くえぐれる地面、これらの現象によって推し量れる。


 周囲で見ていた騎士たちも思わず固唾を飲み込む連打。恐らく今ふたりの周囲に少しでも近づこうものなら、その余波だけで下手な騎士などずたずたに切り裂かれる事だろう。


 だが、にも関わらずフレムは笑っていた。何故か、攻撃を仕掛けられている方なのに、とても楽しそうなのだ。


「二巡目だな、見切ったぜ!」


 そしてそう一言呟き、今度はフレムが反撃に転じる。正直あのような暴力的な突きをその身にとて少なからず受けているにも関わらず、立っていられるのが信じられない程だ。


 しかも、そこから今度は反撃にまで転じているのである。


「――チッ」


 すると、アシュラムが舌もない口で舌打ちっぽい音を鳴らし、弾けるように後ろに下がった。


「……我の突きに対して、切りを重ねてくるとはな――しかも途中から全て躱しやがった」

「当然だろ? 何度も言わせるなよ、俺の見切りに二度目は通じないぜ」


 斜に構え得意気に語る。しかも初見で受けた突きは見事にポイントをずらしきった為、それほど大きなダメージには繋がっていない。


 ただ――それはアシュラムにしても一緒であった。フレムに対し、ある程度は驚いたような素振りを見せているが、正直ダメージに繋がっているとはいい難い。


「それにしても、骨のくせにタフな奴だぜ」

「ふん、吾輩は骨太なのさ」


 返し、上顎と下顎を噛み合わせカタカタと鳴らす。


「とは言え、褒めてやるぞ。そして認めてやろう貴様をな。まさか我が、全ての腕を使うことになるとはな」


 その言葉に、え? とメグミが目を見開いた。これまでの流れでいけば、次は一〇本と言い出しそうなものだが。


「なんだ、もう一六本使うのか? 小細工はやめにしたってことかよ」

「ふん、貴様なんぞに少しずつ増やしていっても埒が明かんからな。それに、いくらお前がいい目を持っていようと、我が一六刀流は見破れないさ、絶対にな」


 アシュラムが断言する。表情のわかりにくい骨だけの顔だが、にも関わらず絶対の自信を覗かせていた。


「へん、だったらそれがハッタリじゃない事を願うぜ」

「フン、言っていろ、いくぞ鬼骨流剣術一六刀流夢幻一六殺――」


 アシュラムの腕が一気に広がる。一六本の腕が、その手に握られた得物が、いま牙を剥いたのである。


「……なんだ、その動きは?」


 これまでとの大きな違いに、フレムは違和感を抱いたようであった。


 そして、それは周囲の騎士にしても同じ。勿論メグミもだ。


 これまでアシュラムの動きはどれもが攻撃的で、野生の獣を思わせる荒々しさがあった。

 だが、今見せている動きは違う。一六本の腕がゆらゆらと、非常にゆっくりとした動きで変化していた。


 ただ、これまでと大きく違うのは、明らかに腕の可動域が広がっている事。同時に改めて一六本の腕のリーチを見比べると、それぞれの長さが異なっている事に気がつく。


 段階的に見ればそれぞれ拳一つ分程度の差だが、纏めてみてみれば、一番短い腕と、長い腕ではかなりの開きがあることがわかった。


 その腕がゆらゆらと、とても幻想的な動きを見せていた。可動域の広がりと長さの差により、互いの腕が重なり合い、交わりあい、しかも腕の一本一本が全く違う意志の下で可動しているように、バラバラな動きを見せていた。


「さて、征くぞ!」


 そして、どこか弛緩的な緩やかな動きから一変、アシュラムが掛け声とともに疾駆した。

 その動きはこれまでと比べ物にならないほどのものであり、一瞬にしてフレムの前に到達したその剣戟が一六本分、フレムへと降り注ぎ――アシュラムがその脇を駆け抜けた。


――静寂、アシュラムが通り過ぎた直後にそれは訪れた。骸骨剣士は剣を振り抜いた格好で静止し、フレムも構えを取ったまま暫し固まる。


 だが、それは僅か一拍ほどの刻。さわさわとどこからか吹いた風がふたりの間を通り過ぎた直後、ガハッ! と血煙を上げ、フレムが膝をついた。


「ふ、フレムさん!」

「慌てんな! 大丈夫だ!」


 思わず飛び出しそうになったメグミだが、それをフレムが制し立ち上がる。


 そしてその血濡れた身体をアシュラムに向け直すが。


「こんなもん、かすり傷だぜ」

「カカカッ、それが強がりであることぐらい、我にはわかるぞ。これまでと違い、かなり痛いところを切ってくれたからな。鈍感な山猿にも少しは効いただろうさ」


 アシュラムの言うとおり、確かにそのダメージは軽くはない。口に溜まった血を、ペッと吐き捨て、口端から滴る血を腕で拭うが、全身から吹き出している出血までは止められない。


「これまで、あのアシュラムの攻撃を受けても平然としていたのに、あそこまで……本気を出されるとこうまで違うのか」

「あ、あれだけ出血していたらそこまで持たないだろう」


 周囲の騎士たちからも口々に不安の声が上がる。今までは比較的安心してみられていたものが、完全に状況が一変した。メグミも心配そうにその戦いを見守っている。


 本来なら助けに加わりたいという思いも強そうだが、その戦いに圧倒され、思うように身体が動かない様子。


「ふん、帝国の騎士がごちゃごちゃうるせぇんだよ。助かったなら黙って見とけ。こんな骨野郎、この俺様があっさりとぶちのめしてやるからよ」

「強がりもそこまで行くとただの阿呆に見えるがなぁ。まあ、元々頭が良さそうには見えないが、カカッ」

「ふん、流石骨だけに煽りもスッカスッカだな。そんなものでムキになる俺じゃないぜ」


 そういいながら、構えを取るフレム。その眼は真剣そのものであり、アシュラムの動きを次こそ見切るという意志に溢れているが。


「ふん、まだ目は死んでいないか。だが、次で終わりだ。二度目なら見切れるなどという幻想をぶち壊してくれよう、夢幻一六殺!」


 そして再び腕がゆらゆらと蠢き出す。ゆったりとした動きから――一転しての加速。すれ違いざまに放たれる剣戟の数々。


 それを受け、今度はフレムの身が大きく上空へ吹き飛んだ。そして錐揉み回転しながら激しく地面へと落下し、呻き声を上げる。


 その様子にメグミの顔から血の気が引き、周囲の騎士たちも息を呑んだ。


「カカッ、今度はさっきより、より深く我が剣が捉えてみせたぞ。もう立ち上がる事はないであろうな、カカッ」


 歯牙を噛み鳴らしながらアシュラムが勝利を宣言する。確かにフレムの出血は一度目より更に酷く、とても立ち上がれそうには思えない。

 

 そう、思えないはず、なのだが――


「テメェは、何を勝った気でいやがる?」

「フレムさん!」


 ゆっくりと立ち上がるフレムへメグミの声が届く。


 その姿を、煩わしそうに見やるアシュラムだ。


「死に損ないのくせに、しぶとい猿だ」

「へっ、お前こそどこみてやがる。こんなのはかすり傷だって言ってんだろ」


 にやりと口元を歪めるフレム。だが、流石にその言葉が苦しいのは周りから見ても明らかだった。全身血だらけといった様相は見ていてとても痛々しい。


「黙って寝ていれば、もしかしたら助かったかもしれないと言うのにな。そんなに死に急ぎたいのか猿?」

「うるせぇ骨野郎。俺はこんなので倒れるほどやわな鍛えられ方をしてないんだよ。この程度で弱音吐いてたら先生に笑われちまう」


 ナガレが向かった城を一瞥しつつ、フレムが語る。そして、アシュラムに向けて剣先を突きつけ更に続けた。


「それに、こっちはテメェの技を見きったとこだ。もうやられはしないぜ」

「……何? 見切っただと?」

「ほ、本当ですかフレムさん!」


 フレムの宣言に、アシュラムは若干の驚きを見せ、メグミはどこか興奮した口調で言葉を発す。


 それを見ながら、へっ、と一言漏らし。


「ああ、しっかり見切ったぜ、テメェの技は見切れないって事実をな」


 そんな事を、何故かドヤ顔で言い放つフレムなのであった――

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