第二十九話 水浴び
「それにしてもピーチさん、胸が大きいですね――」
泉へと移動後、服を脱ぎ泉の中へと飛び込んだピーチとローザ。
そして、暫く自然と水の冷たさを堪能した後、ピーチの肢体を眺めながらローザが羨ましそうに言ってきた。
そんなローザは肌に一切の汚れを感じさせない透明感のあるきめ細やかな白い肌を有しており、全体的に思わず守ってあげたくなるほど程の柔らかさをその身に宿している。
ただ、ピーチを羨ましがるだけに、その膨らみは若干控えめではある。
「私の事はピーチでいいわよ。てか私もローザって呼んでいい?」
「はい! 嬉しいです! 私あまり同姓の友達がいなかったから……」
そういってしゅんとなるローザにどこかぐっとくるピーチである。
なんとなく庇護欲が掻き立てられる面立ちなのが大きいか。
フレムに対してはかなり強気に思えるが、それ以外はどことなく控えめな感じなのがツボにはまったのかもしれない。
「う~ん、でもローザの肌は綺麗だし逆に私の方が羨ましいけどなぁ……てか友達いないってそうは見えないけどなぁ」
「あの……なんというかフレムを、怖がる人多くて――」
伏し目がちに口にするローザ。そしてフレムの顔を思い出し、なんとなく納得してしまうピーチである。
「いつもあいつ、いや、フレムと一緒に行動してるの?」
「私は一応聖魔術師になるので、怪我の治療などで別行動になる場合もありますけど、大体はそうですね」
ちなみに聖魔術師とは文字通り、聖道門を開くことの出来る魔術師である。
聖道門を開ける才能を持ちしものは教会の神官などの聖職に就くものも多いが、中には教会に属さないローザのようなタイプもおり、そういったものは聖魔術師と称されるわけである。
そしてその違いはステータスを見てもしっかり称号で反映されたりもする。
「ふ~ん……ねぇ、もしかしてローザってフレムと付き合ってたりするの?」
ピーチは水浴びを楽しみながらも、ついついローザに突っ込んだ質問をしてしまった。
勿論嫌がるようならこれ以上触れる気は無かったであろうが。
「え? あははっ、違います違います。フレムはなんというかただの幼なじみで、恋愛感情はないんですよ」
しかしそれはあっさりと笑い飛ばされた。照れてなどではない、紛うことなき否定である。
「そ、そうなんだ」
「えぇ、よく勘違いされますけどね。本当そういう気持ちはないので。ただ、あいつせめて私達が付いていてあげないと本当に独りになっちゃいそうだから――」
物憂げにローザが言を漏らす。色々と苦労はしてるんだろうな、と労るような目をピーチは向けた。
「そ・れ・よ・り――」
しかし気持ちを切り替えるように顔を上げ、ローザがどことなくキラキラした瞳をピーチに向ける。
「ピーチこそどうなのですか? ナガレさん、凄くかっこいいというか、凛々しいというか、素敵な方にみえますけど、やっぱりお付き合いしているとか?」
「な!? ち、違う違う! そんなんじゃないわよ! それに私まだナガレと出会ってそんなに経ってないし」
「えぇ、そうなのですか? 凄く仲睦まじく思えましたけど」
小首を傾げながらのローザの発言に、え? そう? と頬を紅潮させながら問い返す。
ピーチはまんざらでもなさそうだが。
「……ナガレ、私も興味、ある」
「ひゃん!」
耳元で囁かれたその響きに、ピーチが思わず飛び跳ねた。
「な、なな! あ、あんたビッチェ! な、なんでここに? いつからいたのよ!」
「……ふたりが入ってきた時から、いる」
うそ! とピーチが目を大きく身広げた。
ローザも驚いている様子。
ふたりとも彼女の存在にはさっぱり気がついていなかったのである。
「……でも、ビッチェさん、綺麗――」
思わずローザが声を漏らす。しかしこれにはピーチも同意せざるを得ない。
最初に出会った時から半裸に近い出で立ちの女であったが、全てを脱ぎ捨て生まれたままの姿になったその肢体は、エロエロであるにも関わらずどこか品が感じられる。
胸の大きさにはピーチも自信があるが、彼女のソレは更に立派だ。
だが、大抵はあまりにでかい乳房など下品に見られがちである。
しかしこのビッチェにはそれがない。褐色であるにも関わらず綺麗な薄紅色の先っぽは、つんっと上向きで、形の良さを如実に表している。
このような女性、男なら放っておく筈がないだろう。
そう、ナガレだって――そんな事を考えていると、ピーチは妙な対抗感も生まれるが、同時に劣等感に襲われる。
何せ彼女は女の魅力をこれでもかと押し出した、大人な女性である。
雰囲気だけなら幼く思われがちなピーチとは、女としての魅力に違いがありすぎる。
「……あ、貴女!」
遂にピーチは耐えられなくなり、ビッチェに向けて指を突きつけた。
「……何?」
「な、何じゃないわよ! あんたナガレをど、どうするつもりなのよ! 馬車の中でも、あ、あんな事してきて!」
「……あんなこと?」
首を傾げ反問する。その姿すら女の色気を感じさせるものだ。
「だ、だから! ナガレに手を嫌らしく、あんな、密着して!」
ピーチは両手で拳を握りしめ声を張り上げる。
すると、その様子にビッチェはクスリと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「な、何がおかしいのよ……」
「……可愛い」
「え?」
「……貴女、なんか、可愛い」
言って、ビッチェがピーチを抱き寄せた。うぷっ! と胸の谷間に小さな顔が押し込まれる。
かと思えば、ビッチェの手がピーチの臀部に移り――
「ひゃん!?」
「……小さなお尻、柔らかい――」
さわさわと弄られ、ピーチの嬌声が周囲に広がった。
近くで見ていたローザは突然のことに固まっているが、その眼はしっかりふたりの様子を捉えている。
「ちょ、ちょ、い、いい加減にして! 私、そ、そんな趣味はないんだから~~~~!」
堪らずピーチが彼女の胸を押しのけ、あんっ、とビッチェがその身を剥がした。
顔を真赤にさせたピーチが、はぁはぁ、となんとか荒ぶる呼吸を落ち着けようとする。
「……私も、別にそんな趣味はない。でも、可愛いからつい」
「あんた、ついでいつもこんな事するわけ!」
「……てへっ」
「てへっ! じゃないわよ!」
顔を真赤にさせて抗議するピーチだが、ビッチェに反省の色はない。
「……でも、ナガレは、冒険者として興味ある。今はそれだけ」
落ち着きを取り戻したピーチに、そうビッチェは説明した。
今はという部分が気になりはしたが、その言葉にとりあえず安堵するピーチである。
「あの、ビッチェさんは一人でこの依頼に参加してるんですか?」
先程まで顔を赤くして固まっていたローザだが、平静を取り戻すと思っていたであろう疑問を彼女にぶつける。
すると、ビッチェはコクリと頷いて返した。
「ソロで活動中って事ね」
「……今はそう」
ピーチはその言葉に、今は? と疑問げに復唱する。が、そこで突如ビッチェの目つきが厳しくなり、ふたりとは違い明後日の方向に視線を流す。
「何? どうかしたの?」
「……いえ、問題ない」
そういって顔をふたりに戻し、ビッチェは微笑を浮かべ。
「……やっぱり彼、面白い――」
そう一人呟いた――




