第二九五話 乱入! 杖で殴る少女!(と赤髪)
巨大な城をバックに、大地を揺るがすほどの轟音が、その場を支配した。
その灼熱を見続けるは少女。吊り上がり気味の瞳からは気の強さがにじみ出ているが、同時に意志の高さも感じられる美少女だ。
そしてその少女は、炎の渦に包まれた何かに向けて、やった! と喜んで見せる。
だが、それは結局ぬか喜びに終わった。なぜならこれだけの炎に包まれながらも、その骨の剣士は全く怯む様子もなく、ダメージも受けていなかったから。
しかも一六本もの腕を持つ、多腕の骸骨剣士はその四本の腕を持って炎を巻取り、ご丁寧にも少女に向けて打ち返したのである。
短い悲鳴を上げ、少女が大地を転がった。その姿を認め、骸骨騎士はあっさりと言い放つ。
「この俺に四本使わせるほどの火力は中々だが、骨だから火に弱いという考えは安易すぎたな。悪いが俺はアンデッドとも違う悪魔だ。そして魔法への耐性は特に高い。この程度温いぐらいだ」
その自信満々の様相に、片膝をつきながら悔しそうに呻く少女。その姿に更にアシュラムはカタカタと耳障りの悪い音を奏でた。
「ま、いくら吾輩でも魔法以外の炎で今のをやられると堪えるが、こんなもの魔法でもないと無理だしな。くくっ、さて、後はどうしてくれ――」
「どっせぇえええぇえええぇええええい!」
「グギャッ!」
「は?」
「え?」
アシュラムがまだ何かを語っている途中の事であった。突如その場にそぐわない気合の声が響き渡り、かと思えば少女の背後に忍び寄っていた蜘蛛の化物が、放物線を描いて飛んでいく。
その様相に、全身これ骨、といった姿でありながら、骸骨剣士は上顎と下顎をぱっかりとあけて唖然とした表情を見せた。
そして、それは骸骨剣士と対峙していた少女にしても同じであり。
「な、なんだテメェは! 一体どこから出てきやがった!」
「横からよ!」
「はぁ?」
「てか、あんたちょっと目が悪いんじゃないの? もう一人来てるのに、みえてないみたいだし」
「は? もうひと――」
「おら、この骨野郎!」
そこへ更に乱入する赤髪の男。両手に双剣を持ち、空中から骸骨剣士へと切りかかった。
「な、なんなんだ貴様は!」
「先生の一番弟子のフレム様とはこの俺の事よ!」
「くっ、何をわけの判らんことを! 【鬼骨流剣術二刀流骨卍】!」
フレムの双剣を受け止め、押し返した後、骨の剣士が二本の腕で、空中に卍を描く。その剣筋見事しか言いようがないが、しかしフレムは既のところで後方宙返りでソレを躱し、一旦距離をとった。
「え、え~と、これは、一体、な、なに?」
そして突然の乱入者に戸惑う物がまた一人。そう、最初に骸骨剣士と戦いを演じていた少女である。
「大丈夫ですか?」
するとそんな少女にいつの間にか近づいていた二人の男女、その内の一人、少女と同じぐらいか、もしくは一、二歳年下かといった髪の長い少年が語りかけてきた。
「え? あ、はい。あ、あの、え~と」
「……お前、運がいい。間に合ってなかったらあの蜘蛛の悪魔にやられていた」
すると、今度は褐色の美女が独特の雰囲気を醸し出しつつ、彼女に告げる。
え? と口にしつつ、同じ女でありながらも頬を染める少女。
暫くポ~っとしていたが、ハッと表情を変え、そういえばと件の化物が飛んでいった方に目を向け、そして何故か杖を構えて近接戦闘でも始めそうな雰囲気を持つ少女にも目を向けた。
「あ、あのごめんなさい。私、頭が追いついてなくて」
「これは失礼いたしました、私はナガレと申します。そしてこちらの女性はビッチェ」
ナガレが自己紹介をし、紹介されたビッチェも一揖する。
「そして今あそこで杖を構えているのがピーチ、杖で殴るのを得意としてます」
「酷いナガレ! これでも魔法使いなのに!」
ピーチが大声で訴えるがそろそろいい加減魔法使いという称号は諦めたほうがいいだろう。
「向こうでアシュラムと対峙しているのがフレムです」
「ふん、貴様フレムというのか」
「お前は骨のくせに名前があるんだな」
そんな事を口にし合いながら、睨み合う双剣士と骸骨剣士である。
「あ、そういえば私名前も言わず、ご、ごめんなさい。私はメグミといいます。なんというか今は魔法剣士やってます」
そういった後居住まいを治し、丁重に頭を下げた。流石委員長と言われていただけあってなかなかに丁寧である。
とは言え、ナガレが察した未来では本来彼女はここであの悪魔の手に掛かり殺されるところであった。
しかしそれは彼らの介入によって回避された。最悪の事態はまた一つ避けられた形である。
「ところで、あのこれは――」
「そうですね、では、あまり時間もとれないので、簡潔に説明させて頂きますが」
互いに名前も判ったところで、メグミが改めて疑問を発する。
なので、宣言通り、ナガレは合気も用い、手早く事情を説明した。
「じゃあ、コモリから話を聞いて……」
そしてメグミも素直に事情を飲み込む。
その時であった。
ピーチに向けて、何か粘着力の高そうな糸の網が飛んでくる。
しかし、ピーチは杖の形状をナガレもよく知る薙刀のように変化させ、飛んできた糸を切り払った。
「ふん! なかなかやるわね。でもね、不意を突かれたとはいえ、このアルケニスをそんなもので殴り飛ばしたお礼はしっかりその身体でとってもらうわよ――」
ピーチに殴り飛ばされ、森の奥にまで吹っ飛んでいった蜘蛛の悪魔アルケニスであったが、再び舞い戻るとピーチを睨めつけ脅すように述べる。
「ふん、いいざまだなアルケニス。そんな杖でよくわからん攻撃をするウシ乳女にやられるとは、お前よりこのアシュラムの方が序列が低い理由が判らん。今すぐ変わるが良い」
「うるさいわね。そういうあんただって、いかにも威勢だけみたいな野郎に手が出てないじゃない」
「誰が威勢だけだこらっ!」
フレムが目を怒らせて怒鳴り返した。相変わらずパッと見の雰囲気がチンピラっぽいのが玉に瑕である。
「……ところでナガレ、どうする」
「そうですね――」
すると、ビッチェがナガレを見つめつつ尋ねてきた。どうするとはこの戦闘についてや、先に見えている迷宮についてなどを総合しての質問であろう。
「ナガレ! この年増蜘蛛は私に任せて! なんかさっきの一撃根に持っているみたいだし! だからナガレは先を急いでサトルを追って!」
「先生! こっちの骨野郎は俺に任せておいてください! こんな骨と骨と骨でしかできていない骨は、俺一人で十分です!」
それはもはやただの骨である。
とはいえ、ふたりの意志は硬そうだ。
「ナガレ、お願い、私はまだ頼りないと思われてるかもしれないけど」
「先生、先生を差し置いて俺なんて、失礼かもしれないけど!」
「そんな事ありませんよ」
そして、更にふたりは懇願するように訴えるが、それに対しナガレは笑顔ではっきりと答え。
「ふたりの頑張りを私は知っています。ですから、ここはピーチとフレムに任せますよ。信じてますし頼りにしてますので」
そこまで言った後、それにリーダーの判断ですからね、とも付け加えた。
その返事に、ナガレ~と目をうるうるさせるピーチであったが。
「あ、あの、行くって中にですか?」
「はい、メグミさんはここで休んでいてください。あのふたりなら間違いありませんので。それと、これは途中で煎じておいた毒消しです、すぐに死に至るような毒ではないようですが、痺れてしまってまともに動けないようですので――」
そう言ってナガレは魔法の袋から取り出した毒消し薬をメグミに手渡した。
何せナガレはエルミールの店でも薬を色々観察していたので、この世界の薬学にもすっかり精通していた。なのでこれぐらいのことはお手の物なのである。
そして勿論これは、周囲で倒れている他の騎士たちのためのものであり、メグミも素直にありがとうと言ってソレを受け取った。
そしてナガレとビッチェは後を残った三人に任せ、迷宮の中へと入っていく。
それを見送った後、メグミはふと思い出したように口にした。
「あ! サトルの事聞いてなかった!? どうしよう――」
一瞬迷ったメグミであったが、やはり周囲の騎士の事も放って置けず――一旦は彼らの介抱に向かうのであった。
色々と変わってきてます。
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