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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

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第二六七話 ヴァームを解体

あけましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願い申し上げますm(_ _)m

「このヴァームがここにあった遺体を全て食べたとして、でもこれから解体して残ってるものなのかな?」


 解体が始まり間もなくして、ふとピーチがそんな疑問点を述べた。

 実際カチュア達が消息をたってからかなりの時間が経っている。


 そうなるととっくに消化されていてもおかしくないと考えたのだろう。


「……問題ない。それより覚悟したほうがいい、ヴァームは効率よく捕食した獲物を消化する性質がある。つまり必要な分だけ少しずつ消化していく」

「そ、そうなんだ。でも覚悟って?」

「……つまり、捌くと捕食した残留物がそれなりの形を保ったまま出てくる可能性が高い。ヴァームを初めて解体する者はだいたい最初それで戻す」

「……戻す、そ、そう。で、でもほら、私だってナガレとの旅で解体も経験してるし」


 多少顔を引き攣らせながらもピーチがいう。杖がメインのピーチだが、形状変化で刃状にも出来るため、今ではナイフよりも杖を使った方が上手く解体できるぐらいまで成長していた。


「……それならいいけど」


 そういいつつ、全員で手分けしてヴァームの解体を進めていく。本当ならナガレとビッチェであれば一瞬にして捌けるが、それだと今後の成長に繋がらないため、敢えて最低限の手伝いしかしていなかったりする。


 だが、ローザを除けば(ローザは元々命を奪うことへの忌避感が強いため解体も行わない)全員手慣れた動きで解体作業に没頭していく。


 かなり大きな胴体を有するヴァームだが、何等分かに分けて、手分けして行ったため、ナガレとビッチェがそこまで手を出さなくても、一時間程度で解体は終了した。


 これはかなり驚異的な早さであり、本来なら冒険者が十数人掛かりでもこの倍以上は軽くかかってしまう。


 とは言え――


「ご、ごめんナガレ、私ちょっと向こうに――」

「わ、私もです、ごめんなさい」

「お、おいらもこれはちょっと――」


 そう言って三人仲良く口元を手で押さえながら、壁際まで移動してしまった。

 つまり、ビッチェが危惧した通りになったわけだ。


「なんだ三人共情けねぇな。ローザなんて解体やってねぇのに」

「……お前、鈍感で良かったな」

「はぁ? んだよそれ!」


 ジト目で口にするビッチェに、食って掛かるフレムだが、しかし鈍感かどうかはともかく、この状況で全く動じないのは中々の心臓と精神であろう。


 なぜかと言えば、解体したヴァームからは案の定、大量の残留物が出てきたからであり、その全てが人の骸であったからだ。


 しかもビッチェの言うように、必要な分だけが栄養として消化されていっているため、それが人であると判別がつくぐらいの外見は残していたのだが――


 しかし身体の外側に関しては必要な栄養として吸収されてしまっているため、顔に関しては半分以上が溶解しており元がどんな顔であったかが判別できない状態であり、中には脳髄の半分ほどだけが溶けていたり、肉体の外側が溶け内臓が飛び出し、しかもその内臓もドロドロになっていたりと、やたらとグロテスクな遺骸が大量に発見されたのである。


 それでいて更にキツイのは臭いであり、カイルに関してはこの臭気にやられたといった方がいいであろう。彼は獣人の血を引く分鼻が利くがそれが災いした形である。


 勿論死体である以上、腐臭がするのは仕方のないことだが、ヴァームから生じる消化液は餌を消化する際に独特の刺激臭も発生させる。それが更に輪をかけて臭いを酷くさせる要因となっていた。


「うぅ、酷い目にあったわ……」

「な、何かまだ気分が悪いですが……」

「おいらは頭が痛いよ~あ、ローザは出来るだけ見ないほうがいいかもね~」


 カイルに言われ、そうですね、と少し距離を置くローザであるが、

「ですが、落ち着いたらお祈りだけでもさせていただこうと思います」

と付け加えた。このあたりは聖職者に近い立ち位置にあるローザらしい考え方と言えるだろう。


「……ピーチは平気?」

「まあ、慣れないと仕方ないしね。正直ビストクライムで見たのよりキツイけど」


 あの町で見つけた遺体を思い出すようにして語るピーチ。

 ビストクライムでも、町の住人が全滅しただけあって骸の数は少なくはなかったが、少なくともピーチとローザの調べた範囲では、どれも損壊が激しい分、人としての形を成してなく、腕だけが転がっていたりなどという事も多かった。


 その為、そこまで抵抗は感じなかったようなのだが、流石にヴァームの中に残されているぐらいの内容は見た目にも匂いも厳しかったのだろう。


「……けれど、この特性のおかげで、死体から何かが掴める可能性は上がる」

「そうなんでしょうけど、やっぱり不気味ね」

「……それは確かにそう。ヴァームは硬い皮は素材としても取引される。でもヴァーム本体でお金になるのはそれぐらい。肉は食べるとそれなりに美味しいという話もあるけど、この独特の消化方法のおかげか、忌避感が強く好まれない」

「そ、そりゃそうよね。こんなのが残ってた肉なんて、正直私でも食べたくないわ」

「食いしん坊の先輩が言うんだから相当だな」

「うっさいわね」


 鼻を摘みながらピーチが唸る。相変わらずの悪臭に、ピーチはやはりなれないようであり顔を顰めていた。


「でもいくらある程度形が残ってるといっても、これじゃあ元の死体がなんなのか想像もつかないわよね……」


 改めてどろどろに溶解しかけた死体の数々を眺めつつピーチが零す。どの骸も皮膚から筋肉にかけては大分溶けてしまっており、確かにこれでは一体元が何なのか判断が付きにくそうである。


 ただ、それは勿論調べるのが常人であった場合である。


「いえ、そうでもありませんよ。このような状態でも判ることはあります」

「おお! 先生流石ですね!」

「でも、これで何が判るのナガレ?」


 手放しで感嘆するフレムを他所にピーチが首を傾げる。


「はい、例えばそうですね、この状態でも大きさや残された骨格の違いで男女の区別はつきます。この中では鎧などが装着されたままなのが男性、それ以外が女性です。そして状況的にみて男性側がここをアジトにしていた賊と判断できます」


 ナガレは出来るだけ淡々とその事を伝えた。理由は余計な感情を乗せて一体ここで何が起きていたのかなどを仔細に思い描かせないようにという配慮がある。


 とは言え――やはり何が起きていたのか? ぐらいは察しがついたようで思わず眉を顰めるピーチであった。


 ただ、あまり同情心のようなものは感じられない。それは事前にカチュアを含めた領内の人間の苛虐さを聞いていたからであろう。


「と、いうことは何も身につけていない方が、カチュアや騎士達、それに護衛の冒険者ということね。でも、骨だけの人もいるみたいだけど、こっちは特別消化が早かったのかしら?」

「いえ、むしろそれは最初から骨だけだったと見るべきでしょう。肉を優先的に栄養のため補給するヴァームなので、骨だけのは後回しにされたのでしょうね」

「つまりこっちは昔の骨?」

「……それはない。時間が経っていれば土の中でもそれなりには痛む。でも、この骨はそうでもない、恐らく死んだのは他の連中と同時期」

「つ、つまりヴァームに食べられる前から骨だったというわけね。でもなんでこっちだけ賊はそこまで?」


 まるでこの骨の相手だけにあらゆる恨みが注がれているような――そんな気がしたのであろう、ピーチが怪訝そうな顔を見せる。


「それだけ恨みが強かったということでしょう。そして明らかにこちらのは賊の手によるものではありませんね。そして手を下したのはこの遺体の中にはいない人物とも推測されます」

「……ナガレの言うとおり、この洞窟を崩落させて閉じ込めた人物だと思う」

「そ、そうなんだ――でも、それって……いえ、とにかく、これが姫騎士や賊の遺体なのは間違いないってことね」


 ピーチは一瞬それが誰かを思い浮かべたようだが、すぐに話を切り替えた。 

 あまり深くは考えたくなかったのだろう。


「あ、そういえば先生、尻尾の方には大量の装備品やら何やらが残されてましたよ。何かの役に立ちますかね?」

「ええ、むしろそれがこの遺体の正体を証明する重要な手がかりとなるでしょう」


 そこまで言って、一旦ナガレ達はフレムのいう残された物の前まで移動する。


「あ、本当だ! 鎧とか結構残ってるのね」

「……ヴァームは栄養にするものしか消化しない魔獣。つまり捕食した生き物の肉体にしか興味がない。それ以外は、必要がなくなった時点で排泄腔近くまで移動させ貯まるまで放っておく」


 貯まるまでというのはようは排泄物として出すまでの間は残しておくということだ。


「……この性質から、この魔獣は冒険者からは宝物庫と呼ばれる場合もある。素材よりも中にたまったお宝の方が価値がある場合も多いから」

「な、なるほどね」


 ピーチが得心がいったように頷く。なお賊達の遺体には装備品がそのまま残っているが、これはヴァームが完全に肉体を消化するまではそのままの状態にしておく性質があるからだ。


 だが、その大口で一気に餌を捕食するため、周囲に餌以外の物がある場合でも一緒に飲み込んでしまう。そういった場合は餌以外は奥へと自然と追いやってしまう。


「そういえば食べられた死体と比べるとこっちは綺麗ね」

「消化しようとしませんからね。ヴァームは餌となるものだけに効率よく消化液を掛けていきますから」


 ナガレが答える。そして宝物庫と呼ばれる所以はここにもある。

 ヴァームの中では何故かこういった品々の劣化が少なくすんでいるからである。


 勿論遺体に着衣されていた装備品などであれば液もある程度掛かることとなるが、それでも奥へと運ぶ過程で徐々にとれ、結果的に捕食されたときとほぼ変わらない状態で残されることとなる。


「なるほどね、食べられたのにフレムがあまり汚されてないのもそれが理由ってわけね」

「フレムの場合はそれもありますが、使用した技も良かったですね」

「はい! 先生直伝見よう見まね奥義回転連舞のおかげです!」

「今更突っ込むのも疲れるけど、見よう見まねの時点で直伝じゃないわよね?」


 ピーチは冷静に突っ込んだが、フレムは全く聞こえていないようであった。


「……長い、どうしてもというなら、回転連舞だけでいい」

「そうですね、戦闘中も流石にそれだと長過ぎますし、私としてもちょっと……」


 実はナガレもあまり名称を好ましく思っていなかったようだ。

 なので、戦闘中の使い勝手を理由にただの回転連舞に改めさせるナガレである。


「俺としてはもっと先生の凄さを周りにアピールしたかったのですが……」

「別にアピールする必要はありませんので……」


 心の底からそう思うナガレである。


「とりあえず、この装備品の数々が、ヴァームの中から見つかった遺体がカチュア卿や護衛の騎士達であったことを証明してますね」


 改めて、ヴァームの中に残されていた鎧や剣などを手に取り確認する一行であったが、そこにはしっかり紋章が刻まれており、その形からヴァルキュリエ騎士団に支給されていた装備品であることが判った。


 そしてその中でも特に出来が際立っていた装備品にはシュタイン辺境伯家の家紋も刻まれていたので、カチュアの遺体も含まれているであろうことは自明の理であった――



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