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第二七六話 陸、海、舞

本日最後の更新。サトル関係が続いております。

「あーちっくしょー! 暇だなオイ!」


 シシオが近くに聳え立つ柱に八つ当たりしながらボヤいてみせた。その姿に、遠巻きに見ていたマイが呆れたように嘆息する。


「さっきから何度同じこと言ってるのよ……」

「仕方がないさ、シシオは脳筋だからな」

「あん? すかしてんじゃねぇぞサメジ! お前だって本当は退屈してるんだろ? あ、そうだ、折角だからちょっと戦ってみるか?」


 首を回し、拳をポキポキ鳴らしながらシシオが言う。その顔には獰猛な笑みが張り付いていた。

 以前から血の気が多いところのあったシシオだが、カラスはともかく少なくともアケチやサメジに対しここまで強気な発言をするタイプではなかった。


 そしてアケチに対してのそれは今でも変わらないが、サメジに関してはかなり尖った物言いも多くなってきているのも事実だ。


 元々サメジに対してそこまで当たりが強くなかったのは、シシオが心のどこかで彼と争ってもいいことはないと感じ取っていたからだ。

 だが、この世界にきたことでシシオはかなり強力なスキルやアビリティを手に入れ、ステータスも上がってきている。

 

 それによりかなり増長してきているのだ。恐らくアケチという抑制力がなければ、今以上に好き勝手暴れまわっていたことだろうし、女に対しても目につく相手から片っ端から行為に及んでいたことだろう。


 いまとてタガが外れれば何をするか判らない危うさもある。マイなど絶好の標的だ。一応アケチが事前に釘を刺していたから、今はまだ大人しくしているに過ぎないのだ。


「お前と戦うことに俺に何のメリットがある? 悪いがごめんだな」


 サメジはあっさりとかわしてみせる。それに舌打ちするシシオだ。彼のこういった態度をシシオはすかしていると言う。

 

 同時に逃げているとも考える、結果的にそれがより増長するきっかけとなっているのも否めないだろう。


「は~大体アケチもよ~なんで一人でボス部屋なんかにいくかね」

「ボス部屋じゃない、正確には番人の間だ。仕方がないだろう、俺達が一緒にいったところで足手まといなるだけだ。アケチは今やそれぐらいに強い。だからこそ一人でやってみたいと言っているのだしな」


 メガネをくいっと直しつつサメジが述べる。シシオはアケチがいないとあって口調にはどこか傲慢さが感じられる。


 逆にサメジに関しては常に一目おいていそうなそんな雰囲気だ。


「でも、そんなに強い割には時間が掛かってるわね?」


 するとマイが怪訝そうな顔を見せる。確かにアケチが番人の間に向かってから既に三、四〇分過ぎている。


 尤もここは四大迷宮の一つ、その番人だ。本来なら最低でもS級冒険者を含めた大人数で挑まなければとても攻略できない案件だ。


 それを単騎で三、四〇分程度で倒せたなら十分に驚異的である。


「どうせ遊んでんだろ?」

「そうだな、それに番人を倒してもその先にある宝なども取りに向かうことだろう」

「あ! そうだ宝だよ! さてはアケチ、それを独り占めする気か!?」

「馬鹿か。アケチはそんなものに拘りはない。目的はもっと別なところにあるだろう。それにそのつもりならこれまでも宝を割り当てたりしないだろう」


 四大迷宮という巨大かつ伝説級のダンジョンの攻略はこれが初めてだが、迷宮攻略自体はこれ以前から何度も行っている。核迷宮にしても他の古代迷宮にしてもだ。


 その際に手に入れたお宝は全て平等に割り当てられた。外で待機しているメグミなどの装備にもそういった物は使われている。


「チッ、お前はそうやってずっとアケチの腰巾着かよ」

「中々盛大なブーメランだな」

「う、うるせぇ! とにかく、このままじゃ退屈で仕方ねえ。そうだ! マイちゃん、俺と一緒に迷宮散歩と洒落込もうぜ?」


 唐突なマイへの誘い。それに眉を顰める彼女である。


「悪いけどお断り。大体こんな迷宮で散歩なんて正気の沙汰じゃないわ」

「なんだよ、心配してるのか~? そういうところが女の子っぽくて可愛いよな。でも、大丈夫だって、この俺がいるんだからな!」

「ちょ、いやだ、そんな発情した犬みたいな顔で近付かないでよ」


 嫌悪感を露わにしつつマイが距離を置こうとする。だが、シシオはしつこい。


「おい、いい加減にしておけよ。アケチからも勝手な真似をするな、マイにもおかしな真似をするなと釘を刺されていただろう?」

「別におかしな真似なんてしてねぇだろうが! ただ散歩しようぜと誘ってるだけだ!」

「お前は下心が丸見えなんだよ」

「あん?」


 再び喧嘩腰で言葉を返すシシオ。ただ、マイはどこかほっとした表情だ。

 サメジのことも信頼しているわけではないが、これまでの付き合いでシシオより頭は切れると思っている。


 アケチが一人で番人の間へ向かうなどといい出した時、多少は心配もあったマイだが、サメジが残っていたことは意外と良かったのかもしれない。


 それに、どちらにしてもマイにはアケチから預かっていた指輪がある。これがあれば――


 そんなことを考えつつ、ふたりのやりとりを眺めていると、ちょっと待て、とサメジが真剣な表情で言った。


「あん? なんだビビってんのかテメェ?」

「馬鹿、誰がビビるか。そうじゃない、何かがかなりの勢いでこっちに近づいてきてるんだよ」

「え? なんでそんなことが判るの?」

「そうだよ、なんでテメェがそんなことわかんだよ?」

「……ここに来るまでに、魔物や魔獣の何匹かに水洗脳を掛けておいた。俺の洗脳下にいる相手は、やられたときに判る。そしてそれらの魔物や魔獣がものすごい勢いで殺されていってるのさ」

「は? お前いつのまにそんな真似してたんだよ? ふ~ん、でもまあ、それならそれで少しは楽しめそうだな」


 拳を鳴らし、シシオが更に問う。


「で? どっから来るんだ?」

「そっちの正面入口からだな。張り切るのはいいが、決して弱い相手じゃない、油断するな」

「誰に物言ってんだ? 大体魔物や魔獣といってもせいぜいレベル200~300程度だろうが。そんなものがいくらやれたところで、俺達に勝てるはずがねぇ」


 その会話を聞きながらマイがふぅ、と一息吐き出し、確かにね――と、呟いた。

 彼女も判っているのだろう、人として信用は出来なくても、このふたりの実力は確かなのだと。


 だが、にも関わらずサメジの顔は真剣そのもの。決して油断できない相手だと、その表情が示していた。


「くるぞ――」


 発せられし言葉。同時、正面の重く巨大な鉄門が勢い良く開かれる。

 多くの残滓が空中に投げ出され、肉片が雨のごとく降り注いだ。


「この程度で、俺を足止め出来ると思われていたなら、随分と舐められたものだ」


 仮面によってくぐもった声で、その男が語る。何よアレ、とマイがどこか悍ましいものでも目にしたように口にした。


 全身が骨の鎧に包まれている。その顔につけられた仮面もまるで般若のようだ。背中には不気味な翼が生え、手に持たれた剣は不安を感じさせる漆黒の煌きを放っていた。


「お前か、こいつが用意した魔物や魔獣を倒してきたってのは」

「その死体を見て理解できないのか? 出来ないか、如何にも頭が悪そうだしな」


 拳を鳴らしなら誰何するシシオに、仮面の男が言い返す。それに、あ~ん? と喧嘩口調で睨み返すシシオだが。


「このバカ、安い挑発に乗るな」

「うっせぇ、乗ってねぇよ。それよりも、お前随分といい女連れてるじゃねぇか。人間じゃなさそうだが、旨そうだ」


 ぺろりと舌なめずりをし、後方に控えている女の肢体を上から下まで舐め回すように見やる。

 肌の色が緑がかっている辺り、確かに人でないのは明らかだが、大きな胸といい、腰の括れといい、その容姿は間違いのない一級品だ。


「主様――」

「下がっていてくれ、それに、この馬鹿とは先ず俺だけの力で試してみたい」


 すると、その女は明らかに不機嫌な感情をその顔に宿し、一歩前に出ようとする。だが、主と呼ばれた仮面の男がその動きを制し言いのけた。


「……生意気な野郎だ。それに、テメェを見てると何か頭の中がざわつくんだよなぁああぁああ! 昔いじめていた屑野郎を思い出す。尤もあいつは俺に楯突くような根性もなかったが、しかしお前も一緒にしてやんよ! 地べたに這いつくばらせて、生意気な口がきけない用にボコボコにしてやるよ! そしてそっちの女も、あの妹のように徹底してやってやる!」


 どうやらシシオは妙なスイッチが入ったらしく周りが見えていないようだ。

 その姿に、この馬鹿、とサメジが頭を抱え呟き、マイは怪訝そうに眉を顰めていた。


「……ハハッ、嬉しいよ、お前がそのままでいてくれて、嬉しいよ、お前が屑のままでいてくれて、そして、お前が俺の心を抉ってくれて、そのおかげで、俺の憎悪が、嗜虐心が、黒い感情が、その全てが膨れ上がる! お前を、お前を八つ裂きにしろと、魂が語りかける!」


 興奮した様子で仮面の男が猛った声を上げる。それにシシオは眉をひそめ、何言ってんだテメェは? とその目を眇めた。


「まあいい。でもな、テメェはレベル200や300程度の相手を倒して随分と調子に乗ってるみたいだけどな、この俺様のレベルは1500だ。くくっ、わかるか? この絶望的な数値? しかもそこのサメジも俺ほどじゃないにしても似たような数値だ。まあ、舞ちゃんはレベル88とちょっと控えめだが――」

「シシオ! いい加減にしろ! 自分の能力をベラベラを喋る馬鹿がどこにいる!」

 

 サメジは心底苛立った様子で叫んだ。


「うっせぇなあ。大体こういう時に自分のステータスを語るのは漫画とかだと常識なんだよ。そんなこともわかんねぇのかテメェは」

「ふざけるな! 漫画やアニメとリアルを一緒にするんじゃねぇ! そんなこともわからないのかお前は!」


 思わず怒鳴り散らすサメジ。しかし、自分の力を相手に知られるというのは本来危険な事だ。それ一つで相手からすれば対策を立てやすくなる。


「下らないことを心配している暇があるなら、自分の身を案じることだな。それに、そもそもべらべら喋ろうが喋らまいが一緒なんだよ、俺に取っちゃな」


 そう言って仮面の男が剣を構える。すると、へっ、とシシオが首を回し、応じる構えを見せた。


「サメジ、どっちにしろ関係ないぜ。ここでお前の出番はないからな。このシシオ様が、全て片付けてやるよ」

「お前、本気で死にたいのか? 相手を見てみろ、随分と余裕がある。それに、恐らくあいつは――」

「テメェはごちゃごちゃうるせぇんだよ! いいからそこで見てろ、あの野郎が俺にボコボコにされるのをなーーーー!」


 サメジの話も聞かず、シシオは勝手に前に飛び出した。それに答えるように仮面の男も背中の翼を利用し滑走――そして今ふたりの対決が始動する。


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