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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

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第二三九話 その町の日常

サトルサイド、待機組の話が続きます。

残虐表現、それに伴う不快な描写がありますので苦手な方はお気をつけ下さい。

 フレデリックと一緒に門を抜け町に戻る。そこには相変わらずなビストクライムの町並みが広がっていた。


 建物同士がそこまで密集していることもなく、そこそこ広い道を馬車が走っていたり、牛を引く農民の姿があったりとどこか平和にも感じる風景である。


 帝国の中でもこれだけのんびりしている町は珍しいとフレデリックは語る。エイコは肺一杯に町の空気を取り込んだ後、帝国の用意してくれた宿に向かって足をすすめる。


 宿といっても当然宿泊費は帝国持ちであり、またある程度アケチ達の活動が落ち着くまでは泊まり続けることになるため、半分待機組の貸し切り宿みたいになっているが。

 

 エイコはフレデリックに腕を絡め鼻歌交じりに往来を歩く。外は薄暗くなり始めているが、元気に遊ぶ子どもたちの姿はまだまだ見られる。


 すると、一人の少女が両親の下へ駆け寄る姿が見える。


「パパ、ママ! ほら! 私、剣でここまで切れるようになったよ~」


 無邪気に笑う少女の手にはまだ幼い獣人の頭がぶら下がっていた。髪の毛を掴み首から上だけになったそれを掲げ、得意げな顔を見せている。


「おお、凄いな。でもな、この獣人はまだ廃棄するのじゃなかったから、本当はまだ殺しちゃ駄目なんだぞ?」

「え~だって目つきが生意気だったんだもん。家畜以下の玩具の癖にさ。だから殺っちゃった」


 えへへっと無邪気に笑う少女の姿に両親もやれやれといった様子だ。この町では獣人で剣の切れ味を試したり魔法や矢の的にしたりは別に珍しくはない。


 その証拠に、町のいたるところに鎖につながれた獣人が放置されている。これらの獣人は基本何をしてもいいことになっており、子どもたちからすればちょっとした遊具と一緒だ。


 勿論子供だけではなく、町で暮らす人間ならば老若男女問わず獣人をいたぶり続けている。

 これはこの町に限らずフィーニス領内であれば日常茶飯事的な風景だ。


 領主であるカチュア辺境伯は、女性の差別をなくし、男女平等を掲げ帝国に訴え続けており、領内の女性からは英雄扱いもされているが、その中に獣人は含まれていない。


 いや、それどころかカチュアは獣人に関していえば人間より遥かに下の劣等種であり、家畜にも劣る存在とし、奴隷として扱うのも認めず出来るなら全ての獣人は殺処分すべき! などの過激な発言も目立つ程である。


 それぐらい獣人を毛嫌いしているだけあってか、こと獣人の扱いに関していえば帝国内でも類を見ないぐらい残虐なものである。


 しかしそれに文句をいうものはフィーニス領にはいない。当然ここビストクライムもだ。特にこの町は獣人の新たな活用方法を模索する上でのモデルケースとして存在しており、ただ殺処分するのではなく町で暮らす人々のストレス発散の道具として有効活用出来ないか? といった提案を下に獣人が集められている。


 その為、本来ならば獣人とは言え奴隷として購入しなければ好き勝手な真似は出来ないが、ここでは町で暮らす人ならば誰でもいつでも好きな時に奴隷を殴り蹴り、用意された拷問道具も駆使し好き勝手が出来るようになっているのだ。


 ただ、それでも暗黙の了解として、使い物にならなくなった獣人以外はむやみに殺してはいけないというルールが有る。

 しかし、これは別に獣人を思ってのことなどではなく、あまりに早く殺されすぎると玩具となる獣人の数が足りなくなるからだ。

 

 既にこの町では獣人をいたぶることが娯楽と化している節がある。獣人という自由にできる玩具があるからこそ、この町は成り立っていると言っても過言でもないだろう。


町の人間も誰もがそれが当然と考え、子供にも物心ついた頃には獣人がどれだけ醜悪で役立たずの劣等種であるかということ先ず教え、子どもたちの目の前で平気で獣人に暴力を振るい痛めつけ、それを子供が真似をすればよくやったと褒める。その過程で実際に子どもたちに獣人を殺処分させる。ここはそういう町だ。


「おじさん、一回お願いします」

「あ、ハルナじゃない」


 エイコは発見した少女の背中へ声をかける。咲本 春菜、彼女もまた待機組の一人だ。クラスの中でも小柄な方の少女で、地球にいたころは控えめな子であったのだが。


「あ~またこれ? このゲーム好きねハルナ」

「うん、へへっ、エイコも相変わらずフレデリックさんと仲がいいみたいだね」


 まぁね、と嬉しそうに返すエイコ。どうやら仲を隠す気はないらしい。


「はい、嬢ちゃん、一回なら五個だよ」

「ありがとう。得点はどんな感じですか?」

「今日のは四肢がないからね。でもそのかわりまだ子供だし、眉間、ど真ん中で五〇点、眼なら三〇点、それ以外の顔面で一五点、胴体はどこでも一〇点ね。あ、でも歯が折れたら一本ごとに五点サービスね。最低一〇〇点以上で景品をプレゼント。一五〇点以上なら更に豪華な景品だ」

「うん、判った」

「よっし! 景品狙って頑張ってハルナ」

「ハルナ様ならきっと上手くいきますよ」


 エイコとフレデリックに応援され、ハルナは笑顔を見せ、店のおじさんが用意してくれた鉄球を手に取った。


 そして大きく振りかぶり、的となる犬耳の獣人に向けて投擲――


「ギャッ!?」


 それは吸い付くように獣人の額に命中し、そしてそのまま頭を垂れ、動かなくなった。それを認め、次の投擲を中断させ様子を見る親父だが。


「……なんだ、もう死んじまったのか」


 どうやら頭をやられたことでその命は一撃で刈り取られてしまったようだ。

 

「一発で壊れた場合どうなるの?」

「ああ、その場合は最高得点ってことで、一番の景品をお渡ししますよ」

 

 渡された景品はイヤリングだった。それを見て、あ~いいな~とエイコが述べ。


「フレデリック、ねぇこれ取ってよ~」

「はあ、それは構いませんが」

「いやぁ、悪いね。今日はもうこれが壊れたから店じまいだよ。全く、あっさり死にやがって、糞以下の犬畜生のくせによ!」


 店の親父が骸と化した獣人を何度も何度も蹴り飛ばした。


「叔父さん八つ当たりは良くないよ~」

「おっと、これは見苦しいところを、へへっ、いや、後日にはまた新しい的と景品を用意しておきますんで」


 エイコに言われ媚びた笑みを浮かべながら店のおじさんがそう答えた。

 なので、次の機会にはとってね、とエイコがフレデリックにウィンクを決める。


「それにしてもハルナも最初は抵抗あるような顔してたのに、すっかり慣れたわね」

「うん、えへへ、だって獣人の苦痛に歪む顔がたまらないんだもん」

「あ~それすっごくよくわかる! 超気分いいよね!」


 そんな談笑を交わしながらふたりは町を進む。確かにエイコの言うようにハルナは、いや、それ以前に待機組とされるものは一様にこの町の有様に最初は戸惑いを見せていた。


 だが、この町には他にこれといった娯楽もない。それに彼らとても直接手を出さないまでもサトルの虐めを教室で見続け陰口を叩いたり嘲笑っていたような者達だ。


 郷に入れば郷に従えというわけでもないが、この町の環境に順応するのは意外と早く、そして今ではすっかり慣れ獣人をいたぶり場合によっては殺すことにも躊躇いがなく、良心の呵責すら感じず、むしろその行為に悦びを見出している程なのである。


「あら、可哀想――」


 そんな中、鎖で繋がれた奴隷獣人を涙目で見ている少女をふたりは発見する。美しいロングの黒髪と常に物憂げな印象を与えてる瞳が特徴的な少女。ふたりと同じ待機組である森下 潤美である。


「あら、ウルミじゃない。どうしたのこんなところで?」

「ええ、ほら見てこの獣人……」


 エイコが話しかけると、ウルミが振り返り、そして傷つきボロボロになった獣人を指差した。耳も千切れ、片目が潰れ、火傷の痕が全身を駆け巡っている少年の獣人である。


「結構やられちゃってるね」

「そうだね、廃棄処分間近って感じ?」

「ですが、まだ意識は保ってるようですね」


 三人が口々に言う。まるで壊れかけの玩具でも見ているような態度であり、心配する様子などまるでない。


「何言ってるのよ、本当に可愛そう……」


 だが、そんな三人を他所に、憐れむように述べ、ウルミが手を近づけようとすると、傷ついた獣人がビクリを肩を震わせ身体を引く。何かまたされるのでは? と考えてしまったのだろう。

  

 そしてそんなウルミの様子をどこか冷めた表情で見ているエイコである。


「大丈夫、私ね、あなた達を助けたいの。痛いでしょ? 苦しいでしょ? 可哀想に……さあ、この薬を飲んで」

「……僕にくれるの?」

「そうよ。大丈夫、これを飲めば痛みもすぐに引くから、さあ――」


 ウルミは瓶の蓋を開け、傷ついた獣人へと差し出した。少年がじっと彼女を見つめると、ニッコリとウルミが微笑みかける。


 それで少年も決心がついたようだ。


「あ、ありがとう。お姉ちゃんみたいな人も、いるんだね――」


 彼はそういったあと、受け取った瓶を口に含み嚥下する。


「……あはは、少し苦いや。でも、すごく良く効きそ、が、ガハッ、いぎぃ、ぎっ、あ"が、どじ、で――」


 すると獣人の少年が突然苦しみだし、喉をかきむしり、地面を転げ回り始めた。血反吐に糞尿、嘔吐とを繰り返し、目からも鼻からも出血し、恨めしそうな双眸をウルミへと向ける。


「でたでた、ウルミのいい人の振りして実は毒作戦」

「あはは、それそのまんまだけどね」


 そんなふたりの会話を目にしながらも、ウルミは、うふふ、と楽しげに笑い、うっとりとした表情でもがき苦しむ獣人の少年を観察し続けた。


「あぁ、やっぱり堪らない。毒でもがき苦しみ死んでいく姿って、どうしてこんなにも美しいのかしら」

 

 恍惚とした表情で語るウルミに呆れたような目を向ける三人である。


「ま、人の趣味にとやかくいうつもりはないけどね」

「うん、それにウルミちゃんの気持ちもちょっと判るかもだし。ほら、すっごく無様で惨めで」

「そうね。助かったと思ったら絶望に落ちる瞬間も……ふふっ、ちょっと火照ってきたかも。ね? フレデリック?」

「そうですね、ただウルミ様は毒が好きすぎて結果殺してしまうことが多いですから、やり過ぎには注意ですね」

「あら? 大丈夫ですよ。私、ちゃんともう駄目そうなのを選んでますから」


 そう言ってうふふっと不敵に笑うウルミである。


「なんだお前ら、こんなところで何やってんだよ」

「うわ汚ね! なんだこの糞獣人、文字通り汚物だらけじゃないか」


 待機組とフレデリック目掛け声をかける少年ふたり。すると彼らは地面に転がった獣人の成れの果てを見て嫌悪感を露わにする。


「ウルミが殺ったのよ」

「ああ、なんだまた毒か。それにしても今日は随分と強力なのを試したな」

「そうね、おかげさまで随分と満足出来たわ」


 ウルミの返しに、怖い女、と笑うふたり。彼らもまた待機組である黒髪の少年で、山田 太郎と田中 太一である。


「またって意味なら、あんたらだってどうせ、またやり小屋にいってたんでしょ?」

「そ、そういえばなんかつやつやしてる……」


 ジト目をエイコとハルナに向けられ、引き攣った笑顔を見せるタロウとタイチだが。


「べ、別にいいだろ。この町の男なら誰だってやってることだしよ」

「そうそう」


 結局開き直るふたりである。やり小屋――彼らの語るそれは、ようはメスの獣人を鎖で繋いで男たちがやるために開放されたスペースである。


 勿論やるというのは性的な意味であり(最もじっさいに殺られてしまうことも多々あるが)ここの雌もやはり往来で鎖で繋がれた獣人同様、町の人間が好きに扱ってよいことになっている。


 しかし、獣人を劣等種と侮蔑し、忌み嫌う町の人間がいくら雌とはいえそのようなものに手を出すのか? といったところだが、実際のところはその利用率は高い。


 この背景としてあるのは、やはり領主であるカチュアの政策である。カチュアが声を大にし、女性差別をなくし男女平等を訴えるあまり、少なくともここフィーニス領では徐々に女性の権限の方が強くなり始め、男女の権威が逆転する現象が出始めている。


 その為、町の男たちは例え妻であっても女に頭が上がらず積極的な行為に出ることが出来なくなっていた。


 しかし、これが獣人の雌ともなれば話は別であり、その為、男たちは小屋で無抵抗な獣人の雌を好き勝手弄ぶことで、日頃の鬱憤を晴らしているわけである。


 尤も――当然そういった理由がある以上、男たちの行為も普通のものであるわけがなく、小屋には拷問用の器具も多数容易されているため、小屋の中は血と精の匂いが充満し、とんでもないことになっているようだが――


「本当、あんな臭いところでよくやる気になれるわよね」

「うっせぇな。お前らだって獣人を弄んで楽しんでるだろ。似たようなもんだよ」

「そうそう、それに何したって文句を言われないなんて最高だろ? 今日なんて俺思わずナイフで刻みながらさ――」


 そんなことを笑いながら語り合う姿は普通に考えればとても異常な光景であるが、この町ではこれが当たり前のことなのである。故に道行く人も会話の内容に嫌悪感を示すものなどいない。


 むしろある主婦などは、その会話を耳にしながら近くにいた獣人に調理で使った廃油をぶっかけ、全身を火傷し転げ回る姿を見ながらげらげらと笑っている始末である。


「ですがあの施設はこの町では中々重要なようです。あそこで産まれた玩具が町の娯楽として役立つわけですから」


 当然そういった行為を続けていれば中には身ごもるものもでてくる。そこで生まれた子供はこの世界では半獣人とされるが、ここビストクライムでは獣人も半獣人も一緒くたに扱われる。


 つまり生まれた瞬間に玩具として扱われるわけだ。尤もろくな扱いを受けないため、玩具として成長する前に死んでしまう場合も少なくはないが――


「お前らも俺に文句を言うなら、たまには相手してくれよ」

「馬鹿言わないでよ。あんたらなんてフレデリック様に比べたら芋みたいなもんよ」

「うわ、ひで!」

「じゃあハルナちゃんとウルミちゃんはどうさ?」

「あはは~嫌です~」

「毒飲ませるわよ」


 そしてそんなやり取りをしながらも――予定通り宿へと戻る一行であった。



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