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第二七三話 メグミの罪

サトル関係の話が続きます。

 化物? とメグミが思わず眉を顰めた。ここにいる騎士は決して素人の集まりではない。LVとて30以下のものなど一人もいない。


 だから、魔物が現れたならはっきり魔物が出たと知らせてくるはずだ。正体がわかればそれもしっかり伝令され数だって仔細に述べる筈である。


 しかし彼らはそうは言わず、化物と呼んだ。それはつまりそれ以外に形容できる表現がなかったということであり、その知らせ一つとってもかなり厄介な相手が現れたのだと判断できる。


「め、メグミ様! とにかく貴方様は下がって――」

「バカを言うな! 私だって戦える! そのためにここにいるのだ! 守られてばかりいるためではない!」


 騎士達がメグミを下がらせ守ろうとしてくるが、単純なステータスやレベルで言えば彼女の方が優れている。


 なのにも関わらず後方に下がるなど考えられなかった。むしろ他の騎士に班になってもらい、いざという時のために待機してもらう。


 そしてメグミは相手の正体を確かめようと悲鳴の聞こえる位置まで急いだ。


 だが――そこにいたのはまるで骸骨をそのまま防具にしたような全身鎧に身を包まれた怪しげな騎士と、そしてまさに化物としかいいようがない二体であった。


「サトル様、ここの連中は弱すぎますわ。さっぱり相手になりませんもの」

「同感だな、おかげで我の出番がさっぱりなかったではないか」


 メグミの正面で、巨大な蜘蛛と多腕の骨が語り合っていた。その周辺には真っ先に駆けつけたであろう騎士たちが軒並み倒れ、ピクピクと痙攣し口から泡を吹き出していた。


 死んではいない。それは判る、だが、とても戦線に復帰出来る状態ではないのは火を見るより明らかだ。


「これは、毒? それに、サトル?」


 メグミは一瞬聞き間違えかと自分の耳を疑った。なぜなら、サトルがこんなところにいるわけがないからだ。


 そう、サトルは今頃日本で死刑が来る日をじっと待つことしか出来ない――そんな状態にいる筈。


 それに、視界に移るそれは顔が確認できない。兜の面が落ちてしまっていたからだ。


 そして、鎧の形状や背中側についた不気味な翼、そして禍々しいという表現がぴったりな剣からはメグミの知っているサトルの面影はない。


「主よ。あの牝、随分と主の事をみているが?」


 マジマジと見すぎたのか、隣に立つ骨の化物が鎧騎士に語りかける。

 骨太といった表現がぴったりくる骨同士が組み合わさり、悍ましい脅威と成り果てた化物だ。


 アンデッドだろうか? とメグミは観察する。胴体部分は丸みを帯びていてそれでいて密度が高い。頑強な鎧を思わせる。

 

 顔は人骨に近いが両端が突き出ていて角のように尖っている。何より腕の数が多い。一六本もあるし、それぞれの手に鋭そうな剣が握られていた。


「ああ、アシュラム。きっとアルケニスが名前を言ってしまったからだな。あいつはその名前に聞き覚えがあるのだろう」

「は! まさか、それは口にしてはいけない事でしたか? も、もうしわけありません! そんなこととはつゆ知らず――」


 アルケニスと呼ばれた蜘蛛の化物が随分と慌てている。どうやら主従関係がしっかりしているようだ。


 そして多腕の骨にしろ、蜘蛛の化物にしろ随分と流量に人の言葉を話してくれる。


 尤もアルケニスに関して言えば見た目でいえば人の言葉を介しても不思議ではない。

 なぜなら確かに下半身こそ蜘蛛のそれだが、上半身は女性のものだからだ。


 しかも上半身だけ見る分にはかなり綺麗な部類だろう。ただ、肌の色が青く、瞳も白目がまるでブラックオニキスのように黒く染まっているという違いはあるが。


「気にするな、別に怒っているわけじゃない。口止めしていたわけでもないしな。どっちにしろすぐに俺の正体は告げるつもりだった。なあ、メグミ、随分と久しぶりだな?」

「そんな、まさか、本当に……?」


 剣を構えたまま、驚きに目を見開く。兜によって声がくぐもり、更にあえて声色を変えているようでもあったので、メグミにも確証が持てなかった。


 だが、今発せられた声には声色を変えた様子もなく、くぐもってはいるが、聞き覚えのある、そうサトルの声であった。


「メグミ様、こ、この鎧の化物はお知り合いなのですか?」


 すると、メグミについてきていた騎士の一人が彼女に尋ねる。正直鎧のそれだけ見る分には上背的にも化物(たしかに禍々しくはあるが)と称されるほどではない。だが、左右に並ぶ文字通り化物としか形容できない存在のせいで、彼すらもそう思われてしまうのだろう。


「……もし、事実なら、私と同じ世界から来てる人物です。だけど――」


 え!? という驚愕の声。にわかには信じられないと言った様子が騎士たちから感じられた。何せその話が本当なら帝国の行った召喚魔法以外の方法で来たものがいることとなる。


 だが、そんな知らせは騎士たちは当然受けていない。


「どうやらまだ半信半疑のようだが、これで納得するか?」


 しかし、その鎧の人物が面を上げたことでメグミも認めざるを得なくなった。

 確かに仮面の奥から現出した顔はメグミにも見覚えのある、そう元クラスメートであるサトル以外の何物でもなかったからだ。


「サトル、ああ、そんなサトル――」


 そして――メグミの肩がわなわなと震えた。その眼も少し涙目になっているように感じる。


 その様子にサトルが眉を寄せる。どこか怪訝そうでもある。


「……思った反応とは違うが、まあいい。俺がなぜここにやってきたか、事実上の委員長だったお前にならわかるんじゃないか? なあ、メグミ? 俺は、忘れてないぞ――お前の、裏切りを!」


 メグミの身体がビクリと揺れ、そして、あ――と短い声を漏らす。


「その様子だと、しっかり覚えているようだな。あれのおかげで、俺は!」

「ごめんなさい!」

「……何?」


 サトルが怪訝そうに眉を顰めた。その目の前には深々と頭を下げるメグミの姿。


 そして、メグミの言葉はさらに続けられる。


「今更何を言っても貴方は許してくれないかもしれないけど、でも、後悔していた。私ずっと――だから……」

「ふざけるなーーーーーーーー!」


 サトルの感情が爆発する。その咆哮にも似た叫びに、メグミだけではなく騎士たちも慄いた。


「何を言っているのだ貴様は! 謝罪だと? そんなもので、そんなもので全てが許されると本気で思っているのか、虫酸が走る! お前らのせいで、俺は、妹は、俺の家族は!」


 叫ぶ、あえぐ、打ち震える、サトルの様相にメグミは狼狽し、自然と涙がこぼれた。


「メグミ様! 一体何をされてるのですか! この男は危険です! はやく、はやく構えてください! われらでなんとしても――」


 騎士が必死の表情でメグミを促す。すぐにでも攻撃を仕掛け排除しなければ不味い相手、そう、本能が訴えていたのだろう。


 だが、メグミは動けない、サトルの様子に狼狽しきっている。

 そして――ふう、ふう、と肩で息をするサトルに何かを語りかけようとするが。


「サト、ル?」

「まあ、いい。お前が謝罪しようが俺にどんな気持ちでいようが知ったことではない。俺がやるべきことがただ一つ! 復讐! それだけだ! お前たちの絶望を見るためだけにわざわざここまで来たのだからだ!」

 

 サトルが剣を構える。だが、メグミは戸惑ってばかりであり、構えも取れていない。


「サトル、私は、私は……」

「――ふん、とんだ興ざめだな。これではまだカラスの方が骨があったぞ?」

「え? カラスを知っているの? 一体彼はどこに?」

「殺したよ。一緒にいたアイカもな」


 え? とその瞳の瞳孔が広がる。どうして? とわなわなと震える。


「当然だろ? 俺は全員に復讐する。カラスやアイカだけじゃない、アキバもナカノもオオミヤもナノカもニシジマも! 全員! 俺が殺してやった! その身に絶望を刻みつけてな! 残ったのはお前たちだけだ! メグミ、お前に、陸海空、そして舞と、明智! あいつらを全員、この俺が、狩ってやる! 俺が家族が! 受けた苦しみを何千何万倍にしてな!」

「――サトル、本気、なの?」

「ああ、本気だ。だから、お前の相手はこいつらに任せる。そういうわけだ、しっかり絶望を与えてやれ、アシュラム、アルケニス」

「御意」

「仰せのままに」


 え? と再度メグミが声を漏らすが――その瞬間、サトルが猛スピードでメグミの横を通り過ぎる。地面から少し浮き、その翼で飛翔したのだ。


「ちょ! 待ってサトル!」

「おっと、お前の相手は俺達だ。サトル様がそう言ってただろ?」

「くっ、くそ! 皆メグミ様をまも――」

「はいはい、お前たちは私の餌よ」


 サトルを振り返ったメグミの正面に、いつの間にかアシュラムが立っていた。骨でありながらかなりの体格を誇るにも関わらず、その素早さは周囲の騎士が眼で負えないほど。


 更にメグミを守ろうとした騎士たちは、アルケニスの爪に次々と刺され、最初に倒れていた騎士と同じように意識を保ったままその場に倒れ込んだ。


 強烈な麻痺毒だとメグミは判断する。


「くっ! そこをどきなさい!」

「駄目だな。サトル様はお忙しいのさ。だから俺達にお前の処理を任せてくれたのさ。だけど安心しな、俺がお前のことをたっぷりとかわいがってやるからよ」

「ちょっと、私は残りのやつらをやってくるけど、すぐには殺すんじゃないよ。じっくりと苦しめてやる必要があるんだからね」

「判ってるさ。多少は加減してやるよ」

「……この! 馬鹿にして!」


 直前までサトルの出現に動揺していたメグミだが、サトルがいなくなったことで逆に冷静さをとりもどしたようだ。その剣を構え直し、アシュラムを睨みつける。


「どんな理由があるかしらないけど、サトルとの話はまだ終わってない! さっさと終わらせて後を追うわ!」





『サトル、良かったのか? 悪魔たちに任せて』

「ああ、俺もこんなところでぐずぐずもしてられないしな」

『……まさか、謝罪を受けて日和ったか?』

「くくっ、何を馬鹿な。言っただろ? ぐずぐずしていられないと。俺は何より陸海空、そして舞に明智、あいつらに追いついて復讐しないといけない。だが、今メグミを俺が相手したら――止まらなくなるだろ? とてもすぐには終わらせられそうにない。だからさ、少々惜しい気もするが、悪魔の力を使えば後でいくらでもあの女の絶望が拝めるんだからな――」

『……なるほど、悪い顔をしておる。どうやら、杞憂だったようだな』

 

 口角を吊り上げたサトルのその表情は、悪魔の書からみても何よりも悪魔らしかったという――

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