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第二五六話 ナガレ一行の考察

「え!? あのアクドルクがですか!」


 ナガレの示した見解を耳にし、まず最初に驚きの声を上げたのはフレムであった。

 そして、声を上げないまでもピーチやローザ、カイルもまさか、といった様相を見せている。


 ただ、ビッチェに関してはその話を冷静に受け止めていた。


「……なんとなく怪しいとは思ってたけど、やっぱりそうなのか」

「え? ビッチェも同じ事思っていたの?」


 ピーチの質問にビッチェがコクコクと頷く。


「……あの男の笑顔は、どこか嘘くさかった。それに、これだけ大掛かりな真似はハラグライだけで出来るとは思えない」

「う~ん、確かにそう言われてみると、帝国にまで、彼だけの力で手が回せるのもおかしな話だもんね~」

「ナガレもやっぱり、ビッチェが言っているようなことで怪しんでたの?」


 ピーチがナガレに尋ねる。ナガレの見解に彼女も興味があるのだろう。


「それもありますが、彼は食事会の時からおかしなことを口にしてましたからね」


 そして、ナガレの回答。するとフレムが目を丸くさせて聞き返した。


「へ? おかしなことですか先生?」

「はい。例えばハンマの街での出来事や、ジュエリーの街の件、それを既にあの男は知っておりましたからね」


 ナガレがそう述べると、ピーチが小首を傾げだす。


「でも、それって領主なら情報として掴んでいてもおかしくないんじゃない?」


 そして疑問を投げかけた。確かに領主であればそういった情報に精通していてもおかしくない気もするが。


「確かに、ハンマでの出来事自体は知っていてもおかしくはないと思いますが――ですがインキのことを知っていたのは流石に疑問ですし、ジュエリーの街に関しては情報を掴むのが早すぎるといえるでしょう」

「……それは確かにそう。ハンマの件は一般的には魔物と変異種の襲撃ということになっている。ジュエリーでの事は、私でさえ街についてから話として知った」


 ビッチェがナガレに追随するように言葉を続ける。特級冒険者であるビッチェが街につくまで知らなかった話なのだ。


 にも関わらず距離の離れたイストフェンスにまで既に伝わっていたとは考えにくいだろう。


「でも、ジュエリーストーン伯爵が既に話していたという可能性も――」


 すると、ローザが可能性を口にする。確かに、アクドルクがインキやマサルについて触れたのは食事会の時だ。


 その前にオパールを部屋に招き話をしているので、そのときに聞いていたのであれば知っていてもおかしくないが。


「それも一応オパールに確認致しましたが、一切触れてはいなかったようです」

 

 だが、それはナガレが否定した。流石に事実確認は既に済ませてある。


「……それに、自分の領地でおきた問題を聞かれもしないのにわざわざ話したりはしないと思う」

「た、確かにそれもそうね」


 そう、オパールはただでさえ商売人としての在り方が強い。アクドルク相手にも決して油断はせず隙を見せず対話に挑んだ筈である。

 

 そんなオパールがわざわざ自分から領地の信用を落としかねない話を持ち出すとは考えにくいのである。


「で、でも先生、それだと今あのふたりが軟禁されているのは不味いんじゃ……」

「そうよ! アクドルクが黒幕なら、エルガ様やオパール様が危険だわ!」


 すると、フレムがふと湧いたであろう疑問を口にする。それを耳にしたピーチも慌てた様子でナガレに訴えた。


「それに関しては心配は無用です。ふたりともアクドルクが首謀者であることを承知の上で逗留しておりますので」


 だが、ナガレの答えにピーチは再度驚くこととなる。


「え!? つまりふたりもそのことに気がついていたってこと?」

「……気がついたというより、おそらくナガレが教えた事。ナガレはふたりに何かを話していた時がある。それがこの事だったのでは?」

「あ、そういえば確かにナガレ様がおふたりと何かを話されていたことがありましたね」


 ローザが思い出したように黒目を上に向け言った。ピーチもそれに関しては記憶があるようで顎に指を添え頷く。


「はい、あの場でエルガとオパールには私の考えを伝えておきました。その上で、苦労を掛ける可能性があることも示唆させていただきましたので」

「でも、それならどうしてあの場でアクドルクに追求しなかったの?」


 ナガレに向けてピーチが問う。確かにそれが判っていたなら、エルガやオパールにしてもみすみす軟禁状態のような形で留めて置く必要もない気がするが――


「残念ながら。これはあくまで私の推測でしかありません。それはオパールやエルガにも伝えていたことではあります。その上で、あの段階で突いてしまっては逆に警戒心を抱かれ動きが取りにくくなると考えました。なので、敢えておふたりには疑われ罪を着せられることを覚悟の上で提案を受け入れてもらった形です」

「流石先生です、そこまで深いお考えがあるとは!」

「う~ん、でも凄いわね。エルガとオパールもまさか知っていてあんなやり取りをしていたなんて、全然気が付かなかったもの」


 ピーチはハラグライがオパールやエルガに疑いを掛けたときの事を思い出しているようだ。

 確かにあの時ふたりは単純に疑いを掛けられたという事を受け入れはせず、相手に向けて反論した上で自身が潔白であることも告げ、堂々とした姿勢を崩すことなく最終的には啖呵を切りながら彼らの監視下に置かれることを承諾した。しかし、それがむしろオパールらしくもあり、事前にそうなることを知っていた態度とはとても思えなかったのである。


 だが、それ故にアクドルクやハラグライにも気取られることはなかったと言えるが。


「ですが、領主という立場にありながら、相手の謀略を知りつつ、素直に受け入れるなんて――」


 呟いたローザの表情には、その肝の大きさへの感嘆と、同時に何か特別な理由でもあるのだろうか? といった懸念が入り混じっていた。


 だが、ナガレの答えがそれを払拭させることとなる。


「そうですね。確かによくそこまでと思うところもあると思いますが、もう一つの理由としてルルーシの事も大きかったとは思いますね」

「へ? 先生、どうしてそこにルルーシの名前が出てくるんですか?」


 ナガレの回答にフレムだけが目をパチクリさせていた。だが、他の面々に関しては察しがついたようであり。


「そうか……お姉さんのことがあったわね――」

「た、確かにあの場であまり話を大きくしては、当然お姉様であるリリース様の立場がないかもしれません」

「う~ん、しかもそうなるとルルーシちゃんも居た堪れなくなっちゃうかもだし、どっちに味方していいかもわからないものね~」

「……あのルルーシがアクドルクの肩を持つとは思えない。あの男の事をあまり好ましくは思ってなさそうだった。でも、つらいのは確か」


 確かに、新婚ということもあってか、アクドルクと仲睦まじげであったリリースと比べれば、ルルーシのアクドルクに対するそれは若干冷めたものであった。


 ただ、姉があの男を愛しているというその気持ちに関しては尊重していたようなので、あの場でもしアクドルクを問い詰めるようなことになっていたならば冷静ではいられなかったことだろう。


「でも先生、それはいずれは知ることなのではないですか? それならあの場で問い詰めていたとしても一緒な気も――」


 フレムはどこか遠慮がちではあったが、彼にしてはかなり的を射た事を言ってのけた。


「そのとおりですよフレム。当然これはいずれは伝える必要のある真実です。ですが、今の段階では私の憶測でしかないと言われればそれまでです」

「……ナガレの言っていることがよく判る。むしろ中途半端な状態だと、リリースにもルルーシにも不信感を抱かしかねない。そうなればアクドルクの思う壺」


 一つ頷きつつビッチェが述べる。それに喉を詰まらせるフレムである。


「う!? そ、そういうことか……すみません先生、俺が浅はかでした」

「そんなことはありませんよ。今の話は決して目を背けてはいけないものですからね」


 フレムに向けて柔和な笑みを浮かべつつナガレが答える。そのことに、ナガレにそう言ってもらえたことに感動し震えるフレムである。


「確かにそうよね……でも、アクドルクの奴許せないないわね! それにリリース様も、よりによってそんな奴と一緒になるなんてね……」

「恋は盲目というものね~リリースちゃんだって、まさか相手がそんな事を企てるとは思ってなかっただろうし」

「そうですね。出会いそのものはアビリティ(・・・・・)の影響もあるとは言え、アクドルクに恋心を抱いたという事実は確かなものですから」

「うん、そうなのよね。恋をしてしまうと――へ? ちょっと待ってナガレ! い、今何か妙な事を言っていたような……」

「……確かに私にも聞こえた、アビリティの影響って」


 ピーチが弾かれたようにナガレに身体を向け、ビッチェもピーチの覚えた疑問に同調する。


 すると、ナガレはふたりをみやりつつ、よく通る声で改めて応じた。


「はい、確かにそういいました。アクドルクは【縁結び】というアビリティを持っていますからね」


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