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第二六五話 洞窟に潜むもの

 横穴を抜けた一行は随分と広い空洞へと出た。天井も見上げるほど高い。

 ここは中々面白い構造をしており、奥の壁には更に奥へと続く横穴が穿たれており、どうやらその穴は上に見える別の空洞へとつながっているようであった。


 まるで岩と土で出来た二階建ての建造物のような雰囲気も感じられ、奥の壁には二階に当たる部分も大きく口が開かれ、まるでベロでも出しているかのような足場が突き出ていた。


「これだとかなりの数でも暮らすには十分そうですね。換気もところどころにあいている小さな穴が外に繋がっているようなので問題なさそうですし」


 洞窟の構造を確認しながらナガレが言う。確かにそれであれば多少人数が多くても酸欠になる心配はないのかもしれない。


「……ところどころ、地盤が緩そう」

「そうですね。地面には何箇所か柔い(・・)部分があるようです」


 ビッチェが何箇所かで気にするように脚で踏み鳴らし述べる。確かに基本的には地盤がしっかりしてそうに思えるのだが、所々で妙に地盤が緩んでいるところがある。


 ナガレ曰く、形状的には落とし穴でも掘られていたようなもの、とのことだ。


「先生の予想通り、賊がカチュアや騎士団を捕らえてやってきたんだったら、ここがアジトって事ですよね?」

「そうですね。可能性としては高そうです」

「でしたら、落とし穴は賊の連中が掘ったのでしょうかね?」

「さて、それはどうでしょう」


 フレムの考えを疑問視するナガレ。ただ、彼の中ではある程度答えが見えているようでもある。


「とりあえず、この中を調べてみるのがいいと思いますが――」


 そう言ってリーダーに目を向け判断を仰ぐナガレである。


「そ、そうね。上と下で手分けして調べちゃいましょう」


 そしてピーチの言うように二手に分かれて空洞内を調査する一行。


 だが、調査にはほとんど時間は掛からなかった。


「こっちには何もないわね」

「上も特にこれといったものはなかったかな~」


 そう、何もなかった。空洞内には賊がいた痕跡すら全く残っていなかったのである。


「落盤が起きる前にもしかしてここを離れてしまったのでしょうか?」

「ということは、カチュアや騎士団とか護衛も全員連れて行かれたってこと?」


 ローザが首を捻り、ピーチが問うように述べる。

 だが、その意見はビッチェが首を横に振って返す。


「……その可能性は低い。行動範囲が広がれば目につく可能性が高まる。なのに情報ではこの山脈あたりで消息が経ったという事だけ」

「それ自体があの野郎の言っていた嘘ってことはないのか?」


 フレムはアルドフの顔を思い浮かべながら言っているようだ。どうやらフレムの中ではまだ信用できる相手ではないということなのだろう。


「今のところ彼が私達に敢えて嘘の情報を伝える意味はありませんね。それに――恐らくここに死体があったのは間違いがないでしょう。ただ、どうやら今はすっかり消えてしまっているようですがね」

「……確かに、死体があったのは気配から間違いないと思う」

「え? そ、そうなの? よくわかるわねふたりとも……」

「う~ん、それなんだけどおいらにもちょっとだけ、ほとんど土砂の匂いで隠れてしまっているんだけど、確かにかすかな腐った匂いみたいのも、残ってる気がするんだよね~」


 カイルもナガレとビッチェの意見に同意する。軽い口調だが、別に冗談というわけではなく、半獣人とはいえ、獣人の血を受け継いている分、鼻も普通の人間よりは利くのである。


「カイルにも判るんだ。う~ん、でもだとしたらどうして死体は消えたのかな?」

「――どうやらその答えが近づいてきているようですよ」

「へ? え? な、なになに!?」

「キャッ! 地面が、じ、地震?」


 ピーチとローザが慌てふためく。確かに地面が大きく震え始めた。かなり急な出来事だが、しかしこれがただの地震ではないことをナガレもビッチェも理解していた。


「ピーチ、ローザ! すぐにその場を離れて!」


 ナガレの声に、真剣な表情で頷き、ピーチがローザを抱えて飛び退いた。その瞬間地面が爆ぜ、不気味な鳴き声を上げて何かが土中より姿を見せた。


 思わず短い悲鳴を上げるローザであり、全員の視線が突然の襲撃者を見上げ確認する。


「……魔獣ヴァーム」

 

 ビッチェが言う。その何者かはあまりに奇妙な来訪者でもあった。土の中から姿を見せたかと思えば見上げるほど高い天井に一瞬にして到達し、鈎のように身体を曲げて一行を俯瞰してくる。


 しかしそれでもまだ土中に身体は埋まっており、相当な大きさを誇るのは間違いがないだろう。


 くすんだ赤茶色の胴体は、やたらと太く円筒形をしている。天井にまで到達している部分は頭にあたるようだが、目も耳も鼻もなく、一行を見下ろしてくるのは大きく開かれた口腔とギザギザに尖った歯牙であった。


「ま、魔獣なのあれ? なんかやたら不細工な竜ってイメージもあるけど」

「う~んおいらは巨大な芋虫ってイメージかな」

「み、ミミズっぽくもありますね」

「どちらにしても不細工な生きもんだぜ」


 呆れたように述べるフレムであり、その言葉が聞こえていたのか、それともなんとなく感じ取ったのか、ピクリと動いたヴァームの口がフレムよりに向けられた。


「……お前、狙われた」

「へっ! 上等だ! 先生! あれ、俺が相手してもいいですか?」

 

 ヴァームを指差しながらフレムがナガレに願い出た。

 どうやらフレムは一人で相手してやろうと考えているようだ。


「ちょっと、フレム。いくらなんでも相手は魔獣よ? ここは――」

「いえ、あれは確かにフレムにピッタリの相手かもしれませんね。任せてみるのもいいかもしれません」

 

 ピーチは全員で相手することを提案するが、意外にもナガレがあっさりとそれを受け入れた。


 それに、へ? と目を丸くさせるピーチであり。


「よっしゃーーーー! 先生の期待に応えられるよう、やってやりますよ俺は!」

「そうですか、では早速お願いしますよ。さあ皆さんすぐに離れますよ」


 ナガレの発言に今度はフレムが、へ? と目をぱちくりさせた。


 そしてその場にフレムだけを残して全員が一斉に離れていく。


 その直後、洞窟全体を振動させるヴァームの咆哮。長い胴体の奥から押し出すような響き。


 かと思えば魔獣ヴァームの頭が高速でフレム目掛けて落下。


「のわっ!」

 

 思わず横っ飛びで躱すフレムであり、勢い余ったヴァームはそのまま地面を貫き、土中へと潜ってしまう。


「す、すごいわね。それに、あれだけ大きかったら地面に穴があきそうなのに全くあいてない……」


 ヴァームが消えていった地面を見ながら、不思議そうに口にするピーチである。


「あのヴァーム、尾の部分にある排泄腔とは別に、胴体にある節にも何箇所も細かい排泄腔が備わっています。土中に潜る時には当然多くの土砂を飲み込む事になりますが、飲み込むと同時に節の腔からそれらを勢い良く排出させて瞬時に穴を埋めているのです」

「な、ナガレってば、よくそういうこと知ってるわね」


 半眼で訴えるピーチである。感心してはいるようだが、同時に不可解といった印象もあるのだろう。


「あ! もしかしてふたりがさっき言っていた緩んだ地面って?」

「……そう。確かにヴァームは潜ると同時に穴を埋める。でも、どうしてももとより地盤は緩くなる」

「ヴァームの事を知っている冒険者であれば、それで存在を察したりするようですからね」

「な、なるほど。つまりおふたりは既にヴァームがいる可能性は考えておられたのですね」


 ローザが感心したように述べる。だが、すぐに魔獣との戦いを名乗り出たフレムへと目を向けた。


「ですが、フレムは本当に大丈夫でしょうか?」

「……私も疑問。あのヴァームはレベル120程度はある。レベルで言えばかなり離れている」

「確かにそうですが、レベルの差でいえば、ビッチェもマンティコアをあっさりと倒して見せたではないですか?」

 

 むぅ、とビッチェが唸る。確かに魔獣の森においても、相当にレベル差のある魔獣をビッチェは危なげもなく倒してみせた。


「……あれは奇襲が上手く嵌った」

「それも実力のうちですよ。それに――私は本当に無理だと思えば任せたりいたしませんので」


 そういって、ヴァームと戦いを演じるフレムに目を向けるナガレであった。

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