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第二五五話 転がる頭

神薙家の家族の名前を変更しました。

変更と言っても1人以外は読みは変わらず漢字が変わった形です。

変更前と後についてはあとがきに書かせて頂いております。

「どうやらここのようですね」


 目的地であった山岳地帯にナガレ達は辿り着いた。そこは小高い丘程度から、五〇〇〇メートルを優に超える規模の山々が立ち並ぶ。


 その為か、このあたりは帝国でも屈指の峻険さを誇るようで、基本よほどの理由がない限り足を踏み入れるものはいない。


 そんな山岳地帯の一画、険しい岩山に覆われた、普通ならば絶対に赴こうとは思わないような位置に今ナガレ達はいる。


 しかも断崖絶壁の途中に穿たれた闇穴は、足場もなく、足でも踏み外して落ちようものなら眼下の岩場まで真っ逆さま。腕に覚えのある冒険者でも挽肉になること間違い無しの高さがある。


 背中に翼の生えた生物でもない限り、このような場所にこようなどとはとても思わないことだろう。

 だが、その闇穴を覗き込むはナガレ。そして行動をともにしている、フレム、ピーチ、カイル、ビッチェ、ローザの五人である。


 ただ、当然ながらローザに関してはフレムの背中に身を預け、紐で固定された状態でもある。尤もこれとてフレムにとっては修行の一環でもあるので、喜んでそれを実行しているわけだが。


 そしてピーチに関してはこの旅の間もナガレに教わったことを反復し、その為魔力の細かな操作もスムーズに出来るようになってきている。


 この断崖を登る作業にしても、ただ魔力で肉体を強化しただけではなく、その状態をどれだけ維持できるかも考慮し、効率的に魔力を巡らせていた。


 一方カイルに関してはかなり苦労しているようで、今も相当に息が上がっている。色男は体力がね~などと軽口を叩いているが、このあたりは今後の課題でもあるか。


 そしてナガレについてだが――これはもう聞くまでもなく、断崖絶壁でありながらもいつも通り歩いて悠々と登ってみせた。勿論手などつかっておらず、まるで岩壁に足が引っ付いているかのような状態だったのである。


 今更ながら、人外という言葉がぴったりな所為であった。


 一方でビッチェも、流石に歩いて登るような真似こそしなかったが、この絶壁の中、なんとか手で掴めそうな程度の僅かな窪みなどを利用して、飛ぶようにして断崖を登ってきていた。


 ナガレ程ではないにしても彼女も十分に規格外といえるかもしれない。このあたりは流石Sランク特級の冒険者だけあるといったところだろう。


「ふひぃ~もう動けないよ~」


 横穴に入り込み、ようやく一息ついたといったところで、カイルが大の字になって倒れ込んだ。

 泣き言を口にするカイルに、なっさけねぇなぁ、とフレムが叱咤する。


「それにしても、中々酷い匂いですね」


 奥へと続く横穴を眺めながらナガレが言う。それに関しては皆も同意のようであった。この洞窟は決して広い作りではない。


 天井もギリギリナガレの頭がつくぐらいであり、背の高いカイルはかなり窮屈そうだ。その為に余計に匂いがはっきりとしている。


 そしてその香りには明らかな死の気配がべっとりと染み込んでいた。鼻を突く腐臭とすえた臭い、それは明らかに洞窟の奥から漂ってきている。


「た、確かに嫌な予感しかしない匂いね」

「空気も酷く淀んでいる気がします……」

「……性的な匂いも感じる」

「性的なって……どんな鼻してるんだお前?」

「う~ん、ビッチェちゃんの口からそんな言葉が飛び出すと、おいらゾクゾクしちゃうよ~」


 とりあえずカイルに対しては汚物を見るような目を向けるビッチェである。しかしカイルにはそれがまたたまらないようだ。


「とりあえず、奥へと向かいますか」

「そ、そうね――」


 見たところ先に続く横穴は一本だけ。完全な一方通行だ。特に迷うこともなく、一行は奥へと進んでいく。


「……ナガレ、どうかした?」


 その時、ふとビッチェがナガレに尋ねた。ナガレの意識が僅かだが背後に注がれたからだろう。ビッチェの察しのよさは、ナガレ程ではないにしてもかなりのものだ。


「いえ、大したことではありませんよ。問題はないでしょう」

 

 とは言え、ナガレは穏やかな口調でそう返事し、改めて皆を引き連れ奥へと向かう。

 横穴は、奥で湾曲し左の方へと続いていた。それほど広い作りではなく、曲がってすぐにどこかの空間に繋がってそうな口が広がっていた。


 そして口が近づくにつれ鼻孔を突く悪臭も濃くなってくる。

 気分的には長い咽喉を抜けて、ドロドロの溶けた残留物の残る胃にでも飛び込むようなそんな気持ちになる。それぐらい匂いはキツかった。


「うっ――」


 空洞に入るなり、ピーチが顔を顰め、口と鼻を手で塞いだ。フレムも怪訝そうに眉を顰め、カイルも顔を引き攣らせているし、ローザの顔色も青くなっていた。

 

 カイルに関しては獣人の血が流れているだけあってか、匂いにはそれなりに敏感なのかもしれない。

 

 ただ、ナガレとビッチェに関しては様子に変化はなく、平然として空洞内をつぶさに観察する。匂いに鈍感などという理由ではなく、むしろ彼ら以上に鼻は敏感であろうが、この程度には屈しない強い精神力がそれを可能としていた。


 空洞内は途中の横穴に比べると遥かに広く。ナガレ達全員が集まってもまだ余裕がある。天井もそれなりに高い。


 ただ、それでも匂いはかなり篭っているあたり、空気の逃げ道はそれほど多くないのかもしれない。酸欠になるほどではないようだが。


「……生存者はいない」

「そうですね、おそらくあれが連れてこられたという少年少女の頭蓋でしょうから」


 ナガレが目で示した方向、空洞内の一番奥の壁際には、髑髏と化した頭蓋が無造作に八つ転がっていた。


「あ、あれってやっぱり殺されたのかな――」

「そうですね、この中に残ってる痕跡からも間違いないでしょう」


 ナガレの言うように、壁などにもここで何が行われていたかを示す跡がしっかりと刻まれていた。

 血で変色した岩壁や、この匂い、そして所々に小さな肉片が土と同化するようにして残っている。


「……主よ、願わくばこの者たちに――」


 すると、ローザが頭蓋だけになった彼らの前に立ち、祈りの言葉を捧げだす。

 聖魔法を得意とする彼女は、こういったことを欠かさない。途中盗賊を倒した際も彼女は祈りを捧げていた。尤もそれはアンデッド化を防ぐためという意味合いもあったようだが。


 ただ、今回はここまでの状態になるとアンデッド化することはない。なのでおそらく供養といった意味合いが強いのだろう。

 

「別にそんな奴らに祈ってやる必要はないだろう」


 だが、それを見ていたフレムが吐き捨てるように言う。イエイヌやシャムの話を覚えているからだろう。


 彼らのやってきたことを考えれば、悪魔にやられたことも自業自得と思っているのかもしれない。


「ちょっとフレム! その、一応はナガレと同じ世界の子たちなのよ――」


 しかし、そんなフレムを肘でつつきピーチが注意してみせた。

 ローザの横で手を合わせるナガレの姿を見たからだろう。

 その行為自体は彼らの文化では理解できないものであろうが、その神妙な雰囲気から、ローザの祈りに通ずるものがあるのかもしれないとピーチは判断したのだろう。


 同時に、これまでの話でいけばこの頭蓋と化した少年少女も帝国が異世界、つまり地球から召喚したもの。ナガレと同じ日本人である。


 なのにそのような言い方をしては、ナガレが傷つくとも考えたのだろう。

 そして、その点にフレムも気がついたようで、慌ててナガレに向けて頭を下げた。


「す、すみません俺つい!」

「いえいえ、大丈夫ですよ。それにこれまでの彼らの行いを考えれば、この結果も致し方ないといったところでしょう」

  

 だが、ナガレはフレムの発したその事自体は特に気にしている様子は感じられない。確かに手を合わせこそしたが、それとこれとは別問題である。彼らのやった行いは決して許されるものではないのだから。


「……フレム、ナガレはこの程度で心を乱したりしない。それに世界が違おうと悪いものは悪い」


 ビッチェがピシャリといい切った。ビッチェもやはり同じ考えで、骸となったこの者たちに同情の余地などないと考えているのだろう。


「ローザ、彼らの為にどうもありがとうございます」


 とは言え、祈りを終えたローザに対し礼儀を欠かさないナガレでもある。

 彼らがナガレと同じ地球からやってきたことには代わりはなく、それに対して真摯に向き合ってくれているのだから感謝を述べるのも当然といえる。


「う~ん、でも、生存者がいないとなるとここで掴めることは何もなさそうかな」

 

 祈りも終わり、一旦落ち着いたところでピーチが頭を捻り述べる。匂いもナガレ達が来てから和らぎ、気にならない程度まで薄くなっている。


 それ故に頭もはっきりしてきたのかもしれない。尤もこれはナガレ達が来たからとも言える。

 

 何故なら淀んだ空気はナガレが受け流し、ついでに言えばビッチェから滲み出ている芳醇な香りが嫌な匂いを打ち消してしまっているからだ。


「確かにここだけで見ていると、何も掴めるものはなさそうですが、しかしこれまでの出来事を合わせて考えてみると見えてくることもあることでしょう。折角ですので改めて考えを纏めてみましょうか」

「ま、まとめてですか先生?」

「はい。例えば、今回の件を通じて、王国と帝国の関係はまずどうなると思いますか?」

「え、え~と、それは勿論悪くなる? かな? 帝国が私たちに濡れ衣を着せたのも、ナガレのおかげで報告が遅れるにしても明るみに出たら結構まずいことになりそうな気がするし」

「確かにピーチの言うように王国と帝国という点で考えるとそうなる可能性も高そうです。ではこれをイストフェンスと帝国という形に置き換えたらどうでしょうか?」

 

 ナガレが条件を変えて更に問うように言う。するとピーチが首をひねりつつも。


「それは、やっぱり変わらない? むしろ国交回復も今回の件で流れちゃうんじゃない?」

「……それは違う。帝国の騎士が言っていたことをもう一度思い出す。あいつらは事前に情報を聞いていたといい、『内密に王国側と帝国側で協力しあったことではあるがな』、とこうも言っていた。王国側といっても王自身が情報を与えたとは限らないし、そもそも今回ナガレに最初帝国へ向かうよう話を持ちかけたのは――」

「あ! そうか! 確かにそう考えると、イストフェンスと帝国の関係が怪しいわね。きな臭いわ」

「ああ、そして俺もわかったぜ。今回の件、きっとあのハラグライって奴が仕組んだんだ! 腹黒そうな奴だとは思ったけどあんちくしょうやっぱりだ!」


 すると、そこまで話を聞いていたフレムが憤る。確かに城での彼の態度を考えると怪しいのは間違いないのだが。


「フレム、確かに彼も今回の件に関わってるのは間違いないでしょうが、首謀者はまた別ですよ」

「へ? そ、そうなんですか?」

「う~ん、ということはナガレっちは、もうそれが誰か検討がついてるってことなのかな~?」


 フレムが目を丸くさせ、カイルがナガレに注目し言葉を投げかける。


 すると、ナガレは一つ頷き、あくまで現時点での私の考えではありますが、と前置きした上で更に言葉を続けた。


「王国側の首謀者は、おそらくはアクドルク・イストフェンス・ルプホール辺境伯でしょう」

神薙家名前変更点

旧名→変更後

男性陣

長男

神薙 九頭志→神薙 崩

神薙 那牙瑠→神薙 投

曾孫

神薙 手折摩→神薙 倒


名前の読みは上からクズシ、ナゲル、タオスで変更後もかわりありません。


女性陣

次女

山神(神薙) 兎蹴美→山神(神薙) 浮美

結婚したため名字が違います。読みは変わらずウケミ。

孫(ナゲルの妹)

神薙 美恵留→神薙 美留

こちらはミエルからミルに変更。


名前を変更した理由は今のナガレの性格を考えると、ちょっと旧の名称はないかな~と考えたのが理由です。そして男性陣は名前を漢字で一文字に統一、女性陣は漢字二文字で統一しました。

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