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第二九八話 ヘラドンナVSナガレ

 ナガレという少年が突如現れ、マイを守るといい出した。そのことにサトルは怒りを覚え、序列五位のアスタロスに命じ、ナガレに攻撃を仕掛ける。


 だが、圧倒的な体格差があるにも関わらず、巨人のアスタロスがナガレの手で吹き飛ばされ、しかも何故か悪魔の書に強制送還されてしまった。


 サトルの顔に悔しさが滲み、激情を胸に声を張り上げる。


「くそっ! 全く意味がわからないが、これでは暫くアスタロスは呼べん!」

「……ならばサトル様、ここは私めが!」


 するとヘラドンナが前に出て、手にした種を床にばらまいた。

 悪魔の植物を生み出す種だ。それによって芽生えしは巨大な口を三つ備えた花々。

 どす黒い色をした不気味な花弁が印象的でもあるが、その花から生えた触手にも先端に口がついている。


 しかも触手の口には鋭い牙が恐ろしいほどにびっしりだ。


「悪魔の花、デビルカサンドラです! 主様の邪魔をされる貴方を許すわけにはいきません。お覚悟を!」


 触手が伸び、四方八方から鋭い牙を生やした花弁がナガレを襲う。更に巨大な本体の三つの口から棘付きのまるで鉄球のような胞子が吐き出され、地面からは、伸びた蔦が槍のようにナガレに迫る。


 しかも、対象はナガレだけではなく、後ろのマイにも定められていた。マイの壁は修復されてしまっているが、イビルアイの鑑定で完璧な防御ではないことは判っている。


 サトルからすればメインのターゲットはマイなので、最悪ナガレは無効化さえできれば良い。とは言えヘラドンナの攻撃に容赦はなく、二人まとめて相手取るデビルカサンドラの攻撃は正に死を予感させるものだった。


 そう、普通ならばだ。だが、サトルが相手しているその少年に普通なんて言葉は全く当てはまらない。


 なぜなら少年は、迫る触手の軌道を僅かな動きで全て変え、胞子も跳ね返し、地面から生えた槍状の蔦も明後日の方向へ飛んでいき、しかもそれぞれの攻撃が攻撃を行った花自身に跳ね返るようにし、あっさりとデビルカサンドラを倒してしまった。


 しかも、やはり少年は一歩たりともその場から動いていない。


「そ、そんな、まさかデビルカサンドラが――こ、こうなったら私が出ます!」

 

 その少年の姿に、一瞬信じられないものを見たような目を見せるヘラドンナであったが、すぐに気持ちを切り替え直接ナガレに挑もうとする。


「……いや、ヘラドンナは下がっていてくれ」


 だが、それはサトルが制した。するとヘラドンナは即座に動きを止めるが、若干悲しそうに眉を落としてしまう。


「え? あ、そ、そうですよね、私ではお役に――」

「違う、こんなところで無理する必要はない。ヘラドンナには戦い以外でも――色々と役立ってもらってるからな、それだけだ」


 だが、サトルがそう述べると、ヘラドンナはどこか感動したように瞳をウルウルさせた。よほど嬉しかったのだろう。


「……その気持があれば、本来は大丈夫な筈なのですがね」

「何をわけのわからないことを。とにかく、こちらももう容赦はしないぞ」

「……今はまだ、聞く耳を持っては頂けないようですね」


 サトルが吠えるが、相変わらずその位置からは一歩も動こうとせず、ナガレは応じる構えだ。


 すると、今度は悪魔の書から大量の悪魔が生み出されていく。グレーターデーモンにレッサーデーモン、デスナイトにメズダークにゴズダーク、グリモクローラーに、ラシュラスカル、ネクロスやレオナードもいる。


 そしてサトルは、レオナードに強化魔法を施して貰った上で、その場所から一歩も動こうとしないナガレの周辺を悪魔で埋め尽くした。その量たるや悪魔の軍団と言っても差し支えない程だろ。


「次は物量で勝負ということですか」

「そういうことだ。戦いの基本は数で決まる。この数相手に一人ではどうしようもないだろう。さあ、ゆけ!」


 サトルの命令で一斉に悪魔が襲いかかる。天井付近に陣取ったグレーターデーモンやレッサーデーモンが闇の魔法や炎を吐き出し、地上からはグリモクローラーの怪光線に、デスナイトやラシュラスカルの飛ぶ斬撃、ネクロスやレオナードも遠距離から魔法や死霊を生み出してナガレに襲いかかる。


「ちょ、こんなの流石に無理!」

「いえ、大丈夫ですよ」


 マイが悲鳴を上げるが、ナガレには全く焦りがない。それもそのはず、何せ迫る魔法や炎、斬撃や怪光線は、ナガレに達する直前に全て軌道を変え明後日の方向へ飛んでいき、死霊もナガレの手でぐるりと回転して浄化され、そのついでにその場にいた悪魔が次々と放り投げられ、悪魔の書の中へと戻されていったのである。


 見かねたメズダーク、ゴズダークが今度はナガレに向けて特攻し、攻撃を仕掛けようとするが――どういうわけか二体揃って途中でバランスを崩し、お互いの頭をぶつけ合った後、その衝撃で何故か後方に吹っ飛び、それもまた悪魔の書に強制退去させられる。


「い、一体なんなんだお前は! 大体どうしていちいち悪魔の書に戻すんだ!」

「その方がわかりやすいかと」

「クッ!」


 サトルが悔しそうに歯噛みする。だが、確かにわかりやすかった。なにせ悪魔が一度書物に戻ってしまうと、消滅したとの同じ状態になる。つまり暫く再召喚出来ない。


 おまけに魔力はしっかり減っていくのでサトルとしては堪ったものではないのである。


「……待てよ、あそこから動かない?」


 そんな最中、サトルはふとそう呟くと、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべた。 

 すると、ナガレに向けてサトルが自ら飛び出し、そして攻撃が当たるギリギリの位置から横薙ぎに剣を振るう、それをナガレは見事に受け流してみせた。


 だが、それはサトルの読み通りだ、そこから一歩も動かないのであれば、この位置からの攻撃は受けざるをえないと思ったのである。


 しかもサトルはナガレが受け流した後にはすぐにバックステップで自ら距離を取る。


「何今の? 何がしたいの?」


 その行動にマイが眉を顰めた。攻撃を仕掛けるには中途半端な手にみえたからだろう。


 だが、これでいいのさ、とサトルは笑みをこぼし、その瞬間、ナガレの左肩に黒猫の人形みたいな悪魔が現出した。片目だけが異様に大きく、口が耳まで裂けた不気味な悪魔である。


「どうだ! キャスパリーグを仕掛けてやったぞ!」

『……中々セコい手だなサトル』

「う、うるさい! ヒットアンドアウェイだ! 戦術なんだよ!」


 悪魔の書とちょっとしたやり取りを見せるサトル。確かにキャスパリーグならば、とりあえず攻撃に触れてくれれば仕掛ける事が出来る。


 そしてナガレの肩に乗った黒猫がナガレの顔を見ながら、キヒヒヒヒヒヒッ、と笑った。


「な、なんか不気味ねそれ」

「そうですか? 中々可愛らしいと思いますよ」


 マイはキャスパリーグの横顔とその笑い声に眉を顰めたが、ナガレは笑顔を見せ、キャスパリーグの頭を撫でててみせる。


 それに驚くサトル。なぜなら本来はキャスパリーグには触れることさえ叶わない。


『ジィイィーーーー――』


 すると、キャスパリーグがナガレの顔を覗き込み、じーっと見つめだす。


「……なんか言われてみると結構可愛いかも――」

 

 するとマイも悪魔に対する評価を変えた。キモかわいいというタイプなのかもしれない。


 そんな中、キャスパリーグが突如グルンっとサトルへと顔を向け大きな視線をサトルに合わせ言った。


『……ゴメン、ムリ』

「はぁあああぁあああぁぁああ?」


 思わずサトルが大口を開けて驚嘆する。何せナガレの肩に仕掛けたキャスパリーグが、そんな事を言い残して自ら消え去ったのである。正確には自ら悪魔の書に戻っていったのである。しかもそれからいくら呼びかけても全く反応しない。華麗なるボイコットである。


「ふざけるな! と、いうかお前そんな風にも喋れたのかよ!」

『……我もこのような反応は初めてであるな』

 

 サトルが憤る。悪魔の書も戸惑い気味だ。何せサトルとしてはあまりに想定外だ。


 サトルの考えではナガレという少年がその場を動かない以上、この手は万全なものであった。

 

 キャスパリーグはその本体には一切の攻撃が通じず、肩に乗って笑い声を上げ続ける。唯一の解除方法は仕掛けられた相手が仕掛けた人物に触れることであったが、これもその場から動こうとしないなら成し遂げようのない条件であった。


 そして一定時間が過ぎればキャスパリーグの呪いが発動し、相手は一切のスキルやアビリティを封じられる。先程からこのナガレという少年は奇妙な技を使って勝手に悪魔を本の中に戻しているが、それさえ封じれば後は恐れるに足らずとそう考えていた。


 それが、まさかの無理発言である。確かにこの悪魔は相手の強さによって呪い発動までの時間が長引いたりするが、まさかよりによって無理だとは――


「くっ! なんなんだお前は!」

「そろそろ大人しくお話を聞いてくれる気にはなりましたか?」

「うるさい黙れ! 話なんて俺にはない! お前がそこをどけないと言うなら、無理矢理でもどかすだけだ!」


 そして、遂にサトルはその場に序列第一〇位のフルーレティ、第七位のベルゼブ、第六位バベル、第四位デスクリムゾン、更に第二位のテスタメントを呼び出した。

 

『ふむサトルよ、随分と奮発したな。これだけの悪魔を今呼び出すとは、しかしいいのか?』

「……大丈夫だ、いくらなんでもこれだけの力を持った悪魔が遅れを取るなんて事は――」

「主様、あの少年はどなたですか?」


 悪魔の書と会話していたサトルだが、そこへテスタメントが口を挟んできた。


「あれはナガレという男だ。素直にどければいいものを、俺の復讐相手であるマイを庇うなんてな。だからテスタメントよ、お前もあいつがどうしても邪魔建てすると言うならその拷問じゅ――」

「ナガレ――見た目もそうだが、なんという美しい名だろうか……」

「は?」


 サトルが顔を歪め、その拷問官を振り返った。その眼は何故か濡れていて、顔も上気している。


「……お前、そういう、アレだったのか?」

「…………」


 テスタメントは何も答えなかった。ただ、熱い視線だけはナガレに伸びていた。それが、答えのようなものであった。


「――とにかくだ! これから来るであろう三体の悪魔を加えれば、俺が呼び出す中でも最強の悪魔たちが集結する!(アスタロスは戻されてしまったが)、観念するなら今のうちだぞ!」

「その三体というのは、アシュラム、アルケニス、アスモダイの三悪魔ですよね?」

「……そうだが、何故知ってる?」


 怪訝そうにサトルが問う。するとナガレは、ふむ、と顎を押さえつつあっさりと答えた。


「それならもう戻ってくることはないと思いますよ。私の信頼する仲間がそれぞれ相手をしてますからね」

「…………は?」


 その回答に、再び怪訝そうに眉を顰めるサトルであった――


 

キャスパリーグ「コンナノ、マジムリ」

次回から他の仲間の様子も……

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― 新着の感想 ―
[一言] 舞も悪魔も無傷▪▪▪良かったね!明智一族は10親等まで冥界に落としてね❤️
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