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第二四五話 到着? ビストクライム

「……私が勝った。お前たちの相手は私がする」

「うぅ、やっぱりグーを出しておくんだった――」

「くっ! 俺の、俺の見る目がまた足りないというのか!」


 たかがじゃんけんされどじゃんけんというべきか。フレムとピーチの落ち込み様はなかなかである。


 だが、そんなふたりに勝ち誇った目を見せつつ、ビッチェが連中と相対した。


「あんなむさ苦しい連中とやりたいなんておいらには良くわからない感情だよね~あ、でもビッチェちゃんの戦いが見れるのは嬉しいかも~!」

「鼻の下伸びてますよカイル」


 ローザがやれやれといった様子で述べる。その表情は呆れを通り越して逆に感心しているほどでもあった。


「げへへっ、こいつはいいや。そっちの赤髪の男以外ならどっちでも良かったけどな」

「いやいや、乳臭そうなガキよりは、こっちのエロい女の方が色々と楽しめるってもんでしょ頭」

「誰が乳臭いよ! 失礼ね!」


 ピーチがムキー! と猿のような声を上げて抗議した。しかしこういった嘲笑を軽く受け流せないあたりが、まだまだ大人の女性になりきれてない様を如実に表していたりする。


 一方でビッチェは終始全く変わることのないエロティシズムを発揮しており、それは駆除すべき盗賊の前であろうと同じである。


 尤もこれでも本来の誘惑の効果はかなり抑えてはいるのだろうが、腕で押し上げられることでより強調された胸は褐色のせいもあり、それでいて艶のある見事な球体と化していることもあり、夜空にふたつ月が浮かんでいるかのような感覚にさえ陥ってしまう。


 満月は人の心を狂わせると言うが、それを目の当たりにしている盗賊の心境はまさにそれであろう。満月を見て興奮を覚える狼男の如き状況だ。


「ぐぅ、たまらねぇぜ、大体なんだよこの格好」

「ああ、全く、こんなの殆ど裸と変わんねぇじゃねぇか!」

「姉ちゃん誘ってんだろ? 俺たちをよ? なあ?」


 両手をわきわきと動かしながらよだれを地面に滴らせる雄達。それを認めながら、くすりとビッチェが魔性の笑みを浮かべた。


「……私にとって、お前らはやり合うべき獲物。ただそれだけ」

「やりあうって、あれか? 密着してやるアレのことか? いいぜ、この俺がいくらでも相手してやるよ」


 盗賊の頭が下品に股間を膨らませながらよだれを拭う。その様子に、さいってー! とピーチが頬を紅くさせる。


 そしてそれを見ていたカイルも何故か股間を押さえており、ローザの視線が冷たい。


「……判った。もし私に指一本でも触れることが出来たら――この身体好きにしていい」


 半身の姿勢になり、敢えて胸からお尻までのラインが相手からよく見える状態にさせた上で、そんな挑発的な言葉を吐く。


 視線は明らかに相手を蔑んでおり、ぷるんと水気を含んだ柔らかい唇から発せられたのは、どう見ても相手を下に置いている言葉であったのだが、視線と言の矢が盗賊たちの胸を射抜いたその瞬間、雄共からは発情期の狼が発する遠吠えに近い歓声が上がった。


「よっしゃーーーー! 俺が一番乗りだぜ!」

「ふざけんな俺だ!」

「馬鹿言うなあの身体を好きにできるのはこの俺だぜ!」


 そして出遅れた頭を置き去りに、雄共が涎を撒き散らし、目を血走らせ、ビッチェに向けて駆け出した。


「あ、てめぇらこの俺を差し置いてふざけるなよ!」

 

 これには頭も腹がたったようで、連中に向けて怒鳴り上げる。だが、手下の連中が数歩目を大地に刻んだその瞬間、全員の動きがピタリと止まった。


 しかも不思議なことにビッチェに向かって飛びかかろうとした雄も空中で静止してしまっている。


「ふむ、ビッチェには容易すぎる相手でしたか」


 そして、ナガレが顎を押さえつつそんな言葉を漏らす。それを耳にした頭が眼をパチクリさせ、何言ってんだお前? と口にしたその瞬間、頭以外の全ての雄の身に切れ目が入り、かと思えば解体された家畜のごとくバラバラになり地面を汚した。


「……確かに雑魚すぎ。これなら野生の猪の方がまだまし」

「な、なにいぃいぃぃぃいぃいいい!?」


 驚愕する頭。一体何が起きたのかも理解しておらず、ビッチェがいつ剣を抜き、いつ手下を切り刻んだかも判っていないだろう。


「あ~あ、こりゃ駄目だ。アレに反応出来ないんじゃな」

「本当ね、私でもあれなら見てからでも避けられるわよ」


 しかし、フレムとピーチに関してはビッチェの動きに驚いている様子は感じられず、むしろ相手のレベルの低さに驚いている様子ですらあった。


「くっ、そ、そうかてめぇ! 罠だな! 罠を張ってやがったんだな! 少しばかりいい女だからってこっちが大人しくしてりゃ付け上がりやがって!」

「いやいや全然大人しくなかったと思うよ~ギンギンだったし」

「……もう」


 ケタケタと笑いながらカイルが述べると、思い出したようにローザが顔を紅くさせた。ギンギンの意味を察したのだろう。


「だがな! 仕掛けが判ればこっちのもんよ! いくぜ! リモートアクス!」


 叫びあげ、盗賊の頭がビッチェに向けて斧を投げつけた。ナガレ式のではなく、柄の短い両刃の斧だ。


 それがギュンギュンっと回転音を上げながらビッチェに迫るが、決して速い動きではないため、軽々と頭の動きだけでそれを躱す。


「ふん、躱したか、だけどな! その斧は俺の意志で自在に動く!」


 ニヤリと口角を吊り上げ、は! と頭が腕を振った。すると確かに頭の腕の動きに合わせ、斧が軌道を変え再びビッチェに襲い掛かる。


「かかっ、どうだ雌豚! 殺すには惜しいがこうなったら仕方ねぇ、その代わりは残った女でやらせてもらうとして、てめぇはさっさとし、ふぇ?」


 しかし頭の言葉がそこで止まった。その腕の動きも止まり、頭が操っていた斧の動きも停止してしまっている。


 そして頭は黒目を、あれ? あれ? と言いながらギョロギョロと動かし続けた。しかし身体は一切動こうとしない。いや、動けない。


「これで、頭の悪いお前にも理解できたか?」

「ひっ、あ、こ、これは――」


 頭の投げた斧と、そして頭の全身には、ビッチェの抜いたチェインスネークソードの刃が巻き付いていた。


 分解された細かい刃は、頭の全身をグイグイと締め上げていく。その所為で肌の皮も中の肉も裂傷し、鮮血が滴り落ちていった。


「……理解できたか?」


 そして改めて頭にそれを問うビッチェ。すると頭は大量の汗を全身から吹き出させ、涙目になりながら答えた。


「ひゃ、ひゃい、理解しました。だから、たすけ――」

「……そう、だったら死ね」


 しかし、頭の命乞いを最後まで耳にすることなく、ビッチェは一気に柄を引き刃を元の形状に戻した。


 当然、そうなると頭の身は――


「うわ、完全に輪切りね……」

「ハムみたいだな。食いたくないけど」


 結局悲鳴を上げる暇すら与えられず頭は死んだ。しかしこれまで好き勝手やってきた盗賊である。当然の末路であろう。


「さて、それでは向かいますか。上手く行けば陽が落ちる迄には目的地につけるでしょうしね」


 そして盗賊を全滅させた後は、ナガレの言葉通り先を急ぐこととする一行である。


 その後も魔物や盗賊とは何度も出くわしたが、これといった相手もいなかったため、倒すのにも特に苦労することもなく――


 そしてそれから更に歩みを続け数時間。


「あ、もしかしてあれかしら!」


 ピーチが小高い丘の上からそれを指差し言った。

 だが、同時にう~ん、と首も傾げる。


「何か様子がおかしくない?」

「……町の壁が大分壊れている。それに、明らかに空気がおかしい」

「うん、建物もかなりいっちゃってるし――ほ、本当にあそこであっているのかなぁ?」

「おいおいカイル。先生が道を間違えるなんてことはないだろ? そうですよね先生!」

「いえ、私でも間違うことぐらいはありますが。ただ、地図で見た町はほぼ間違いなくあそこでしょう」


 丘の上から目的地と思われるビストクライムの町を望みながら、ナガレが言う。するとローザが不安を顔に滲ませ口にした。


「も、もしかして何者かに町が襲われているとか?」

「え!? それなら大変じゃない! 急いで助けに――」

「いえ、それも少々違うようですね。正確にはもう襲われた後のようです」

「へ? お、襲われた後ですか?」

「……確かにもし襲われている最中なら、こんなに静かなのもおかしい」


 ナガレの考察にフレムが疑問の声を上げ、そしてビッチェもナガレの話に同意した。


「そうですね、とにかく一度行ってみたほうが早そうです」


 そして、ナガレ達はおかしな状況と知りつつも――丘を下り目的地の町を目指すのであった……。

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