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第二五七話 縁結び

「……そのアビリティは私も初めて聞いた」

「え? ビッチェでもそうなの? 私も初耳だけどね」

「おいらもだよ~」

「世の中にはまだまだ私の知らないアビリティやスキルというものがあるのですね」


 ナガレの説明を聞いた四人が口々にそんな事を言い驚いてみせる。そしてフレムもまた、尊敬の眼差しをナガレに向けていた。


「でも、それを一発で見破るのだから、やっぱり先生は凄いぜ!」

「……それは同意。でも、一体どんな能力?」


 ビッチェどこか興味深げにナガレに尋ねる。Sランクの彼女でも知らなかったような力だ、当然他の面々の興味も高い。


「う~ん、ルルーシのお姉さんがその能力の為に一緒になるはめになったとしたら、思い通りに操るとかそんな感じ?」

「つまり私達が出会ったリリース様は洗脳に近い状態にあったということでしょうか?」

「う~ん、全然気が付かなったけどね~」


 そして、ピーチはなんとなくの予想を立て疑問符を頭に浮かべながらも口に出す。

  

 それにローザも問うように返し、カイルも小首を傾げた。


「いえ、この能力は洗脳や相手を操るような類とは違いますね。それ故に特殊なのですが、このアビリティは文字通り縁を結ぶ――つまりアビリティ保持者であるアクドルクが強く相手との縁を願うことで自動的に縁が結ばれるよう助けてくれる、それが縁結びのスキルです」

「な、なるほど、さ、流石先生だ!」

「いや、あんた絶対判ってないでしょ?」

「あ~でもおいらもよく判ってないかも~」


 とりあえず驚いてみせるフレムだが、ピーチの言っているように全く理解してないようである。


「そうですね、簡単に言えば例えば私に好きな人が出来たとして、縁結びの能力があった場合、想いを寄せている相手との恋愛運を最高値にしてくれるような、そういった能力です」


 そしてカイルもまだ疑問げであった為、再度例えを上げて説明するナガレであったが――


「え!? ナガレってば好きな人いるの!」

「……聞き捨てならない。誰か素直に白状する」


 どうやら例えがよくなかったようだ。


「あ、いえ、これはあくまで例えなので……」

「じゃあ先生に好きな人はいないんですか!」

「……フレム、なぜここだけそこまで食いつくのですか」

 

 詰め寄りながら聞いてくれるフレムに、ナガレも思わず眉を顰める。


「で、でもナガレ様の好きな人なら私も気になります!」

「おいらもだよ~ナガレっちってどんな子がタイプなのかな?」


 そして、何故か話はナガレが一体誰が好きなのかといった部分に傾いていってしまった。やれやれとナガレは頭を振るも。


「――つまりです、今回の場合リリース様とアクドルクが一緒になる助けとなったのは縁結びによるものですが、リリース様にとってはあくまで運命的な出会いであり、お互い愛を育んだ上での婚姻と、そう思われてるわけです」


 ナガレは彼らの話を受け流し、強制的にもどの軸に戻そうとした。


「……ナガレごまかした」

「むぅ、ますます怪しいわね」


 だが受け戻された。この手の話のビッチェは中々手強そうである。そしてピーチもこうみえて日々成長しているのである。


「でもよぉ、先生が誰が好きでもよく考えたら先輩もビッチェも関係ない話だろ?」

「……関係ある、お前は黙ってろ」


 ビッチェ、フレムに対しては中々辛辣である。


「私だって関係有るわよ! り、リーダーとして仲間の恋愛事情はごにょごにょ……」

「――ピーチ、頑張って!」

 

 そして、どうにもはっきりと口には出来ないピーチにエールを送るローザである。


「あはっ、ピーチちゃんもフレムっちとナガレっち以外にはバレバレなんだけどね~」

「なんだよ、俺が鈍いみたいに言うなよ」

「フレムは十分鈍い」

「くっ、ローザまで!」


 皆から鈍感というレッテルを貼られ悔しそうなフレムであった。しかし仕方がない鈍いのだから。


「……とにかく、今は私のことより大事なことがありますので」

「……仕方ない、でもいずれはっきりさせる」


 ナガレを問い詰めるように見つめるビッチェに、チラチラとナガレの顔を窺い気にしている様子のピーチ。思わず一つ息を吐き出すナガレでもあるが。


「話をもとに戻しますね。縁結びは取得している者の意志通りに効果を及ぼすものではありませんが、縁を結ぶという過程においては取得者にとって有利に運ぶよう働きかけてくれます。尤も、だからこそ厄介なのだともいえますが」

「……確かに、むしろ洗脳なら、洗脳さえ解けばいい話」


 ビッチェの話にローザが頷き。


「ですが、あくまで運命に働きかけた結果であり、本人にとって真実ということであれば――」

「リリースちゃんにとっては、アクドルクへの愛は本物ってことだもんねぇ」


 ローザもまたこれまでの話から導き出したことを口にし、カイルが後に続いた。


 話を聞いていた殆どの者は縁結びについて理解出来たようである。


「……あ、ああそうだな。うん、流石先生だ!」

「あんた、話聞いててもよくわかってないでしょ?」


 だが、フレムだけは別なようだ。

 そして、ジト目でピーチに突っ込まれ、そんなことねぇよ! と声を上げながらも目を逸らすフレムである。


「でも、アクドルク自体はリリース様の事をどう思っていたのかしら?」

「リリース様はお美しい方です。ですので好意自体はあったことでしょう。ですが、それ以上に利用したいという気持ちも強かったのではないかと思われます」


 ナガレの発言にビッチェがこくりと頷いた。


「……ルルーシとリリースの父親はフロンフェスタ領の辺境伯。フロンフェスタは西のクサナギ帝国、イストフェンスは東の帝国とそれぞれ隣接。だからフロンフェスタはイストフェンスと双璧を成す要所と名高かった場所。それにフロンフェスタの現領主は、その父親が先代の陛下の弟、つまり辺境伯の令嬢と一緒になることは権力的にも人脈を広げるのにも有利」

「る、ルルーシの家系って結構すごかったのね……」

 

 ビッチェの話を聞いたピーチは、ほえ~、と雲の上の存在を知ったかのような呆けた顔を見せた。


「なんだよ先輩、同じ国なのに知らなかったのかよ?」

「いや、だったらあんたは知ってたわけ?」

「……つまり先生は最初からそこまで読んでアクドルクの野郎を怪しんでたってわけですね!」

「う~ん、フレムっち見事にごまかしたねぇ」

「全くフレムは……ですが、それを聞くと何か許せないですね。つまりリリース様を利用しようと考えて近づいていたわけですから」


 ローザが眉を顰め不満を口にする。確かに女性ならばそこに腹を立てるのも仕方のないことか。


「ですが、それだけであれば他の貴族でも行っていることなので、良い感情は持たないとは思いますが、そのことだけが責められるわけではありません」

「……確かに、結局は政略結婚のようなもの。それ自体は珍しいことではない」

「まあ、そう言われてみると確かにそうかもしれないわね。私はそんなの嫌だけど! やっぱり結婚なら、ちゃんと好きな人としたいものね――」


 チラッチラッとナガレを窺いながら発言するピーチである。


「あ~でもナガレっちの話で言うと、縁結びの効果があったとはいえ、リリース様本人は好きな人と結婚できたと思っているわけだよねぇ」

「……そう、だから縁結びの効果があったとしても、リリースの気持ちは今後も変わらないということになる。それに、今の話の通り、アクドルクの目的がそれだけなら、特に責められることでもない。ただ、結果的にアクドルクは私達を嵌めた。それは許されない」


 ビッチェが細く形の良い眉を怒らせ述べる。確かに縁結びの効果はともかく、ナガレ達にしたことは到底許されることではないだろう。


「そうですね。そして実際の話で言うならば、ある程度縁結びの結果、つまりリリース様との結婚は今回の件と関係しています」

「え? そうなの?」


 ピーチが目を丸くして尋ねた。


「はい、先程もあったように、アクドルクの目的は権力的な事も最初は(・・・)あったのでしょうが――何より重要なのは人脈、特にある程度の発言権をもった有力貴族と少しでも多く近づくこと、それが一番の目的だったと思われます」

「つまり、アクドルクは多くの貴族と知り合って、人脈を築きたかったというわけなのかな?」

「そうですね。ただし、この時彼が狙ったのは自分と同じ思想の持ち主であった可能性が高いでしょう」

「思想ですか先生?」


 ナガレの発言にフレムが問い返す。するとカイルもフレムに続いた。


「う~ん、それって一体なにナガレっち?」

「……それは、カイルにとっては決して気分のいい話ではないと思いますが、一つは人族至上主義であり、他種族に対して良い感情を持ち合わせていないこと、もう一つは現状の奴隷制度に不満を持ち、心中では旧制度である人身売買的な奴隷制度を望んでいること、そういった考えを持つ人物を中心に深い関係を築いていったのだと思われます」


 その話は、確かにカイルにとって面白いものではないだろう。だが、カイルも今はそういったことがあると割り切って聞いているようでもあるが。


「え? と、いうことは先生! 結局アクドルクの野郎も、あのハラグライってやつと同じようなムカつくことを心のなかでは思っていたということですか!」

「そ、そうだったんだね……」


 とは言えカイルが苦笑いを浮かべる。その表情はどこか物悲しげだ。


「それに関しては私の見識はことなりますね。少なくともあのハラグライに関して、あの発言(・・・・)は心からのものではなかった」

「え? それってどういうことナガレ?」

「……あの男が嘘を言っていたということ?」

「そうですね、どちらかといえば嘘と言うよりは、彼はあくまで代弁者だったということでしょうか」

「だ、代弁者ですか?」

「はい、彼のアクドルクに対する忠誠心はかなりのものです。だからこそ、彼は自身に批判の目が向くことも厭わなかったのでしょう。それが主君の為になるなら、その思い故に」


 瞑目し、ナガレが皆の疑問に答える。


「……でもナガレ、どうしてそう思う?」


 そしてビッチェは、更にナガレの考えを聞きたい様子であり、質問を返してきた。


「そうですね、例えば表情にしても口調にしても、ハラグライに関しては全てがどこか芝居がかっていました。それでいて、あの時カイルを見る目は心から彼を蔑むようなものではなかったのですよ。酷く冷たかったのは確かですが、それは敢えて心を閉じているようなものです。しかし、アクドルクに関してはカイルを見る目は時折酷く冷たく、それはハラグライから感じられるものとは別種の、冷淡なものでした」


 その言葉にカイルも思い起こすように軽く目を上に向けた。そして、そういえば――と、思い当たるフシがあるように呟く。


 そんなカイルの様子に目を向けた後、更にナガレの話は続けられた。


「――それでいて、アクドルクもまた表情も口調も全てが演技に感じられました。そして彼は側近であるハラグライを叱咤したりもしましたが、しかしある程度までハラグライの話は聞いていた。それはつまりハラグライの発している事は本来自分の口で話したいことであり、しかし当然領主であるアクドルクがそれを口にするわけにはいかない。それ故に彼に代弁させた上で、自らも腹を立てた振りをしながら、なんとか己の気持ちを押さえ込んでいのだと、そう考えました」

「……本音を隠すために、アクドルクはハラグライを利用した、なるほど……」


 ナガレの話を聞き、得心が言ったようにビッチェ頷いて見せる。


「でも、どうしてあの方はそこまでしてアクドルクに協力するのでしょうか?」

「う~ん、もしかしてそれも縁結びの効果とか?」

「そうか! それで洗脳されて!」

「いえフレム、先程も話したように、縁結びに相手の精神を支配するような効果はありません。それにアクドルクは縁結び以外では護身用としての剣術を取得しているぐらいで、他にこれといったスキルもアビリティも持ち合わせてはいません」

 

 やはりアクドルクの能力を理解していなかったフレムだが、ナガレは改めてそう説明し、同時に彼の他の能力についても言及した。


 その話を聞く分には、確かにアクドルクが誰かを洗脳するなどは不可能なことだろう。


「……つまり、ハラグライはハラグライで自主的にあの男に協力しているということ?」

「そうなりますね。実際、裏での活動は基本的にはハラグライが動いている可能性が高いでしょう」

「え? 裏での活動ですか先生?」

「はい、先程の話に戻りますが、アクドルクは自分と同じもしくは近い思想を持ち、それでいて王国内でも強い発言権を持つ貴族を探していた。その理由の一つとして、闇での奴隷販売ルートを確保するという目的があったからと思われます」

「う~ん、え~とつまり?」


 ピーチはそろそろ理解が怪しくなってきているようだ。


「……つまり、アクドルクがいくら帝国から奴隷を裏で回してもらっても、買い手がいなければ仕方がない。だから、買い手となる貴族を先ず求めた、そういうこと?」

「はい、そしてある程度の立場にある貴族をこの話に引き込むことが出来たなら、その伝手で他の買い手の紹介にも繋がりますからね」


 ビッチェに関してはしっかり理解が追いついていたようである。そしてピーチも頭を搾り理解しようと頑張った上で。


「で、でも帝国といい貴族といい、随分とスムーズにことが運んでいるようにも思えるわね」


 この疑問にたどり着いたようだ。確かに短い期間で随分と色々なことが上手く行き過ぎているように思える。


「はい、そこで役立ったのが縁結びの力といったところでしょうか」


 だが、ナガレのこの言葉に、カイルが思いついたように声を上げる。


「あ! そうか、つまりアクドルクは縁結びの力で帝国とも繋がりを持ち、更に目的の有力貴族とも人脈が築けたわけだね~」

「そういうことですね」


 カイルの回答を聞き、ナガレが一つ頷いた。


「……だけど、あの男、よくこれまでそのアビリティのことがバレなかった。鑑定を持ってる相手なら、能力の事を知られてもおかしくないのに」

「いやそれはビッチェ、いくらなんでも辺境伯相手に鑑定は失礼とか思うんじゃない普通は?」

 

 ビッチェが疑問を投げかけるが、それにはピーチが答える。確かに勝手な鑑定は場合によってはプライバシーの問題にも繋がり批難を受ける可能性も否定は出来ないが――


「……それはあくまで表舞台ならの話。でも、アクドルクの行為は全て裏、王国で禁止されている奴隷の売買に手を付けている以上、取引する相手も当然警戒心を抱く。特に確認を取らなくても鑑定ぐらいは当たり前にしてくる」


 そう、アクドルクの取引がまっとうなものであればピーチの言うとおりだが、あくまで問題は裏。そして当然裏取引において表のルールなどが通るはずがないのである。


「だったらアクドルクが鑑定遮断のアビリティでも持ってたんじゃねぇのか?」

「……ナガレが言ってた、アクドルクは縁結び以外特にこれといった力は持っていない」


 フレムの発言を一蹴するビッチェである。それぐらいナガレの信頼は厚い。


「なら、魔導具とか?」

「……鑑定遮断の魔導具は必ずしも万能ではないだから不思議」


 ビッチェはどの方法も決定打には欠けると思っているようだ。しかし、そんな皆の話を聞いていたナガレが口を開き。


「それに関しては、少なくとも縁結びに関しては本人以外誰も気づくことは出来ないと思われます。鑑定でも無理でしょう」


 そんなことをあっさり言いのける。それに疑問を持つ一同であり。


「え? ナガレどうして?」


 ピーチが小首を傾げながら尋ねるが――


「それは、アクドルクの持つ縁結びは隠れ(シークレット)アビリティだからです。なので普通は本人以外には知ることが出来ません。かなり希少なタイプらしいですけどね――」


 ナガレの発言に再度驚くこととなる一同であった。



結構長くなってしまった……続きます

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