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第二八九話 最後の手段

サトル関係の復讐回が続いてます。


 それは覆し用のない圧倒的な差であった。レベル10万を超える相手などサトルにとっても想定外にすぎる。


 悪魔の書が思わずその差に驚愕するのも理解できる程に――


「さて、これからどんな手で僕を驚かせてくれるのかなサトルくんは?」 

 

 くすくすと笑いながらそんな事を聞いてくる。その余裕の表情に憤りを覚える。


 だが、この男の力は本物だ。ハッタリでもなんでもなく、ステータスをいじってそれっぽく見せているわけでもないだろう。


 それはサトルが使役していた多くの悪魔が尽く敗れ去ったことからも理解が出来た。既にサトルの手駒は序列二位と三位のアスモダイにテスタメント、そしてヘラドンナ――後は。


「くそっ! くそっ!」


 思わず悔しさがこみ上げる。それを、おやおや、と愉快そうに笑い飛ばすアケチだ。


 サトルがもう諦めたとでも思っているのかもしれない。


 だが、それは違った。サトルが悔しいのは絶対にやりたくなかったこの手に頼らざるを得なかったことだ。サトルの目的は復讐、ましてやこのアケチという諸悪の根源には、ただ命を奪うだけのような真似はしたくはなかった。


 だが――


「アスモダイ、テスタメント、頼む少しだけ時間を稼いでくれ、ヘラドンナも無理をしない程度に援護を頼む!」

「御意」

「承知した」

「主様の為にならいかようにも――」


 そして、アスモダイとテスタメントの二体が同時に動き出し、後方からはヘラドンナが魔法を行使しアケチの周囲に無数の植物が生まれ、トゲ付きの種を飛ばし、太い蔦がその身を縛り付けようとする。


「時間稼ぎにもならないよ、これじゃあ」

「舐めるなよ小僧!」


 アケチはあっさりと締め付けてきた蔦を切り裂くが、そこへアスモダイ来襲、その三叉の大剣を巧みに操り目にも止まらない斬撃を繰り返す。


 その一撃毎に地面が抉れ、空間に軌跡が刻まれた。斬撃に乗せられた衝撃はそれだけで下手な魔獣などは消し飛ぶほど。


 だが、アケチはそれほどの斬撃ですら、危なげなくかわしていく。


 しかし、逆方向に今度はテスタメントも立ち、巨大な鎌を奮っていった。鎌の刃はいくら奮ってもアスモダイの身体だけをすり抜け、アケチの首を取りにかかる。


 尤もその攻撃すらアケチは悠々とした表情で避け続けた。途中テスタメントの拷問術により、鉄の乙女が現出しアケチの身を引きずり込もうとしたり、ギロチンの刃が上からアケチを始末しょうと執拗に狙い続けたが、それらもあっさりと破壊されてしまう。


 ただ、アケチはこのふたりとの戦いを楽しんでいるようでもあった、だが、それが身を滅ぼすことになるんだよ、と思考しつつ、サトルはその悪魔の召喚を試みる。


『ふむ、まさに手段を選んでいる場合ではないということか』

「そのとおりだよ。悔しいが奴への裁きは地獄のエンマ様にでも任せるさ」


 エンマが何か悪魔の書にはわからなかったようだが、とにかくサトルは頁を捲り、その悪魔を召喚した。


 悪魔の書第一四位デスアイズを――


「今だ、離れろ!」


 そして、その巨大な目玉が顕現し、開かれる直前、サトルの命で二体の悪魔が左右に散った。

 悪魔の目がはっきりと見える位置にはアケチの姿。


 そして開かれたその巨大な瞳と、アケチの視線が交差する。目と目があったのだ。


――デスアイズ、その瞳を見たものは死ぬ。


 それは絶対的な死、抗えることなく、アケチは、あ――と一言だけ漏らし、ドサリとその場に倒れ込んだ。


「……やった、アケチを、殺した――」


 思わずサトルが安堵する。アケチは倒れたまま動く様子を見せない。サトルは勝利した、悪魔の力で、だが、やはり虚しさがその心を支配する。


 あれだけ臨んだ復讐を果たした筈なのに、全く嬉しくない。後悔のみがその身を支配した。


「マイ、アイカ、俺は、それに――」


 サトル様、とヘラドンナが隣に立ち、その両手を伸ばす。慰めようと思ってのことだろう。


 だが――


「な~んちゃって!」

「むぅ! が――」

「……あ――」


 ガバリと起き上がったソレが剣を振るい、その瞬間、アスモダイとテスタメントの身体が上下に分かれた。


 そして、ドサリと落ちた二体の悪魔は、戦闘不能となりその場から消え失せる。

 かと思えばアケチの手から放たれた光の槍がデスアイズの瞳を貫き、巨大な目玉が弾け消えた。


「アケ、チ、そんな、どうして、お前は、死んだはず! デスアイスの即死は絶対のはずだ!」

「それが絶対ではないんだよね。だってほら、僕、生きてるし、そもそもサトル、世の中に絶対なんてあり得ないんだよ?」


 ケラケラと無邪気な笑い声をあげながらアケチが言い放つ。

 

 そして一瞬サトルの脳裏に浮かぶ、敗北、の二文字。こいつには、絶対に勝てないと――


「サトル様お逃げください!」

「え?」


 呆けた声を出したサトルの視線に移ったのは、アケチに向け飛び出したヘラドンナの姿。


「主様にこのようなことを申し上げるのは心苦しいですが、この男は化物です! ですからサトル様は一度撤退を! 大丈夫ですサトル様であれば、まだやり直せます! ですか――」

「殊勝な考えだけど、それは無理かな」

「あ――」


 いつの間にか、アケチの凶刃がヘラドンナの胸を貫いていた。そして、刃をグリグリと回し、その靭やかな身体を弄ぶ。


「君、綺麗だからちょっと罪悪感はあるけど、仕方ないよね。そろそろ、死のっか?」

「あ、あ、さ、サトル、様、申し訳、あり、ま、せん――」


 最後にそう言い残し、最後の一体であったヘラドンナも切り裂かれ、その場から消え失せた。


「あ、ヘラ、ドン、ナ? あ、ああ、そんな、そんな、そんなそんなそんな、アアアアアアアアア!」


 全てをなくしたサトルから嘆きの悲鳴が上がる。

 その姿をやれやれと言った様子でアケチが見やり。


「無様だねサトル、さあ、君を守る悪魔はもういないよ? どうする? ねえ、どうするの?」

「あ、く、来るな、来るなぁあぁ!」


 戦いによって破壊された空間、そこらには砕け散った床の破片なども転がっていたが、サトルはそれを手にとってアケチに向けて投げつける。


 それはあまりに情けない悪あがきであった。


「絶対なる束縛――」

「あ、え? え、あ、か、身体が――」


 これまでの人を小馬鹿にしたような笑みを消し、冷たい目つきでアケチが囁く。

 その瞬間、サトルの自由が奪われた。相手の自由を奪うアケチのスキルが発動したからだ。


「本当にいいざまだねサトル。僕に復讐に来て、あれだけの悪魔を使って一ダメージすら与えられないんだから期待はずれもいいところさ。君ならもっと僕を楽しませてくれると思ってるんだよ? それなのに今の君はあまりに情けない」

「あ、あ、うぅ、くそ! くそ!」

 

 ひとしきり後悔の念を口にし、そして怯えた子犬のような目でアケチを見上げる。


僕を(・・)、こ、殺すのか?」


 すっかり戦意をなくしたサトルの瞳は、虐められていたあの頃と同じだった。毎日を絶望し、でも何も出来ず怯えて過ごしていた、あの頃のサトルそのものだ。


 その姿に、フッ、と嘲るように笑い。


「所詮お前はその程度なんだね。全くこれじゃあ犠牲になった妹も、お前を必死に守ろうとしたばかりに殺された(・・・・)両親も報われないよね」


 冷ややかな嘲笑じみた笑みを浮かべながらアケチが語る。


 その言葉に、え? とサトルの顔に動揺が走る。


「殺され? そ、んな、だって、父さんと母さんは自殺したって……」

「ああ、そうだったね、君にはそういう風に伝わっていたんだった。あはは、でも君も人がいいな、あの状況でそんな話を信じるなんてね」

 

 サトルを嘲笑いながら、更にアケチは真実を口にしていく。


「君の親はふたりそろって愚かだね。サトルは無実に違いないって街頭で署名運動まで始めていたんだ。それが流石に目障りでね、父さんもいい加減ゴミがうろちょろするのも不快だってことで、処理に乗り出したんだ。サトルの親は流石息子が息子だけに頭悪くてね。刑事が数人家にいって、息子さんが無実だと証明できる証拠が見つかりましたって伝えたら喜んですぐ中に上げてくれたんだってさ。本当、お前の無実を信じてた、あの子はそんな子じゃないって泣いて喜んでたらしいけどさぁ、ふふっ、よくそんな話を信じるよなって滑稽だけど、まあでもオツムの弱いおバカちゃんは警察手帳見せられたら信じちゃうのかな? まあ、向かったのも実際本物の刑事だしね」


 何がおかしいのか、ぷ~くすくす、と吹き出しながら、アケチは更に続けていく。


「で、後は今サトルが予想しているとおり、やっちゃったんだけどね。ああでも、君の母親美人だったんだって? 妹は母親似だったのかな? 処理に向かった連中は結構溜まってたみたいでね、だから泣き叫ぶ君の馬鹿な父親の前で、君のお母さん寝取られちゃったらしいよ。まあ、やめてやめてって泣き叫んでる相手を皆でそういうことに使ったんだから、寝取ったと言えるかわからないけど、馬鹿な両親はふたりとも面白いぐらい無様だったらしいね。父親はあんまりにも喚いてうるさいから、君のお母さんの前であっさり殺しちゃったらしいけど。で、あとは無様な母親の身体だけ味わって、廃棄しちゃったってさ。勿論自殺に見せかけてね、といっても鑑識も全員父の手のものだから、どうみても自殺に見えない酷い有様だったけど、自殺として処理させたらしいけどねぇ。あはは、ねぇどう? この話聞いてどう思う? 君の家族全員さ、お前のせいで死んじゃったんだよ? それなのに仇も取れないで、本当惨めだね君は。哀れだね、情けないね、お前なんかを産んだ家族が可哀想で仕方ないよ。お前さえ産まなければあんな酷い目にあわないですんだのに、だってそうだろ? 蓋を開けてみれば信じていた息子は、何の罪もない生徒を次々と惨殺し、しまいにはその家族まで散々弄んで殺す、サイコパスの殺人鬼だ、報われないよね本当」


 サトルの中で渦巻いていた何かが膨れ上がる。自然と溢れる涙が、純粋な黒に染まっていく。こいつを殺したい、この男を地獄に叩き落としたい、このアケチという男が、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い――自分の身がどうなろうとかまわない、この男に、どうか絶望を……。


 その時、サトルの手にいつの間に握られていた悪魔の書が黒い靄に包まれた。靄はさらに色濃く染まり、広がっていく。


「……なんだいそれ? どうなっている?」

 

 アケチが眉を顰めた。そして悪魔の書がサトルに呼びかけた。


『よくやったぞサトル、遂に悪魔の書第一位――オーディウムが目覚めた』


 その瞬間、サトルの意識は漆黒の闇穴へ誘われ、その深淵へと落ちていった――

次の更新は本日11時頃そして13時、14時、15時にそれぞれ更新で連続更新の締めとなります!

そこまでお付き合い頂けると嬉しく思いますm(_ _)m

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