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第二八五話 アケチの余裕

第二七二話復讐の開演から続いているサトル回です。


「本当手荒い歓迎だよね、死ぬかと思ったよ。ほらこんなに汚れちゃったじゃないか」


 パンパンっと埃を払いながらそんなことを言いのける。死ぬかと思ったなどとほざく。


 だが、本当に死を予感したものがそんなことを軽々しく口にはしないだろう。

 つまりアケチにはまだまだ余裕が感じられた。それはそうだろう、ステータスを視る限り今の一撃を持ってしてもアケチには一ダメージも入っていない。


「何故だ、どうしてここまで――」


 しかしこれにはサトルも納得が出来ない思いだ。確かにある程度ダメージが軽減することは予想していた。


 アケチにはまずアビリティに英雄の素質がある、この時点で全てのステータス値はみている値の三倍にあたると判断すべきだ。


 そして更に聖なる加護、これもあらゆるダメージを軽減する効果がある。


 だが、それでも解せない。アスタロスの攻撃力は今の一撃で六〇〇万に上る。いくらステータス三倍の恩恵があったとしてもアケチの防御力は精々八〇万程度だ。他の要員があったとしてもノーダメージは考えにくい。


 だとしたら――


「装備品の性能を、見誤ったか……」


 アケチがいま装備している鎧。ところどころ露出も多い軽鎧タイプだが、白金色のそれは勿論ただの鎧なんかではない。


 聖剣エクスカリバーと同じ英雄が残したとされるオーパーツの一つ、アーサーオブメイル、それがこの鎧の名称。


 そしてこの鎧もこの古代迷宮に眠っていたという代物だけに性能は高い。あらゆるダメージを軽減する効果はこの鎧にもある。


 一体それがどれほどのものなのか、流石に細かい値まではイビルアイの鑑定でも判らないが――少なくともアスタロスの一撃を受けても平然と立っていられる程の効果はあるのだとみるべきだろう。


「でも、結構楽しいかな。嬉しいよ遊び相手が出来て、正直ここのボスもあまり強くなくて退屈していたんだ」

「残念だが、そんな減らず口を叩いていられるのも今のうちだぞ?」


 だが、戸惑ってばかりもいられない。こういった事態を全く予想していなかったわけでもない。


 それに、確かに多くの悪魔は失ったが、メインの悪魔は残っている。

 

「いでよ悪魔の書第一〇位フルーレティ、第四位デスクリムゾン、第二位テスタメント!」


 使役する、残りの悪魔を、氷の悪魔、そして巨大な髑髏に骨の車輪を備え、上半身は巨大な骸骨といった様相の死を顕現したかのような悪魔デスクリムゾン、更に悪魔の拷問官テスタメント――


「へえ、これはこれは錚々たる面々だねぇ」

「ああ、そのとおりだ、更に他の仲間達も駆けつけてくれたみたいだからな」

「うん?」

 

 アケチが小首を傾げると、そこへ網状の糸が襲来。その全身に粘着質の糸が絡みついた。


「主様、その男が、貴方様の復讐相手で?」

「カカッ、いいぜ、だったらこの吾輩が切り刻んでやる!」

「ふむ、中々の腕前のようだが、少々油断が過ぎたようだな」


 サトルの背後から届く三つの声。それを振り返り、にやりと口角を吊り上げる。


「よく戻ってきてくれたな、アシュラム、アルケニス、アスモダイ」


 そして改めてサトルはアケチを見やり、その顔に自信を覗かせた。


「ふ~ん、そいつらが、君の自信の源ってわけかい?」

「……ああ、そのとおりさ。俺の使役出来る悪魔の中でも特に優れている、序列二位~一三位までの悪魔たちさ」


 両手を広げ、アケチに紹介する。今ここに集結せし、最強の悪魔達を。


「そして、これからお前を地獄に導く顔ぶれだ。その眼によく焼き付けておくんだな」

「なるほどね、でもこんな糸ぐらいで僕をいつまでも拘束できると?」

「勿論、思ってないさ、フルーレティ!」


 サトルが声を上げると、氷の彫像にも似た女型の悪魔が前に出て、アケチに向けて絶対零度の息を吹きかける。


 するとピキピキとアケチとその周囲の大気がみるみるうちに凍え、氷の棺の中へ閉じ込められた。


「なんだ? 随分とあっさりだな。これじゃあ我らの出番がないではないか」

「残念だったわねアシュラム」

「油断は禁物であるぞ、あの男、何やら不気味な気を発している」


 アシュラム、アルケニス、アスモダイの三悪魔が氷漬けになったアケチを眺めながら口々に語る。


 悪魔の中ではヘラドンナと同じく人語を介すタイプであり、しかもアシュラムに関しては中々に饒舌だ。


 だが、序列三位のアスモダイは流石に上位にいるだけあって、どこか見ている視点が違う。


 そしてこれに関してはサトルもアスモダイに同意であり――ピキピキッ、とひび割れ音、アケチを閉じ込めた氷の棺に幾筋もの線が刻まれ、快音と共に棺が粉々に砕けた。


 しかも氷が霧散した先にアケチの姿はなく――フルーレティのいた場所に何かの駆け抜ける気配。


 サトルが目を向けると、氷の彫像、つまりアケチを氷漬けにしたフルーレティが粉砕されてしまっていた。


「う~ん、序列一〇位じゃこんなものなのかな? ちょっと手応えがないかな」


 平然と言いのけるその姿に、サトルは顔を歪める。すぐにでも召喚し直したい気持ちもあるが、フルーレティレベルになるとそう簡単には再召喚出来ない。


 それに――悪魔を倒されるとアケチのレベルが上ってしまう可能性が高い。下手な悪魔をけしかけては逆効果だ。


「チッ、フルーレティも情けないな。ここは我が――」

「油断は禁物ですアシュラム! あれは慢心してなんとかなる相手ではありません!」


 アシュラムが名乗りを上げ、アケチを目標に定めるが、そこでヘラドンナが警告の声を上げた。


 それにサトルもハッとなる。別にアケチを舐めていたつもりはなかったが、だが、どこかで自分なら絶対に勝ち、復讐を果たせると思い込んでいた節があるのは確かだ。


「おい、お前誰に口聞いて?」

「いや、ヘラドンナの言うとおりだ、このアケチは強い。復讐のターゲットであることは確かだが、それは認めなければいけない事実だ」

「む、むぅ……」


 アシュラムがヘラドンナに向けて不満を露わにしたが、サトルがそれを肯定する。


 序列が低いヘラドンナに指摘を受けたことが気に入らなかったのだろうが、そんなことで揉めている場合ではない。


 ここは主であるサトルがしっかりと現状を見極める必要があるだろう。


『ふむ、ヘラドンナはあれで中々やるな。しかし――まあいい。サトルも奢らぬことだな』

 

 悪魔の書の語りかけにわかっているさ、とサトルが答える。正確にはヘラドンナに気づかさせられた形だが。


「へぇ、そっちの子、一三位のわりに結構賢そうだねぇ」


 すると、アケチが興味深そうにヘラドンナに目を向けた。正直何故序列が判るのかが不思議でならないサトルだが、鑑定を見る限りはアケチも同じように鑑定系のスキルを持っている、それで序列までわかるとは意外だったが、納得する他ない。

 

 それよりも――


「ヘラドンナ! アスタロスの後ろに隠れていろ!」

 

 命じるように叫ぶ。それに畏まりましたと従うヘラドンナだが。


「そんな心配しなくても大丈夫だよ。とりあえずいますぐどうこうする気はないし、綺麗な女の子は大切にしないとね」

「……一体、どの口がそんな事を言ってやがる――」


 アケチの顔を睨めつけ言い捨てる。そしていつ来られてもいいように剣を構える。


 距離はかなり離れているが、フルーレティを倒した速度を考えれば油断は決して出来ない。


「そんな身構えなくても大丈夫だよ。さっきも言ったろ? 僕は君とちょっと話したいと思っているのだから」

「俺に話すことはない! 貴様は俺にとって、ただの復讐すべき敵だ!」

「う~ん、それがよくわからないんだよね~僕、君に何か恨まれるような事したかな?」

「……は?」


 あっけらかんと答えるその姿に、空いた口が塞がらない思いのサトルであった――

活動報告に詳しい更新予定を記載しておりますが次の更新は2月17日の17時頃となります。

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