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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

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第二五九話 大いなる野望

「――な、なんか凄い話になってきたわね」

 

 ピーチが喘ぐように言った。最初は奴隷商人に手引きし、奴隷を売買目的で帝国から運ばさせていた程度の話だったのが、今はかなりな大事になっているように思われる。


「でも、それならおいら達が帝国騎士に狙われたのも判る気がするね~」


 しかし、カイルの言うように、それほどの事を考えていたのであれば、わざわざナガレ達を帝国に派遣し、その上で帝国騎士を巻き込み捕らえさせようとしたことにも得心がいくだろう。


「つまり、私達がエルガ様に命じられて関与していたと、そういうことにしたかったわけですね」

「そうですね。しかもこの話は、アクドルク側の情報提供によって明るみになったという筋書きですので、目論見どおりに進めばアクドルクの立場には影響がなく、むしろ事件を解決に導いた立役者として評価されることとなります」


 ローザの発言にナガレが答える。


「……もしかしてそれが第二の目的?」


 するとビッチェがナガレをじっと見据え、そして改めて尋ねる。ナガレは先程の話が第一の目的であると話して聞かせた。つまりアクドルクにはまだ他に何か考えがあるということであり、それを確認したかったようである。


「いえ、自らの評価を上げることも第一の目的と見ていいでしょう。第二の目的はむしろここからであり、端的に言えばグリンウッド領とマウントストム領を手中に収めること、それが第二の目的です」


 その話にピーチが目を大きく見開き言葉を発す。


「また話が随分と大きくなったわね。でもそんなことが可能なの? それにアクドルク一人で三つの領地を治めるなんて――」

「……違う、そうじゃない。理解した。アクドルクはその為もあって縁結びの力を利用して人脈を増やしていった。その狙いは自分と同じ思想、つまり協力者を見つけるため。しかも発言権の大きい貴族を優先的に――」

「はい、それに加え、今回の件が功績として認められるなら、アクドルク自身の声も届きやすくなる。そうなればアクドルクは他の貴族とも共謀し、グリンウッド領とマウントストム領の次期当主を推薦しやすくなります」

「あ! そうか! そうすれば、別にアクドルク自身が領地を手に入れなくても、その息が掛かった誰かを領主の座につかせれば――」

「じ、実質アクドルクが治めているのと変わらないってことですね」


 それぞれが矢継ぎ早に言葉を紡げていき、一つの結論へと導かれていく。


「そうですね。そしてそれがアクドルクの第二の狙いでしょう」

「……第二ということは第三もある?」

「ええ、予想ではありますが、むしろそこまでする以上、更に大胆なことを考えていると見るべきでしょうね。グリンウッドとマウントストムという重要な領地を手中に収めようとしているわけですから」

「え? でも先生、たかがふたつの領地がそこまで重要なのですか?」


 フレムが小首をかしげ質問した。元は伯爵領である領地をふたつも手に入れるというのは結構なことでもあるのだが、それでもフレムにはピンっとこなかったようだ。


「……たかがで済む話じゃない。マウントストムはバール王国一の宝石採取量を誇る領地。そこを押さえることができれば強力な資金源になる。そしてグリンウッド、王国のほぼ中心地に位置するこの領地は販路拡大に繋がる。イストフェンスにこのふたつの領地を実質的に加えることが出来るなら、アクドルクにとっては王国の東部を制覇したに等しい事となる」

「王国の東部を制覇って、なんかだんだんきな臭い話になってきたわね――」

「ピーチの予想は間違ってはいないでしょう。そこまでことが進んだならば、アクドルクも一気に攻め立てるでしょうから」

「攻め立てるとは、一体どのような事を?」

「はい、アクドルクは人族以外の種族を嫌悪し、更に奴隷制度も旧制度が再び取り入れられることを望んでいました。そして同じような思想を持つものを引き込み、場合によっては取り入っている。その上でこの予想通りにことが進めば東部の重要な領地を手中に収め、更に帝国の後ろ盾も期待できるようになります。そこでアクドルクはこう問題提起することでしょう、エルガとオパールの起こした問題は現在の奴隷制度の歪さから生まれた歪みによって引き起こされたと。旧制度を続けていればわざわざ闇で奴隷を購入しようとするものなど出るはずもなく、こんな事態には至らなかったと」


 瞑目し答えるナガレ。すると思わずといった様子でピーチが声を張り上げた。


「え!? そんなの無茶苦茶じゃない!」

「そうです、流石にそれは納得がいきません」

「前の奴隷制度のほうが良かったなんて、そんなことを言ってついてくる人間なんているとは思いませんよ!」


 そしてピーチにならってローザとフレムも怒りを露わにする。カイルに関しては口を挟まないまでも神妙な面持ちを見せていた。


「……確かにそう。でも、間違ってる間違っていないはそこまで話が進んだ場合どうでもよくなる。アクドルクが声を大にして訴え、それに賛同する貴族が集まれば、それでいい」

「はい、そこまで話が進んだ時には既にお膳立ても整っているでしょうから、彼の考えに賛同しているものもアクドルク管轄の領地に引き込まれている事でしょう」

「で、でも王国はそれを認めないんじゃないかな~?」


 そこでカイルも不安そうに口を挟んだ。もしそのようなことになれば半獣人である彼にとっては気が気ではないだろう。


「……先ず認めない。でもそれは判ってる」

「そのとおりですね。アクドルクは王国に認められないことはわかった上でそれを訴えます。帝国の介入がしやすくなるように」

「え? て、帝国!」


 ピーチが驚嘆する。まさかここで帝国の名前が出てくるとは思わなかったといったところか。


「はい、帝国です。勿論その段階では帝国も表立ったことはしてこないでしょうが、しかしアクドルクを全面的に支持し支援するという表明程度はしてくるでしょう。そうなったとき、恐らくですが先ずアクドルクは独立を宣言します」

「ど、独立――」

「頭が沸騰しちゃうよ~」

「ああ! ローザの額から湯気が出ちゃってるよ~」


 ここまできて、いよいよローザの理解も許容量を超えたようだ。


「で、でも本当、話がとんでもない方向に進んできたわね」

「……でも十分ありえること。ましてやナガレが言うなら確実」

「いえ、私のはあくまで予想ですので」

「で、でもつまりアクドルクの最終目的が独立して国をつくることだったわけですか?」

「いえ、独立はあくまで本当の目的の前段階ですよ。下地作りのようなものです。そもそもただ独立させるだけでは帝国側にはそれほど利がないでしょう」


 ナガレの口から飛び出す驚愕の事実に、一様は驚きを隠せない様子だ。


「え? じゃ、じゃあアクドルクの最終目標は一体?」


 そして、改めてナガレにピーチが尋ねる。


「はい、アクドルクの最終目的は――王の座を簒奪し、バール王国そのものを手に入れることです」

 

 それに対するナガレの回答に、ほぼ全員が口をあんぐりと開けて固まった。


「え、えええぇええ! それって、それってつまりアクドルクは王に対して反逆を企てているってこと?」

 

 そしてしばしの間を置いて驚嘆の声を上げるピーチ。


「そういうことになりますね」


 それにあっさりと答えるナガレであるが、事態の深刻さに比べてナガレは終始落ち着き払っている。


「でも、そんなことしていくらなんでも無謀じゃないのかな~いくらアクドルクが縁結びという能力を持っていると言っても、反逆なんて……」

「……そこまで話が進んだとしたら縁結びの力は関係がない。それに、アクドルクと王国という風に考えると無茶に見えても、王国対帝国に置き換えた場合話は変わる」


 カイルは、どうやらナガレの推理とはいえ、そこまでくと少々懐疑的でもあった。だが、ビッチェも同意を見せたことで、その表情はどことなく引き締まって見える。


「そ、そうかそれでアクドルクは帝国に取り入ろうとしているわけね」


 ピーチはピーチで得心が言ったように顎を引いた。アクドルクだけであるならともかく帝国も話に加わってくるとなるとありえない話ではないと考えたのだろう。


「おいおい、でもよ、それこそそんなことをしでかしたら大陸連盟とかいうのが黙ってないんじゃないのか?」


 しかし、ここでフレムが意見する。確かに帝国対王国となると穏やかな話ではない。連盟が動き出してもおかしくなさそうにも思えるが。


「……微妙。帝国が関わるのは間違いない。でも表立っての行動は控えて、建前では救援や救助の為と公言する可能性が高い。あくまで争っているのはアクドルク側ということにしてしまえば、外側からは内乱が起きた程度にしか見られない。そうなると大陸連盟としても動きにくい」

「なんだそれ、一体何のための大陸連盟だよ」


 話を聞いたフレムが吐き捨てるように言った。


「……気持ちは判るけど事実。北のアインズ帝国でも皇帝が死去し、次期皇帝の座を巡って兄弟間で争いを繰り広げている。でも、連盟はそういったことには不干渉」

「そうですね、大陸連盟という組織は大陸全体のための組織という位置づけですから、一つの国の中で起きている争いごとと判断されると、組織としては動きが取れないのでしょう」


 ナガレの言うように組織として大きければ大きいほど、そうやすやすとは動けなくなるものだ。逆に言えば帝国もアクドルクもその連盟の穴を上手くついているとも言えるのだろう。

 尤もそれがは計画通り話が進めばの話だが。


「組織というのも面倒ね、それにそんなことだから帝国にいいようにされちゃうのよ」


 ピーチも不機嫌そうに述べる。だが帝国の狙いがそこにあるとすれば理解できる話だ。

 かつて帝国はバール王国に侵略しようとしたものの、王国側の巧みな外交戦略により失敗に終わった。


 しかしマーベル帝国はそれを帝国の負けだとは認めていない。他国の助けを借りて卑怯にも生き延びたという認識だ。


 つまり大陸連盟が動き出さないよう上手く立ち回れば、バール王国などどうとでもなると、そう考えているのだろう。そしてだからこそ帝国はアクドルクに手を貸しているのである。


「……でも、話は判った。アクドルクはとんでもないやつ」

「そうね、まさかそこまで大胆なことを考えているとはね」

「う~ん、でもそれだとナガレっちは帝国に来てよかったの?」

 

 カイルが疑問げにナガレへと尋ねた。確かに、そういう事情があるのであれば、ナガレ達は残って調査を続けた方が良かったのでは? と、思えなくもないが――


「はい、むしろ私たちは帝国側の問題を解決したほうがいいと判断致しました。王国と帝国、今回は両方が繋がっての事件ですから、同時に事を進めていく必要があります」

「でも、同時といってもエルガやオパールは動けないわよね……」

「……でもそれはふたりも承知の上。つまりナガレは他に動けるものを用意している。思えば私にお願いしてきたあの件も、そう考えるとしっくりくる」


 その言葉にナガレ以外の全員の視線がビッチェに集まり、そしてフレムがナガレに顔を向け問いかけた。


「あの件? 先生ビッチェに何かを頼んだのですか?」

「はい、今回の件で手助けになってくれそうな方が動けるよう、ビッチェを通して冒険者連盟側に働きかけて頂きました」

「そうなんだ、あ! つまり向こう側はエルガとオパールの変わりにその人達の助けを借りるってこと?」

「そうですね。それにルルーシにはまだ黙ってはおりますが、その代わりセワスール殿には色々伝えていますので、ナリヤ様と共に色々と調べてくれているはずです」

「……流石ナガレ、自分がいなくても大丈夫なようしっかりと周囲に働きかけていた」

「そっか、確かに向こう側でしっかり動ける人がいるなら、ナガレは帝国側で動いた方がいいわよね……あ、それで判っていたけど敢えてアクドルクの提案に乗ったのねナガレ!」


 それに答えるように、ナガレが、ふふっ、と口元を緩める。


 その時、ビッチェの瞳が鋭く光り、かと思えば愛用のチェインスネークソードを抜き、その細く靭やかな肉体を翻し刃を伸ばした。


「……さっきから――何を覗いている!」


 語気を強め、伸長した刃が大きな口の中に突き進み軌道を変えた。

 その位置からは他の皆からは見えない死角。しかしビッチェは見事それを看破したようであり。


「おっと!? 危ないな。それにしてもまさか気づかれていたなんてね」


 男が一人ぽっかりと開いた穴の中心に飛び出してきた。多少は驚いていた様子も感じられるが、ビッチェの放った刃は避けられたようである。


 そして身体を皆へと向け直し、随分と軽い口調で応じてくる。右手でこの洞窟の岩壁よりも濃い茶色の毛を掻き上げ、円というよりは角に近い瞳で値踏みするように皆を見た。

 

 どこか飄々とした雰囲気の感じる男だが、にも関わらず抜け目ない印象も同時に与える。


「……お前何者?」


 ビッチェが問う。どこか不機嫌そうに、そして訝しいものを見るような目で。

 決して油断はしていない。威嚇目的の一撃であった為、彼女も本気ではなかったであろうが、とは言えこの男は彼女の一撃を危なげなく躱してみせた。それ故に若干慎重になっているようにも感じられるが。


「うん、そんなに怖い顔しないでさ。大丈夫、私は君たちの敵ではないから」

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