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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

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第二五四話 無傷のわけ

 森で獣人達を見送った後、ナガレ達はその足を北北西へと向けた。

 目的地はビストクライムより北へ向かった先にある山岳地帯である。


 これは事前に獣人達に黒髪黒目の少年少女が連れ去られた方角を聞いていたからに他ならない。


 町の住人は全て悪魔たちの手で滅せられたが、帝都からやってきたという待機組(話を聞くにナガレのいた地球から召喚された男女)は翼を生やした悪魔たちに抱えられ、北の方へ飛んでいったという。


 獣人達は、どこにいったのかまでは知らないようであったが、彼らを連れ去った悪魔達とは別に、多数の悪魔が町に残り、住人たちを排除して回っていたという点。


 そして町の掃除が終わった後、同じように飛び立った点を考えれば、待機組を連れ去った悪魔と比較的合流しやすい場所を選ぶはずである。


 故に、町の北に鎮座する山岳地帯に的を搾り、そこ目指して移動を開始したのである。


 尤も、ナガレは合気陣によって連れ去られた位置の検討はついていたりするが――


「それにしても、本当に全員気絶してるんだから凄いよね~」


 道すがら、駆ける足を鈍らせることなく、カイルが後ろから声を発する。

 基本的に、ナガレは皆のペースに歩く速度を合わせている。勿論ローザに関してはフレムの背中といった位置ではあるが、その為、カイルも特に苦もなく後ろから付いてこられている形だ。


「確かにね。森のなかでも結構帝国の騎士が倒れちゃってたもんね」

 

 廃墟とかした町も含めて、帝国が用意した三〇〇の兵と騎士は、ナガレ一行の逃げ道を塞ぐように、要所、要所に配置されていた。その中には獣人達が隠れるようにして過ごしていたあの森や、その上の丘も含まれる。


 だが、ピーチの言うようにその誰もが完全に意識を絶たれていたのである。しかも無傷でだ。本来戦いにおいて相手を無力化する場合、無条件降伏などといった例を除けば、攻撃を加え身動きできないほどの傷を負わせるか、殺してしまう方が手っ取り早い。


 逆に言えば相手に一切傷を負わさず無力化することは至難の技だ。しかも相手の数が多ければ多いほど、全てを無傷でというのはほぼ不可能な話となる。少人数であれば魔法による強制睡眠や麻痺などといった手も考えられるが、ある程度の人数がバラバラに動いてるとなるとかなり厳しい。


 しかもナガレはそんな魔法の類にも一切頼ることなく、一瞬にして三〇〇という数を無力化したのだ。全員が感嘆の声を上げるのも当然といえるだろう。


「……でも、帝国はナガレを舐めすぎ。三〇〇とかありえない。ナガレを相手したいならその一万倍用意したって足りない」

「まあ確かにな。それは俺もビッチェに同意だぜ。全く、一万倍の三万でも約不足だぜ!」

「……フレムって――」


 鼻息荒くビッチェに追従するフレムだが、色々と間違ってるせいもあってか、背中にいるローザは呆れ顔だ。


「……とにかく、確かに三〇〇人全員を無傷でというのは凄い。生半可な力じゃ出来ない。でも、倒すだけならあの程度私でも簡単」

「あはは、ビッチェちゃん凄い自信だね~」

「おいおいカイル、それぐらい俺にだって出来るぜ!」

「あんたも無駄に自信は凄いからね」


 ピーチが目を細めて突っ込んだ。しかし、確かにフレムもナガレとの修行を重ねてきたことでかなり強くなっている。それはピーチにしても一緒だ。三〇〇程度の有象無象の帝国騎士相手ならば、やってやれないこともないだろう。


「――ですが先生、も、勿論先生のやり方に不満があるわけじゃないですが、でも、本当にあれで良かったんですか?」


 そんな移動しながらの話の途中、ふとフレムが眉を落としナガレに訪ねた。

 それに、あれというと? と反問するナガレであり。


「いや、あの、無傷でというのが。あんな連中、こてんぱんに伸しても良かったんじゃないか! と、思ったり」

「ま、まあ確かに濡れ衣を着せてきてムカつく奴らではあったけどね」


 少しの不満を滲ませつつもフレムが述べ、ピーチも若干の同調を見せる。

 確かに、抵抗したなら命を奪うことも躊躇しなさそうな相手であったのだ。無傷で気絶させるだけという結果に納得がいかないのも判らなくもないが――


「その気持も判らなくもないですが、しかし、もしあそこで応戦してしまっていたら相手の思うつぼでしたからね」

「へ? 思うつぼ?」


 走りながらナガレの横に並び、ピーチが目を丸くさせて言葉を発す。

 ビッチェは思案顔を見せるも、他の面々もやはり怪訝そうな顔を見せていた。


「先生、それは一体どういう意味ですか?」

「そうですね、簡単にいえば、あの騎士達は私達の捕縛、もしくは始末を命じた首謀者からとって、捨て駒でしかなかったということです」

 

 ナガレの回答に四人が驚く。ただ、ビッチェに関しては合点がいったような聡いさが表情に出ていた。


「ですがナガレ様、つまりあの騎士達は、自分たちが捨て駒だということを判っていて、あの場にやってきたということですか?」


 フレムの背中の上からローザが尋ねる。確かにやられると判っていて三〇〇という中隊~大隊規模の兵を派遣するのには疑問が残るところだ。


「それに関しては命じた側と、命じられた側に相違があるといったところでしょうか。例えば今、私達を相手するのに三〇〇人では少なすぎるという話が出ましたが、ではこれが帝国側にとって、少し腕の立つ冒険者を六人相手するという図式で考えた場合、どう思いますか?」


 ナガレが問いかけると、一様に黙考し、暫しの沈黙。

 そして、カイルが軽く笑みを浮かべながら答えた。


「それだと、逆に三〇〇人は多い気もするね」


「う~ん、確かにあの獣人達がいたとしても、十分すぎる気がしますね先生」

「その条件で三〇〇人に囲まれたら、もう降伏するしかなさそうですね」

「そうね、むしろそれだと過剰過ぎる気がするわ」


 歩みを止めずに会話を続ける。そしてカイルに続いて他の面々も自分の考えを述べていった。


「……つまり、私達を捕らえる側からすれば捨て駒でも、あの騎士からすれば違った。それどころか、連中は過剰戦力とさえ思えるほどの考えでいた。命じたほうが敢えてそう思えるような情報しか与えなかったから」

「そういうことですね」


 自分の考えを纏め、話すビッチェにナガレが頷く。するとピーチが小首を傾げ口を開いた。


「でも、捨て駒にしてどうする気だったのかしら?」

「それは、彼らの話からある程度推測できますね。今回帝国の騎士達は、さっきもあったように、私達が影で糸を引き、獣人達が町を襲うように謀ったのだと罪を着せてきました」

「全く、腹の立つ連中だぜ!」

「ええ、フレムの気持ちも判りますが、ではそこで私達が反撃に転じ、彼らを倒してしまった場合どうなるか――」


 憤るフレムだが、ナガレは諭すように言葉を続ける。一旦問題を投げかけるように言葉を切り、そして一拍置き回答を紡げた。


「おそらく首謀者は対外的にもこう公言することでしょう。帝国側としては一旦身柄を預かり、先ずは事情を聞くだけのつもりだったのだが、しかし彼らは抵抗し、武器を手に取り、問答無用で攻撃を仕掛けてきた。その所為によって多くの兵が負傷しまた犠牲になったのだ、と――」


 ナガレの言う対外的とは帝国以外の国々のことであり、そして大陸連盟への加入国でもある。

 そういった場へ公に発表することで帝国に非がないことをアピールし、同時に王国側を貶める目的もあるとナガレは見ていた。


「な、何よそれ、そんなの言いがかりじゃない!」

「……確かに言いがかり、でも、それでも反撃して逃げたとなると印象は悪くなる」

「あ、そっか~それでナガレっちはおいらたちに手を出さないように言ったんだね~」


 ビッチェの話を耳にし、後ろからカイルの声。どうやらなぜ無傷で気絶させたのか得心がいったようだ。


「ですが、そんな嘘を平気でつくような方が、いくら無傷とは言え話を引っ込めるでしょうか?」

「う、う~ん、確かにやられてなくてもやられたとかいいそうよね」

「それに関しては確かに可能性もないとはいいませんが、ただあれは時間稼ぎの意味合いも強いですからね」

「時間稼ぎですか?」


 フレムが首を傾げる。理由がわかり、無傷で終わらせたことに対する不満はもうないようだが、意図は完全には理解してない様子。


「はい、今も話したように、首謀者の思惑と、騎士達の考えには相違があります。だからこそ、騎士達がこれから意識を取り戻した後、どう動こうとするかが鍵になります」

「どう、動く?」

「う~ん、でもやっぱり気がついたら報告に戻るんじゃないのかな~?」

「……それは違う。そして理解した。騎士達はこのままじゃ知らせには戻れない」

「え? ど、どうしてですか?」

「そこは帝国の国としての在り方に関係してますね。この国は帝国騎士団の騎士にとっても必ずしも優しい国ではありません。他の国と比べても苛辣な考えを持った国と言えるでしょう」

「……それは確かにそう。どんな些細なミスでも寛容ではない、下手なミスをしたなら、階級もあっさり剥奪」

「あ、そうか!」


 そこまで話を聞いて、ピーチが何かを閃いた顔を見せ声を上げる。


「先輩、何かわかったんですか?」

「勿論よ! 全ての話をまとめれば自然と答えが出たわ! 今回派遣された帝国兵は、三〇〇人もいれば絶対に失敗はないと考えて意気揚々とあの町までやってきた。準備も万端で、万が一にも失敗なんてありえないと思っていたに決まってるわ。でも、蓋を開けてみればいつの間にか全員が気絶。しかも無傷で、その上、私達にも、あのイエイヌやシャムちゃん達にも逃げられた――」

「あ、確かにそう聞くとあの騎士達からしたら大失態ですね」

「あ~、確かにそう考えたら、おめおめと報告になんて戻れないよね~」


 カイルが苦笑しつつ口にする。すると、ビッチェが更に言葉を重ねていく。


「……そう、おまけに怪我一つないなんて話になれば、一体何をしていたのかという話になる。場合によってはわざと逃したんじゃないのか? という疑いだって掛けられるかもしれない」

「そ、そっか、流石に怪我もなしでただ気絶してましたなんて、普通に考えたら通じる話じゃないよね~」

「……だから、あいつらは絶対にそのまま戻ったりしない」

「な、なるほどな! 流石先生だ! いや、でもそうなると、あいつら気がついたら意地でも俺たちを探そうとしてくるんじゃないのか?」

「もうやっきになって探し回りそうね」

「……だけど無駄。ナガレも私達も、あんなやつらにみつかるほど愚かではない。そしてそれがそのまま足止めに繋がる」


 一旦まぶたを閉じ、ビッチェが述べる。すると、ローザの表情が一瞬くぐもり。


「で、でもあの子達は大丈夫でしょうか?」


 そんな心配事を述べた。あの子達とは森で見送った獣人たちの事である。


「それは大丈夫ですよ。私が教えたルートでいけば、帝国の騎士や兵士には絶対にみつかりません」


 だが、ナガレの回答を聞きほっと一安心といった様子。


 そして実際は――ナガレの纏わせた合気の効果も大きい。これによってあの獣人たちの気配は極端に薄くなっており帝国の兵にも気づかれず、途中で魔物に見つかっても、殺気がくればそれ以上の殺気を返す為に、魔物だろうと魔獣だろうと近づいてくることはない。


 尤も、彼らでも十分対応できそうな障害に関しては、敢えて効果が及ばないようにもしているが――


「そっか、つまり私達が見つからなければ、あの騎士達も報告に戻れない。報告に戻らなければ帝国側も大義名分を口にできないというわけね、流石ねナガレ!」


 ピーチが喜色満面で口にし、フレムも感嘆の声を上げる。同時にフレムに関して言えば心の支えも取れたような様相であり。


「……でもナガレは凄い。これで、あの帝国兵共は身体の傷こそ負ってないけど、精神的にはかなりのダメージ」

「あ~確かに絶対に成功間違いないと思っていた任務で大失敗したら、目覚めてから気が気じゃないだろうね~」

「は! それはそれでいい気味だぜ!」


 ざまぁみろと言わんばかりにフレムが声を上げた。

 確かに今回派遣された騎士や兵たちは、このままおめおめと逃げ帰るわけにもいかず、意地でもナガレや獣人達を見つけ出したいところであろうが、それが見つからないとなれば相当な重圧をその身に課せられることとなるだろう。


「――でも、ありえないけど、もしその首謀者の作戦が成功して、私達が返り討ちにしていたとしても、それを帝国側が吹聴したからって、他の国々も信じるものなのかな?」


 だが、ここでふとナガレの横に並んだピーチが、疑問の声を上げる。ナガレを挟んで反対側にはビッチェも並んでいる形だ。


「……それに関しては、確かに言葉だけでは信憑性は薄いでしょうが、画が加われば話は別といったところでしょうか」

「え? 画?」

「……もしかしてナガレ、他にも何かいた?」


 すると、何かを察したようにビッチェが問う。


「はい、とはいっても生物などではなく、魔法的な監視の目ですね。尤もすぐに排除はしましたが、それで場面の記録も目論んでいたようです。イエイヌが謎の声について話してましたが、その正体もこれだったようですね」

「……それには私も気づけなかった、無念」

「ま、まあ、私もさっぱりだったわね」


 目を丸くさせた後、無念そうに述べるビッチェとピーチであり、それに気がつけるナガレはやはり規格外だと改めて感心したようでもあった。


 そして――そうこうしているうちに目的の場所までもう少しの位置まで達していた一行である。

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