表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
313/565

第二七四話 待ち受ける者

サトルの話が続いております。

この話には読む人によっては不快に感じられる描写が含まれます。

「そ、そんな! どうして!」


 メグミの剣戟が次々とアシュラムへと降り注ぐ。だが、骨の剣士は危なげなくその攻撃をいなし続けていた。


「おいおい、どうしたんだ? こんなもんか魔法剣士様よ。我はまだ、一本しか使ってないんだぜ?」

「クッ!」


 その綺麗な表情が歪む。奥歯を強く噛みしめる。

 メグミは実力的には決して弱い部類ではない。冒険者でいえばAランクの腕前は間違いなく有する程だ。


 剣の切れもかなりのものであり、剣術スキルである五月雨切りや疾風十字切りを流れるように繰り出していた。


 だが、それらの技も全てアシュラムには通用しなかった。多腕の骨剣士が言うように、腕一本だけでその全てを防がれたのである。


「やれやれ、期待ハズレもいいところだな」

「な、なめないでよね! 私には奥の手があるんだから!」


 しかし、メグミは諦めてはいない。彼女が言うように、本来彼女の特技は魔法剣だ。剣術で攻めたはあくまで様子見なのである。


「はああぁあぁあああぁああ!」


 そして気合を込め、刃に意識を集中。すると、突如剣に炎が纏わりつき、轟々と激しい音を奏で灼熱がうねりを上げる。


「……ほう――なるほど、炎か」

「そうよ! お前がアンデッドな以上! これには抗えないわ! 行くわよ!」


 メグミは地面を蹴り、一気に距離を詰めてアシュラムに向けてその剣を振り下ろした。しかし相手は全くそれに反応を見せず、甘んじてメグミの必殺の一撃を受け入れる。


ヴァーミリオン(極炎の)ストライク(爆裂剣)!」


 斬撃と同時に爆轟を伴い、周囲を派手に蹂躙しながら巨大な火柱がアシュラムを包み込む。


「やったわ!」


 メグミは勝利を確信していた。何せこの技は威力だけならメグミの扱う魔法剣で最強。しかも相手はアンデッド、これまでの旅でアンデッドを相手することもあったが、全て炎には弱かった。ならばこの最大火力の攻撃は、アンデッドに対して更に威力を跳ね上げるはずだ。


 相手が全く動きを見せなかったのは若干気がかりだったが、メグミを侮りすぎていてどのような攻撃がくるか見誤ったのだろうと、そう判断する。


「さあ、後はあの蜘蛛の化物だけね」

「おいおい、何を寝ぼけたことを言っているんだ?」

「――ッ!?」


 メグミが驚愕し大きく飛び退く。その視界に映るは燃え盛る火柱の中で、骨の上顎と下顎を噛み合わせカタカタと鳴らすアシュラムの姿。


「ふんっ!」


 そしてアシュラムはその場で回転し、己の四本の剣でメグミの起こした火柱の炎を巻き取った。


「返すぜ」

「キャァアアアァアアア!」

 

 アシュラムが四本の腕を振ると、巨大な火球がメグミを襲う。悲鳴を上げながらメグミが吹き飛びゴロゴロと転がった。


「この俺に四本使わせるほどの火力は中々だが、骨だから火に弱いという考えは安易すぎたな。悪いが俺はアンデッドとも違う悪魔だ。そして魔法への耐性は特に高い。この程度温いぐらいだ」


 片膝をつきながら悔しそうに呻く少女。その姿に更にアシュラムはカタカタと耳障りの悪い音を奏でた。


「ま、いくら吾輩でも魔法以外(・・・・)の炎で今のをやられると堪えるが、こんなもの魔法でもないと無理だしな。くくっ、さて、後はどうしてくれ――」

「あ――」


 だが、アシュラムが全てを言い終える前に、メグミが一言発し前のめりに倒れ地面に伏した。


 その後ろには爪の一本をゆらゆらと揺らすアルケニスの姿。


「おいおい、これからがいいところなのに邪魔するなよ」

「何言ってるのよ。もう十分でしょ? 程度もしれたし、さっさと意識を奪ってサトル様のためにたっぷりとね」

「ふむ、その様子だとそっちも全員終わったのか。全く手応えない連中だ」


 アシュラムがぐるりと見回すと、確かにメグミ以外の騎士たちも全員その場に倒れ痙攣したまま動けない様子。蜘蛛の毒で全身が痺れてしまっているのだろう。


「ふふっ、でも安心してね、鳴き声を上げるぐらいに調整しているから」

「あ、あ、い、いやぁ、そんな」

「ふむ、さてと、それじゃあ――」





「ああぁあああ、いやぁああぁ、いやだあぁああ、いだい、どうして、こんなの、もういやだぁあああ」

「おいおい、もう泣き言か? まだ両腕と両足を切断して、ちょっと皮を剥いだぐらいだろう?」

「ふふっ、でもやっぱり若い子の体液はいいわね。悲鳴もあってゾクゾクしちゃう」

「おまえも、全く良く食うな」


 体液を完全に吸い尽くされ皮だけになった騎士の残骸を矯めつ眇めつ眺めながらアシュラムが言う。

 

 そして改めてアルケニスの姿と着衣を全て奪われ、四肢を失い、身体の皮も三分の二程が剥ぎ取られた少女の姿を交互にみやる。


「いやぁ、私の腕を、足を、吸わないで……」


 チューチューと体液を啜り、中々に美しかった彼女の腕が足が、みるみるうちに皮だけの残滓に変わっていく。


 その姿にカタカタと骨を鳴らし、

「さて、それじゃあ再開といくか、まだまだこんなものじゃ終わらないからな?」

と宣告する。メグミの顔は絶望に満ちていた。

 

 どうして? どうして? と繰り返す。そしてアシュラムとアルケニスに徹底的に蹂躙された少女は最後にアシュラムに首を刎ねられ、アルケニスの手にかかり頭蓋の中身をチューチューと吸われ無残な最期を遂げたのだった――





「主様、かならず合流できると私信じておりました」


 サトルが合流地点までたどり着くと、ヘラドンナが跪き恭しくサトルを出迎えてくれた。


 このように出迎えられることに未だに慣れないサトルでもあるが、ありがとう助かった、と一言告げ改めて状況を確認する。


「生み出したマンドラゴラに手分けさせて調査させておりました。そのうち何体かがやられたのを確認しております。そこから予想して地図も描かせて頂きました」


 そう言ってヘラドンナが植物で作成した地図を広げてくれる。そしてアケチ達がいる場所はこのあたりだろと指で示す。


「これなら、今からでも一直線に向かえば追いつけそうだな」

「はい、連中は探索しながらですので、その必要のない私達であれば追いつくのは容易いでしょう」


 そして改めてルートを確認する。どうやらどう進もうにも中間点である広間らしき場所は抜けなければいけないようだ。


「帝国の騎士も多いのか?」

「はい、それなりに多かったですが、どうやらアケチが連れて歩いているのはサトル様の復讐対象だけのようで、多くの騎士は要所要所で待機や巡回を任されてるようです。尤も殆どは私の手で無効化しております。殺す必要があるなら命じておけばいかようにも」

「いや、別にその程度の相手なら無理して殺す必要はない。邪魔してくるなら話は別だけどな」

「承知致しました。ただ、この中間点の広間にはそれなりの手練が控えているようです。この位置からでは私も無効化は出来ませんでした」


 そうか、と顎に指を添えサトルは一考する。


「その控えている相手はアケチ達ではないんだな?」

「それは間違いないと思います」

「なら、向かってから考えるか。あまりそんなのに時間も掛けてられないしな」


 そしてサトルはヘラドンナを伴い復讐相手に追いつくべく先を急ぐ。


 中間地点となる広間には特に苦もなくたどり着くことが出来た。途中、迷宮に巣食う魔物や魔獣は出てきたが今のサトルやヘラドンナの敵ではなかったからだ。


「……貴様がアケチ様を付け狙う者か――」

 

 そして案の定、一人の黒騎士が仁王立ちで待ち受けていた。広間の中央で、殺気を撒き散らしているのはサトルでも理解が出来た。


 サトルにとって意外だったのは黒騎士の性別が女であったことだ。帝国ではカチュアの騎士団などの例外を除けば女性の立場は至極低いと聞く。


 にも関わらずこの場に立っているということは――確かにこの場で単身待ち受けるほど自信があるわけか、とサトルはそこで考察した。


 そしてやはりアケチは何者かに狙われているという認識は持っていたようだ。以前サトルを狙ってきた黒騎士も、敵対者がいるとアケチが判断して向かわせたことを口にしていたからそれは不思議でないが。


 しかし、サトルの名前が出ていないことを考えれば、アケチも一体何者が首を狙いに来ているかまでは知り得ていないようだ。


 尤も例えそれを知っていたところで結果は変わらないがな、とほくそ笑むサトルだが。

 

 ただ、女の顔に何かチリチリとしたものも感じるサトルである。

 見た目はかなり上等だ。面を上げていたためそれは理解できる。そう、はっきりと言えば美人である。


 だが、気になる点はそこではない。ただそれが何かははっきりとせず、とりあえずサトルは黒騎士の女に語りかける。


「それでアケチの為にここを守っているというわけか、律儀なことだな。だが、俺も貴様なんかに関わっているほど暇では――」


 そこまで言ったところで、突如正面と背後の入り口が派手な音とともに壁に防がれた。


 それに、これは? と呟くサトル。この広間は背後と正面に一つずつしか出入り口がないので、これではここから先に進むことも戻ることも出来ない。つまり完全に閉じ込められたことになる。


「ここはもともと、番人の魔獣がいた場所でな。尤もその魔獣もアケチ様とそのお仲間があっさりと倒したが、お前という存在を排除するため、アケチ様の力で再度仕掛けを変えて貰ったのだ。つまりここを出るには私を倒す以外手はない」

「なるほどね」


 正直どうやったのかはサトルにも理解できないが、ようはこの黒騎士を魔獣と同じ立場に設定したということなのだろう。


 確かにそういうことなら普通に考えればこの女騎士を片付けない限り先には進めない。


「主様、この程度の相手、命じていただければ――」


 ヘラドンナが臨戦態勢を取るが、サトルが手で制し、改めて黒騎士に問う。


「悪いが俺には時間がない。こんなところでのんびりしている暇はないのでな、だからそこをおとなしく通してくれないか? 恐らくだがお前であればここを開けることが可能だろう?」


 魔獣と違いこの黒騎士は知能ある女だ。それがここを守る番人として設定されたのであれば、敗北を認めれば別に戦わなくても壁は開かれる可能性があると考えた。


 勿論あっさり殺しても構わないが、サトルには妙に気になる点があり、だがそれは復讐とは関係ない何かであった。

 それが妙に気になり殺すという選択に踏み切れずにいた。


「世迷い言を! 貴様、私の、私の夫を! 仲間を! 無残に殺しておいてふざけたことを抜かすな!」


 だが、直後怒りを露わに突き刺さった氷の刃。サトルの胸を抉るその言葉に、愕然となり面の中に忍ばせた双眸を大きく見開かせた。


 そして思い出す、その顔を。そう、彼女の顔を見てなぜチリチリと気持ちが疼いたのか。黒騎士であった時点で気づくべきだったのかもしれない。


 この女は、前にサトルに襲撃した黒騎士の一人の記憶にいた女。娘に愛情を注ぐ騎士の隣に笑顔で寄り添う――妻。

このサトル関係は全体を通してナガレが出てくるまでが非常に重要な話となっております。

そのあたりをご考慮頂けると幸いですm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ